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9章 祝福

嗤う少女

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「──────『麻痺罠シビル・トラップ』!」


 少女がスキルを発動。即起動型なのか、レクスの足元に魔法陣に似たものが出現した。厳密に言えば、魔法陣ではない。


「よっと」


 レクスはなんなくかわして見せる。レクスの素早さをもってすれば、このくらいはわけないことだ。


「隙が大きい─────」



 少女はレクスに向かってダガーを投げた。ダガーのスピードは凄まじく、一般人であれば間違いなく致命傷になるだろう攻撃。だが、レクスはそれも身をよじってかわしてしまう。


「────はぁ!!」


 少女はいつの間にかレクスの目の前に来ていた。この少女、素早さがずば抜けている。レクスよりは若干遅いが、それでも速い。


「──────『軟化』」


 『白属性魔法』、『軟化』。以前ムツマタノオロチ相手に使った魔法だ。物体自体にかけてみたことはないので、物は試しにかけてみた。一応心配なので、『硬化』を自分にかけておく。


「───────なっ!?」


 ダガーがぐにょり、とまるでグミのようにしなって曲がった。どうやら物体にもかかるらしい。ダガーは使い物にならなくなった。


「ちっ」


 少女はそのダガーを捨てて、別のダガーに変える。


(………………っていうか、みんな。まるで観客のように戦いを見てない?)


 お兄ちゃん頑張れー! なんて声も聞こえる。これは絶対観客気分でいるに違いない。まあ、負けるつもりもないし、負けないから別にいいのだが。一気に決めさせてもらおう。


「『不調和デジーグ』!」


 今度は『黒属性魔法』。これは、相手の身体を重く感じさせるスキル。まあ、動きを鈍らせるスキルとでも言うべきか。


「うっ……………!? 重っ……………!」


 自分の身体が重くなった事に驚く少女。これでそう速くは動けないはずだ。レクスは手に魔力を集中させて背後から───────


「─────がっ!?」


 少女の首の辺りを思い切り叩く。少女はあまりの衝撃に呻き声をあげて気絶してしまった。


「よし、とりあえずこれでオッケーかな」


 少女は無力化した。とりあえず一件落着だろう。後は……………この少女が目覚めた時に色々と聞きたいことがあるから、一旦捕縛しておきたいところ。というわけで。


「『作る』」


 『作る』で捕縛用のロープを作ってしまう。これなら少女を縛っておける。─────と。


「…………………あれ?」


 なんと──────少女が消えていたのだ。


「エレナ、さっきの子どこかに逃げてったりした?」


 こちらに駆け寄ってきたエレナにそう尋ねる。


「………………多分、スキル。微かに魔力が使われてる気配を感じた」


「……………追跡できる?」


「……………無理。うまく気配を断たれてる」


「そっか」


 結局、何も分からずじまいだった。だが、少なくともあの黒いフードを被った少女が関わっているのは確実だ。


「突然消えてったわね、ほんと」


 ミーシャはそう呟いたのだった。



◇◆◇◆◇


「はぁ……………まったく、回収するこっちの身にもなってくださいよ………………」


 黒いフードを被った青年は独りごちた。腕に抱えて走るは、先程の少女。


 この青年のスキル、『手繰り寄せアポーツ』で少女を回収したのだ。『手繰り寄せアポーツ』は、一定距離から物を手繰り寄せられるスキル。人も例外ではないが…………対象物が大きくなればなるほど、成功率は下がる。さっきは運が良かっただけなのだ。


「はぁ…………」


 青年は再度溜め息をつくと、走るスピードをあげた。
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