【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
32 / 102
第4章 愚かな策に散る花を

4-13.悪魔の恋は弄ばれて

しおりを挟む
 国王陛下の行列が通る――小さな町に、村に、その噂は広まった。すぐに大きな街でも話が伝わり、あっという間に帰還のルートが露になる。

 通常なら、ここまで誘われたら手を出さない。間違いなく何らかの罠を警戒するからだ。しかし、彼らに罠を回避して身を伏せる余裕はなかった。

 国王が城まで帰り着けば手を出せなくなる。外にいる今なら、こちらの知る領地内を通る状況だからこそ、討ち取るチャンスが巡ってくるのだ。手をこまねいて首を斬られるのを座して待つか、罠を承知で飛び込み王を討つか。彼らの選択肢は限られていた。

 そして、選択肢は2つではない。罠に飛び込み討ち取られるという、最悪のシナリオも存在した。もちろん、これから主人である国王を狙う輩がこの結末を考えるわけがない。


 
 青空の下、朝食後の時間を利用してチェスを始める。話し声が外部にもれにくい庭の木の下は、まだ若い枝が木陰を作っていた。

「準備は?」

 カチンと白のナイトを動かす。手元のチェス盤に集中したフリで、ウィリアムは声をかけた。白の駒を数手先まで見通して、黒のルークを2つ先へ動かしたエイデンが笑う。

「完璧だよ、僕が指揮を執ったからね」

 昨夜は忙しかったと準備の所為で隈が浮かんだ目元をアピールする。エイデンは水色の瞳を少し充血させていた。どうやら徹夜だったらしい。

「それは重畳、信頼してるぜ」

「当然さ、失敗したら僕も死ぬことになるじゃないか」

 自分が生き残る為にも、幾重にも回避策や安全策を講じたと告げるエイデンの前に、白いポーンがたどり着いた。女王と向かい合うポーンを見落としたエイデンが空を仰いだ。

「……王手チェックメイトだ」

「降参しますよ、死神さん」

「おや? 懐柔の悪魔らしくもない」

 社交界で付けられた嫌な二つ名を口にされ、エイデンの顔が歪む。だがすぐに黒の女王を拾い上げ、盤の外へ逃がした。

「悪魔で結構、魔女ドロシアとお似合いでしょう?」

「確かに」

 顔を見合わせて笑う彼らの様子は、遠くから見れば友人同士の戯れだった。その内容が恐ろしく物騒なことを除けば、事実関係は間違っていない。

 チェス盤の内容は現実と重ねず、ただのゲームとして無意味に消化した。チェスの上で戦術を協議するほど、彼らは互いの戦い方を知らないわけじゃない。肩を並べて他国と戦った経験もあるが故に、どうしたら互いに戦いやすいかを理解していた。

「ウィル、紅茶を淹れてくれ」

「畏まりました」

 テラスから手を振る主人に一礼し、ウィリアムはいそいそ戻る。その後姿を見つめ、エイデンは溜め息をついた。

「何年越しの恋だか知らないけど、尻に敷かれすぎ」

 自分の恋を棚に上げてぼやくと、手元に残されたチェス盤を斜めに傾けて駒をすべてテーブルに落とした。

「あと、僕に片づけをさせるのは無茶だよね」

 片付けなんてしたことないもの。そう嘯くと、散らかした駒の上に盤を裏返しに置いて、エイデンもテラスへ向けて歩き出した。もちろん、ウィリアムが淹れた極上の紅茶のご相伴にあずかるために。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...