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序章
Part 17 『羞恥心と義理』
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「峰さん!」
山頂にたどり着くとまるで俺が来ることを知っていたかのようにサクヤは俺を出迎えてくれる。
「よく俺が来ることが分かったな。」
「ええ、クロさんが今日いらっしゃるってきいていたので」
「ああ、なるほどな。クロはよく来るのか?」
「いえ、昨日いらっしゃっただけですね。」
なるほど、俺が明日行くみたいな話をしたから、それを伝えておいてくれたのか。
クロは結構な頻度でうちに来るのでそのたびに世間話をよくする。昨日は、明日会いに行くという話をしていた気がする。噂好きというのは本当らしい。
「今日は、もしかして、遊びにきてくれたんですか?」
とても嬉しそうにサクヤは、俺の顔を下から覗き込むように見つめる。その仕草は、なんとなく愛らしい。
「ああ、あとこれな。」
「なんですか? この袋」
「お弁当だよ。」
「お・・・・・・べん・・・とう・・・?」
袋を持ってサクヤは固まった。そして、しばらくすると、まるで信じられないことが起こったようにその手は電話のバイブレーションのように震え始める。
「な、何が望みですか!? 私に何を望んでるんですか!?」
「いや、別にただの差し入れだよ。」
「差し入れ・・・? 私にですか?」
「他に誰がいるんだよ。」
「私、こんなによくしてもらっていいんでしょうか。私ほとんど何も返せませんよ?」
「別にお返しをもらおうとして持ってきたんじゃないから。」
あくまでサクヤが喜ぶかなと思って持ってきたのだ。遠慮される方が逆に困る。
「・・・・・・ありがとうございます。あ、あの、流石に申し訳ないので、せめて一緒に食べませんか?」
かなり焦ったようにサクヤはそんなことを言う。そういえば、自分用のおにぎりもあの子にあげてしまったのだった。少し小腹も減ったし、一緒に食べるのも良いかもしれない。
「そうだな。一緒に食べるか。」
「はい!」
俺達は、近くのベンチに座るとお弁当を広げる。箸を一膳しか用意していなかった。まあ、最悪摘めば良いか・・・
「はい。箸」
「あ、はい。」
しばらく、箸を持ったままお弁当を見ながら硬直していた。しばらく、悩むように箸と睨めっこしていた。
「ん? どうした?」
「あの・・・・・・箸ってどうやって使うんですか?」
「あっそっか・・・」
思えば彼女は、最近までサンドイッチすら食べたことのない子だった。箸の使い方がわかると思っていたのが失敗だった・・・
「あーどうするか、流石に箸なしで食べるのは難しいし・・・」
弁当の中には、タレの付いた料理もいくつか入っている。流石にそれに関しては、手で食べさせるわけにもいかない。
「あ、あの、それでしたら無理に頂かなくても・・・」
小さく笑ってサクヤは、そう言うがその表情は少し残念そうだった。
いや、方法はあるにはあるのだが、それをする俺の羞恥心とサクヤが嫌がらないかという不安がある。彼女に食べさせるのは、ありだろうか。
「食べさせようか?」
ものはためしという事で俺はサクヤに尋ねてみることにした。
「え・・・」とサクヤは、戸惑った表情を浮かべる。
「いや、別に無理にとは言わないけど・・・」
「いえ、その、それは、なんというか・・・あの・・・恋人のようだなと・・・」
頬を染めながら言うのでせっかく意識しないように言ったのが無意味になってしまった。顔がとんでもなく熱くなるのを感じる。
「でも、せっかく、作ってきたしなぁ・・・」
「あの、これは、峰さんが作ってくださったんですか?」
「ああ、一応な。簡単なものだけど・・・」
勿論、手間というほど手間はかかっていない。それこそ、本当に即席弁当といった風である。ウィンナーに野菜の炒め物、卵焼きにミートボールなどだ。
そんなに気にするほどのものでもない。次からはスプーンでも持ってこようとは思うが・・・
「・・・・・・あの!」
しばらくして、サクヤはなにかを決意したような表情で声を上げる。その顔は、まだほんのりと赤くなっている。
「私に食べさせてもらって良いですか!」
蒸気でも出そうなほどに顔を赤くしながら、サクヤは俺にそう言った。
「あんまり、無理しなくて良いぞ。完全に箸を持ってきたのが悪いんだし・・・」
「別に・・・峰さんに食べさせてもらうのが嫌というわけではないんです・・・ちょっと、ほんのちょっと恥ずかしいですけど・・・」
「・・・・・・そ、そうか。」
「なので、ご迷惑でなければ、是非、お願いします・・・」
「ああ、俺から言い出した事だしな・・・」
俺は、箸を手に取り、「なにが食べたい?」と尋ねる。なんというか、声が上擦ってないか不安になる。
「じゃあ、ミートボールでしたっけ? それをお願いします。」
「ああ、分かった。」
ミートボールを箸で掴む。サクヤの方を見ると口を開けてじっと待っている。なんだか、本気で心臓が止まりそうだ。
「・・・あの? 峰さん? すみません。ちょっと、口を開けたままじっとし続けるのは、なんというか、恥ずかしいんですけど・・・」
「ああ、悪い」
俺は、彼女の口にミートボールをゆっくりと運ぶ。サクヤは、それを味わって噛み締め飲み込む。
「お、美味しいです。」
「ああ、それは良かった。」
お互い変に意識しすぎて会話がぎこちない。
これはあくまで人助けなのだ。いや、彼女は人ではないが・・・。
海で溺れて意識のない状態の人がいて人工呼吸をするのは恥ずかしいことだろうか、いや、恥ずかしくない、つまり、そこに純粋な善意で行われる行為であれば、恥ずかしくない。邪な気持ちがなければ良いのだ。
自分にそう言い聞かせて俺は彼女にお弁当を食べさせ続けた。
邪な気持ちは・・・・・・抱かないようにするのは難しいらしい。
山頂にたどり着くとまるで俺が来ることを知っていたかのようにサクヤは俺を出迎えてくれる。
「よく俺が来ることが分かったな。」
「ええ、クロさんが今日いらっしゃるってきいていたので」
「ああ、なるほどな。クロはよく来るのか?」
「いえ、昨日いらっしゃっただけですね。」
なるほど、俺が明日行くみたいな話をしたから、それを伝えておいてくれたのか。
クロは結構な頻度でうちに来るのでそのたびに世間話をよくする。昨日は、明日会いに行くという話をしていた気がする。噂好きというのは本当らしい。
「今日は、もしかして、遊びにきてくれたんですか?」
とても嬉しそうにサクヤは、俺の顔を下から覗き込むように見つめる。その仕草は、なんとなく愛らしい。
「ああ、あとこれな。」
「なんですか? この袋」
「お弁当だよ。」
「お・・・・・・べん・・・とう・・・?」
袋を持ってサクヤは固まった。そして、しばらくすると、まるで信じられないことが起こったようにその手は電話のバイブレーションのように震え始める。
「な、何が望みですか!? 私に何を望んでるんですか!?」
「いや、別にただの差し入れだよ。」
「差し入れ・・・? 私にですか?」
「他に誰がいるんだよ。」
「私、こんなによくしてもらっていいんでしょうか。私ほとんど何も返せませんよ?」
「別にお返しをもらおうとして持ってきたんじゃないから。」
あくまでサクヤが喜ぶかなと思って持ってきたのだ。遠慮される方が逆に困る。
「・・・・・・ありがとうございます。あ、あの、流石に申し訳ないので、せめて一緒に食べませんか?」
かなり焦ったようにサクヤはそんなことを言う。そういえば、自分用のおにぎりもあの子にあげてしまったのだった。少し小腹も減ったし、一緒に食べるのも良いかもしれない。
「そうだな。一緒に食べるか。」
「はい!」
俺達は、近くのベンチに座るとお弁当を広げる。箸を一膳しか用意していなかった。まあ、最悪摘めば良いか・・・
「はい。箸」
「あ、はい。」
しばらく、箸を持ったままお弁当を見ながら硬直していた。しばらく、悩むように箸と睨めっこしていた。
「ん? どうした?」
「あの・・・・・・箸ってどうやって使うんですか?」
「あっそっか・・・」
思えば彼女は、最近までサンドイッチすら食べたことのない子だった。箸の使い方がわかると思っていたのが失敗だった・・・
「あーどうするか、流石に箸なしで食べるのは難しいし・・・」
弁当の中には、タレの付いた料理もいくつか入っている。流石にそれに関しては、手で食べさせるわけにもいかない。
「あ、あの、それでしたら無理に頂かなくても・・・」
小さく笑ってサクヤは、そう言うがその表情は少し残念そうだった。
いや、方法はあるにはあるのだが、それをする俺の羞恥心とサクヤが嫌がらないかという不安がある。彼女に食べさせるのは、ありだろうか。
「食べさせようか?」
ものはためしという事で俺はサクヤに尋ねてみることにした。
「え・・・」とサクヤは、戸惑った表情を浮かべる。
「いや、別に無理にとは言わないけど・・・」
「いえ、その、それは、なんというか・・・あの・・・恋人のようだなと・・・」
頬を染めながら言うのでせっかく意識しないように言ったのが無意味になってしまった。顔がとんでもなく熱くなるのを感じる。
「でも、せっかく、作ってきたしなぁ・・・」
「あの、これは、峰さんが作ってくださったんですか?」
「ああ、一応な。簡単なものだけど・・・」
勿論、手間というほど手間はかかっていない。それこそ、本当に即席弁当といった風である。ウィンナーに野菜の炒め物、卵焼きにミートボールなどだ。
そんなに気にするほどのものでもない。次からはスプーンでも持ってこようとは思うが・・・
「・・・・・・あの!」
しばらくして、サクヤはなにかを決意したような表情で声を上げる。その顔は、まだほんのりと赤くなっている。
「私に食べさせてもらって良いですか!」
蒸気でも出そうなほどに顔を赤くしながら、サクヤは俺にそう言った。
「あんまり、無理しなくて良いぞ。完全に箸を持ってきたのが悪いんだし・・・」
「別に・・・峰さんに食べさせてもらうのが嫌というわけではないんです・・・ちょっと、ほんのちょっと恥ずかしいですけど・・・」
「・・・・・・そ、そうか。」
「なので、ご迷惑でなければ、是非、お願いします・・・」
「ああ、俺から言い出した事だしな・・・」
俺は、箸を手に取り、「なにが食べたい?」と尋ねる。なんというか、声が上擦ってないか不安になる。
「じゃあ、ミートボールでしたっけ? それをお願いします。」
「ああ、分かった。」
ミートボールを箸で掴む。サクヤの方を見ると口を開けてじっと待っている。なんだか、本気で心臓が止まりそうだ。
「・・・あの? 峰さん? すみません。ちょっと、口を開けたままじっとし続けるのは、なんというか、恥ずかしいんですけど・・・」
「ああ、悪い」
俺は、彼女の口にミートボールをゆっくりと運ぶ。サクヤは、それを味わって噛み締め飲み込む。
「お、美味しいです。」
「ああ、それは良かった。」
お互い変に意識しすぎて会話がぎこちない。
これはあくまで人助けなのだ。いや、彼女は人ではないが・・・。
海で溺れて意識のない状態の人がいて人工呼吸をするのは恥ずかしいことだろうか、いや、恥ずかしくない、つまり、そこに純粋な善意で行われる行為であれば、恥ずかしくない。邪な気持ちがなければ良いのだ。
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邪な気持ちは・・・・・・抱かないようにするのは難しいらしい。
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