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1章
Part 39 『嗚咽』
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「まだ、完成じゃないっす。その刀はまだ未完成っす。」
コンが、真冬さんに向かってそう言った。
「完成じゃない?」
どういう事だ。もうすでに、形はそのまま日本刀だ。しかし、コンは、まだ終わっていないという。
「師匠は、最初から最後の工程は、俺に任せるつもりだったっす。」
そう言われて気づいた。確かに完成した日本刀は鈍い銀の輝きを放っているが、何処かくすんでいて、テレビなどで見かけるようなものとはかけ離れていた。
仕上げの作業がまだ終わっていなかった。ウチガネさんは、前々から気づいていたのだ。研ぐまでは自分の寿命が持たない事を・・・
「研ぐことに関しては、師匠にも認めてもらってるっす。必ず、最高の刀にしてみせるっすよ。」
「コンさん・・・お願いしますね。」
真冬さんは、コンに刀を渡してそのまま、家の方へと歩いていった。大丈夫だろうかと、不安にはなる。
「じゃあ、やるっすよ。」
コンはそう言って日本刀の刃の部分に布のようなものを巻きつけて握る。
工房の端に置いてあった水の入った桶を持ってくる。その中には、水だけでなく長方形の砥石が入れられている。コンがそれを取り出すと小さく息を吐いて研ぎ始める。。
一回一回丁寧に行われているのが側から見てもしっかりとわかった。コンは、今、一体何を思いながら研いでいるのだろうか。
ウチガネさんがいなくなってしまってもコンは、泣くことはなかった。意思を継ぐようにウチガネさんの刀を仕上げて行く。
そう、彼もれっきとした刀鍛冶なのだ。
途切れてなどいないのだ。意思は確実にそこに残っていたのだ。ウチガネさんは、何かを残す人になれたのだと思った。技術や信念は、弟子に受け継がれてしっかりと紡がれて行く。それこそ、ウチガネさんが求めていた死んだ後にも残る何かの一つだった。
「出来たっす。」
研磨作業が数時間が経過した頃、コンは道具を置いてそう呟いた。
本当にいくつもの工程をかけて日本刀『真冬』は完成したのだった。刀は芸術品だと言うが、反りの入った銀色に輝く日本刀はまさしく芸術品だった。
見ているだけで鳥肌が立つほどに完成されたその作品は、間違いなく一級品であった。ここまでするのかというほどに丁寧に行われた研磨によってより完璧なものへと昇華された。
「鞘の方は、今日中に準備しておくっす。もう、今日は、上がっていいっすよ。」
コンが俺にそう言って声をかけて来る。俺は、それなら残っていると言おうと思った。けれど、気づいてしまったのだ。コンが笑顔を向けながらも耐えるように拳を握りしめていることに・・・
「分かった。あんまり、無理しないでくれな。」
そう言って、俺も工房から出て行く。
「悲しくないわけないよな・・・」
後ろから聞こえてくる嗚咽に胸が締め付けられるような気持ちを感じる。
今まで一緒に生きてきた師匠が亡くなって悲しくないわけはない。いくら、夢を叶えたからと言っても・・・
もっと、教えてもらいたいことも、見せて欲しいものもあったのだろう。死なずに済むのならそうあって欲しいと願ったこともあっただろう。
どうにもならない現実に打ちのめされて、弟子として見送ると決めたのだろう。
だから、刀が完成するまで泣かなかったのだ。
その声にさっきまで止まっていた涙が流れてきそうになるのを感じて上を見上げる。ここで泣いたらしばらく止まってくれる気がしなかった。
俺は、気持ちが落ち着いてくれるのを待って屋敷に向かって、いつもよりも静かに感じる屋敷に寂しさを感じてそれを誤魔化すように眠りについた。
コンが、真冬さんに向かってそう言った。
「完成じゃない?」
どういう事だ。もうすでに、形はそのまま日本刀だ。しかし、コンは、まだ終わっていないという。
「師匠は、最初から最後の工程は、俺に任せるつもりだったっす。」
そう言われて気づいた。確かに完成した日本刀は鈍い銀の輝きを放っているが、何処かくすんでいて、テレビなどで見かけるようなものとはかけ離れていた。
仕上げの作業がまだ終わっていなかった。ウチガネさんは、前々から気づいていたのだ。研ぐまでは自分の寿命が持たない事を・・・
「研ぐことに関しては、師匠にも認めてもらってるっす。必ず、最高の刀にしてみせるっすよ。」
「コンさん・・・お願いしますね。」
真冬さんは、コンに刀を渡してそのまま、家の方へと歩いていった。大丈夫だろうかと、不安にはなる。
「じゃあ、やるっすよ。」
コンはそう言って日本刀の刃の部分に布のようなものを巻きつけて握る。
工房の端に置いてあった水の入った桶を持ってくる。その中には、水だけでなく長方形の砥石が入れられている。コンがそれを取り出すと小さく息を吐いて研ぎ始める。。
一回一回丁寧に行われているのが側から見てもしっかりとわかった。コンは、今、一体何を思いながら研いでいるのだろうか。
ウチガネさんがいなくなってしまってもコンは、泣くことはなかった。意思を継ぐようにウチガネさんの刀を仕上げて行く。
そう、彼もれっきとした刀鍛冶なのだ。
途切れてなどいないのだ。意思は確実にそこに残っていたのだ。ウチガネさんは、何かを残す人になれたのだと思った。技術や信念は、弟子に受け継がれてしっかりと紡がれて行く。それこそ、ウチガネさんが求めていた死んだ後にも残る何かの一つだった。
「出来たっす。」
研磨作業が数時間が経過した頃、コンは道具を置いてそう呟いた。
本当にいくつもの工程をかけて日本刀『真冬』は完成したのだった。刀は芸術品だと言うが、反りの入った銀色に輝く日本刀はまさしく芸術品だった。
見ているだけで鳥肌が立つほどに完成されたその作品は、間違いなく一級品であった。ここまでするのかというほどに丁寧に行われた研磨によってより完璧なものへと昇華された。
「鞘の方は、今日中に準備しておくっす。もう、今日は、上がっていいっすよ。」
コンが俺にそう言って声をかけて来る。俺は、それなら残っていると言おうと思った。けれど、気づいてしまったのだ。コンが笑顔を向けながらも耐えるように拳を握りしめていることに・・・
「分かった。あんまり、無理しないでくれな。」
そう言って、俺も工房から出て行く。
「悲しくないわけないよな・・・」
後ろから聞こえてくる嗚咽に胸が締め付けられるような気持ちを感じる。
今まで一緒に生きてきた師匠が亡くなって悲しくないわけはない。いくら、夢を叶えたからと言っても・・・
もっと、教えてもらいたいことも、見せて欲しいものもあったのだろう。死なずに済むのならそうあって欲しいと願ったこともあっただろう。
どうにもならない現実に打ちのめされて、弟子として見送ると決めたのだろう。
だから、刀が完成するまで泣かなかったのだ。
その声にさっきまで止まっていた涙が流れてきそうになるのを感じて上を見上げる。ここで泣いたらしばらく止まってくれる気がしなかった。
俺は、気持ちが落ち着いてくれるのを待って屋敷に向かって、いつもよりも静かに感じる屋敷に寂しさを感じてそれを誤魔化すように眠りについた。
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