【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
31 / 102
第4章 愚かな策に散る花を

4-12.罠を望む余裕はあるけど

しおりを挟む
 帰り道の襲撃は絶対に起きる。ならば、逆手にとって証拠を集めようか。それとも相手の動きを予測して回避してもいい。いっそ攻め込んでしまえば……。

 だんだん物騒になる考えを溜め息に溶かす。ベッドの上に座って膝枕したエリヤの黒髪を指先で弄んだ。

「眉間に皺が寄っているぞ」

 膝の上に寝転んだエリヤが笑いながら手を伸ばす。指先で眉間を突かれ、苦笑いして表情を和らげた。目の前に愛しい人がいるのに、えらく物騒なことを考えていたものだ。放っておかれたエリヤは拗ねることなくウィリアムの謝罪を待った。

「ごめんな、エリヤ」

 膝枕していた子供を抱き上げて、その額にキスを落とす。続いて頬にもキスを降らせた。誤魔化されたと思ったのか、エリヤが不満そうに唇を尖らせる。

「誘ってるの?」

「言わないつもりか」

 茶化して逃げようとしたウィリアムを断罪する蒼い瞳の鋭さに、お手上げだと執政は肩を竦めた。主の小柄な身体を背中から覆うように抱き締め、腕の中に閉じ込める。血を浴びない白い手を持ち上げて、その手のひらに唇を押し当てた。

「オレが言わない理由を知ってるくせに」

「それでも報告義務があるだろう? ウィル」

 年齢不相応の余裕で待つ主は、手のひらへの忠誠の接吻けを受け止める。温かなウィリアムの胸元に背中を押し付けて上を見上げた。楽しそうな主は、足を揺らしてウィリアムの答えを待つ。

「耳に楽しい話じゃないぞ? 帰り道の野暮やぼはえをどうしようかと思ってね、悩んでただけだ。退治、回避、罠かな」

「ふむ……俺は罠がいい」

 珍しい意見に目を瞬く。ウィリアムが下す結論をまつ傾向が高く、あまり自らの意見を主張しない主の明言は、尊重に値するだろう。ならば理由を尋ねておきたい。

 黒髪を撫でてから、旋毛つむじ近くにキスをする。振り返ったところに、両方のまぶた接吻くちづけで塞いだ。主人にじゃれかかる大型犬のような男に笑いながら、エリヤは首を竦めた。

「理由を聞いてもいい?」

「消去法だ。今はエイデンがいるし、アスターリア伯爵の助力も得られるから退けるのは容易だ。回避もお前に任せれば問題なく行える。だが……俺はそこまで寛容かんようではないぞ」

 許していないのだ。己の命を狙ったことはもちろん、こうして抱き締める腕を奪おうとした輩の排除を、エリヤは心の底から願っていた。泳がせる手もあるが、すぐに息の根を止めてしまいたい。

 それが理由だと笑ってみせる。優秀な執政者として国を束ねる王として、15歳の外見に似合わぬ能力を誇る少年は答えを導き出した。

「我が君の仰せのままに」

 逆らう選択肢は存在しない。国王の命令だからではなく、単に愛しい唯一の存在が口にした策だから……おそらく一番面倒な策を選んだ彼の信頼を知るから。戦いや退く選択肢はウィリアムの中から消えた。

「いいのか?」

「当然だろ、オレがお前の願いを無視したことがあるか?」

 くすくす笑いながら尋ねる国王へ、執政は微笑んで応じる。抱き締めたままベッドに寝転がるウィリアムに釣られ、その腹の上に乗っかる形でエリヤが転がった。

「……そうだな、以前におやつの甘味で」

「あれはエリヤのためだろ? それにあの時はオレもおやつ我慢したじゃないか」

「そうだったか?」

 おどけた仕草で大げさに茶化す主従はひと段落すると、顔を見合わせて意味ありげに口元を歪めた。笑みと呼ぶには黒い印象が漂う表情は、共犯者の2人にとってこころよいものだ。

「もう寝るか。明日は準備で忙しいぞ」

 準備の内容を察したエリヤが頷いて、ウィリアムの上から降りようとして動きを止めた。不思議そうに首を傾げて待つ男の上に倒れこみ、首筋に軽く歯を立てて噛み付く。

「これでよし」

 満足げな子供にあおられた大人は、手出しすることも出来ずに頭を抱えて夜を過ごした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

処理中です...