34 / 352
1章
Part 34 『刀匠は夢を語る』
しおりを挟む
家に戻って俺はコンに謝ることにした。気持ちの整理なんて出来てなんかいない。はっきり言って、今でもウチガネさんには長生きしてほしいと思っている。
けれど、コンだって思っていないはずはない。そのことを忘れて自分だけ取り乱していたことが申し訳なく思った。
コンは、それに「気にしないでくださいっす。」といってすぐに食事を済ませた。
そして、ウチガネさんが目を覚ましたのは、夜になった頃だった。
相変わらず、顔色はあまり良くないが、意識はしっかりしているようだった。
ウチガネさんは、俺の顔を見ると少しバツの悪そうな顔をして「悪かったな。驚かせちまった。」と頭を下げてくる。
「いえ・・・その大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと、集中しすぎた。ちゃんと仕事は終わらせてやるさ。」
やはり、仕事を辞めるという発想はないようだった。最初から分かっていたことであったが、それでも少しがっかりした気持ちを抱きながら俺は大丈夫です。と答えた。
俺の表情を見て気づいたのか、ウチガネさんは、「そうか、コンから聞いたのか。」と呟いた。
「俺の寿命はもうすぐ終わる。」
その言葉がまるで鋭利な刃物のように突き刺さる。他の皆の表情も暗い。分かっていた事ではあったのだが本人から再度聞かされてしまうと否が応でも実感させられてしまう。
しかし、ウチガネさん自身には、表情の暗さは微塵も感じない。もう、心残りなどはないと言わんばかりだった。
「後悔はないんですね。」
「ない。ってはっきり言えりゃあ良いんだがな。色々あるさ。獣耳の可愛い女と会いたいとか、獣耳の可愛い娘が欲しいとか」
「それ後悔じゃなくて欲望っすよ。師匠」
コンが小さく笑いながらツッコミを入れる。本当に相変わらずの人だ。
「まあ、半分冗談は置いておいて、逆なんだよ。このまま俺が完成させねぇと後悔しちまう。誰も文句言えねぇような最高の剣を打つっていう夢を叶えてねぇ」
「夢ですか・・・」
「ああ。俺は、長い時間を生きてきた。それこそ、500年や600年以上だ。人間からしてみりゃあ、途方も無い時間を生きてきた。だが、生きてただけだった。飯食って、働いて、寝て、その繰り返しだ。そこに意味がなかったとは言わない。だけど、俺の中に何もないことに気付いたんだ。」
「なにもない・・・」
「俺がこのまま死んでも何一つ残らないってことにだ。」
生きてきたと証明できる何か、自分という存在が確かにここにいたのだと分かるような何かが欲しいとウチガネさんは続けた。
「好きな女見つけて子供を作るでも良い、歴史の教科書に載るような偉業でも良かった。だけど、何よりも先にここに辿り着いちまった。そんでまあ、間違いなくとびきりの才能までセットだ。震えたね。これしかねぇと思ったよ。」
次元の違う才能をたまたま発見してしまった。けれど、確かにそんなものが見つかったのだったら確かに突き詰めようと思うのも頷ける。自分に何の才能があるかはっきり分かれば、将来、悩むこともないのにと思ったことが俺にもある。
「そこからは、一直線だった。誰もが認めるような最高の一振りを作る。それだけの目標に毎日、剣を作ってきた。それが叶わないなんてのは、死んだもんと同じだ。馬鹿だとは思うだろうがな。」
馬鹿だと笑うなんて出来るはずがない。全身全霊で刀を作るということに向き合ってきた人をどうして笑えるのか。夢のために死ぬのは愚かか? 愚かだという人もいるだろう。だけれど、そんなに簡単に捨てられる様なものなら夢ではないと俺は思う。そんなものは、ただの願望で、夢ではない。
俺は、ウチガネさんの話を聞いて心を決めた。
「分かりました。俺は、ウチガネさんの仕事を止めません。あなたの夢が叶う時まで見届けます。」
それが俺なりの彼への恩返しなのだと思った。生きた証を、研鑽の証をこの目にこの心に刻み込む。俺はそう誓ったのだった。
けれど、コンだって思っていないはずはない。そのことを忘れて自分だけ取り乱していたことが申し訳なく思った。
コンは、それに「気にしないでくださいっす。」といってすぐに食事を済ませた。
そして、ウチガネさんが目を覚ましたのは、夜になった頃だった。
相変わらず、顔色はあまり良くないが、意識はしっかりしているようだった。
ウチガネさんは、俺の顔を見ると少しバツの悪そうな顔をして「悪かったな。驚かせちまった。」と頭を下げてくる。
「いえ・・・その大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと、集中しすぎた。ちゃんと仕事は終わらせてやるさ。」
やはり、仕事を辞めるという発想はないようだった。最初から分かっていたことであったが、それでも少しがっかりした気持ちを抱きながら俺は大丈夫です。と答えた。
俺の表情を見て気づいたのか、ウチガネさんは、「そうか、コンから聞いたのか。」と呟いた。
「俺の寿命はもうすぐ終わる。」
その言葉がまるで鋭利な刃物のように突き刺さる。他の皆の表情も暗い。分かっていた事ではあったのだが本人から再度聞かされてしまうと否が応でも実感させられてしまう。
しかし、ウチガネさん自身には、表情の暗さは微塵も感じない。もう、心残りなどはないと言わんばかりだった。
「後悔はないんですね。」
「ない。ってはっきり言えりゃあ良いんだがな。色々あるさ。獣耳の可愛い女と会いたいとか、獣耳の可愛い娘が欲しいとか」
「それ後悔じゃなくて欲望っすよ。師匠」
コンが小さく笑いながらツッコミを入れる。本当に相変わらずの人だ。
「まあ、半分冗談は置いておいて、逆なんだよ。このまま俺が完成させねぇと後悔しちまう。誰も文句言えねぇような最高の剣を打つっていう夢を叶えてねぇ」
「夢ですか・・・」
「ああ。俺は、長い時間を生きてきた。それこそ、500年や600年以上だ。人間からしてみりゃあ、途方も無い時間を生きてきた。だが、生きてただけだった。飯食って、働いて、寝て、その繰り返しだ。そこに意味がなかったとは言わない。だけど、俺の中に何もないことに気付いたんだ。」
「なにもない・・・」
「俺がこのまま死んでも何一つ残らないってことにだ。」
生きてきたと証明できる何か、自分という存在が確かにここにいたのだと分かるような何かが欲しいとウチガネさんは続けた。
「好きな女見つけて子供を作るでも良い、歴史の教科書に載るような偉業でも良かった。だけど、何よりも先にここに辿り着いちまった。そんでまあ、間違いなくとびきりの才能までセットだ。震えたね。これしかねぇと思ったよ。」
次元の違う才能をたまたま発見してしまった。けれど、確かにそんなものが見つかったのだったら確かに突き詰めようと思うのも頷ける。自分に何の才能があるかはっきり分かれば、将来、悩むこともないのにと思ったことが俺にもある。
「そこからは、一直線だった。誰もが認めるような最高の一振りを作る。それだけの目標に毎日、剣を作ってきた。それが叶わないなんてのは、死んだもんと同じだ。馬鹿だとは思うだろうがな。」
馬鹿だと笑うなんて出来るはずがない。全身全霊で刀を作るということに向き合ってきた人をどうして笑えるのか。夢のために死ぬのは愚かか? 愚かだという人もいるだろう。だけれど、そんなに簡単に捨てられる様なものなら夢ではないと俺は思う。そんなものは、ただの願望で、夢ではない。
俺は、ウチガネさんの話を聞いて心を決めた。
「分かりました。俺は、ウチガネさんの仕事を止めません。あなたの夢が叶う時まで見届けます。」
それが俺なりの彼への恩返しなのだと思った。生きた証を、研鑽の証をこの目にこの心に刻み込む。俺はそう誓ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる