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26.どちらが夢で、どこから現実だ?

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 ぼんやりしながら寝転がる。うとうとと眠りに落ちる時間は嫌いじゃない。強制的にシャットダウンする気絶みたいな眠りが多かったので、余計にそう思う。

 アザゼルがいると夜も昼も関係なく盛るので、体がもたない。この部屋で時間なんてわからないけど。俺を抱き寄せるアザゼルの手が、優しくリズムを刻む。鼓動の速度に近いそれに誘われ、目を閉じた。俺より体温が低いのに、寄り添っていると触れた部分は温かい。

 逆らうことなく眠りに意識を委ねた。







 久しぶりだな、そう言って後ろから肩を叩くのは学校の友人だ。戻ってこれたのか? 見回す風景は学校の教室で、黒いシーツもアザゼルの影もない。緊張しながら授業を受けて、でも内容は頭に入ってこなかった。放課後に騒ぎ出すクラスメイトを見送り、最後まで教室に残る。

 部活も塾もないから、ゆっくりと教室の空気を堪能した。この日常を退屈だと思ってたのに。今になれば、どれだけ恵まれていたのか。欲しいものはほぼ手に入ったし、学校の成績や周囲の評価も悪くなかった。順調に人生を歩んでいたんだ。

 大きな事件がない代わりに、大きな感動も少ない。平凡で平坦な日常ってのは、こんなに気持ちが良かったのか。窓の外でボールを投げる人をぼんやりと見つめ、自然と表情が和らいだ。

 家も、あるんだよな? 自宅も家族も、そのままなんじゃないか。俺がいなくなったなんてのは嘘で、教室でうたた寝した際の夢。そうに違いない。勢いよく立ち上がり、鞄を持って走り出した。普段通ってた街中の交差点は、危険なので避ける。歩道橋を駆け上がり、公園の脇を抜けて……赤い屋根の家がある交差点を左折。二軒目の家は俺が知るままの実家だった。

 変だよな、異世界の夢を見ただけなのに実家を見て涙が出るなんて。鍵のかかった玄関は、近づくとスマホの位置情報を感知して開く。

 ガチャ。ただいま。

 自宅の扉を開いた俺は悲鳴をあげて、尻餅をついた。後ろに下がろうとしたのに遅くて、足首を掴まれて引き摺られる。

「よくぞ戻った、余の愛おしい伴侶ハヤトよ」






「ひっ」

 奇妙な呼吸で飛び起きた。心臓がどきどきと音を立て、苦しいほど胸が痛い。何が起きた? 慌てて見回すと、見覚えのある黒いシーツの上だった。

「如何した?」

 優しく問うアザゼルの指が頬に触れる。鋭い刃を当てられたような恐怖が過ぎった。びくりと肩を揺らし、俺は体を強ばらせる。

「夢、か? どっちが……」

 今この時が夢なのか。実家に戻ったと思った時間が幻覚か。混乱して頭を抱えた。頭痛がする。頭の奥深く、普段は意識しないような場所が痛んだ。

「ハヤト?」

「ちょっとだけ……一人にしてくれないか」

 何か言いかけたが、アザゼルは頷いて姿を消した。アイツが悪いんじゃない。俺が勝手に夢の中で期待して、勝手に裏切られたと傷ついただけ。アザゼルに悪いことをしたな。帰ってきたら謝ろう。
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