咲かない桜

御伽 白

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4章

Part 303『芳醇なワインに泥を混ぜたような最高の品』

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 小さな廃墟にハチはいた。周囲に家はなく孤立した家は、長い間放置され壁にツタが張っている。

 「面白いものを飼っているのでございます。」

 一人の獣はビー玉を覗き込みながら呟く。彼女の持つビー玉には、滝の奥にいる篝の妻が写っていた。

 『千里丸せんりがん』遮蔽物を無視して遠くのものをビー玉に投影する魔法具である。

 「あんな狭い所にいるのは可哀想でございますよ。」

 そう呟くハチの表情は笑っていた。これから起こることを想像して思わず笑みが溢れる。

 峰の件は不発に終わってしまった。ハチは本当にガッカリだった。奇跡を軽く扱うのなら報いを受けるのも時間の問題だった。

 幸せが少しずつ崩れていく様は、ただの人間が不幸になるよりも面白い。

 幸福を知っている人間は、絶望に敏感になる。それがハチの自論だった。

 元から飢えている人間が飢えたところで不幸の総量は変わらない。落とすなら高く登らせてからだ。その方が落ちた衝撃はより大きくなる。

 だがこんなことも当然起こる。ハチは、相手を突き落とすやり方は好まない。あくまで崖の方向に案内をするだけで、突き落としたりはしない。

 だから崖に行っても思い直して引き返してくる者も多くいた。だから、諦めて別の人間をターゲットにしようと思った。だがハチの心を刺激するものがすぐ近くにあったのだ。

 千里丸の向こうに見える肉塊はハチの好みにぴったりの存在だった。

 幸せな夫婦の些細なミスで起こった取り返しのつかない悪夢。芳醇なワインに泥を混ぜたような最高の品だったに違いない。

 ああ、どうしてその場に自分がいなかったのだろう。そう思うと歯噛みしたくなった。

 「自由に動けなくて困っているのでございますね。なら、あなたにもこれをあげるでございます。」

 それは一見すると小さな宝石のようだった。高純度の魔石である。膨大な量の魔力が蓄積出来る上に自ら魔力を自ら蓄積することが出来る。

 魔石であれば時間をかければ少しづつ魔力は回復していく。しかし、低価格で取引されている物は、生き物と比べその蓄積されやすさも許容量も低い。一般的に消耗品として使用されることの方が多い。しかし、ハチの持つその石は、それよりも高価な代物である。千里丸にもその石が練り込まれている。

 そして、それだけ高純度の魔石には性質がある。肉体に取り込むことで力を得ることが出来る。進化するのだ。さらに上位の種へとその性質を変える。

 しかし、普通の神経の妖怪はそんなことをしようとはしない。それだけ強い効力を持つ魔石がノーリスクの訳はない。
その存在すら書き換える石は、呪いとさほど変わらない。

 上手く適合しなければ、そのまま崩壊してしまう。命のリスクが高い割合で存在している以上よっぽど強さに執着がなければ行う者はいない。

 しかし、死なない生き物にそれを与えたらどうなるのだろうか。

 「今度は、きっとすごく面白いことになるのでございます。」

 ハチは歪な笑みを浮かべた。

 ***
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