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第三章
113.後悔は常に後から襲いかかる
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魔力を巡らせる。その本当の意味とは違うのかも知れない。だが、オレなりの解釈で対応した。
無念や未練を訴える人の声を受け入れて、体内で嘆く声を聞くこと。日本人として生まれて生活し、死ぬはずだった人の声を聞き漏らさないこと。簡単なようで、とても難しい。今まで何も聞かずに消費した魔力も、こうして嘆く人々の魂だったと思えば……何と非道な行いだったのか。
オレはただ消費した。彼らの命を、嘆きを、祈りを。オレのせいで死んだ人を消耗品のようにすり減らした。これからも魔法は使うし、魔力は消費する。それは日本人だった誰かの命だ。償うにはオレ自身はちっぽけで、何も返せる物を持っていなかった。
だから復讐に邁進する。召喚したバルト国はもちろん、真の意味でオレ達を殺した女神も――。
「っ、いてぇ」
動くと手足が粉々になりそうだ。深呼吸して、内側の声に苦笑いする。その程度で嘆くんじゃねえ、こっちなんて手足もないんだぞ。そう怒りの声をあげる魔力に向き合い、痛みがあるだけ幸せだと自己暗示をかけた。
死んだら痛みも感じない。生きてる証拠だ。幸せに思え。いっそ死んだ方がマシな痛みを耐えてこそ、その先で得るものがあるのだから。ぐっと拳を握ると、上からエイシェットの手が乗せられた。戦いなど知らない貴族令嬢のように柔らかな手だ。ドラゴンの鱗の下に隠された彼女の繊細な心のようだと思い、詩的な表現に自分を笑った。
大丈夫、まだ顔を作れる。引き受けた痛みはかなり和らいだ。慣れてきたのかもな。魔力となった同族が助けてくれる。足にぐっと力をかけて立ち上がり、さらに魔力を受け入れた。多く巡らせるほど、制御は難しくなるが痛みは遠のく。
「婆さん、どのくらい時間が経った?」
「ふん、まだ2日ばかしさ」
まだ、と表現されたが十分すぎる長さだ。不思議と空腹を感じなかった。
「腹が減らないのは何でだ?」
「魔力が満ちておるからだ」
ヴラゴの声に重なって、腹の鳴る音がした。慌ててぺたんこの腹部を押さえたのは、エイシェットだ。付き合ってずっと隣にいたなら、空腹なのは当然だった。
「エイシェット、双子と一緒に狩りをしてきてくれ」
「やだっ! やだ」
腹が減ったはずなのに、離れたくないと泣く。その健気さに絆された。一緒に行くと言えば、途端に笑顔になる。その素直さを守りたいと思う。オレはすでに失った物だ。大切だった家族や仲間を失った時に、一緒に消えたものをまだ彼女は持っていた。
「ちょっと食事をさせてくる」
「行っておいで」
エルフの婆さんは、欠伸をして寝転がった。その先の暗がりで、ヴラゴがひらりと手を振る。
「さっさと行け」
昼間はヴラゴが眠る時間だっけな。邪魔をしてしまった。肩を竦めて洞窟を後にする。入り口で振り返って、並んだ2人を見つめた。なぜか涙が浮かんだ。
「まだ痛いの?」
「そうかもな」
ドラゴンになって洞窟の外を旋回する彼女の背に飛び乗り、オレは地上を駆ける双子を追いかける。振り返った洞窟から、数匹の蝙蝠が飛び立つのを見た。
無念や未練を訴える人の声を受け入れて、体内で嘆く声を聞くこと。日本人として生まれて生活し、死ぬはずだった人の声を聞き漏らさないこと。簡単なようで、とても難しい。今まで何も聞かずに消費した魔力も、こうして嘆く人々の魂だったと思えば……何と非道な行いだったのか。
オレはただ消費した。彼らの命を、嘆きを、祈りを。オレのせいで死んだ人を消耗品のようにすり減らした。これからも魔法は使うし、魔力は消費する。それは日本人だった誰かの命だ。償うにはオレ自身はちっぽけで、何も返せる物を持っていなかった。
だから復讐に邁進する。召喚したバルト国はもちろん、真の意味でオレ達を殺した女神も――。
「っ、いてぇ」
動くと手足が粉々になりそうだ。深呼吸して、内側の声に苦笑いする。その程度で嘆くんじゃねえ、こっちなんて手足もないんだぞ。そう怒りの声をあげる魔力に向き合い、痛みがあるだけ幸せだと自己暗示をかけた。
死んだら痛みも感じない。生きてる証拠だ。幸せに思え。いっそ死んだ方がマシな痛みを耐えてこそ、その先で得るものがあるのだから。ぐっと拳を握ると、上からエイシェットの手が乗せられた。戦いなど知らない貴族令嬢のように柔らかな手だ。ドラゴンの鱗の下に隠された彼女の繊細な心のようだと思い、詩的な表現に自分を笑った。
大丈夫、まだ顔を作れる。引き受けた痛みはかなり和らいだ。慣れてきたのかもな。魔力となった同族が助けてくれる。足にぐっと力をかけて立ち上がり、さらに魔力を受け入れた。多く巡らせるほど、制御は難しくなるが痛みは遠のく。
「婆さん、どのくらい時間が経った?」
「ふん、まだ2日ばかしさ」
まだ、と表現されたが十分すぎる長さだ。不思議と空腹を感じなかった。
「腹が減らないのは何でだ?」
「魔力が満ちておるからだ」
ヴラゴの声に重なって、腹の鳴る音がした。慌ててぺたんこの腹部を押さえたのは、エイシェットだ。付き合ってずっと隣にいたなら、空腹なのは当然だった。
「エイシェット、双子と一緒に狩りをしてきてくれ」
「やだっ! やだ」
腹が減ったはずなのに、離れたくないと泣く。その健気さに絆された。一緒に行くと言えば、途端に笑顔になる。その素直さを守りたいと思う。オレはすでに失った物だ。大切だった家族や仲間を失った時に、一緒に消えたものをまだ彼女は持っていた。
「ちょっと食事をさせてくる」
「行っておいで」
エルフの婆さんは、欠伸をして寝転がった。その先の暗がりで、ヴラゴがひらりと手を振る。
「さっさと行け」
昼間はヴラゴが眠る時間だっけな。邪魔をしてしまった。肩を竦めて洞窟を後にする。入り口で振り返って、並んだ2人を見つめた。なぜか涙が浮かんだ。
「まだ痛いの?」
「そうかもな」
ドラゴンになって洞窟の外を旋回する彼女の背に飛び乗り、オレは地上を駆ける双子を追いかける。振り返った洞窟から、数匹の蝙蝠が飛び立つのを見た。
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