はじめてのドキドキ

第7話: 「勇気を出して」

日曜日の午後、あかりは家でひとり、宿題を広げながらも、まったく集中できていなかった。頭の中はずっとゆうすけのことでいっぱいだった。あの日、図書室での会話が頭から離れない。ゆうすけには好きな人がいる。それが自分なのか、そうでないのか、確かめる勇気もなく、もどかしい気持ちだけが積もっていく。

「あー、もう！どうしたらいいんだろう…」

あかりは無意識にため息をつき、頬杖をつきながら窓の外を見つめた。青い空と流れる雲が、なんだか遠くに感じられる。そんな時、スマートフォンにメッセージの通知音が鳴った。

「ゆうすけくんから…？」

期待を込めて画面を確認すると、そこにはゆうすけからのメッセージがあった。

「こんにちは！今日の午後、時間あるかな？話したいことがあって。」

心臓がドキドキと高鳴る。もしかして、ゆうすけが自分に伝えたいことがあるのではないか。あかりは少し躊躇したが、結局「うん、大丈夫だよ」と返信した。

約束の時間になると、あかりは近所の公園に向かった。ゆうすけとの待ち合わせは、いつものベンチ。日曜日の午後とあって、公園には家族連れや友達同士で遊ぶ子供たちがたくさんいた。その賑やかさの中、あかりは緊張した面持ちでベンチに座り、ゆうすけが来るのを待っていた。

「お待たせ！」

少し遅れてやってきたゆうすけは、いつも通りの笑顔であかりの隣に座った。けれど、その笑顔の奥に少しの緊張が見え隠れしていた。

「今日はありがとう。急に呼び出しちゃってごめんね。」

「ううん、大丈夫だよ。ゆうすけくんが話したいことって…？」

あかりはできるだけ自然に聞こうとしたが、声が少し震えてしまった。ゆうすけはしばらく黙った後、深呼吸をして話し始めた。

「あかり、実は僕…ずっと悩んでたんだ。あかりにどうやって伝えようかって。でも、やっぱり自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃいけないと思って…。」

その言葉にあかりの心臓はさらに早くなった。ゆうすけの真剣な表情を見て、何か大切なことを言われる予感がした。でも、その言葉を聞くのが怖い自分もいて、あかりは少し視線を逸らした。

「僕、あかりのことが好きなんだ。」

その言葉を聞いた瞬間、あかりは思わず息を飲んだ。ゆうすけの好きな人が自分だったなんて。喜びと驚きが一気に押し寄せて、どう答えればいいのか分からなくなってしまった。

「ゆうすけくん…わたしも…」

あかりはようやく言葉を絞り出したが、次の言葉がどうしても続かない。心の中でずっと思っていた気持ちが、いざ言葉にしようとすると、なぜか恥ずかしくて口にできなかった。ゆうすけはあかりの困惑を察して、少し微笑んだ。

「無理に答えなくていいよ。あかりがどう思ってるかは分からないけど、僕はただ、自分の気持ちをちゃんと伝えたかっただけなんだ。」

その優しさに、あかりの目には少し涙が浮かんだ。ゆうすけはずっと自分のことを見守っていてくれたんだ。あかりはそのことに気づいて、また少しだけ勇気をもらった気がした。

「あのね、ゆうすけくん…わたしも、ゆうすけくんのことが好き。」

やっとの思いでその言葉を言い切ると、あかりは顔が真っ赤になった。でも、ゆうすけはその言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。

「そっか…ありがとう、あかり。」

二人はしばらくお互いの顔を見つめ合った後、並んでベンチに座りながら静かな時間を過ごした。日が傾き始め、夕焼けが空を染める中、あかりとゆうすけの気持ちは確かに通じ合っていた。

「ねえ、あかり。これからもずっと、一緒にいよう。」

ゆうすけがそう言うと、あかりは小さく頷いて微笑んだ。今までの不安や悩みは、すべて消え去ったわけではないけれど、二人で乗り越えていけるような気がした。二人の初恋は、こうして少しずつ形になっていく。ゆうすけの隣で感じる暖かさが、あかりにとっては何よりも嬉しいものだった。

その日は、いつもよりもゆっくりと時間が流れているように感じた。公園の風が優しく吹き、あかりとゆうすけは手を繋ぎながら帰り道を歩いていった。これからどんなことが待っているのかは分からないけれど、あかりはゆうすけと一緒なら大丈夫だと思えた。

「また明日ね、ゆうすけくん。」

「うん、また明日。」

手を振って別れたあとも、あかりはずっと心が温かかった。ゆうすけのことを思い出しながら、あかりは静かに家のドアを開けた。今日という日は、あかりにとって特別な一日になった。初恋の甘さと苦さを知ったあかりは、これからも少しずつ成長していくのだろう。