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第4章 愚かな策に散る花を
4-19.世界は動かすもの
「結局、君の思い通りに世界は動くんだね」
チェックメイトをかけたチェス盤を挟んで向けられるエイデンの嫌味に、肩を竦めて最後の駒を動かした。
「王手だ。世界が動くんじゃない、動かしたんだ」
己の思うとおり、望む方向へ世界を誘導した。平然と言い切って、勝負がついたチェスの駒をひとつ掴む。白のクイーンを手の中で揺らして中央へ置きなおした。
隣に黒のキングとナイトを並べ、白のビショップを配置した。それは通常のチェスではあり得ない並びで、意味を理解したエイデンが黒のナイトを黒のルークに置き換える。
「こっちのが正しいんじゃない?」
白の女王はリリーアリス、彼女を護る魔女であるドロシアは白の僧正。黒の王は国王エリヤを示し、黒の騎士を自らに見立てたウィリアムを、戦車と交換したエイデン。つまり黒の騎士は後から駆けつけたエイデン自身となる。
「ならば、俺はこちらか」
お茶を片手に勝負を眺めていたショーンの手が、黒のポーンを指差す。振り返ったウィリアムが眉を顰めて「お前がそんなに謙虚なわけないだろ」と呟いた。
「謙虚に振舞う気はないが、白ではない」
ショーンの言い分に、エイデンが白の騎士を拾い上げる。
「ならば、僕がこちらでしょう」
「ああ……そっか。エイデンが黒のわけない」
ウィリアムが納得したように頷いた。陣営で言えば、ドロシアにベタ惚れのエイデンは白だ。逆にリリーアリスを苦手とするショーンは黒だろう。
「全員同じ色にしておけ」
ウィリアムの膝を枕に寝ていた少年王が口を挟み、そこで全員が苦笑いしてチェス盤を片付ける。机の上に紅茶と菓子が用意されるにいたり、ようやくエリヤは身を起こした。だがウィリアムの膝の上に座っているので、国王としての威厳は欠片もない。
貴賓室としてショーンに宛がわれた部屋のテラスは、国内のVIPが揃う会談の場が設えられていた。他国の者が襲撃すれば、シュミレ国を支配することも可能な特権階級が顔を突き合わせる。
「ところで、ドロシアに変なこと頼みませんでした?」
「いや」
「彼女がハチミツを大量に集めていると聞いたんですけど」
エイデンの指摘にエリヤが口を挟んだ。
「ああ、それなら姉上が先日美味しいハチミツのケーキを作ったと聞いた」
「……なるほど。リリーアリス様の影響でしたか」
納得するエイデンに、ウィリアムが噛み付く。
「おい、濡れ衣じゃねえか」
「普段の行いでしょう」
手にしたクッキーをエリヤの口に運んで、紅茶にジャムを溶かしながらの抗議を、さらりとエイデンがかわす。彼らの騒がしいやり取りをよそに、優雅な仕草で紅茶にミルクを足したショーンが溜め息をついた。
「騒がしい」
「ところで会議はよいのか?」
膝の上に抱き上げたままの少年の疑問へ、ウィリアムは器用に紅茶を飲ませて口元を指先で拭う。慣れた所作は、普段からこんな格好で生活しているのかと疑うほどスムーズだった。
「会議は名目だからな。こうしておけば、各国の諜報員が情報を持ち帰ってくれるだろ?」
「お茶会の、か?」
「そう、お茶会の情報をね。持たせる内容はちゃんと作ってあるぞ」
ひらひらと紙の書類を取り出してみせる。手にしたショーンが読み終えると眉を顰め、隣のエイデンが受け取って目を通す。やはり渋い顔をして、国王の手元に戻した。
チェックメイトをかけたチェス盤を挟んで向けられるエイデンの嫌味に、肩を竦めて最後の駒を動かした。
「王手だ。世界が動くんじゃない、動かしたんだ」
己の思うとおり、望む方向へ世界を誘導した。平然と言い切って、勝負がついたチェスの駒をひとつ掴む。白のクイーンを手の中で揺らして中央へ置きなおした。
隣に黒のキングとナイトを並べ、白のビショップを配置した。それは通常のチェスではあり得ない並びで、意味を理解したエイデンが黒のナイトを黒のルークに置き換える。
「こっちのが正しいんじゃない?」
白の女王はリリーアリス、彼女を護る魔女であるドロシアは白の僧正。黒の王は国王エリヤを示し、黒の騎士を自らに見立てたウィリアムを、戦車と交換したエイデン。つまり黒の騎士は後から駆けつけたエイデン自身となる。
「ならば、俺はこちらか」
お茶を片手に勝負を眺めていたショーンの手が、黒のポーンを指差す。振り返ったウィリアムが眉を顰めて「お前がそんなに謙虚なわけないだろ」と呟いた。
「謙虚に振舞う気はないが、白ではない」
ショーンの言い分に、エイデンが白の騎士を拾い上げる。
「ならば、僕がこちらでしょう」
「ああ……そっか。エイデンが黒のわけない」
ウィリアムが納得したように頷いた。陣営で言えば、ドロシアにベタ惚れのエイデンは白だ。逆にリリーアリスを苦手とするショーンは黒だろう。
「全員同じ色にしておけ」
ウィリアムの膝を枕に寝ていた少年王が口を挟み、そこで全員が苦笑いしてチェス盤を片付ける。机の上に紅茶と菓子が用意されるにいたり、ようやくエリヤは身を起こした。だがウィリアムの膝の上に座っているので、国王としての威厳は欠片もない。
貴賓室としてショーンに宛がわれた部屋のテラスは、国内のVIPが揃う会談の場が設えられていた。他国の者が襲撃すれば、シュミレ国を支配することも可能な特権階級が顔を突き合わせる。
「ところで、ドロシアに変なこと頼みませんでした?」
「いや」
「彼女がハチミツを大量に集めていると聞いたんですけど」
エイデンの指摘にエリヤが口を挟んだ。
「ああ、それなら姉上が先日美味しいハチミツのケーキを作ったと聞いた」
「……なるほど。リリーアリス様の影響でしたか」
納得するエイデンに、ウィリアムが噛み付く。
「おい、濡れ衣じゃねえか」
「普段の行いでしょう」
手にしたクッキーをエリヤの口に運んで、紅茶にジャムを溶かしながらの抗議を、さらりとエイデンがかわす。彼らの騒がしいやり取りをよそに、優雅な仕草で紅茶にミルクを足したショーンが溜め息をついた。
「騒がしい」
「ところで会議はよいのか?」
膝の上に抱き上げたままの少年の疑問へ、ウィリアムは器用に紅茶を飲ませて口元を指先で拭う。慣れた所作は、普段からこんな格好で生活しているのかと疑うほどスムーズだった。
「会議は名目だからな。こうしておけば、各国の諜報員が情報を持ち帰ってくれるだろ?」
「お茶会の、か?」
「そう、お茶会の情報をね。持たせる内容はちゃんと作ってあるぞ」
ひらひらと紙の書類を取り出してみせる。手にしたショーンが読み終えると眉を顰め、隣のエイデンが受け取って目を通す。やはり渋い顔をして、国王の手元に戻した。
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