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4章
Part 347『弱音』
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「とりあえず、ひと段落だな。」
「そうですね。あっという間でした。」
縁側に座り込み俺達はただ桜を見守っていた。
残りの時間をどう使うか。特別なことをした方が良いのか。普段通りに過ごすべきか、結局、最善な答えは見つけられない。
しかし、少し疲れもあったのだろう。
色々なところを数日で回ったこともあり、少し休みたい気持ちが出てきていた。
結局、こうしてサクヤと手を繋いで縁側で肩を寄せ合うのも幸せだった。
「もう、終わってしまうんですね。」
「そうだな。」
幸せな時間は過ぎていく。時間が自分達に嫉妬しているかのように加速する。
桜はまだ咲いている。しかし、ほとんど葉桜になりかけている。
それに反応するようにサクヤのピンク色の髪も出会った頃のような黒髪へと少しずつ変化している。
それはサクヤの記憶の消滅の期限を表していた。
焦りはない。もう十分に覚悟はした。悲しくない訳ではないが、何度でも俺がサクヤを惚れ直させる自信もある。
けれど、サクヤに記憶がどの程度残っているのかを尋ねることは出来ずにいた。
「峰さん、お茶でもいれますか?」
記憶の消滅は確実に起こっている。サクヤの言葉や態度でなんとなく分かってしまう。
けれど、お互いまるで気づいていないように話題にあげることもしない。
それは甘い現実逃避だ。とろけるほど甘美でいつまでも浸っていたいそんな魅力的な誘惑。
俺はお茶を淹れようと立ち上がるサクヤの腕を掴んだ。
「峰さん、どうしたんですか?」
片時も離れたくはなかった。眠るのが怖い。目が覚めたとき、そこにいるサクヤは全くの別人になっているかもしれない。
「今はお茶よりも側にいたい。」
「・・・・・・分かりました。」
サクヤは頷くと黙ってもう一度縁側に腰かけた。
「サクヤ、好きだよ。」
「はい。」
「大好きで、サクヤといるだけで、幸せだ。」
「私もです。」
いっそ時間が止まれば良いのにと思わずにはいられない。
「覚悟してるなんて言ったけどさ。本当は不安で仕方ないんだ。」
言葉が漏れ出した。一番不安なのはサクヤなのに先に弱音を吐いたのは俺だった。
「桜が散った瞬間にサクヤが俺のことを忘れているのが怖いんだ。花びらが散るたびに、時間が過ぎるたびに恐ろしくなる。」
「・・・・・・はい。」
「俺は例えサクヤが俺のことを忘れても何度だって惚れさせる気でいる。けどさ・・・・・・」
その気持ちに嘘はない。しかし、それと同時に忘れて欲しくない気持ちがあるのを否定できない。
ずっと同じ記憶を抱いていけると思っていた。
呪具が成功すればそうなると信じて疑っていなかった。
「無理しなくても良いんですよ。」
全てを包み込むような優しさで彼女はそう言った。
「寂しいなら寂しいって言ってください。弱音を吐いたって良いじゃないですか。情けないなんて思わないでください。隠さなくて良いんです。そんなの・・・・・・寂しいじゃないですか。」
サクヤのその言葉に堰を切ったように感情が溢れてくる。
寂しい。もっとしたいことも話したいこともあった。本当は記憶を失うことも嫌だ。忘れて欲しくない。
感情の波は涙と一緒に押し寄せてくる。
サクヤは、それを黙って聞いていた。
「そうですね。あっという間でした。」
縁側に座り込み俺達はただ桜を見守っていた。
残りの時間をどう使うか。特別なことをした方が良いのか。普段通りに過ごすべきか、結局、最善な答えは見つけられない。
しかし、少し疲れもあったのだろう。
色々なところを数日で回ったこともあり、少し休みたい気持ちが出てきていた。
結局、こうしてサクヤと手を繋いで縁側で肩を寄せ合うのも幸せだった。
「もう、終わってしまうんですね。」
「そうだな。」
幸せな時間は過ぎていく。時間が自分達に嫉妬しているかのように加速する。
桜はまだ咲いている。しかし、ほとんど葉桜になりかけている。
それに反応するようにサクヤのピンク色の髪も出会った頃のような黒髪へと少しずつ変化している。
それはサクヤの記憶の消滅の期限を表していた。
焦りはない。もう十分に覚悟はした。悲しくない訳ではないが、何度でも俺がサクヤを惚れ直させる自信もある。
けれど、サクヤに記憶がどの程度残っているのかを尋ねることは出来ずにいた。
「峰さん、お茶でもいれますか?」
記憶の消滅は確実に起こっている。サクヤの言葉や態度でなんとなく分かってしまう。
けれど、お互いまるで気づいていないように話題にあげることもしない。
それは甘い現実逃避だ。とろけるほど甘美でいつまでも浸っていたいそんな魅力的な誘惑。
俺はお茶を淹れようと立ち上がるサクヤの腕を掴んだ。
「峰さん、どうしたんですか?」
片時も離れたくはなかった。眠るのが怖い。目が覚めたとき、そこにいるサクヤは全くの別人になっているかもしれない。
「今はお茶よりも側にいたい。」
「・・・・・・分かりました。」
サクヤは頷くと黙ってもう一度縁側に腰かけた。
「サクヤ、好きだよ。」
「はい。」
「大好きで、サクヤといるだけで、幸せだ。」
「私もです。」
いっそ時間が止まれば良いのにと思わずにはいられない。
「覚悟してるなんて言ったけどさ。本当は不安で仕方ないんだ。」
言葉が漏れ出した。一番不安なのはサクヤなのに先に弱音を吐いたのは俺だった。
「桜が散った瞬間にサクヤが俺のことを忘れているのが怖いんだ。花びらが散るたびに、時間が過ぎるたびに恐ろしくなる。」
「・・・・・・はい。」
「俺は例えサクヤが俺のことを忘れても何度だって惚れさせる気でいる。けどさ・・・・・・」
その気持ちに嘘はない。しかし、それと同時に忘れて欲しくない気持ちがあるのを否定できない。
ずっと同じ記憶を抱いていけると思っていた。
呪具が成功すればそうなると信じて疑っていなかった。
「無理しなくても良いんですよ。」
全てを包み込むような優しさで彼女はそう言った。
「寂しいなら寂しいって言ってください。弱音を吐いたって良いじゃないですか。情けないなんて思わないでください。隠さなくて良いんです。そんなの・・・・・・寂しいじゃないですか。」
サクヤのその言葉に堰を切ったように感情が溢れてくる。
寂しい。もっとしたいことも話したいこともあった。本当は記憶を失うことも嫌だ。忘れて欲しくない。
感情の波は涙と一緒に押し寄せてくる。
サクヤは、それを黙って聞いていた。
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