113 / 135
第三章
113.後悔は常に後から襲いかかる
しおりを挟む
魔力を巡らせる。その本当の意味とは違うのかも知れない。だが、オレなりの解釈で対応した。
無念や未練を訴える人の声を受け入れて、体内で嘆く声を聞くこと。日本人として生まれて生活し、死ぬはずだった人の声を聞き漏らさないこと。簡単なようで、とても難しい。今まで何も聞かずに消費した魔力も、こうして嘆く人々の魂だったと思えば……何と非道な行いだったのか。
オレはただ消費した。彼らの命を、嘆きを、祈りを。オレのせいで死んだ人を消耗品のようにすり減らした。これからも魔法は使うし、魔力は消費する。それは日本人だった誰かの命だ。償うにはオレ自身はちっぽけで、何も返せる物を持っていなかった。
だから復讐に邁進する。召喚したバルト国はもちろん、真の意味でオレ達を殺した女神も――。
「っ、いてぇ」
動くと手足が粉々になりそうだ。深呼吸して、内側の声に苦笑いする。その程度で嘆くんじゃねえ、こっちなんて手足もないんだぞ。そう怒りの声をあげる魔力に向き合い、痛みがあるだけ幸せだと自己暗示をかけた。
死んだら痛みも感じない。生きてる証拠だ。幸せに思え。いっそ死んだ方がマシな痛みを耐えてこそ、その先で得るものがあるのだから。ぐっと拳を握ると、上からエイシェットの手が乗せられた。戦いなど知らない貴族令嬢のように柔らかな手だ。ドラゴンの鱗の下に隠された彼女の繊細な心のようだと思い、詩的な表現に自分を笑った。
大丈夫、まだ顔を作れる。引き受けた痛みはかなり和らいだ。慣れてきたのかもな。魔力となった同族が助けてくれる。足にぐっと力をかけて立ち上がり、さらに魔力を受け入れた。多く巡らせるほど、制御は難しくなるが痛みは遠のく。
「婆さん、どのくらい時間が経った?」
「ふん、まだ2日ばかしさ」
まだ、と表現されたが十分すぎる長さだ。不思議と空腹を感じなかった。
「腹が減らないのは何でだ?」
「魔力が満ちておるからだ」
ヴラゴの声に重なって、腹の鳴る音がした。慌ててぺたんこの腹部を押さえたのは、エイシェットだ。付き合ってずっと隣にいたなら、空腹なのは当然だった。
「エイシェット、双子と一緒に狩りをしてきてくれ」
「やだっ! やだ」
腹が減ったはずなのに、離れたくないと泣く。その健気さに絆された。一緒に行くと言えば、途端に笑顔になる。その素直さを守りたいと思う。オレはすでに失った物だ。大切だった家族や仲間を失った時に、一緒に消えたものをまだ彼女は持っていた。
「ちょっと食事をさせてくる」
「行っておいで」
エルフの婆さんは、欠伸をして寝転がった。その先の暗がりで、ヴラゴがひらりと手を振る。
「さっさと行け」
昼間はヴラゴが眠る時間だっけな。邪魔をしてしまった。肩を竦めて洞窟を後にする。入り口で振り返って、並んだ2人を見つめた。なぜか涙が浮かんだ。
「まだ痛いの?」
「そうかもな」
ドラゴンになって洞窟の外を旋回する彼女の背に飛び乗り、オレは地上を駆ける双子を追いかける。振り返った洞窟から、数匹の蝙蝠が飛び立つのを見た。
無念や未練を訴える人の声を受け入れて、体内で嘆く声を聞くこと。日本人として生まれて生活し、死ぬはずだった人の声を聞き漏らさないこと。簡単なようで、とても難しい。今まで何も聞かずに消費した魔力も、こうして嘆く人々の魂だったと思えば……何と非道な行いだったのか。
オレはただ消費した。彼らの命を、嘆きを、祈りを。オレのせいで死んだ人を消耗品のようにすり減らした。これからも魔法は使うし、魔力は消費する。それは日本人だった誰かの命だ。償うにはオレ自身はちっぽけで、何も返せる物を持っていなかった。
だから復讐に邁進する。召喚したバルト国はもちろん、真の意味でオレ達を殺した女神も――。
「っ、いてぇ」
動くと手足が粉々になりそうだ。深呼吸して、内側の声に苦笑いする。その程度で嘆くんじゃねえ、こっちなんて手足もないんだぞ。そう怒りの声をあげる魔力に向き合い、痛みがあるだけ幸せだと自己暗示をかけた。
死んだら痛みも感じない。生きてる証拠だ。幸せに思え。いっそ死んだ方がマシな痛みを耐えてこそ、その先で得るものがあるのだから。ぐっと拳を握ると、上からエイシェットの手が乗せられた。戦いなど知らない貴族令嬢のように柔らかな手だ。ドラゴンの鱗の下に隠された彼女の繊細な心のようだと思い、詩的な表現に自分を笑った。
大丈夫、まだ顔を作れる。引き受けた痛みはかなり和らいだ。慣れてきたのかもな。魔力となった同族が助けてくれる。足にぐっと力をかけて立ち上がり、さらに魔力を受け入れた。多く巡らせるほど、制御は難しくなるが痛みは遠のく。
「婆さん、どのくらい時間が経った?」
「ふん、まだ2日ばかしさ」
まだ、と表現されたが十分すぎる長さだ。不思議と空腹を感じなかった。
「腹が減らないのは何でだ?」
「魔力が満ちておるからだ」
ヴラゴの声に重なって、腹の鳴る音がした。慌ててぺたんこの腹部を押さえたのは、エイシェットだ。付き合ってずっと隣にいたなら、空腹なのは当然だった。
「エイシェット、双子と一緒に狩りをしてきてくれ」
「やだっ! やだ」
腹が減ったはずなのに、離れたくないと泣く。その健気さに絆された。一緒に行くと言えば、途端に笑顔になる。その素直さを守りたいと思う。オレはすでに失った物だ。大切だった家族や仲間を失った時に、一緒に消えたものをまだ彼女は持っていた。
「ちょっと食事をさせてくる」
「行っておいで」
エルフの婆さんは、欠伸をして寝転がった。その先の暗がりで、ヴラゴがひらりと手を振る。
「さっさと行け」
昼間はヴラゴが眠る時間だっけな。邪魔をしてしまった。肩を竦めて洞窟を後にする。入り口で振り返って、並んだ2人を見つめた。なぜか涙が浮かんだ。
「まだ痛いの?」
「そうかもな」
ドラゴンになって洞窟の外を旋回する彼女の背に飛び乗り、オレは地上を駆ける双子を追いかける。振り返った洞窟から、数匹の蝙蝠が飛び立つのを見た。
11
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる