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序章
Prat 1 『とある女の子は男の子にお願いをする。』
しおりを挟む目の前をヒラヒラと桜が散る。辺りはピンク色に染まって春が来たのだと実感する。
花見シーズンという事もあってか、花見スポットはお祭り騒ぎだった。自分もその集団の一人だったのだが、酒が回ってきたので酔い覚ましに少し歩く事にした。
大学のゼミ主催のイベントではあったものの、それなりに楽しく飲めている。だが、やはり、特定の人間と特別仲良くもない自分は、ゼミの中でも少し寂しさを感じる。
ゼミというのは、学校のクラスに近いもので、場所によっては違うのかもしれないが、週に一回程度ゼミで卒業論文について発表したりする場だ。ランダムに割り振られるという訳ではなく、本人が自分でどの教員のゼミに入るかを選択するというのが、高校のクラスの違うところだろうか。
大学二年の終わりになると成人を迎えて酒が飲めるようになるが、アルコールの良さはあまり実感しない。
「まあ、酎ハイとかは、美味いとは思うけど・・・別にジュースでもいいって感じ・・・」
飲めるから飲んでいるだけで飲みたくて飲んでるという訳じゃない。そんな話を妹にすると「じゃあ飲まないで良いじゃん。お酒とジュースの差分でデザート買ってきてよ。」という始末
まあ、付き合いで飲むぐらいで、成人して飲んだのもこれで4回目ぐらいだ。良し悪しがわかるほど飲んでないというのもあるのだろう。とはいえ、酒は飲んでも酔うというよりは眠くなるタイプだ。
実際、初めての酒を飲んだ日は、数杯飲んだ後、すぐに眠ってしまって風邪をひいたのだ。なんとも情けない。
うちの花見スポットは山の中腹の公園に桜並木があり、そこが定番スポットになっている。子供の頃には、よく遊びにきたものだが、大学生になって来たのは今年が初めてだ。
「少し歩くけど、酔い覚ましがてら登るか・・・」
ゆっくりと山道を登る。それほど高い山ではないので山頂も公園から十分ほど歩いた場所にある。流石に山というだけあって山頂は見晴らしも良く町を一望できる。本来なら展望台の方が高くて見晴らしもいいのだが、なんとなく人の少ない広場の方に行くことにした。
少し獣道のような狭い道も通ることもあって基本的によっぽど物好きでもなければ、ここに来る人はいないのだ。まあ、人が来ない理由はもう一つあるのだが・・・
行く手を遮るように生えている木の枝を腕で払いながらなだらかな坂を進むと少し開けた場所に出る。
ほとんど手入れされていないせいか、所々に生えている草が膝の高さまで伸びていて、整備されていないことが伺える。そして、その広場の中心には、大きな桜の木が生えている。飲み会をしていた場所に生えていた桜よりもさらに大きな桜は、幹も太くかなりの長寿の桜であろうことが分かる。
「今年もやっぱり咲いてないか・・・」
その桜は、春だというのに花を咲かさないのだ。去年ももっと前からここの桜が花を咲かせたのを見たことがない。一時期は、この木は桜ではないのかとも思ったのだが、調べてみるとやはり同じ桜だった。
病気というわけではなく、夏は、大量の葉をつけて元気なのに花だけは咲かない。これだけ立派な木であれば花を咲かせればきっととても美しいのだろうなと思う。
「本当にもったいないよな・・・」
幹に手を当ててそんなことを呟く。幹はしっかりとしていて生命力を感じる。
「あの! すみません!」
突然、後ろから声をかけられる。驚いて慌てて振り返ると、そこには、黒い髪の女性がいた。さっきまで人の気配はなかったのに・・・
「あの・・・私の声聞こえてますよね?」
不安そうな声で女性はこちらを見ている。とても長い黒髪は、彼女の顔にもかかっていて表情が見えない。そのせいで少し不気味で、呪いのビデオとかに出てきそうな見た目をしている。
しかし、その雰囲気に反して声は、耳にすっと入って来る綺麗な声だ。
「あ、すみません。聞こえてます。な、何か御用でしょうか?」
おっかなびっくりといった風で対応してしまった。この人気のない場所でこんな雰囲気の女性に声をかけられれば仕方ないと自分に言い訳をしながら彼女の姿をしっかりと見る。
「あなたにお願いがあるんです。」
「お願い? はぁ、俺にできることなら・・・」
突然の申し出に驚いたが直接言われてしまったら断るのも申し訳ない。しかし、初対面の人間にするお願いってなんだろうか?
探し物とか? まあ、それぐらいか・・・
「あの・・・」
彼女は、少し声を出して、一瞬、躊躇するように言い淀んだが、すぐに大きな声で俺にこう言った。
「私を咲かせて欲しいんです!」
「・・・・・・はい?」
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