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第4章 愚かな策に散る花を
4-6.砦という籠の中
到着したアスターリア伯爵家の屋敷は、無骨な砦の内側だ。城に見える砦は外敵に備えて兵が常駐しており、四角く囲われた内側に伯爵家の親族が住まう屋敷があった。
「お待ちしておりました。国王陛下」
伯爵はまだ30歳代の若さだが、戦での功績はウィリアムから勲章を贈られるほど優れている。他の貴族は血生臭いと忌み嫌うが、本来の貴族とは国と王族のために命を捧げる存在だ。誇れる功績があるならば、戦場も外交も評価は高かった。
昔からの恩顧に浸り努力しない貴族からすれば、アスターリア伯爵は成り上がりに分類されるのだろう。だからこそ、執政ウィリアムは彼に対して礼を尽くした。
「アスターリア伯爵、本日は世話になります」
黒馬から下りて、優雅に一礼してみせる。馬上から見下ろす少年王が「ウィル」と愛称を呼んだ。通常なら国王は馬上から声をかける。それは立場の差を明確に示すもので、上位である者が見下される高さに降りない不文律だった。
「かしこまりました、ご無礼を」
蒼い瞳が命じる内容を受け取り、ウィリアムが両手を伸ばす。飛び込む形で抱きついた子供を、そっと大地に下ろした。すぐに斜め後ろへ数歩さがるウィリアムの前で、アスターリア伯爵が膝をついて首を垂れる。
国王たる少年王より視線を低く、目を合わせる無礼を回避する彼の対応は、スガロシア子爵と明らかに違う。優秀な配下に、気を良くしたエリヤが頬を緩めた。
「世話になるぞ、アスターリア伯爵」
「はっ、光栄でございます。粗末な屋敷ではございますが、精一杯のおもてなしを」
「粗末ではあるまい。民に優しい、良い領主だと聞いている」
遮ったエリヤは柔らかく伯爵の謙遜を否定した。民から徴収して贅沢を繰り返す他の貴族と違う。はっきりそう言い切った主に、伯爵はさらに頭を下げた。
「ありがとうございます。どうぞこちらへ」
促されて、先に背を向けた伯爵の後に続く。国王エリヤの背後につくウィリアムは、ぐるりと砦を見回すと笑みを浮かべた。
砦の各所に設けられた見張り小屋や、武器を分散して保管している様子は、伯爵の優秀さを示している。先の戦でも部隊を率いて優れた戦績を残した男は、どうやら外交や策略より武人としての能力に秀でているらしい。
今夜はゆっくり休めそうだ。ほっと息をついたウィリアムだったが、ふと視線を感じて振り返った。砦の北側、壁のどこかからだろう。だが、それ以上はわからない。
思わず足を止めるが、後ろの親衛隊が小首を傾げた。
「どうされました?」
「視線が……いや、気のせいだろう」
考えすぎだ。さきほどの敵襲で敏感になりすぎただけ。己にそう言い聞かせ、ウィリアムは国王の後を追った。
「お待ちしておりました。国王陛下」
伯爵はまだ30歳代の若さだが、戦での功績はウィリアムから勲章を贈られるほど優れている。他の貴族は血生臭いと忌み嫌うが、本来の貴族とは国と王族のために命を捧げる存在だ。誇れる功績があるならば、戦場も外交も評価は高かった。
昔からの恩顧に浸り努力しない貴族からすれば、アスターリア伯爵は成り上がりに分類されるのだろう。だからこそ、執政ウィリアムは彼に対して礼を尽くした。
「アスターリア伯爵、本日は世話になります」
黒馬から下りて、優雅に一礼してみせる。馬上から見下ろす少年王が「ウィル」と愛称を呼んだ。通常なら国王は馬上から声をかける。それは立場の差を明確に示すもので、上位である者が見下される高さに降りない不文律だった。
「かしこまりました、ご無礼を」
蒼い瞳が命じる内容を受け取り、ウィリアムが両手を伸ばす。飛び込む形で抱きついた子供を、そっと大地に下ろした。すぐに斜め後ろへ数歩さがるウィリアムの前で、アスターリア伯爵が膝をついて首を垂れる。
国王たる少年王より視線を低く、目を合わせる無礼を回避する彼の対応は、スガロシア子爵と明らかに違う。優秀な配下に、気を良くしたエリヤが頬を緩めた。
「世話になるぞ、アスターリア伯爵」
「はっ、光栄でございます。粗末な屋敷ではございますが、精一杯のおもてなしを」
「粗末ではあるまい。民に優しい、良い領主だと聞いている」
遮ったエリヤは柔らかく伯爵の謙遜を否定した。民から徴収して贅沢を繰り返す他の貴族と違う。はっきりそう言い切った主に、伯爵はさらに頭を下げた。
「ありがとうございます。どうぞこちらへ」
促されて、先に背を向けた伯爵の後に続く。国王エリヤの背後につくウィリアムは、ぐるりと砦を見回すと笑みを浮かべた。
砦の各所に設けられた見張り小屋や、武器を分散して保管している様子は、伯爵の優秀さを示している。先の戦でも部隊を率いて優れた戦績を残した男は、どうやら外交や策略より武人としての能力に秀でているらしい。
今夜はゆっくり休めそうだ。ほっと息をついたウィリアムだったが、ふと視線を感じて振り返った。砦の北側、壁のどこかからだろう。だが、それ以上はわからない。
思わず足を止めるが、後ろの親衛隊が小首を傾げた。
「どうされました?」
「視線が……いや、気のせいだろう」
考えすぎだ。さきほどの敵襲で敏感になりすぎただけ。己にそう言い聞かせ、ウィリアムは国王の後を追った。
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