咲かない桜

御伽 白

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序章

Part 5 『近寄りがたい同級生の小さな秘密』

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 時計を確認して出て行ってから2時間ほどたっていたのだから置いていかれたとしても、それは仕方のないことかもしれない。

 そう、仕方ない。俺も2時間経っても帰ってこない知り合いは放置してどっかに行く。

 「だから、寂しくなんてない・・・」

 どうやら、ゼミのリーダーから「二次会に飲み屋行くねー。柏木さんに荷物預けておいたから」と連絡が来ていた。

 柏木さんというのは、うちのゼミでも基本的に一人でいることの多い人で、孤独というよりは孤高という雰囲気がある女性だ。

 というか、解散してずっと待たせているのは非常に申し訳ない。慌てて元いた場所に戻ると桜の下でお酒を飲みながら一人でいる柏木さんを見つけた。

 金髪のショートカットの髪に細長い綺麗な手足は、その整った顔立ちも相まってモデルのようだ。彼女に近づく人間が少ないのは、綺麗すぎて近寄りがたいというのもあるのだろうが、もう一つ、キレると手がつけられないらしい。それで、彼女は、大学でも敬遠されている。

 入学初日に柏木さんは、同級生の不良と呼ばれるタイプの人間をボコボコにしたという噂が流れたのだ。学校から追い出されていないのだから、あの噂は実際は嘘じゃないのかと個人的には思っているのだが・・・

 それに怖いというのも話してみてもそんな感じではない。ゼミの時何度か話したことがあるが、落ち着いた話し方をする人だ。性格も噂を疑うほどに穏やかだ。

 まだ、ゼミのメンバーは帰ったようだが、辺りには、お酒を飲みながら騒いでいる人が大勢いた。気温も下がってきているのにお酒の力はすごい。

 駆け寄って行くと柏木さんもこちらに気づいたようでこっちに手を振っていた。

 「すみません、待たせました・・・」

 「いいよ。適当に飲んでただけだし・・・飲む?」

 柏木さんは、飲みかけのチューハイの缶を差し出してくる。

 「いや、すみません。飲むと眠くなるので・・・」

 柏木さんは、「そうか。」と残りを飲み干す。立ち振る舞いから酔った様子は感じられない。酔いにくいタイプなのかもしれない。ゴミを近くのゴミ箱に投げ入れる。

 「どうする? 二次会行く?」

 「あー、いえ、もう帰ろうかと思って」

 服もドロドロでこんな状態で店に入ったら怒られる。それに二次会にまで行く必要性は感じない。今回も付き合いで来ただけだ。

 「そっか、じゃあ、一緒だ。」

 どうやら、柏木さんも帰るようで、荷物を持って歩き始めた。俺もそれについて行く。

 「まあ、そうだろうと思って荷物番してたんだよ。私も騒がしいのあんまり得意じゃないし」

 「いやぁ、まさか、2時間も席を外すつもりはなかったんですけど・・・」

 「そういえば、どこ行ってたの?」

 「山登ってました。酔い覚ましに・・・。」

 「2時間も? すごいね。」

 木にぶつかって気絶してました。なんて、言えない。恥ずかしいし・・・
 
 「おでこ、腫れてるけどどしたの? ぶつけた?」

 そりゃあ、あれだけ盛大にぶつかって腫れていないわけではない。

 「まあ、ちょっと・・・」

 「そっか。まあ、色々あったんだ。」

 彼女は、基本的に深く詮索してこない。話す内容も世間話のようなレベルでかなり接していて楽だ。

 距離感が近くもなく遠くもない。沈黙も苦痛でない。そんな相手だ。

 「そういえば、私の家こっちじゃない。」

 「はい?」

 さっきまで迷わず歩いていたのはなんだったのか。確かに駅は逆方向だ。反対側の出口から出ないと随分と遠回りになる。何か用事があったのかとも思っていたが・・・

 「駅どっち? こっち?」

 「いや、そっち行ったらさらに遠くなりますよ。駅は、右です」

 「まあ、適当に帰る。じゃあね」

 「いや、ついていきますよ。」

 「? 峰も迷ってんの?」

 「迷ってないですよ! 流石に駅がどこかも分かんない人を放置してられないでしょ・・・」

 「ん、ありがと。じゃあ、案内よろしく」

 まさか、彼女がこんなにも方向音痴だとは夢には思わなかった。

 「ここに来るまでは、携帯の道案内で来れたんだけど、直感で行くとダメだね」

 「道って勘で歩くもんじゃないと思うんですけど・・・」

 「五分五分で当たるから大丈夫」

 「なんで、目的地に行くのに毎回博打打たないといけないんですか・・・」

 本気で言ってるのが恐ろしすぎる。よくそれで今まで生活できたものだ。

 「峰は、私のこと嫌いなのかと思ってたよ。」

 「はい?」

 柏木さんの突然の言葉に理解が追いつかなくなる。いや、さっきの迷子話も理解は出来ていないけれど、それ以上に突飛な話だ。彼女の事は、むしろどちらかと言えば、好きなタイプだ。美人だし、性格もドライだけど、遠くは感じない。

 「峰って、私には、敬語で話すからさ。同い年なのに。嫌われてないにしろ、よくは思われてないかなと思ってた。」

 「そんな事はないですよ。嫌いなら、わざわざ道案内なんて・・・」

 「うん。だから、勘違いだったんだなって。私はさ、一人も結構好きだから、私のこと近寄りがたいと思ってそうな人間には出来るだけ関わらない。お互いストレスなくて良いって思う。」

 「ちょっと、飲み物買って良い?」と柏木さんは立ち止まって近くの自販機に近寄った。そして、ポケットから500円を取り出して、自販機に入れ、コーラのボタンを押した。

ガコンという音を立ててコーラの缶が出てくる。しかし、柏木さんは、コーラを取らずにもう一度ボタンを押す。そのボタンはコーラではなく『青汁サイダー』という奇妙な飲み物だ。柏木さんは、二つを取り出し一つを僕に差し出してくる。渡されたのはコーラだった。

 「道案内のお礼」

 「いや、いいですよ。このぐらいで」

 「気にしないでいいよ。私だけが飲んでるの、なんか嫌だし」

 これ以上、拒否するのもなんというか、悪い気がしたので素直に受け取る。

 「だから、峰に対してもあんまり関わらないようにしてたんだけどね。」

 確かに彼女はどこか一歩引いた位置にいる。今回のイベントだって彼女が参加するとは思ってなかったぐらいだ。基本的に事務的な会話だけでゼミでは課題をやっているか、暇な時は本を読んでいるかで、人と関わっているところを見ることの方が珍しい。

 「でも、やっぱり、言葉にしないと分からないね。相手が自分をどう思ってるのかなんて・・・」

 「そうですね・・・」

 コーラを飲みながら彼女をみる。青汁サイダーを喉を鳴らしながら飲んでいた。美味しいのだろうか・・・

 「美味しいんですか? それ・・・」

 「やっぱり、飲んでみないと分からないね。青汁サイダーが美味しいかどうかなんて・・・」

 すごく不味そうな顔をしている。というか、良いことを言ってたのに台無しだ・・・

 「まあ、今日は、来てよかった。峰、君は良いやつだ。」

 「あ、ありがとうございます・・・」

 真っ直ぐな言葉に少し顔が熱くなるのを感じる。柏木さんは、基本的にあっさりとした性格だから、お世辞をいうタイプじゃないそんな彼女からそう言われるのがなんとも嬉しくて恥ずかしい。

 「じゃあ、そろそろ、駅に行こうか。」

 柏木さんは、青汁サイダーの空き缶を自販機の横のゴミ箱に捨てると歩き始める。俺もコーラを飲みきってゴミ箱に捨てる。彼女に伝えなければいけない事がある。

 「あの、柏木さん。」

 「ん? どうしたの? いかないの?」

 「駅・・・逆です・・・」

 彼女の進行方向は来た道を引き返していた。方向音痴は本当らしい・・・
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