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42.青い表紙が日記とは限らない

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 部屋を出た私は、すぐにお父様と情報を共有した。聞いた話、感じたこと……。

「そうか、お前は青い表紙の本が気になるんだな?」

「はい。伯爵令嬢は、私の日記なのでは? と尋ねました。でも私が日記に青い表紙を使っているなんて、誰かに話すはずがありません。記憶がなくても……いえ、ないからこそ言い切れます」

 一年前に遠ざけた友人、彼女の身を案じていた過去の私が、私的な情報を漏らすかしら。それが常態化しているとバレたら、友人を危険に晒すのに? 実際、ブエノ子爵令嬢は何も知らないのに殺されたわ。

「青い表紙が日記だなんて、家族以外、知らないでしょうね」

 サーラでさえ、私が話すまで青い表紙だと知らなかったのよ? 赤い表紙の日記を用意したのは、サーラだった。私が赤い小物を好んだから、それを参考にしたという。ならば、青い表紙なんて、一般的に思いつくはずがなかった。

 伯爵令嬢の言い方では、確信がある口振り……やはり、お兄様なのかしら。

「明日は王宮へ向かう。準備をしなさい。それから、眠る前に日記を読まないこと。持っていくのはいいが、鍵のかかるトランクに入れること。守れるか?」

「はい、お父様」

 寝ていなくて、うっかり失態を演じないように。心を引き締めて向かわなくてはならない。何らかのトラウマで、具合が悪くなる可能性も考慮しなくては。ドレスはコルセットなしのエンパイア風を選んだ。締め付けないドレスやワンピースだけを持っていく。

 社交でお茶会や夜会に参加するのではない。あくまで話し合いに同行するのだ。着飾る必要はなかった。真珠の宝飾品を一式用意させ、それ以外はすべて置いていく。

「伯爵令嬢は残るのよね」

 私ほど優先順位が高くない上、連れていく方が危険と判断された。念の為に、屋敷の警備は倍に増やす。カリストお兄様も、王宮へ呼ばれるから大丈夫なはず……。

「お嬢様、この屋敷は王宮並みの警備体制を敷きます。心配には及びません」

「ええ、そうね。そうであってほしいわ」

 証人を保護するのは、我がフロレンティーノだけではない。武勇で名高い辺境伯家は重要な証人の保護を引き受け、王都では侯爵家が他家から預かった証人や証拠品を管理していた。そちらも通常より警備を固めている。

 全員同じ場所に証人を集めないのは、敵を分散せるため。分かっていても、不安が募った。

 着替えて休む前、私は日記をすべてトランクに詰め込んだ。鍵の掛かるトランクは、サーラの管理下とする。王宮へ入れば、彼女は常に私と行動することになっていた。化粧室だろうが、お風呂だろうが。場所は一切問わず、寝室まで同じだ。

「お嬢様、こちらもどうぞ」

 サーラが甘い香りの袋を差し出した。中身は焼き菓子で、ナッツが入っているらしい。

「安心して口にできる物が必要になるかもしれません」

「ありがとう。鍵の掛かるトランクへ入れましょう」

 ここなら毒を盛られる心配もいらない。日記とトランクの隙間に、タオルに包んで入れた。ふっと笑みが溢れる。私は幸せね、こうして心配してくれる人がいるんだもの。

 王宮へ向かう覚悟ばかり胸を潰してきたけれど、解決に向かう期待で膨らませてもいいはずよ。だから、絶対に俯くことはしない。
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