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第2章 危険察知能力ゼロ

07.本性あらわる(1)

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 怒りで赤く染まった視界、ここまで感情が沸き立ったのは初めてだった。温い環境で生きてきて、戦争ごっこを楽しんだ過去のオレじゃ考えられないほどの、心の底からの激情だ。

 踏みにじられる右手の痛みが熱となって全身を廻る。

 悲鳴を上げる手首の枷が、じわりと熱を帯びた。

 強く握りこんだ左拳が滑るのは、爪が食い込んだ傷から滴る血が原因だろう。冷静に判断する部分は、頭の僅か1割程度だ。残りはひどく熱く、目が眩むほどの怒りに理性は焼き尽くされた。



 ああ……そうだ、このオレが、こんな風に扱われていい筈、ない。

 この程度の奴に、従う必要があるか?

 こいつは罪を犯した、オレに対して。

 ならば――殺せ、殺さなければならない。

 この罪を贖わせる対価は、命だけ。



 閃くように思う。

 傲慢すぎる意識が頭をもたげ、代わりに日本人としての過去の常識が沈んだ。

 外見に釣られた子供じみた言動がそのまま、すんなり入り込んで融合するような……味わったことのない感覚が全身をめぐる。

 全身の毛穴が開き肌が粟立つ感覚に身を委ね、口元を歪めた。子供の外見に似合わぬ歪な笑みは、見る者を凍りつかせる凄まじさがある。

 地に伏せたオレの表情を知る者は誰もいない……不幸なことに。



 ―――殺す。

 絶対に許さない、引き裂いて血の中で這い蹲らせる。

 残酷な誰かがオレの中で舌舐めずりするのを感じた。



 ミシッ……。

 悲鳴じみた軋みの後、グシャとトマトが潰れたような濡れた音が耳に届く。

 両手は自由になっていた。引き千切られた手枷が乾いた音を立てて、地に落ちる。その上に叩き付けた真っ赤な球体は、先ほどまでオレの手を踏みつけていた男の頭だった。

 青い髪も白い肌もすべて赤一色に染まり、濡れててらてら光る。


「くく……あはははっ」

 おかしくなって笑い出した。さっきまでオレを拘束して踏みつけ、偉そうに何か言っていたが地に伏している。

 身体から千切った頭を放り出し、噴水のように吹き出す血に笑みを深めた。

 横たわった身体から流れる血がオレを濡らす。踏まれていた右手は痛みを忘れ、転がる頭を再び掴んで……いとも簡単に潰した。まるで骨などないかのように、豆腐より簡単に潰れて砕ける。

 さきほど潰れたトマトを思い浮かべたが、今はトマトより柔らかく感じた。
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