咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
8 / 352
序章

Part 8 『小さな少女と少しの勝負』

しおりを挟む
 山に行くとあいも変わらず、花見客でいっぱいだった。桜も満開、空も快晴、実に花見日和だろう。

 「変なものが見えなければだが・・・」

 道中では、空中を泳ぐ魚や羽の生えたカエルなんかもいて、本当に異世界にきてしまったような感覚に陥っていた。

 毎回、驚きで声をあげそうになるのをギリギリで堪えてここまで来たのだ。だが、予想外だったのが、妖怪達は、特に俺達人間に対して敵対しているわけではないらしく、非常に温厚なものばかりだった。命の危険が訪れ流ような事態にはなっていない。そのことが何より救いだった。

 今も桜の木の周りには、人間と同じように酒を楽しむ妖怪達がいる。黒猫のような胴体が半分骨の猫に腕が4本ある一つ目の妖怪、顔が二つある犬、本当にファンタジーだ・・・

 他の桜の近くにもピンク色の髪の女の子が宴会の中に紛れ込んでいたりと妖怪達もどうやらお祭りらしい。

 「人間に見間違うのもいるんだよな・・・」あのピンク色の髪の女の子は、髪の色が染めたにしては綺麗すぎる髪をしているので間違いなく妖怪やその類のものだろうけど、髪の色以外は、人間と変わらない。

 そんな風に少女を眺めていると少女と目があった。まるで珍しいものを見るようにこちらをじっと見つめている。

 少女の時間が固まったようだった。ピクリとも動かない。その様子に俺も目をそらすことが出来ない。

 あたりの喧騒が遠く感じる。動いたら何か大変なことが起こるのではと無意識に固まっていた。

 そして、数秒後、俺の方向めがけて少女が突っ込んで来た。

 「え!? 私!? 見える!? すごい!」

 とんでもなくテンションが上がっているようで俺の周りをクルクル回る。その姿は、本当に子供のようだ。

 害意はないが騒がしい。親戚の家に遊びに行った時に出会った親戚の子供もこんな感じだったな。

 「なんで? なんで!? 見えるの? 」

 「なんで見えるのかな・・・」

 むしろこっちが聞きたいぐらいだ。少女は、「へんなのー」とケラケラと笑う。

 「君はここで何してるの?」

 「何してる? 話してる。」

 「いや、そう言うことじゃないんだけど」

 「ん?」と心底分かってなさそうな顔をして彼女はこちらを見ている。子供の相手は、苦手だ・・・。

 「あそぼ! あそぼ?」

 「ごめんな。今日は用事があって遊べないんだ。また、今度な」

 少女の頭を撫でると「えー」と不満そうな声を上げる。本当に普通の女の子と同じようだった。

 「私は、用事ないから大丈夫」

 「何が大丈夫なんだ?」

 だめだ。意思疎通ができてない。単純に頭が回ってないだけなのか、それとも普通に頭が弱いだけなのか・・・
 
 「じゃあ、じゃあ、勝負!  勝負してくれたら諦める。」

 「ん? 勝負? どんな」

 「えっとね・・・どっちが高いところまで飛べるか勝負とか」

 「残念ながら人間に飛行能力はない。」

 やはりその辺りは、人間と妖怪との認識の差があるなと思う。それにこの子は、精神的にまだ幼いみたいだし仕方ないのかもしれない。

 「んーじゃあ、競争! あの木までどっちが早くいけるか勝負」

 「まあ、それぐらいなら・・・」

 ただ、体格差を考えるとアンフェアな気もする。流石に少女よりも体格的にかなり大きいので正直、勝負にならないのではとも思ったが本人が言い出したのでそれに付き合ってあげることにした。

 「じゃあ、よーい、どん!」

 掛け声とほぼ同時、少女は、姿を消した。ものすごい速さで移動したのか、それとも瞬間移動したのか、俺の目では捉えることができなかった。少女は一瞬で100m先の木の前にいた。

 遠くで「勝ったー!」とはしゃいでいる少女が見える。

 「規格外すぎるだろ・・・妖怪・・・」

 人間と妖怪との認識の差を理解していないのは、俺もどうやら同じだったらしい・・・

 少女に近づくと「私の勝ち!」とニコニコと自慢げに俺に言ってくるのでちょっとした腹いせに髪の毛をぐじゃぐじゃにしてやる。

 「ひゃー」と楽しそうに騒ぎながら少女は、俺から逃げる。

 「また遊ぼうね! お兄さん!」

 少女はそう言うと元いた場所に戻りこちらを向いて手を振ってくる。それに手を振って返すと少女の近くにいる男の人が「なんだ?」と言う表情をしていた。

 「あ、そうだ。見えないんだった。」
 
 ただ、今は宴会で気にする人もいないだろう。だから、大丈夫だろう。

 思わぬところで時間を食ってしまった。急がないと彼女を待たせてしまう。

 待つのが得意とは言っていたが、待つのが好きな訳ではないだろうし・・・

 少し、歩く速度を少し上げて僕は山を登った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...