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07.自由を得た元王妃の帰宅
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セレスティーヌ叔母様が帰ってくる。連絡を受けて、真っ先にケーキを焼かせた。叔母様の大好きなチーズをふんだんに使ったケーキよ。表面をカラメルで仕上げ、ぱりんと割って食べるのがお好きだったわ。大きなケーキではなく、小さめに数を作るよう伝えた。
お部屋は以前使っておられた南側のお部屋でいいわね。叔母様が戻ってくる日を信じて、お父様は部屋の模様替えを許さなかったの。日焼け防止の厚いカーテンを片付け、ベッドを整えれば終わり。部屋を見回して満足した。
家具も人形もドレス類も、何一つ変わっていない。きっと感激なさるわ。嫁いでから一度も戻られる機会がなかったんですものね。
「セレーヌの好きな花だ、飾ってくれ」
王宮からの先触れが入ってから、お父様もそわそわしている。庭へ出て用意させた花を持ち込み、私に手渡した。侍女が丁寧に棘を取って葉を調整する。見栄えを気にしながら長さを整えて、花瓶に収められた。テーブルに飾り、窓の外……玄関アプローチへ向かう馬車に気づく。
「セレーヌ叔母様だわ」
もう王妃殿下と呼ぶことはない。セレスティーヌ・ラウ・ル・フォールに戻り、自由に過ごしていただく。叔母様の作った礎を生かすのは、お父様。活用して別の未来を築くのが、私達の世代の役割だった。
王家に生まれたからには、自らの感情を殺して生きることも覚悟している。叔母様の忍耐と努力に感謝を。お陰で、ル・フォール家が頂点に立つ未来が見えた。
「迎えに行きましょう!」
お父様の手を取り、一緒に階下へ降りる。玄関ホールには、すでにお母様やレオポルド兄様が待っていた。出迎える執事が開いた扉の先、鮮やかな赤いドレスの美女が微笑む。何かの祝いに呼ばれたように、ドレスも髪形も化粧も、すべてが華やかだった。
セレーヌ叔母様にしたら、お祝いも同然ね。
「おかえりなさいませ、セレーヌ叔母様」
「おかえり、セレーヌ。長く……ご苦労だった」
私とお父様に続き、お兄様やお母様も帰宅の挨拶をする。お母様なんて「おめでとうございます」と祝いまで付け足していたわ。
「ただいま戻りました、お兄様……お義姉様。シャルとレオもありがとう」
感動の再会場面だった。何度か王宮で顔を合わせていても、やっぱり違う。家族が揃ったと表現するに相応しい晩餐を経て、叔母様は昔と同じ私室で目を輝かせた。
「素敵、そのまま残してくれたのね」
「お戻りになると分かっておりましたから」
誰もこの部屋を使わなかったし、不満もなかった。信じたのではなく、戻ると知っていたの。ここが叔母様の家ですもの。
「離縁の書類は提出したし、受理はルフォルの分家が行ったはず。もう私は自由だわ」
「ええ。セレーヌ叔母様の思うままに過ごされてください」
「ならば、明日の朝付き合って頂戴。久しぶりに馬に乗って散歩がしたいのよ」
王妃になってから我慢してきた。叔母様にとって自由の象徴は、この部屋であり……乗馬を楽しむこと。焼かせたチーズケーキのカラメルを割りながら、二人で窓から庭を眺めた。普段と同じ見慣れた庭のはずなのに、景色が違う。
「あなたも同じ苦労をしなくて済んで、本当に良かった」
叔母様の心からの言葉に、私は微笑んで頷いた。
お部屋は以前使っておられた南側のお部屋でいいわね。叔母様が戻ってくる日を信じて、お父様は部屋の模様替えを許さなかったの。日焼け防止の厚いカーテンを片付け、ベッドを整えれば終わり。部屋を見回して満足した。
家具も人形もドレス類も、何一つ変わっていない。きっと感激なさるわ。嫁いでから一度も戻られる機会がなかったんですものね。
「セレーヌの好きな花だ、飾ってくれ」
王宮からの先触れが入ってから、お父様もそわそわしている。庭へ出て用意させた花を持ち込み、私に手渡した。侍女が丁寧に棘を取って葉を調整する。見栄えを気にしながら長さを整えて、花瓶に収められた。テーブルに飾り、窓の外……玄関アプローチへ向かう馬車に気づく。
「セレーヌ叔母様だわ」
もう王妃殿下と呼ぶことはない。セレスティーヌ・ラウ・ル・フォールに戻り、自由に過ごしていただく。叔母様の作った礎を生かすのは、お父様。活用して別の未来を築くのが、私達の世代の役割だった。
王家に生まれたからには、自らの感情を殺して生きることも覚悟している。叔母様の忍耐と努力に感謝を。お陰で、ル・フォール家が頂点に立つ未来が見えた。
「迎えに行きましょう!」
お父様の手を取り、一緒に階下へ降りる。玄関ホールには、すでにお母様やレオポルド兄様が待っていた。出迎える執事が開いた扉の先、鮮やかな赤いドレスの美女が微笑む。何かの祝いに呼ばれたように、ドレスも髪形も化粧も、すべてが華やかだった。
セレーヌ叔母様にしたら、お祝いも同然ね。
「おかえりなさいませ、セレーヌ叔母様」
「おかえり、セレーヌ。長く……ご苦労だった」
私とお父様に続き、お兄様やお母様も帰宅の挨拶をする。お母様なんて「おめでとうございます」と祝いまで付け足していたわ。
「ただいま戻りました、お兄様……お義姉様。シャルとレオもありがとう」
感動の再会場面だった。何度か王宮で顔を合わせていても、やっぱり違う。家族が揃ったと表現するに相応しい晩餐を経て、叔母様は昔と同じ私室で目を輝かせた。
「素敵、そのまま残してくれたのね」
「お戻りになると分かっておりましたから」
誰もこの部屋を使わなかったし、不満もなかった。信じたのではなく、戻ると知っていたの。ここが叔母様の家ですもの。
「離縁の書類は提出したし、受理はルフォルの分家が行ったはず。もう私は自由だわ」
「ええ。セレーヌ叔母様の思うままに過ごされてください」
「ならば、明日の朝付き合って頂戴。久しぶりに馬に乗って散歩がしたいのよ」
王妃になってから我慢してきた。叔母様にとって自由の象徴は、この部屋であり……乗馬を楽しむこと。焼かせたチーズケーキのカラメルを割りながら、二人で窓から庭を眺めた。普段と同じ見慣れた庭のはずなのに、景色が違う。
「あなたも同じ苦労をしなくて済んで、本当に良かった」
叔母様の心からの言葉に、私は微笑んで頷いた。
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