31 / 352
1章
Part 31 『研ぎ澄まされた瞬間』
しおりを挟む
早朝、俺は携帯のアラームに起こされて目を覚ました。今日は雨らしく、ざぁっという地面を打ち付ける音が響いている。結構な雨の量で、完全にこの雨で桜も全部散ってしまったかななんてことをふと考える。とはいえ、もう、かなり散ってしまったので、今まで雨が降らなくて幸運だったと考えた方が前向きかもしれない。
結構な雨の勢いで、工房での仕事に影響はないだろうか・・・そんなことを考えながら俺は、台所に向かった。
もうすでに台所では、食事の準備を進めている真冬さんがいた。結構、早く起きたつもりだったのに、この人は一体、いつ寝て起きてるんだろうか・・・
「おはようございます。」
「あ、峰さん。おはようございます。昨日は、晩酌に付き合ってくれてありがとうございますね。」
「いえ、お陰でよく眠れました。」
「ああ、峰さん、お酒が入ると眠くなるタイプなんですね。酔うわけではなく。もうすぐ、ご飯が出来るので少し待っててくださいね。」
真冬さんは、そういうとテキパキと料理を作る。長い間、ここで過ごしているんだなと思う手際である。
「何か手伝いますよ。」
そう言うと真冬さんは「ありがとうございます。それじゃあ、お皿の準備をお願いできますか」と笑って答えてくれる。
準備を手伝っているとコンやウチガネさんも台所に現れ始める。
その頃には、朝食の準備は、ほぼ終わっていた。全員で食事を始める。
「今日は、雨ですけど大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ねぇ。多少は影響が出るかもしれねぇが、それで鈍るもんでもねぇ・・・」
はっきりとそう断言する。その言葉に迷いなんてものはない。
「自信があるんですね。」
「当たり前だろ。自信がなけりゃあ生涯最高の一振りなんざ作れるかよ。」
今回は、ただ日本刀を作るわけではないのだった。彼の生涯最高の作品を作るのだ。自信がなければ出来るわけないのだ。
「今までの工程は、はっきり言って完璧だ。最高の鋼に最高の造りが出来てる。このままいけば、間違いなく最高の刀が出来る。」
ウチガネは、そう言って楽しそうに笑う。その笑顔は、少年のようで無邪気さを感じさせるものだ。本当に刀を打つということを楽しんでいるのだろう。そして、最高のものが出来上がるという確信があるのだ楽しくないわけがない。
「今回の作業は、火造りに土置き、そんで焼き入れだからな。基本的に一人の作業になる。コンにも峰にもあんまり手伝ってもらうこともないかもしれねぇが、日向はどうする? なんなら、観光してきても良いぞ。」
そんなことを言われるが、まさか、このタイミングでどこかに行くなんてことは考えていなかった。というか、こんな時に観光に行けるわけもない。それに雨も降っているのだ。
「いえ、見学させていただきます。俺も興味がありますし・・・」
「そうか。なら、飯食ってからさっさと作業するか。」
「はい、よろしくお願いします。」
ご飯を食べ終えるとすぐに工房で火を起こし始める。温度が徐々に上がって行く。木炭が消費されている。いったい何度あるのだろうか。鉄の溶ける温度は1500度以上あるはずなので、軽く曲がる程度なので1000~1200度だろうか。自分でも随分と適当だと思う予想だ。
火の温度が上がって、すぐに部屋もどんどん高くなっている。
「始めるぞ。」
ウチガネさんはそう言って昨日作っていた鉄の棒を炉に入れる。今日の作業は、火造りに土置き、焼き入れだとか言っていた。相変わらず言葉だけでは何なのか分からない。
今はつまり、火造りを行っているのだろう。炎を見守るウチガネさんの瞳は、一瞬の時を逃さないようにピクリとも動かない。
そして、その時がきたのか、ウチガネさんが鉄を取り出すと小槌で叩き始める。その度に火花が弾け、金属音が工房の中を響く、そして、昨日見たような真っ白な輝きが刀を打ち付けるたびに弾けて輝く。
その動きに迷いはない。自分の中の理想の形があるのだろう。それに迫る、そのことだけを考えているようだ。ウチガネさんの頭の中には、今、刀の事だけしかないのだ。今この瞬間は、ウチガネさんの中には、熱く熱された鉄と自分しかない。
ひたすらに自分の全身全霊をもって作品を仕上げる。その姿は、鬼気迫るものであった。息をすることすら忘れそうなほどに研ぎ澄まされた集中力は、誰にでも出せるようなものではない。
この境地に達するまでにいったい何年の時を費やしたのだろうか。剣を打つ事だけに生きてきた人間にだけ許された絶対的な境地それが今のウチガネさんだ。
一振り鉄を叩くたびに心臓が締め付けられるような激しい迫力。間違いなく、昨日以上にウチガネさんは、研ぎ澄まされている。
瞬きするのが惜しいと感じるほどの光景を俺は少しでも目に焼き付けようとしっかりと見るのだった。
結構な雨の勢いで、工房での仕事に影響はないだろうか・・・そんなことを考えながら俺は、台所に向かった。
もうすでに台所では、食事の準備を進めている真冬さんがいた。結構、早く起きたつもりだったのに、この人は一体、いつ寝て起きてるんだろうか・・・
「おはようございます。」
「あ、峰さん。おはようございます。昨日は、晩酌に付き合ってくれてありがとうございますね。」
「いえ、お陰でよく眠れました。」
「ああ、峰さん、お酒が入ると眠くなるタイプなんですね。酔うわけではなく。もうすぐ、ご飯が出来るので少し待っててくださいね。」
真冬さんは、そういうとテキパキと料理を作る。長い間、ここで過ごしているんだなと思う手際である。
「何か手伝いますよ。」
そう言うと真冬さんは「ありがとうございます。それじゃあ、お皿の準備をお願いできますか」と笑って答えてくれる。
準備を手伝っているとコンやウチガネさんも台所に現れ始める。
その頃には、朝食の準備は、ほぼ終わっていた。全員で食事を始める。
「今日は、雨ですけど大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ねぇ。多少は影響が出るかもしれねぇが、それで鈍るもんでもねぇ・・・」
はっきりとそう断言する。その言葉に迷いなんてものはない。
「自信があるんですね。」
「当たり前だろ。自信がなけりゃあ生涯最高の一振りなんざ作れるかよ。」
今回は、ただ日本刀を作るわけではないのだった。彼の生涯最高の作品を作るのだ。自信がなければ出来るわけないのだ。
「今までの工程は、はっきり言って完璧だ。最高の鋼に最高の造りが出来てる。このままいけば、間違いなく最高の刀が出来る。」
ウチガネは、そう言って楽しそうに笑う。その笑顔は、少年のようで無邪気さを感じさせるものだ。本当に刀を打つということを楽しんでいるのだろう。そして、最高のものが出来上がるという確信があるのだ楽しくないわけがない。
「今回の作業は、火造りに土置き、そんで焼き入れだからな。基本的に一人の作業になる。コンにも峰にもあんまり手伝ってもらうこともないかもしれねぇが、日向はどうする? なんなら、観光してきても良いぞ。」
そんなことを言われるが、まさか、このタイミングでどこかに行くなんてことは考えていなかった。というか、こんな時に観光に行けるわけもない。それに雨も降っているのだ。
「いえ、見学させていただきます。俺も興味がありますし・・・」
「そうか。なら、飯食ってからさっさと作業するか。」
「はい、よろしくお願いします。」
ご飯を食べ終えるとすぐに工房で火を起こし始める。温度が徐々に上がって行く。木炭が消費されている。いったい何度あるのだろうか。鉄の溶ける温度は1500度以上あるはずなので、軽く曲がる程度なので1000~1200度だろうか。自分でも随分と適当だと思う予想だ。
火の温度が上がって、すぐに部屋もどんどん高くなっている。
「始めるぞ。」
ウチガネさんはそう言って昨日作っていた鉄の棒を炉に入れる。今日の作業は、火造りに土置き、焼き入れだとか言っていた。相変わらず言葉だけでは何なのか分からない。
今はつまり、火造りを行っているのだろう。炎を見守るウチガネさんの瞳は、一瞬の時を逃さないようにピクリとも動かない。
そして、その時がきたのか、ウチガネさんが鉄を取り出すと小槌で叩き始める。その度に火花が弾け、金属音が工房の中を響く、そして、昨日見たような真っ白な輝きが刀を打ち付けるたびに弾けて輝く。
その動きに迷いはない。自分の中の理想の形があるのだろう。それに迫る、そのことだけを考えているようだ。ウチガネさんの頭の中には、今、刀の事だけしかないのだ。今この瞬間は、ウチガネさんの中には、熱く熱された鉄と自分しかない。
ひたすらに自分の全身全霊をもって作品を仕上げる。その姿は、鬼気迫るものであった。息をすることすら忘れそうなほどに研ぎ澄まされた集中力は、誰にでも出せるようなものではない。
この境地に達するまでにいったい何年の時を費やしたのだろうか。剣を打つ事だけに生きてきた人間にだけ許された絶対的な境地それが今のウチガネさんだ。
一振り鉄を叩くたびに心臓が締め付けられるような激しい迫力。間違いなく、昨日以上にウチガネさんは、研ぎ澄まされている。
瞬きするのが惜しいと感じるほどの光景を俺は少しでも目に焼き付けようとしっかりと見るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる