斎王君は亡命中

永瀬史緒

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10. イスカ

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10.イスカ


 だから、もう少し後先を考えてから行動しろと言っているんだ。
 故郷の父は、説教の度にまずそう切り出した。
 何故か。
それはもう、たいていの困った事柄はイスカの短慮が発端になったからだろう。それもなお、物事に対して瞬発的に反応して、行動できる事は己の長所でもあるとイスカは自負している。翼竜が群れで行動するからこそ、最初の一頭として飛び立つ事のできる特性は、確かに竜人の中では美徳とされる。
「……ああ~、でも、こういう事になるから、親父は窘めてたんだろうなぁ」
 ぼやきつつも冬の空を滑空する。眼下に広がるのは草木もまばらな荒野に一本道が通っている、寒々しい光景だった。アスカンタ王国と隣国イスファの間の砂漠は、一般的に言われる砂ばかりの砂漠とは違い、荒々しい荒野にわずかな草木が生えて、街道沿いには点々と水場すら存在する。
 それを知っていたから、イスカはあえて大仰な旅装を調えずに星都の潜伏先の小神殿から飛び立ったのだ。きっと、主と先輩侍従騎士はイスファの首都の大神殿を目指しているに違いない、と信じて。
 思えば、大晦日の夜に金竜山の頂上に近い岩屋から、数刻かけないと降りられない麓の斎王院に使いに出された時から、イスカの不幸は始まっていたのかもしれない。
 冬至の祝い料理をもらっておいで、と斎王に言いつけられて、狭い岩屋で自分たちの作る簡素な汁ものばかりに飽きた頃合いだったせいもあって、嬉々として麓まで降りたまではよかった。
 斎王院で厨房に顔を出して、持たされる料理の出来上がりを待つ間に、谷の玄関口である本殿の方が騒がしくなった。普段、信者が出入りはするものの巡礼者は皆礼拝堂で静かに祈りを捧げるばかり、大声で何事か呼ばわりつつ駆ける者なぞ、まず見た事もなかった。
 不思議に思って通用口から顔を出したイスカのすぐ傍に、鋭く滑空して来たらしい本性の姿のシェートラが着地した。あまりに急な事に、イスカは上手く対応できずに身を固くする。
「イスカ、飛ぶぞ!」
「は?」
 問い返した時にはもう、イスカは本性姿のシェートラの嘴に襟首を咥えられて半ば空の上にいる。慌てて地上へと視線を転じれば、本殿の方から所属の知れない軍ーーしかも竜騎兵の一群が駆けてくるのが見えた。あわてて自分も本性に転じて(このさい、着ていた服の一部がむなしく地上へと落ちてゆくのは無視した)、加重がなくなってぐんと高度を上げたシェートラを追う。
「シェートラ師兄、あれは一体」
「分からぬ、だが斎王院を目標としているのは確かだ」
「……嘘」
 あまりに月並みな台詞が口から漏れ出て、イスカは背後に遠くなりつつある神殿群をそっと振り返った。冬の空は高く水灰色に染まって、地表に近い部分がわずかに茜色を帯びる。星都はアスカンタの国土の中では北端、さらに谷は北の端に位置するから、上空の空気は冷たかった。
「さむっ」
 大きな羽を羽ばたいて、冷たい風を切る。ほんの数分で星都のもっとも繁華な街に着いて、先を飛んでいたシェートラが器用に旋回して建物へと降り立った。
「……師兄、ここは」
「花街の小神殿。イスカは谷へ上がる前に星都観光はしなかったのか」
 おそらく翼竜や伝書竜の発着のために設けられたらしい露台に二人で並んで立つ。本性から化生の姿へ戻りたいところではあるが、素裸になると判っているので小神殿の中から誰か出てくるのを待つ事にする。
 すぐに外套を持った神官があわただしく駆けつけてくれたので、この小神殿には翼竜人が降り立つのはよくある事なのかもしれない、とイスカは考えた。化生の姿へ転じた途端にしっかりと外套で包まれて、目の前の神官に無言で頭を下げる。
「……シェートラ師兄、今日はいかがされましたか」
「谷に襲撃があった。彼は斎王の侍従騎士ゆえ、こちらで匿う」
「心得ました」
 ごくごく短いやりとりの後、すぐにイスカは神殿内の客室へ案内されて、着替えを渡された。その際に、シェートラからもともとイスカが着ていた騎士服と剣を渡されて、しまっておくように言いつけられる。残念な事に、騎士服のズボンと長靴は斎王院の上空で本性に戻った時に置いてきてしまったが、シェートラが嘴で摘まんだままここまで飛んでくれたおかげで大事な剣と騎士服とは持ってこられた。
「あの竜騎兵たち……でもまさか王軍か?」
 案内された狭い客室内で神官見習いの一揃えを身に着ける。刺繍のない生成りの上衣は、この一年騎士服の上から着慣れていたし、毎朝斎王の着替えを手伝っていたおかげで、神官服の着方に迷う事もない。
 故郷のクソ田舎から出奔して1年、いまだアスカンタ王軍とやらを見かけた事もないイスカだが、大規模な竜騎軍を持っているのはこの世でアスカンタ王軍だけ、という事くらいは知っている。
 ごく小規模な物であれば、西のイスファと南のローアン国にも備えがあったが、まさかそこからアスカンタ国内の、さらに谷へと向かわせるには無理があり過ぎた。
「……ちゃんと着られたかい? おや、意外とお似合いだねぇ」
 おそらく巡礼客を泊めるための、狭い客室へ現れたのはシェートラで、すっかりと中位神官らしい藍色の刺繍で縁どった衣をまとっている。ゆるく波打つ黒髪を肩の辺りでまとめて、柔らかく優しい容貌をわずかに隠すように前へ流した姿は、いかにも経験を積んだ中位神官らしく、頼もしい。
「シェートラ師兄、谷に襲撃って……あの竜騎兵は」
「王軍か、それとも第二妃様の故郷の私軍か。お前はしばらくここへ潜伏しておいで」
「でも師兄、斎王様が」
「あの二人ならばすでに逃げた筈。お前が気にする事ではない」
「だけど」
 なおも言い募ろうとするのに、柔和な笑みを顔に張りつかせたままシェートラが視線だけで短く遮る。こういう時に、身分差が如実に表れる。
 シェートラは神殿の中核を担う中位神官で、さらにいえば斎王の指導を任されている。対してイスカは、斎王付きとはいえ従僕の身。そして未だ見習いでしかない。
 遅くとも今年の春分までには、正式に侍従騎士として任命される筈だったのに。
 襲撃の間の悪さを苛立たしく思うが、襲撃側も春分を迎えて各国の神殿で大神官就任のための夏至大祭の準備が始まる前に、斎王当人を押さえておきたかったのだろう。
「しばらくは、この神殿で神官見習いをしておいで。ここは繁華街の真ん中にあるから、神官の出入りも頻繁だし、信者も巡礼客も入れ替わりが激しい。少し年嵩の神官見習いが増えたとて、誰も気にすまいよ」
「……はい」
 不意に、シェートラが手を伸ばしてイスカの灰白の髪を手櫛で整えた。
 つい、と一歩を進んで、物柔らかな、だが危うい笑みを浮かべて間近に囁きかける。
「イスカ、そなたの任を思えば斎王君のお傍にと思うのはもっともだが、今は堪えて身を潜めよ。……おそらくはそなたも捕縛の対象ゆえ、短慮はすまいな」
「……承知、しました」
 ふと、置き去りにしてしまった斎王院の他の従僕たちの事が気になった。だが、斎王本人と面識があるのは神官達と、従僕では庭師の数名のみ。斎王院に勤める従僕の数は多いが、斎王本人の身柄と引き換えに出来る人物となれば、おそらくは侍従騎士以外にはいないだろう。したがって、襲撃者の目標は斎王とその侍従騎士、すなわちイスカもが含まれるのだった。
 故郷の学校でも習ったが、軍を持たない神殿が王軍に対抗するために神官たちが市井に紛れるのは唯一の、そして効果的な手段なのだ。
「……あー、なるほど。それで神官たちはいつでも、襲撃に備えて逃げる準備をしていたのか」
 シェートラが辞した後、イスカは狭い寝台と文机しかない部屋で頭を抱える。分厚い壁の、天井に近い位置に細長い窓はあるが、床に座った状態では外の景色も見えない。
 斎王が百日行のために籠っていた山頂の岩屋から逃げるとしたら、星見台か、イスファに近い南西の街の神殿か。
 斎王付きになると聞かされて、最初に覚え込まされたのは斎王院からの避難場所だった。季節毎の行事や、大神官に就任するための修行の地から、襲撃者の手を逃れて安全に潜伏できる場所への避難は、侍従騎士頼みとなるからこそ経路の把握はおろそかにはできない。
「ええっと……あの街なら星都に来る時に通ったはず……どんなところだったか」
 ぶつぶつ呟きつつ、イスカは布団の上で胡坐をかく。大切な騎士服はきちんと畳んで剣の鞘に布で結わえ付けた。後で、長靴とズボンも手に入れなければ、と決意する。シェートラの言葉はもっともだから、今すぐには動くまい。
 それでも、頃合いを見て斎王の元へ合流する事をあきらめてはいない。
神殿は翼竜人の神官が中心となった独自の通信網を持っているから、遠からず斎王の居場所も明らかになるだろう。
 そう考えて、イスカは粗末な布団の上でグッと拳を握り込んだ。



 それなのに、とイスカは胸中に小さく呟く。
 襲撃の日から二か月近くが過ぎて、それでも斎王の居場所は杳として知れなかった。数日置きに顔を出すシェートラは淡々と、まるで襲撃などなかったかのように日々の神事や雑事をこなしており、十代半ばの他の見習い神官に交じって神殿に暮らすイスカは、内心に苛立ちを募らせていた。
 シェートラが訪れる度にそれとなく斎王の居場所を尋ねるものの、毎回はぐらかされ、知るべきではないと諭され、窘められた。
「……でも、俺は侍従騎士です」
 そう言えば、困ったように微笑むシェートラの瞳に微量の疎ましさが滲むのを感じて、それが苛立ちをさらに募らせる。
 故郷を出奔したのは、神殿の、もっと言えば一族の役に立てると思ったからだった。
 イスカの一族が住むのは、田舎というにはあまりに隔絶された山に囲まれた高地で、小さな神殿に派遣されてくる神官ですらこの百年は絶えて久しい。竜族だけの狭苦しい世界は閉ざされて、イスカは毎日真綿で首を絞められるような気分を味わっていた。
 それが、ここ二十年ばかりはわずかに人の出入りがあって、星都からの情報などもぽつぽつともたらされるようになった。そして、イスカは知ったのだ。神降ろしの異能を持つオリハン家の父なし子が、そろそろ大神官に就任する事を。
 せめて、星都まで行って、大神官の就任をこの目で見たい。
 そう願って細い伝手を辿って故郷を出奔したイスカだったが、まさかの侍従騎士に採用されて、めでたくこの一年を見習いとして過ごしたのだった。
「……それなのに、就任直前にこんな事になるなんて」
 この二か月の間というもの、大人しく神官見習いを装って神事と(主に)掃除に精を出してきたが、詳しくなるのは祝詞と星都の繁華街に出入りする巡礼客の事ばかり、斎王の行方については全くと言っていいほどに情報がなかった。
 それならば、侍従騎士として斎王の傍近く仕えた自分の知識に頼るほかはない。
 そう決意して、ひそかに旅装を調えて準備をする。この二か月で仲良くなった見習い仲間や、なにかと面倒を見てくれた人の好い下位神官を置いて行くのは多少気が引けたが、したり顔で窘めるシェートラを出し抜けるのかと思えば少しだけ胸がすく。
『探さないでください』
 神殿の厳しい暮らしに耐えかねた風の置き手紙を部屋へ残して、騎士服の一揃えを剣に括りつけた荷物とともに、イスカは深夜に小神殿の露台へと上がる。
 満天の星は、ここが繁華街であってもその光は地上へと届く。地上へと視線を転じれば、わずかに地表付近を照らす猥雑な灯りが点々と大通りを飾っているのが見えた。少し冷えた風に乗って、軽妙な弦楽がかすかに耳に届く。
「さ、行くか」
 窮屈な化生を解いて、久しぶりに翼を広げる。一つ羽ばたけば、いとも簡単に身体は宙へと浮き上がった。



「街に着きさえすれば、簡単に足跡を探せると思ったのに」
 無理を押して一昼夜飛び続けて着いた先の街には、全くと言ってよいほどに斎王達一行の足跡はなかった。
 襲撃などの非常時の場合、まずそのままの身分を名乗る事はしない。
 斎王と筆頭侍従騎士の二人ならば、若夫婦の巡礼者、もしくは裕福な商家の、しかも病弱な子息とその護衛、よしんば神官と従者を名乗るとしても新任の中位神官と護衛騎士、この組み合わせのどれかだろう。
「ぽーっとしているようで、御身様はそれなりに捻れていらっしゃるから」
 むしろ四角四面に物事を通そうとするのは、筆頭侍従騎士の方だろう。彼が、変装している状態で斎王がないがしろに扱われた時に、受け流せるのかといえば怪しい、とイスカは思っている。
 この世に顕現した神の眷属、という斎王の身分をそのままに扱っているユディは、イスカが見ても時々痛々しいほどに生真面目さを滲ませていた。
「……ここにもいない」
 ならば少し先ではどうだろうかと、逸る気持ちをなだめて着いた国境の街には、冬だからこその活気にあふれて、たった二人の巡礼客の行方など探しようもなかった。
 その日、イスカは出国には少し遅く、入国にはおそらくギリギリだろう時間に門へとたどり着いた。国境の街の内側にいても、人の出入りは激しくなるばかりで、斎王一行の足跡を辿ろうにも日増しに難しくなって行くだけ。それゆえイスカはいっそ必ず斎王が立ち寄るだろうイスファの大神殿で二人を待つ決心をしたのだった。
「すごい人だな」
 出国の列よりもはるかに長い入国者の行列に目を丸くしていると、通りがかった男が荷を引く強力の手綱を操りつつ破顔した。
「そりゃあんた、今年はなんといっても夏至大祭がある。皆、大神官様の就任式を拝みたいんだよ」
「そりゃそうだろうけど、まだ春分にもなってないじゃんか」
「兄ちゃん、あんた翼竜人だな。他族の者は、みんな地道に地を這って星都を目指すんだよ。いまから行商しながら星都へ行って、夏至の声が聞こえる頃に谷の大神殿に着ければ、星都の観光と帰りの積み荷の手配も終わってるって寸法だよ」
「……そうか、それもそうだな」
 日干煉瓦でぐるりと囲まれた国境の街は、開かれた門の向うから砂漠の熱い風が吹き込む。城壁内には大きなシダの林があり、冬だといういのにむっとするような熱気が漂う。だが、一歩アスカンタを出国すれば、日中の乾いた熱い風と、冬の凍えるような冷え込みとが交互に襲う過酷な気候を持つ国イスファへと街道が続くのだ。
「……あの箱入り斎王様、熱を出してなきゃいいけど」
 背丈だけはそれなりに伸びはしたようだが(だが竜人の男としては低い方だ)、臈長けた面差しと長い銀の髪のせいで『美人』としか言い表せないイスカの主は、竜人の子らしく病弱で、周りは腫物に触るような扱いをしていた。
「通れ」
 イスカの差し出す旅券をチラと眺めた門番は、独り者の男が単独で出国するのをかまう余裕はなさそうだった。重そうな荷物をたんまり積んだ強力と商人、どのような身分なのか、小綺麗な女数人を従えた老人等、見るからに怪しげな旅行者が列に連なっている。
「……出てすぐ、というのはちょっと無理か」
 今、身に着けている衣服と荷物をひとまとめにしてからでないと、翼竜の姿には戻れない。すなわち、素裸で荷物をまとめるという少しばかり奇矯な行動を路上で行う事になる。
 人以外の四族は街道での移動に本性の姿へ戻る者も結構いるし、それを目当てに城壁の外側には茶屋等が軒を連ねて、行きかう旅人や使いの翼竜人に着替える場所を貸してくれるのだが、今のイスカには小銭でも節約しておきたいのだった。
 いつ主人と合流できるかも分からない。
 もちろん、主からはそれなりの金額を「もしものために」と渡されているのだが、肝心のもしもの時があまりにも急に来て、しかもいつ終わるともしれないのだから、なおさらだろう。
「……ま、ここらでいいか」
 冬とはいえ乾燥した荒野の強い日差しの元、街道からはわずかに離れた灌木の傍で、イスカは腹を決めて服を脱ぎ始めた。



 そうして、イスカはアスカンタを出国して、今は荒野をイスファへと飛んでいる。途中、一度だけ中規模の商隊とすれ違ったが、それ以降は旅人も絶えて眼下に広がる荒野は眠気を催すほどに単調だった。埃っぽい上空の風は冷たく、視界の端を過ぎても続く荒野は灌木と砂と岩と半分立ち枯れた草に覆われて、人の足で踏み固められた道だけが細々と行く先を指し示す。
 時折、野生の翼竜らしい影が目の端を横切るが、イスカが飛んでいるせいか近寄ってくるような向こう見ずな竜はいなかった。イスカは、人の形に化生している時はさほど体格はよくないが、翼竜の姿へ戻った時には堂々と大きな体躯を誇っていた。特に、強い翼は一族で一番速いと、これはイスカを短慮だと叱りがちな父にさえ褒められているのだ。
「……あれ?」
 遥か前方、夕日が差す地平線に近いところでわずかな動きがある。最初は砂埃が立ち上がるのがかすかに見え、近づくにつれて複数の人が争っているのだと判った。滑空していた翼を大きく羽ばたいて近づけば、黒衣の襲撃者数名と、それを迎え撃つ護衛らしき黒髪に褐色の肌の男が、背後に女人らしい人影を庇っている。
「……まさか!?」」
 イスカはひときわ大きく羽ばたいて、劣勢にある二人の間近へ掴んでいた荷物を落とした。
「……ッ!」
 荷物の落下に驚いて身体をすくませた黒紗のベール姿の女人へ、イスカは大きく声を張った。
「伏せて!」
「!?」
 背後から周り込もうとしていた黒衣の襲撃者の、肩をめがけて爪を振り下ろす。翼竜の爪は強く大きく、下手をすればその気がなくともヒトなど一蹴りで倒してしまう。さらに、竜の鱗は硬く、なまくらな剣では傷もつける事はできない。
「うわぁっ」
 一人、二人と蹴散らして、最後の一人は不利を悟ったのか、イスカに蹴られる前に距離を取った。もう一度大きく羽ばたいて、剣を構えなおす三人目の襲撃者に鋭く鳴けば、じりじりと後じさった黒衣の男たちが灌木の林へと走り去って行くのが見えた。
「……あんたたち、大丈夫か?」
 イスカは化生の姿へ転じて、自分で落とした荷物を回収がてら服を着る。長靴を履いて、埃に塗れた布を大きく振って砂を落として、帽子代わりに被って額飾りで止るのを、襲撃されていた二人はおとなしく待っていてくれた。
「ありがとう、すごく助かったよ」
護衛らしい褐色の肌の若者はアロンと名乗った。腰に佩いた剣は痛んだ安物で、それでもその剣を唯一の頼りしているのだろう。扱いに迷いはないが、イスカの目から見ても我流なのが判別できた。
「連れはエリって言うんだ」
 砂漠地方のご婦人方がよくするような、黒紗のベールを被った女性がアロンの言葉にペコリと頭を下げた。砂漠を行く旅人らしい古ぼけた外套はいささか大きく、体格に合っていないようだった。
「あんたたち二人だけなのかい?」
「……ああ。本当はアスカンタまで行くつもりだったんだけど」
「なんだか、この間から奇妙な人達にまとわりつかれて」
 困惑したように顔を見合わせる二人に、イスカは小首を傾げてみせる。
 たしかに奇妙な襲撃者だった。荒野に二人、追剥や山賊にしてみれば絶好の獲物だろうけれども、この二人の身なりではさして金品があるとも思えない。隊商のような荷もなく、裕福どころか財布の残りですら心許ない。
 その二人を、わざわざ黒装束まで持ち出して荒野の真ん中で襲撃して、何の旨味があるというのか。
「あー、まあいいや。それよりも少し移動しよう。この先に井戸があるのが上から見えた」
 頷き合う二人と一緒にしばし移動して、一行は夕日が落ちる直前に井戸を見つける。街道沿いには、一定距離毎に井戸が設けられている。この井戸の管理も神殿の仕事で、絶えず神殿間を巡回する神官達は移動がてら井戸の保持も行うのだ。イスカ自身が神殿に仕える身になるまで、神殿の――引いては神官の仕事がそこまで多岐に及ぶのを知らなかった。国内の井戸は当地の領主に管理されているが、所有が微妙な境界地の井戸の管理は、神殿に委ねられている。
 水が争いの元になるのはよくある事だし、それが国同士の争いの元に発展する事も、きっと過去には度々あったのだろう。国境の街道を神殿が管理すれば、とりあえずの火種は避ける事ができた。
「……ん、ちょっと荷物を見ていてくれ。野生の竜でも狩ってくるよ」
「――え?」
 返答を待たずに飛び立つ。紺青の空は冷たく、小さい星々が瞬いている。斎王に拠れば、我々ヒトはかつて星の海を越えて船でこの地へたどり着いたのだとか。いつか、高く高く飛べば、星の海へたどり着けるのだろうか。
 夜空を飛ぶ時にいつも思う疑問を今日も胸中に思いつつ、イスカは上空へと舞い上がった。
「……」
 ぐるりと見渡せば、すっかり夜の帳の落ちた荒野は青く暗い。だが、イスカの目には、昼とさして変わりのない光景として見えた。衝撃者たちが逃げて行った方角の灌木の林の縁に、少し大きめの竜の影が見える。
 息を詰め、翼を駆って空を切り裂き、急角度で獲物を目指す。竜が鳴き声を上げる間もなく、鋭い爪で一撃を加えて上空へと戻った。
「……すっごい! こんなにすぐに狩ってこれるなんて」
「おお、でっかい竜だな」
 爪で引っかけて井戸まで引き返すと、エリとアロンとが口々にねぎらってくれる。エリは黒紗のベールを背後で髪と一緒にまとめて、生成りの円筒形の帽子を深めに被っている。頬を覆うように零れる髪は綺麗な銀色で、銀と金が混ざったような瞳の色に色白の肌のせいもあって、イスカの主人を思い起させた。
 確かにエリはちょっと見ないような美少女で、繁華な街などではごろつきに絡まれる事もあるかもしれない。それでも、イスカの主人の麗人っぷりには遠く及ばない。どこが、と言われても語彙力に難があると自任しているイスカには上手く説明がつかないが。
 彼の主人には、会った途端に魂を抜かれて呆けたように眺めてしまう、そういう類の求心力があるのだ。
「捌くの頼める?」
 着たままの状態で地表に残された服から下着を引き抜きつつ、イスカが尋ねる。
「まかせろ!」
「今夜はごちそうよ」
 答える二人の声はウキウキと弾んで、楽しげに捕ったばかりの竜の解体を始めている。
 これはまかせても大丈夫だな、と踏んで、イスカは井戸から水を汲むために服の袖をまくり上げた。



「へえ、そんじゃあアロンは黒狼で、エリが銀狐なんだ」
「うん、二人とも狗族」
 串焼きを頬張ったエリがこくりと頷いた。横で汁物を啜っていたアロンが癖毛の黒髪を片手で掻く。普通、他人の四族を詮索するのは失礼に当たる、がイスカが本性の姿で彼らを助けたので、自らの本性を明らかにして謝意としたのだった。
「でも、故郷は別々……俺はエリと、星都の花街で会ったから」
「もう5年も前かな。一緒に芸をしつつあっちこっち巡ってるんだ」
 へえ、とイスカは小さく相槌を打つ。おそらくは妓楼からの足抜け、しかも見世の格は低いのだろう、と想像がついた。美しい容姿をしていても、必ずしも見合った見世に入るとは限らない。そこは、偶然と欲の絡んだ末の顛末、花街でひどい目に遭う女は運だけに左右される。
「ふーん、あんたたち、さっさと逃げてきて正解だったな」
 乾燥した香辛料がたっぷりまぶされた竜肉は、硬いけれども風味が豊かで、焚火で炙ったせいか臭みも少なく美味かった。この一年神殿勤めで、奢侈とはもっとも離れた場所とはいえ、まがりなりにも斎王付きだったせいか食事はどれも美味く量も十分摂れた。それでも、気ままに竜を狩って野営する楽しみを忘れていたな、とふと夜空に降るような星を見上げて懐かしく思う。
「黒狼って結構珍しいな。俺は初めて遭ったかもしれない」
 思っている事と全然別の事を口にすれば、アロンが肉串を持ったまま軽く肩を竦めた。
「うちの田舎には固まって住んでたけどね。他では黒いのは珍しいから。大猫族なら黒豹、黒獅子……黒虎っていたっけ?」
「白虎なら知っているけど。……黒狐ってのはいないんだよね。あ、でも花街から逃げる時に、黒系のお兄さんとすれ違った。あの人も黒狼っぽいかも」
「え、それってエリに財布をくれた人?」
「くれたっていうか、掏ったのを黙認してくれた人だけど」
 途中から話の矛先が脱線した二人に、イスカは愛想の良い笑みを向けた。
「黒竜ってのは、翼竜人はわりといるぞ。……東側の方が多いらしいけど」
「へぇ~~」
 ひとしきり感心して、エリがふと真顔になった。陽が落ちて寒いのか、わずかに焚火の方へとにじり寄る。
「イスカは、どこの出身? これから何処へ行くの?」
「んー、俺はご主人のお使いでイスファまで。国境の街がこんなに混んでるなんて思わなかった」
「そっか、イスファまで行くんだ」
 少し寂しげに呟くのは、イスカが彼らの目的地まで同道してくれることを期待していたのかもしれない。だが、主の命で旅をしているとなれば、頼む事はまず無理だと判る。それでも、と未練に感じてしまうのは、つい先ほど命を狙われたのならば仕方もないだろう。
「……あのさぁ、なんで襲われたのか、判る?」
「ううん、全然……」
「俺たち、大した荷物もないし、エリ目当ての人攫いなら場所が荒野ってのが腑に落ちない。それに、あつらは殺すつもり満々だった」
「……そうなの?」
「うん」
 不安げに視線を交わす二人を焚火越しに眺めて、イスカは深々と溜息を落とす。
 これ、絶対に取り違え案件だ、とイスカは確信した。二十歳前の美しい銀髪の女と、褐色の肌に癖毛の黒髪の二十代前半の護衛、この組み合わせには嫌でもピンと来るものがある。
(いやもう、ただのとばっちり。お疲れ様でしかない……それに、この先も襲撃がない、とは言えない。というか、絶対にある。この人たち、人違いで殺される……!)
 アロンの剣の腕は、悪くはない。だが、我流がゆえに隙もあり、手練れを複数相手にした場合にはまず敗北するのが目に見えていた。
 そもそも、短時間とはいえ複数相手に持ちこたえられた今日の事態が奇跡に近い。イスカがすぐに救援に入ったので二人とも無事だったが、明日以降再度襲撃があれば、おそらくあっさりと殺されて、荒野のどこかに埋められて終わるだろうというのは簡単に予想できた。
 はあ、とイスカはもう一度溜息を落とす。
「あのさぁ、俺の主人は谷の神官なんだけど……」
 唐突な話題の転換に、襲撃者の目的をアレコレと話していた二人がイスカへと視線を向けた。夕凪の時間を過ぎたのか、にわかに風が出て焚火の炎を煽る。
「今、谷はちょっとヤバい事になってて……。詳しくは言えないんだけど、今年の夏至大祭はないだろうって」
「え、なんで? だって斎王様が18歳におなりだから、今年の夏至祭は特別だって」
「うん、その筈だったんだけど。特に谷の近くは治安が悪くなってるから、これから行くのは勧めない」
 言葉を濁すと、アロンとエリとが顔を見合わせた。
「……もしかして、それ関連のお使いでイスカはイスファの首都に行くの?」
「そんなところ」
 風に煽られた炎に炙られて、焦げ始めている肉串を外して油紙で包む。串はその辺りの灌木の枝を削いで作った不格好な物だが、調理には立派に役に立った。
「ほれ、あんたら食料あんまり持ってないんだろう? 俺はまた獲ればいいんだからこの肉串は持ってきなよ」
 イスカは背後の竜の残骸(というよりもまだ残りの方が多い)を顎で軽く指示した。
「――ありがとう」
 どうやらアロンよりもエリの方が物怖じしない性格らしい。二人分たっぷりある肉串を受け取って、花の咲くように微笑んだ。
 イスカだって年ごろの男子だから、美しい娘に微笑まれれば悪い気はしない。だが、心の隅で(それでも、御身様の方が圧倒的に美人なのって理不尽だ)と自問自答してしまう。
 会話が途切れて、三人で焚火を囲んだままなんとなく無言になる。と、荒野を渡る風の向うからかすかに土鈴の音と、乾いた土を踏む複数の足音が聞こえて来た。
「お、隊商だ。……わりと大きいな」
 イスカは立ち上がって、街道をこちら側へ、すなわちアスカンタ側へと進んでくる影を見やった。ちょうどこの井戸の付近は三差路になっていて、一方はイスファへ、もう一方はアスカンタへ、そして最後の一路はポーラスタへと分岐している。
 だからイスカは、できればこの二人にはアスカンタではなくポーラスタへ向かってほしかったのだ。星都に、さらに谷に近づけば近づくほどにこの二人連れを狙う輩は増えるだろう。
 すっかり夜の帳が降りた荒野の街道を、ずんぐりとした強力竜に荷物を満載した隊商が、特に急ぐでもなく静かに近づいてくる。一端は座ったイスカがもう一度立ち上がって、近づいてくる強力の蔵へと目を凝らした。
「……シャリヤ商会か!」
 鞍の端を飾る印章を確認して、イスカは小躍りする。隊商の先頭へとパッと駆け出した。もともとこの場の井戸が目的地だったらしい隊商の列はゆるゆると停まって、幌車や強力の鞍から降りた男たちが荷下ろしを始めた。
「……あんたが責任者?」
「はい。……貴方は、その外套は神殿の関係者ですか。騎士服ならば、神官ではなく衛士か、それとも侍従騎士……」
「衣装部刺繍課中位神官ルカ様の侍従騎士、イスカという」
「ああ、なるほど。……何故おひとりで? あの二人はどう見ても旅芸人ですし」
 隊商の先頭を務める男は三十代半ばに見えるが、彼が竜族の場合はその倍であってもおかしくはない。毛織の薄い布を幾重にも頭に巻いて背に流した姿は砂漠にふさわしく、ゆったりした上衣も簡素だがしっかりした造りだった。
 シャリヤ商会は、オリハン大公レクラム麾下で、オリハン領の特産品などを専門に扱っている。神殿御用達の商会でもあるので、イスカも彼らの事をよく知っていた。斎王君の身の回りの品は、ほとんどこの商会経由で納品されていると言ってよいだろう。
 したがって、『衣装部刺繍課中位神官ルカ』の名を聞いてそれが斎王を意味すると知っている商会員は幹部だし、それ以外は言葉通りにイスカの主人を谷所属の中位神官、すなわちお得意様として扱ってくれる。
「谷の件は聞いているだろう。こちらは所用でイスファに行く途中だ。……それであそこの二人、どうやら人違いで襲撃されたらしい」
「……ああ、あの二人の容貌では致し方ありますまい」
 顔を上げて焚火の方へと視線を流した隊商の男が薄く微笑んだ。日に焼けた肌に同じく陽光に晒されて色の抜けた黒髪はゆるく波打って、イスカにシェートラを思い起させる。シェートラは穏やかな笑みを絶やさないが、眼前の隊商の男は薄い唇に酷薄な笑みを浮かべている。
「それで、ご用向きは?」
「隊商の目的地は?」
「ポーラスタの王都です。これから向かえばぎりぎり春分過ぎには着けますから。あちらの王都では、冬至よりも春分を盛大にお祝いするのですよ」
 噛んで含めるような物言いに、イスカは小さく鼻を鳴らす。こちらとて、見た目のままに若くはないのだが、今のところは十代後半の態度を維持しなければならない。
「ならば、あの二人を一緒に連れていってくれないか。……このままアスカンタに向かうと問題が増えそうだし、俺の寝覚めが悪い……」
「ふむ」
 わずかに小首を傾げて、思案するように口元に拳を当てた男――ギデオンと名乗った――は、小さく手を打って、焚火の向う側を指し示した。
「ならば、あの竜の残りを私どもにください。井戸に着いたら狩りをするつもりでしたが、途中で手間取ってしまって着くのが遅くなりまして」
「え、かまわないけど」
「それでは、契約成立ですね」
 ギデオンは背後を振り返って、控えていた男たちへ夕食の準備を差配する。てきぱきと動くさまは、神官達のゆったりした動作とは対照的で、だが命令が一糸乱れず伝わる様には同じところを感じて、イスカはすっかり感心してしまう。
「ところで、彼らを襲撃したというのはどんな輩でした?」
「ええと、黒装束で鼻から下も黒い布で覆ってたな。動作は身軽……でも本職じゃない」
「何人でした?」
「多分、三人かな」
「ほほう。黒装束といえば、ラサ教徒ですかね。彼らの本拠地はたしか、イスファだったかと」
「ラサ教徒……って、邪教じゃないか!」
 声を荒げたイスカに、ギデオンが薄い唇に指を当てて窘める。うっと息を呑んでから、イスカは慌てて周囲を見回した。
「なんでラサ教徒が……いや、あいつらは現世利益を掲げてるから、利益になるなら暗殺も辞さないんだろうけど」
 この地上に唯一の宗教は谷の擁する星教であって、それ以外の、たとえば土着神などは星教の教義に組み込まれて久しい。その他の新しい宗教、特に現世利益を唄い、信者から高額の献金を巻き上げるラサ教は、星教によって邪教とみなされ、摘発の対象となっている。星教の教えは、現世で功徳を積み来世での安穏を願うため、直接の利益をうたうラサ教に取り込まれる商人は多い。イスファにラサ教が根を張るのも、ある意味妥当と言えるだろう。
 短くやり取りした後、ポーラスタへの同道を取り付けたイスカは、不安げに成り行きを見守る二人の傍へと戻った。
「あの人たち……シャリヤ商会っていうんだけど、谷の御用達商会でさ、ポーラスタへ向かうんだって」
「シャリヤ商会……」
「あの鞍の印なら、大きい街で結構見た事ある。綺麗な布とか、黒糖とか扱ってるよね」
 茫然と呟くアロンと、目を輝かせたエリとが対照的だった。繁華な街で、アロンがチンピラを警戒して目を尖らせている時に、エリはちゃっかり観光気分を満喫しているらしい。
 弱くなった炎にその辺りから引っこ抜いてきた灌木の乾燥した枝を放り込む。パッと火の手が上がって、油分の多い細い葉が音を立てて燃え上がった。
「それで、あんた達とポーラスタまで一緒に行ってくれる。さっきみたいな襲撃も、シャリヤ商会と一緒なら避けられるから」
「え、でも私たち」
「エリ」
 反論しようと口を開いたエリへ、アロンが短く名を呼んだ。二人で顔を寄せて、短く言葉を交わした後には、エリが納得した表情を浮かべる。
「わかった。……イスカは心配してくれたんだね。あたしたち、シャリヤ商会と一緒にポーラスタへ行くよ」
「うん、是非そうしてくれ。俺は主の命があるから、どうしてもイスファへ行かなくちゃいけないし」
「うん、ありがとう、イスカ。通りすがりの俺たちにこんなに良くしてくれて」
 笑って肩を叩くアロンに、イスカは曖昧に笑み返した。
「俺の主は神官様だから、このまま別れたら主に怒られるよ」
「なるほど、さすが神殿に仕えてるだけある。俺たちとは心構えが違う」
「うん、主に顔向けできない事はしないよ」
 少しだけ照れくさくて、イスカは肩を竦める。三人で間近に顔を見合わせて、小さく照れ笑いを交わす。
「そちらの方、竜シチューはいかがですか。暖まりますよ」
 ギデオンが、井戸の向う側から声をかけてくれた。反対側にはいくつも焚火が熾してあって、隊商の男たちがにぎやかに火を囲んでいる。
「あ、ありがとうございます! 伺います」
 明るく返答したアロンが、荷物を片手に素早く焚火に砂を掛ける。エリも出していたわずかな食器を荷物へしまって、砂の着いた服の裾を払う。
 イスカは片手を上げてギデオンに軽く合図をしてから、自分の傍に置いてあった剣をゆっくりと腰へ下げた。
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