上 下
95 / 137

95.無条件で肯定され安心したかった

しおりを挟む
「扉を守っております」

 お父様ではなく、フェルナン卿が口を開いた。状況が理解できない私に説明したのは、お父様だ。

「フェルナン卿は、俺の義兄上に当たる」

「……え?」

 驚き過ぎて言葉が喉に詰まった。だってフェルナン卿って若く見えるわ。伯母様も同じだけど……でも。

「立ち聞きをするような性質の悪い奴がいるのか」

「いないと思いたいですが、ここはまだ併合したばかりで他国も同然ですから」

 お祖父様とフェルナン卿はそのまま会話を続け、私は置き去りにされた。苦笑いしたクラリーチェ様の説明によれば、年齢差は八歳だとか。お祖父様の戦の後始末をしている間に婚期を逃し、慌てて結婚したのが彼だった。惚れたのはフェルナン卿で、口説いて断られ四回目にして許可を頂いたと。

「情熱的でしたのね」

「今でも情熱的なつもりです」

 くすくす笑うクラリーチェ様とフェルナン卿。仲睦まじい様子に、そういえば主従の距離感ではなかったと思い至る。親しげな口の利き方や、クラリーチェ様に向ける優しい眼差しも。夫婦だと知れば納得できた。

 お父様とお母様の年齢差が十歳だから……そう考えると、ロベルディの王族は歳の差夫婦が多いのかしら。ちらりと視線を向けた先で、お祖父様は察した様子で首を縦に振った。

「わしと妻は十二ほど離れておった」

 後妻にもらうくらいの年齢差だわ。戦場を駆け巡り、ふと我に返った。そこから跡取り問題に取り組んだので、結婚が遅かったらしい。同年代のご令嬢がおらず、年下から探したと聞いて納得した。貴族令嬢の適齢期は短いから、同年代は既婚だったのね。

「それよりアリーの問題だ。裁きはすべて終わったのか?」

 尋ねられ、私は父の顔を見つめる。まだ残っているけれど、口にしていいか。判断がつかない。お祖父様がどんな行動に出るか、記憶がない私には想像できなかった。

「まだ数名残っております」

 お父様は丁寧な口調で答える。ドゥラン侯爵家を始めとして、私やフロレンティーノ公爵家に敵対した貴族がまだ残っていた。

「なるほど、小物であっても取りこぼせば後の禍となる。きっちり討ち取ってやろう」

 大仰な言い回しに、きょとんとした。獅子は仔兎どころか、蟻を踏み潰すにも全力なの? フェリノス王家という後ろ盾を失い、貴族の大半を敵に回した。その上ロベルディの女王である伯母様に睨まれ……最後は征服王の侵略を受けるなんて。

 ふふっと笑う。漏れた笑みに、お祖父様の表情が和らいだ。

「それでよい。アリーは笑っておれ。アリッシア以上に幸せになってもらわねば、次の世で顔向けできん」

 伸ばした指先が、千切れた銀髪に触れる。それから頬へ指背を這わせた。その優しさと温かさに、意図せず涙が落ちる。頬を滑った感触に、自分で驚いた。

「よい。それでよい」

 頭を引き寄せ、優しく包まれる。お父様のような体格ではないのに、不思議と大きく感じた。淑女らしくないけれど、数滴の涙が乾くまで、お祖父様の胸を借りる。優しく穏やかな時間だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

虐待され続けた公爵令嬢は身代わり花嫁にされました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,199pt お気に入り:3,361

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:981pt お気に入り:389

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,750pt お気に入り:2,217

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,811pt お気に入り:1,552

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:1,293

辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:715

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,244pt お気に入り:141

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,995pt お気に入り:847

処理中です...