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17章 リリスのお取り巻き
220. 姫の護衛は音をあげる
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謁見の大広間を出たアデーレを先導に、リリスは右手を引かれて歩いていた。ちらっと振り返ると、沢山のお友達がいる。可愛い子もいるし、尻尾がふわふわの子もいた。鱗がある子はきっと泳ぐのが上手だろうし、触れたら冷たくて気持ちいかも知れない。
わくわくする気持ちに頬が緩んで、リリスの足取りは軽くなっていた。大広間に行った時はお友達になる予定の子が沢山いて、どきどきして隠れてしまったが、今はだいぶ平気になった。
「おや、リリス様。今日も素敵ですな」
大きな彫刻柱を担ぐドワーフ達に声を掛けられ、「パパに髪を編んでもらったの」と自慢しながら手を振る。廊下を曲がったところで、今度は苗木を手にしたエルフと遭遇した。
「これどうするの?」
「中庭に植える予定です。秋に白い大きな花が咲くので楽しみにしててくださいね」
やや濃い緑の瞳を細めて笑うエルフに頷いて、土だらけの手とハイタッチする。そうこうしながら、いつも通りに廊下を進んだリリスは後ろの反応に気付いていなかった。
「……凄い人気ね」
「やっぱり可愛い子は正義だもの」
「私、こんな妹が欲しい」
ひそひそ交わされる言葉を聞き取ったアデーレは、まるで我が子を褒められたように頬を緩めた。子供達を安全に遊ばせるために、今回は大会議室を用意している。広くて柱がなく、安全のために椅子や机はすべて隣の部屋に移動させた。
ドアを開くと……ふかふかの絨毯を敷き詰めた広い部屋。遊具代わりに大人ほどもあるクッションや、ハンモックなどが用意されている。すべてドワーフによる突貫工事と侍女連合の努力の賜物だった。クッションや人形、ぬいぐるみの類は女郎蜘蛛達も協力してくれたので、最高級の出来だ。
「このお部屋で遊んでください。明日は中庭も使えますよ」
床のふかふかした絨毯に目を輝かせた狐少女が飛び込む。入り口でお行儀よく靴を脱いだ彼女に倣い、全員が靴を脱いで中に入った。
「すっごいふかふかよ!」
「気持ちいいね」
兎獣人の少女も嬉しそうに絨毯の上を走っていく。リリスもお転婆ぶりを発揮して、同じように走っていってクッションに抱き着いた。ばふっと受け止める感覚に、護衛のヤンを思い出す。
「アデーレ、ヤンは来ないの?」
「明日は護衛でつきますが……今日も呼びますか?」
「うん」
リリス専属護衛に任命されたヤンだが、灰色魔狼は森の王者である。怖がる子がいるといけないので、今回は少し離れた場所に待機した。リリスの悲鳴があれば駆けつけられる距離だが、姿が見えないように隠れている。
「では呼んでみてくださいね」
微笑むアデーレに言われた通り、大きな声で「や~ん!!」と叫んだ。直後に、大きな牛サイズの狼が開いた窓から器用に入り込む。
尻尾をぶんぶん振って喜ぶヤンに、リリスは勢いよくダイブした。大きな彼の背によじ登りながら振り向くと、獣人系の少女3人とエルフは怯えたようにドアの前で固まっている。
フェンリルが獰猛で容赦ない魔族だと知る種族にとって、大型の狼は恐怖の対象だった。特に獣人にしてみたら、種族的に絶対勝てない本能から来る恐怖が身体を震わせる。
「大丈夫よ、ヤンは優しいんだから」
するすると慣れた様子でヤンから下りたリリスは、エルフの子と右手を繋ぎ、左手を兎の子と繋ぐ。震える彼女達を怖がらせないように、少しずつ近づいたリリスが繋いだ両手をヤンの毛皮に押し込んだ。ふわふわした毛皮の感触に少女達の表情が和らぐ。
「怖くないでしょ?」
振り返って、残された狐少女と猫少女も手招きした。ヤンは身じろぎすら注意しながら、出来るだけ脅かさないように爪を隠して伏せる。やっと後ろに追いついた狐少女や猫少女をヤンの毛皮に触れさせた。
「ヤンはいい子だよ。仲良くしよう」
森の王者を掴まえて、いい子と表現するのはリリスやルシファーくらいだろう。
「はい、リリス姫様」
侯爵家の狐少女の言葉遣いに、リリスは首をかしげる。それから「リリスでいいよ。お友達になるんだもん」と笑った。徐々に近づいてきた吸血族の少女も手を伸ばし、ヤンに触れて感激している。
仲良くなった彼女達がヤンに上ったり下りたり、お昼を過ぎる頃には髭まで引っ張るほど慣れていた。抵抗しないヤンに、少女と幼女はテロリストと化して襲い掛かる。尻尾を引っ張り、髭をリボン結びにして遊ぶのだ。
「……我は隣の部屋か廊下で警護したい」
半泣きで音をあげたヤンからの伝言に許可を出すのは、苦笑いしたルシファーの午後一番の仕事となった。ちなみにリリスに会いにいけないよう、大量の書類に囲まれたルシファーはアスタロト監視の下、がっちり署名と押印作業に追われていた。
わくわくする気持ちに頬が緩んで、リリスの足取りは軽くなっていた。大広間に行った時はお友達になる予定の子が沢山いて、どきどきして隠れてしまったが、今はだいぶ平気になった。
「おや、リリス様。今日も素敵ですな」
大きな彫刻柱を担ぐドワーフ達に声を掛けられ、「パパに髪を編んでもらったの」と自慢しながら手を振る。廊下を曲がったところで、今度は苗木を手にしたエルフと遭遇した。
「これどうするの?」
「中庭に植える予定です。秋に白い大きな花が咲くので楽しみにしててくださいね」
やや濃い緑の瞳を細めて笑うエルフに頷いて、土だらけの手とハイタッチする。そうこうしながら、いつも通りに廊下を進んだリリスは後ろの反応に気付いていなかった。
「……凄い人気ね」
「やっぱり可愛い子は正義だもの」
「私、こんな妹が欲しい」
ひそひそ交わされる言葉を聞き取ったアデーレは、まるで我が子を褒められたように頬を緩めた。子供達を安全に遊ばせるために、今回は大会議室を用意している。広くて柱がなく、安全のために椅子や机はすべて隣の部屋に移動させた。
ドアを開くと……ふかふかの絨毯を敷き詰めた広い部屋。遊具代わりに大人ほどもあるクッションや、ハンモックなどが用意されている。すべてドワーフによる突貫工事と侍女連合の努力の賜物だった。クッションや人形、ぬいぐるみの類は女郎蜘蛛達も協力してくれたので、最高級の出来だ。
「このお部屋で遊んでください。明日は中庭も使えますよ」
床のふかふかした絨毯に目を輝かせた狐少女が飛び込む。入り口でお行儀よく靴を脱いだ彼女に倣い、全員が靴を脱いで中に入った。
「すっごいふかふかよ!」
「気持ちいいね」
兎獣人の少女も嬉しそうに絨毯の上を走っていく。リリスもお転婆ぶりを発揮して、同じように走っていってクッションに抱き着いた。ばふっと受け止める感覚に、護衛のヤンを思い出す。
「アデーレ、ヤンは来ないの?」
「明日は護衛でつきますが……今日も呼びますか?」
「うん」
リリス専属護衛に任命されたヤンだが、灰色魔狼は森の王者である。怖がる子がいるといけないので、今回は少し離れた場所に待機した。リリスの悲鳴があれば駆けつけられる距離だが、姿が見えないように隠れている。
「では呼んでみてくださいね」
微笑むアデーレに言われた通り、大きな声で「や~ん!!」と叫んだ。直後に、大きな牛サイズの狼が開いた窓から器用に入り込む。
尻尾をぶんぶん振って喜ぶヤンに、リリスは勢いよくダイブした。大きな彼の背によじ登りながら振り向くと、獣人系の少女3人とエルフは怯えたようにドアの前で固まっている。
フェンリルが獰猛で容赦ない魔族だと知る種族にとって、大型の狼は恐怖の対象だった。特に獣人にしてみたら、種族的に絶対勝てない本能から来る恐怖が身体を震わせる。
「大丈夫よ、ヤンは優しいんだから」
するすると慣れた様子でヤンから下りたリリスは、エルフの子と右手を繋ぎ、左手を兎の子と繋ぐ。震える彼女達を怖がらせないように、少しずつ近づいたリリスが繋いだ両手をヤンの毛皮に押し込んだ。ふわふわした毛皮の感触に少女達の表情が和らぐ。
「怖くないでしょ?」
振り返って、残された狐少女と猫少女も手招きした。ヤンは身じろぎすら注意しながら、出来るだけ脅かさないように爪を隠して伏せる。やっと後ろに追いついた狐少女や猫少女をヤンの毛皮に触れさせた。
「ヤンはいい子だよ。仲良くしよう」
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「はい、リリス姫様」
侯爵家の狐少女の言葉遣いに、リリスは首をかしげる。それから「リリスでいいよ。お友達になるんだもん」と笑った。徐々に近づいてきた吸血族の少女も手を伸ばし、ヤンに触れて感激している。
仲良くなった彼女達がヤンに上ったり下りたり、お昼を過ぎる頃には髭まで引っ張るほど慣れていた。抵抗しないヤンに、少女と幼女はテロリストと化して襲い掛かる。尻尾を引っ張り、髭をリボン結びにして遊ぶのだ。
「……我は隣の部屋か廊下で警護したい」
半泣きで音をあげたヤンからの伝言に許可を出すのは、苦笑いしたルシファーの午後一番の仕事となった。ちなみにリリスに会いにいけないよう、大量の書類に囲まれたルシファーはアスタロト監視の下、がっちり署名と押印作業に追われていた。
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