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1章
Part 30 『愛することは食べること』
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風呂から上がってコーヒー牛乳をご馳走になり飲んでいると、ふと、まだ、1日しか一緒に過ごしていないのだと今更思った。それなのに随分と知ったような口をきいてしまったと思ったが、ウチガネさんはその辺りに関しては、気にしていなかったようでホッとする。
家に帰るとすぐに下ごしらえしていた料理を真冬さんが手早く作ってくれてすぐに食事となった。
相変わらず、びっくりするほどの料理の腕だ。店を出してもやって行けそうなレベルだった。
何かコツがあるのかと思い尋ねてみると「50年以上続けていれば、上達しますよ。」返された。
どうやら、人間と同じような肉体を持っている場合でも寿命は人間と比べ随分と長いようだった。全然参考にならない。まあ、コツなんて言葉で説明するのも難しいよな。
食事も終わり、ウチガネさんは、すぐに寝ると言って自分の部屋に戻っていった。俺達も食事を終えて解散した。
寝るには、まだ早いので一言文句を言ってやろうと思って、リューに電話をかけることにした。
電話をかけると2コール目で電話が繋がった。
「やあやあ、お疲れ様。峰くん。順調かな?」
悪びれた声もなく話しかけてくるリューに少しイラっとする。こいつ、わかっててここに送り込んだんだろうな・・・
「何かいうことはないのか?」
「? 僕が君にいうことかい? ああ、もしかして、仕事を手伝うなんて話を聞いてないとかそういう話かい?」
「分かってんのかよ・・・」
「まあまあ、そう怒らないでくれよ。修学旅行の職業体験みたいなものだと思ってさ。楽しんでおくれよ。」
「だったら、最初から言ってくれよ・・・。」
「サプラーイズ!」
「サプライズで仕事を用意されても嬉しくねぇよ!」
むしろ、ただの嫌がらせだ。
「だけど、嫌がれば無理強いはされなかったはずだけど、君は、最後まで参加してたみたいじゃないか。何か感じるものがあったのかな?」
本当に見透かしたようなことを言う魔女である。確かにいい体験をする機会ではあったが・・・
「まあ、確かに手伝って良かったと思う仕事だったよ。」
「ふむふむ、なるほどね。じゃあ、ウチガネもそれだけ立派な刀鍛冶になったってことなんだね。いやぁ、出資した甲斐があるってものだね。」
「出資って・・・実際、何を手伝ったんだ? 生涯最高の一振りをよこせ。なんて対価を要求して」
「刀を作る材料に作る場所や機材諸々を僕が手配したさ。自分は最高の打ち手になるなんて言われてさ。まあ、実際になってるんだから、素直にすごいことだと思うけどね。」
つまり、この家や工房に関しては、リューが手配したと言うことか、そういう援助もしているのかと少し意外に思った。
「まあ、さいごまで見届けて帰ってきなよ。なかなか見れるものじゃないと思うしさ。」
「ああ、そうする。」
「じゃあ、またね。おやすみー」そう言って電話を切られた。結局、なんとなく、流されてしまった。まあ、実際、そんなに怒っている訳じゃないのだ。良いものも見れたし、ただのお使いで良いだなんて裏がありそうで怖いし・・・
電話を切って寝ようかと思ったが、喉が渇いたので水をもらいに行こうと廊下を歩いていると縁側で座っている真冬さんを見つけた。月に照らされるその姿は、非常に絵になるな。なんてことを思っていると、気配に気づいたのか、真冬さんは、こちらを見て「まだ、眠られてなかったんですね。」と声をかけてくる。
「ちょっと、喉が渇いちゃって・・・」
「ああ、そうでしたか。すみません。今、手元にはお酒しかないんです。一杯いかがですか?」
そう言って真冬さんは、おちょこにお酒を注ぐ。注がれてしまったらご相伴に預からないわけにはいかない。別に飲めないわけではないし・・・
「じゃあ、一口だけ」
そう言ってぐっと一気にお酒を煽る。お酒独特の匂いが鼻を通る。まだ、お酒の美味しさに気づけていない年頃なのでそれほど美味しいとは感じないが・・・
「 お酒あんまりお好きじゃなかったですか?」
「いや、最近飲めるようになったばっかりだったので・・・まだ、味に慣れなくて・・・」
「なるほど・・・そのうち、美味しくなりますよ。」
「そうなんですかね。」
この独特の苦さがクセになるようになるのが想像できない。だけど、コーヒーも苦手だったけど飲めるようになったし、味覚は時間が経てば変わるのだろう。
「そういえば、真冬さんは、山姥なんですよね?」
「そうですよ。まあ、一番近いのがですけど・・・。山で旅人を家に泊めて歓迎してその人間を食べる妖怪とか言われてますよね。」
「真冬さんは、人間を食べるんですか?」
「私達は、合意の上でしか食べませんよ。それに誰でも彼でも食べるわけじゃないんです。」
「合意って・・・」
「私達は、相手を食べることが最上級の愛情表現なんです。ただ、好きな人とは長くいたいので食べても良いと言われなければ食べませんし」
そう言われて絶句した。価値観の違いがはっきりと認識される。愛ゆえに食べる。人間には理解できない感情だ。人間は好きな人間を食べようとは思わない。
けれど、それなら、もしかして・・・
「ウチガネさんはどうなんですか?」
「勿論、好きですよ。ええ、あの人が食べてくれと言うのなら私は、食べますけど、あの人は、刀を作ることとケモミミの女性しか恋愛対象にしないので・・・望み薄ですかね。ツノは生えてるんですけどね。本当の姿なら・・・」
「それでも、一緒に居続けるんですね。」
「ええ、好きになった人ですから。例え、恋愛感情は抱いてもらえなくても、好きな人のそばに居たい。やりたいことをさせてあげたい。そう思ってここで長い間過ごしています。」
俺には、その言葉に返す言葉が思いつかなかった。報われない恋でも愛し続けるというのは、一体、どう言う気持ちなのだろうか。俺には想像がつかない。
「それにあの人が仕事をしている姿を見るのが好きなんです。鉄と炎に向き合って真剣に自分のできる最高の出来を目指している姿が・・・私が惚れた理由は、そういう一つのことに全力でいるところもですから・・・」
真剣に張り詰めた空気の中鉄を打つ姿は、美しいとも思うし、カッコいいとも俺も思ったのだ。だから、惹かれるのも分かる。
未来なんて分からないものだ。もし、今後もウチガネさんと一緒にいれば真冬さんの恋が報われるかもしれない。俺は、それを応援したいなと思った。
「諦めずにアタックし続ければもしかしたら報われるかもしれませんよ? 胃袋は間違いなく掴んでます。」
「ふふふ、・・・そうですね。」
真冬さんは、小さく笑うとお酒を飲んだ。そうして、俺たちの少しの晩酌は終了したのだった。
家に帰るとすぐに下ごしらえしていた料理を真冬さんが手早く作ってくれてすぐに食事となった。
相変わらず、びっくりするほどの料理の腕だ。店を出してもやって行けそうなレベルだった。
何かコツがあるのかと思い尋ねてみると「50年以上続けていれば、上達しますよ。」返された。
どうやら、人間と同じような肉体を持っている場合でも寿命は人間と比べ随分と長いようだった。全然参考にならない。まあ、コツなんて言葉で説明するのも難しいよな。
食事も終わり、ウチガネさんは、すぐに寝ると言って自分の部屋に戻っていった。俺達も食事を終えて解散した。
寝るには、まだ早いので一言文句を言ってやろうと思って、リューに電話をかけることにした。
電話をかけると2コール目で電話が繋がった。
「やあやあ、お疲れ様。峰くん。順調かな?」
悪びれた声もなく話しかけてくるリューに少しイラっとする。こいつ、わかっててここに送り込んだんだろうな・・・
「何かいうことはないのか?」
「? 僕が君にいうことかい? ああ、もしかして、仕事を手伝うなんて話を聞いてないとかそういう話かい?」
「分かってんのかよ・・・」
「まあまあ、そう怒らないでくれよ。修学旅行の職業体験みたいなものだと思ってさ。楽しんでおくれよ。」
「だったら、最初から言ってくれよ・・・。」
「サプラーイズ!」
「サプライズで仕事を用意されても嬉しくねぇよ!」
むしろ、ただの嫌がらせだ。
「だけど、嫌がれば無理強いはされなかったはずだけど、君は、最後まで参加してたみたいじゃないか。何か感じるものがあったのかな?」
本当に見透かしたようなことを言う魔女である。確かにいい体験をする機会ではあったが・・・
「まあ、確かに手伝って良かったと思う仕事だったよ。」
「ふむふむ、なるほどね。じゃあ、ウチガネもそれだけ立派な刀鍛冶になったってことなんだね。いやぁ、出資した甲斐があるってものだね。」
「出資って・・・実際、何を手伝ったんだ? 生涯最高の一振りをよこせ。なんて対価を要求して」
「刀を作る材料に作る場所や機材諸々を僕が手配したさ。自分は最高の打ち手になるなんて言われてさ。まあ、実際になってるんだから、素直にすごいことだと思うけどね。」
つまり、この家や工房に関しては、リューが手配したと言うことか、そういう援助もしているのかと少し意外に思った。
「まあ、さいごまで見届けて帰ってきなよ。なかなか見れるものじゃないと思うしさ。」
「ああ、そうする。」
「じゃあ、またね。おやすみー」そう言って電話を切られた。結局、なんとなく、流されてしまった。まあ、実際、そんなに怒っている訳じゃないのだ。良いものも見れたし、ただのお使いで良いだなんて裏がありそうで怖いし・・・
電話を切って寝ようかと思ったが、喉が渇いたので水をもらいに行こうと廊下を歩いていると縁側で座っている真冬さんを見つけた。月に照らされるその姿は、非常に絵になるな。なんてことを思っていると、気配に気づいたのか、真冬さんは、こちらを見て「まだ、眠られてなかったんですね。」と声をかけてくる。
「ちょっと、喉が渇いちゃって・・・」
「ああ、そうでしたか。すみません。今、手元にはお酒しかないんです。一杯いかがですか?」
そう言って真冬さんは、おちょこにお酒を注ぐ。注がれてしまったらご相伴に預からないわけにはいかない。別に飲めないわけではないし・・・
「じゃあ、一口だけ」
そう言ってぐっと一気にお酒を煽る。お酒独特の匂いが鼻を通る。まだ、お酒の美味しさに気づけていない年頃なのでそれほど美味しいとは感じないが・・・
「 お酒あんまりお好きじゃなかったですか?」
「いや、最近飲めるようになったばっかりだったので・・・まだ、味に慣れなくて・・・」
「なるほど・・・そのうち、美味しくなりますよ。」
「そうなんですかね。」
この独特の苦さがクセになるようになるのが想像できない。だけど、コーヒーも苦手だったけど飲めるようになったし、味覚は時間が経てば変わるのだろう。
「そういえば、真冬さんは、山姥なんですよね?」
「そうですよ。まあ、一番近いのがですけど・・・。山で旅人を家に泊めて歓迎してその人間を食べる妖怪とか言われてますよね。」
「真冬さんは、人間を食べるんですか?」
「私達は、合意の上でしか食べませんよ。それに誰でも彼でも食べるわけじゃないんです。」
「合意って・・・」
「私達は、相手を食べることが最上級の愛情表現なんです。ただ、好きな人とは長くいたいので食べても良いと言われなければ食べませんし」
そう言われて絶句した。価値観の違いがはっきりと認識される。愛ゆえに食べる。人間には理解できない感情だ。人間は好きな人間を食べようとは思わない。
けれど、それなら、もしかして・・・
「ウチガネさんはどうなんですか?」
「勿論、好きですよ。ええ、あの人が食べてくれと言うのなら私は、食べますけど、あの人は、刀を作ることとケモミミの女性しか恋愛対象にしないので・・・望み薄ですかね。ツノは生えてるんですけどね。本当の姿なら・・・」
「それでも、一緒に居続けるんですね。」
「ええ、好きになった人ですから。例え、恋愛感情は抱いてもらえなくても、好きな人のそばに居たい。やりたいことをさせてあげたい。そう思ってここで長い間過ごしています。」
俺には、その言葉に返す言葉が思いつかなかった。報われない恋でも愛し続けるというのは、一体、どう言う気持ちなのだろうか。俺には想像がつかない。
「それにあの人が仕事をしている姿を見るのが好きなんです。鉄と炎に向き合って真剣に自分のできる最高の出来を目指している姿が・・・私が惚れた理由は、そういう一つのことに全力でいるところもですから・・・」
真剣に張り詰めた空気の中鉄を打つ姿は、美しいとも思うし、カッコいいとも俺も思ったのだ。だから、惹かれるのも分かる。
未来なんて分からないものだ。もし、今後もウチガネさんと一緒にいれば真冬さんの恋が報われるかもしれない。俺は、それを応援したいなと思った。
「諦めずにアタックし続ければもしかしたら報われるかもしれませんよ? 胃袋は間違いなく掴んでます。」
「ふふふ、・・・そうですね。」
真冬さんは、小さく笑うとお酒を飲んだ。そうして、俺たちの少しの晩酌は終了したのだった。
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