【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
33 / 102
第4章 愚かな策に散る花を

4-14.汚い大人の切り札

 馬車の中で、少年王はご機嫌だった。お気に入りのクッションを抱き締めて鼻歌を歌う。音とリズムが多少ずれていても、それを指摘する無粋な存在はいない。

 ガタン! 大きな振動と音で馬車が揺れる。

「何者だッ!」

「国王陛下の馬車だと知っての襲撃か!!」

 馬車が止まる。言われたとおりカーテンを閉め、背中をクッションに押し付けて寄りかかった。このまま騒動が治まるまで大人しく待っているのが、国王たるエリヤの役目だ。

 間違っても外へ出て戦おうとしたり、逃げたりしてはならない。執政ウィリアムは騎士としても一流だ。今回はエイデンの部隊も駆けつけている。戦力は十分すぎた。

 心配する理由がない。騎士である彼は、誓いの通り勝つのだから。

「早く終わらないかな…」

 呟いて視線を窓へ向けるが、カーテンに遮られて何も見えなかった。ただ、気合の入った男達の怒声や金属のぶつかる音が聞こえる。

 突然、カーテンを破って剣先が飛び込むが……エリヤはひとつ欠伸をしただけ。

 ――命を惜しんだことはない。死ぬよりも孤独が怖かった。だからウィルを隣に置く。いつでも彼が孤独という名の恐怖を払ってくれた。

 ウィルを喪うのは怖い。だが、彼が死ぬときは自分も死ぬのだ。俺を護って守りきれなかった時に、ウィルの命は消える。一緒の道行きならば、それはそれで構わなかった。

「陛下?」

「うん? 終わったか」

 緊張感の薄いウィルの声に応えると、「あと少しお待ちください」とつれない言葉が返ってきた。どうやら剣先が飛び込んだので、心配して声をかけたらしい。ウィルに言われた通り、また椅子に深く腰掛けて待った。

 ウィルが用意した、抱き心地のよいクッションを抱きしめながら。





 街の入り口、細い街道で待ち伏せの兵が剣を抜いた。彼らが潜伏しているのは先刻承知、生え抜きの親衛隊と前線を戦う兵に抜かりはない。すぐに呼応して剣を交えた。

 国王を護るため、馬車を背にして円陣を組む。予定通りの迅速な動きを確認して、ウィリアムは円から飛び出した。遊撃として動くウィリアムの剣が1人、また1人と倒していく。

 左から突き出された剣を跳ね上げ、背後から迫る敵へ切り返す。まるで踊るように優雅な動きながら、剣は敵の血に塗れた。

「ずいぶんと奮発されたな」

「最後の足掻きに余力を残すほど、愚かではなかったということでしょう」

 右から飛んできた矢を叩き落したエイデンが笑う。医師として活躍する姿から想像もできない、返り血にぬれた剣を振るう様は、戦神のようだった。命を救うより、切り捨てる方が様になっている。

 彼は認めたがらないが、医師としての腕より戦場を駆ける方が功績は大きい。多くの敵を斬り伏せてきた剣は赤く染まり、兵も返り血を浴びていた。

 そんな血生臭い戦場で、ウィルは最後の男の首をねる。ここで趨勢すうせいは決した。

 敵が絶えた街道は、真っ赤に染まる。

「陛下…お待たせいたしました」

 馬車の中は声をかけると、ドアを開いて顔を覗かせる。戦っていたとは思えぬほど、ウィリアムは身なりを整えていた。結んだ長い髪が多少ほつれた程度で、返り血の痕はない。

「ご苦労、ウィル。では帰ろう」

「はい」

 そっと身を滑り込ませた執政が、少年王の唇を掠め取る。かすかに触れて離れた感触に、エリヤの指が唇を押さえた。

「ウィル!」

「帰ってから、な」

 続きを強請る子供に、大人の顔でしれっと返して扉を閉める。

「汚い大人だね、君は」

 これも作戦だろう?  咎めるニュアンスのエイデンヘ、ウィリアムは意味ありげに笑みを向ける。だが、肯定も否定もしなかった。それこそが答えだと言わんばかりに、ただ口元を歪めるだけ。
感想 10

あなたにおすすめの小説

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります