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1章
Part 35 『刀鍛冶は、最期の夜を過ごす。』
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夕食を全員で済ませて俺はすぐに眠りにつくことにした。しかし、睡魔は一向にやってこない。昨日寝過ぎた所為かもしれない。
起き上がって窓を開け、外を眺めると大きな月が外を照らしていた。春先の冷たい空気が熱を帯びたこの身体には心地いい。
「明日が最期か・・・」
思えば随分と長く生きたものだ。刀鍛冶という仕事は、自分にとって天職だった。超一流と呼ばれる人間が積み上げてきた技術と情熱を全力で注いでも出来るかどうかという妖刀を確実に作ることが出来るなど、本来は不正でしかない。
一時期は、俺のことを才能だけの刀鍛冶だと揶揄する輩もいたものだ。事実、その頃は技術なんて素人に毛が生えた程度だった。思えば、初めての作品も鈍すぎて使い物にならないもので、今も工房の隅に放置している。だが、初めて刀を打った時、自分が何かを完成させたのだという実感が最高に気持ちよかったのを覚えている。
刀鍛冶の道を本気で進もうと思ったのは、その後の事だ。今でもはっきり覚えている。初めて自分でも自信を持って人に出せる代物を作った。それを見た客が俺の刀を見てこう言ったのだ。「良い刀だ。貴方に依頼して良かった。」そう言ったのだ。心を締め付けるような感動、自分の今までの努力が報われたのだという確かな実感が幸福感になる。あの瞬間以上の快感は、他にもあまりない。
日本刀を作るということは正直に言えば、地味で面倒な工程をいくつも挟む。ただ、鋼を小槌で叩く。そして焼く。その繰り返しといっても過言ではない。けれど、その一つの工程に過去の人々が考えてきた知恵が織り込まれている。だからこそ、省くわけにはいかない。しかし、その単純とも思える工程の中で技術が重ねられはっきりと良いものと悪いものが出来上がるのだから面白い。
人生をかける価値があると思った。他の全てを捧げても成し遂げる価値があると思った。
多くの人間からすれば馬鹿だと思うかもしれない。だけど、間違いなく正解だったと断言できる。それなら、もう、他人の意見なんていうのは、二の次、三の次だ。
「あいつは、俺の仕事を否定しなかったな。」
峰 日向を思い出す。細い身体(まあ、俺から見ればだが・・・)をした魑魅魍魎の類を見ることが出来る人間。
まだ数日の付き合いだが、人となりはなんとなくわかる。あいつの長所は、人の考えを否定しない事だ。俺達みたいな半人半妖みたいな奴の考えを真正面から向き合って話をする。中々しようと思って出来る事じゃない。
優しい奴だとも思う。数日の付き合いのはずの俺の事をとても気にしてくれていた。
遠慮をしすぎな面もあるがそこまで気にならない。
何かを否定する事は、同時にそれを肯定するものを否定する事だ。それをあいつは理解している。俺は、俺の仕事を否定しなかったことが嬉しかった。勿論、内心では、否定したい感情もあったようにも思うが、それを飲み込んで俺の考えを尊重してくれたその姿勢が素直に嬉しい。
思えば、良い出会いを繰り返してきたものだ。最初にうちに来たのは真冬だった。きっかけは、随分昔の話だが、探し物をしているのを手伝ったのが始まりだ。結局、それは見つからなかったのだが、お礼をしたいと家に来て家事をするようになった。そこで何故か俺に対して熱烈なアプローチを仕掛けてくるようになった。まあ、ケモミミが生えてないので断ったのだが・・・
しかし、真冬も行くあてがないと言うので、うちに住むのはどうかと誘ってみると本人もいたくこの家を気に入ったようで、今までずっと暮らしてきたのだ。
そのしばらく後にコンが弟子としてやってきた。人を育てることの難しさを俺は痛感することになった。人に教えるにはより深く技術や考えを理解しなければいけない。目で盗めとはよく言うが、それはあくまで弟子が持つべき姿勢であって師は見せるだけでは意味がない。
コンを育てる段階で俺にも多くの気づきや発見があった。今の俺は、コンの存在がなければここまで技術を高めることは難しかったと思う。
真摯に自分の一挙手一投足に神経を集中されるのは、ある意味では良い刺激にもなった。
感謝しなければいいけない。本当に良い出会いに恵まれたのだと・・・
夜風に当たっていると流石に寒くなって来ていい具合に眠気が襲って来た。
「もう、眠るか・・・」
今まで費やして来た全てをかけて最高のものを作ろう。俺はそう誓って眠りにつくのだった。
起き上がって窓を開け、外を眺めると大きな月が外を照らしていた。春先の冷たい空気が熱を帯びたこの身体には心地いい。
「明日が最期か・・・」
思えば随分と長く生きたものだ。刀鍛冶という仕事は、自分にとって天職だった。超一流と呼ばれる人間が積み上げてきた技術と情熱を全力で注いでも出来るかどうかという妖刀を確実に作ることが出来るなど、本来は不正でしかない。
一時期は、俺のことを才能だけの刀鍛冶だと揶揄する輩もいたものだ。事実、その頃は技術なんて素人に毛が生えた程度だった。思えば、初めての作品も鈍すぎて使い物にならないもので、今も工房の隅に放置している。だが、初めて刀を打った時、自分が何かを完成させたのだという実感が最高に気持ちよかったのを覚えている。
刀鍛冶の道を本気で進もうと思ったのは、その後の事だ。今でもはっきり覚えている。初めて自分でも自信を持って人に出せる代物を作った。それを見た客が俺の刀を見てこう言ったのだ。「良い刀だ。貴方に依頼して良かった。」そう言ったのだ。心を締め付けるような感動、自分の今までの努力が報われたのだという確かな実感が幸福感になる。あの瞬間以上の快感は、他にもあまりない。
日本刀を作るということは正直に言えば、地味で面倒な工程をいくつも挟む。ただ、鋼を小槌で叩く。そして焼く。その繰り返しといっても過言ではない。けれど、その一つの工程に過去の人々が考えてきた知恵が織り込まれている。だからこそ、省くわけにはいかない。しかし、その単純とも思える工程の中で技術が重ねられはっきりと良いものと悪いものが出来上がるのだから面白い。
人生をかける価値があると思った。他の全てを捧げても成し遂げる価値があると思った。
多くの人間からすれば馬鹿だと思うかもしれない。だけど、間違いなく正解だったと断言できる。それなら、もう、他人の意見なんていうのは、二の次、三の次だ。
「あいつは、俺の仕事を否定しなかったな。」
峰 日向を思い出す。細い身体(まあ、俺から見ればだが・・・)をした魑魅魍魎の類を見ることが出来る人間。
まだ数日の付き合いだが、人となりはなんとなくわかる。あいつの長所は、人の考えを否定しない事だ。俺達みたいな半人半妖みたいな奴の考えを真正面から向き合って話をする。中々しようと思って出来る事じゃない。
優しい奴だとも思う。数日の付き合いのはずの俺の事をとても気にしてくれていた。
遠慮をしすぎな面もあるがそこまで気にならない。
何かを否定する事は、同時にそれを肯定するものを否定する事だ。それをあいつは理解している。俺は、俺の仕事を否定しなかったことが嬉しかった。勿論、内心では、否定したい感情もあったようにも思うが、それを飲み込んで俺の考えを尊重してくれたその姿勢が素直に嬉しい。
思えば、良い出会いを繰り返してきたものだ。最初にうちに来たのは真冬だった。きっかけは、随分昔の話だが、探し物をしているのを手伝ったのが始まりだ。結局、それは見つからなかったのだが、お礼をしたいと家に来て家事をするようになった。そこで何故か俺に対して熱烈なアプローチを仕掛けてくるようになった。まあ、ケモミミが生えてないので断ったのだが・・・
しかし、真冬も行くあてがないと言うので、うちに住むのはどうかと誘ってみると本人もいたくこの家を気に入ったようで、今までずっと暮らしてきたのだ。
そのしばらく後にコンが弟子としてやってきた。人を育てることの難しさを俺は痛感することになった。人に教えるにはより深く技術や考えを理解しなければいけない。目で盗めとはよく言うが、それはあくまで弟子が持つべき姿勢であって師は見せるだけでは意味がない。
コンを育てる段階で俺にも多くの気づきや発見があった。今の俺は、コンの存在がなければここまで技術を高めることは難しかったと思う。
真摯に自分の一挙手一投足に神経を集中されるのは、ある意味では良い刺激にもなった。
感謝しなければいいけない。本当に良い出会いに恵まれたのだと・・・
夜風に当たっていると流石に寒くなって来ていい具合に眠気が襲って来た。
「もう、眠るか・・・」
今まで費やして来た全てをかけて最高のものを作ろう。俺はそう誓って眠りにつくのだった。
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