【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
52 / 102
第5章 魔女は裏切りの花束を好む

5-8.暗躍さえ手のひらの上

「今度こそあの若造を這い蹲らせてやる」

 強い決意と憎しみを糧に、オズボーンの老将軍は兵を率いて出陣する。その後姿を見送るオズボーンの国王は髪と同色の深い紺の瞳を曇らせた。

 この国が乾き始めたのは数年前からだ。今までは海から押し寄せていた湿った風が山に雨を降らせ、山の両側に川を生んで恵みをもたらした。その雨が降らなくなり、気付いた時には降雨量が半分に減ってしまっていたのだ。慌てて手を打っても、すぐに効果は得られない。

 最初に雨が減った年、神殿に神託がおりた。肥沃な土地が失われるという不吉な神託は、国王に届くことなく握り潰されてしまう。その時点で手を打てば、今頃は少量の雨をすべて川に流す灌漑設備が間に合ったかも知れない。

 だが現時点で間に合っていない以上、彼らに残された手は「肥沃な土地を奪う」という卑劣な方法だった。山の向こうのシュミレ国は減った雨量を補うだけの灌漑設備を整え、国民を飢えさせることなく養っている。それは少年王と有能な執政の手腕だった。

 同じように早期に手を尽くせば、オズボーンだとて乾き飢えることはなかった。分かっているが、今の国王に打つ手は残されていない。

 隣国から水を、食料を、豊かな土地を奪わねば……自国が滅びてしまう。

 将軍のように相手国を踏み躙ろうとは考えていない国王だが、戦争に反対できない時点で同罪だった。その罪を誰よりも自覚するからこそ、魔女と手を組んだ。

「頼むぞ」

 窓から見下ろした将軍率いる軍へかけた言葉のようだが、国王の眼差しは遠くを見ていた。




 
 進軍するシュミレ国の騎士は士気が高かった。少年王自らの見送り、最高の騎士と謳われるシャーリアス卿の出陣、チャンリー公爵家の私兵たち、すべてが彼らの勝利を確信させる要因だ。

「凄い人気だな」

 ショーンが揶揄う口調で馬を寄せる。軍を率いるウィリアムは軽く肩を竦めて後ろを振り返った。士気が高く盛り上がる騎士に釣られ、兵たちも勝ち戦だと浮き足立っている。

「庶民には人気あるからな。それより…ちょっと油断しすぎだ」

「引き締めが必要ならば、我が軍が動くぞ」

 チャンリー公爵家は正規軍だけでも国王に次ぐ規模を誇る。だがショーンは傭兵の使い勝手のよさが気に入っており、様々な場面で重陽してきた。そのため、傭兵が自然と集まる。彼らは正規兵と違い、汚れ仕事もしっかり命令どおりこなす能力があった。

 そもそも傭兵は流れ者が多い。土地に根ざしていないため、その土地の慣習や常識に捉われず行動できる。信用が第一の商売である稼業なので、依頼主の命令は絶対だ。逆らうには相応の理由が必要だった。そうでなければ、彼らは次の仕事を得ることは出来ないだろう。

 大量虐殺のように、断っても名に傷が付かない命令は無視が許されるのだ。

「うーん、もう少し放っておくか」

 敵地に乗り込むまでは彼らの士気の高さはプラス要素だ。浮かれすぎないように釘を刺すならば、攻め込む直前で十分だった。

 ラシエラ国にウィリアムの参戦を見せたら、すぐに軍を離れる。その後の指揮はチャンリー公爵であるショーンが受け持つ約束だった。その後に引き締めても間に合うだろう? 狡猾な政治家の顔で笑うウィリアムに、ショーンが溜め息をついた。

「そのあくどい本性がバレないのが不思議だ」

「オレは陛下の剣だぞ。そんなヘマしないさ」

 ショーンに付き従っているラユダがくすくす笑いながら、緑の瞳を和らげた。

「野営予定地が近い」

 注意を逸らすように告げられた言葉で、ウィリアムは視線を前方に戻す。愛馬リアムがぶるりと首を振った。その首をぽんぽんと叩いて落ち着かせながら、目配せする。

 頷いたショーンがラユダに指示を出した。
感想 10

あなたにおすすめの小説

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります