【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
53 / 102
第5章 魔女は裏切りの花束を好む

5-9.策略はどちらも好む手段だから

「ちっ、先に行け」

「後は任せた!」

 ショーンの叫びに応じたウィリアムは、黒馬の腹に合図を入れた。軽い蹴りに反応したリアンが全力で走る。その先に槍を構えた敵を見つけたが速度は落とさない。黒い鎧を纏ったリアムが疾風のごとき速さで抜けると、槍を叩き折られた敵が転がっていた。

「どけ、邪魔をすれば容赦しない」

 立ちはだかる敵を打ち払いながら走らせる。主の心境を知っているのか、リアンは止まらずに走り……やがて戦場を抜け出た。



 戦の先端を開いてすぐに違和感を覚えた。敵の数と包囲の陣形がおかしい。最初は数を揃え損ねたのかと考えるが、誘いこむ動きと裏腹に中央の布陣が厚かった。まるで誘った敵を放すまいとするような粘着質の意思が感じられる陣形だ。

 直後に駆けつけた使者の報告に、ショーンもウィリアムも耳を疑った。背後でエイデンの守る城が、攻撃を受けているというのだ。

 ラシエラの会戦で半日ほど姿を見せてから引き返す予定だったが、ウィリアムより早く敵が動いた。エイデンの部隊を配置したことで、最悪の事態は免れている。しかし事態は、一刻の猶予も許されない緊迫したものだった。

 首都を見下ろす小高い山肌に城は建てられている。つまり後ろに山脈を背負った地形は、山脈の裏側にあるオズボーンに近いという欠点があった。普段ならば城下町より高い城は山砦と同じで攻略しづらい地形だが、後ろの山から攻められた場合は長所と短所が反転する。

 見落としたわけじゃない。だが、ここまで早くオズボーンが動けるはずがないと侮っていた。

「リアン、悪いが頑張ってくれ」

 距離にして2時間ほどが、ひどく遠く感じる。ぶるると首を振って嘶いたリアンは、漆黒のボディを全力で走らせ続けた。上に乗せた主の焦燥感を感じているように、足を止めることはない。

「間に合ってくれ」

 やがて城の姿が見えたとき……美しい塔の一部は炎に包まれていた。





 愛用の剣を引き抜きながら、エイデンは乾いた唇を舌で舐める。

「陛下、後ろにお下がりください」

「俺は国王だ」

 玉座の上で、大きめの王冠を頭に載せながらが切り替えした。この玉座を譲れば、命は助かるかもしれない。ウィリアムにもう一度会えるなら、つくばって命乞いする姿を嘲笑されても後悔しないだろう。

 しかし……そんな俺をみたウィルは哀しむ。生き残ったことを喜んでくれる半面で、間に合わなかった己を責めて苦しむ奴だ。だから笑って玉座に残る。

 絶対にウィリアムは間に合う。彼が来るまで、この玉座を守るのが国王としての役目であり、信頼の証だとエリヤは笑った。その表情に悲壮感は欠片もない。

「わかりました、絶対に僕が守る!」

 公的は「私」と一人称を偽るエイデンだが、本来の口調が顔を覗かせていた。剣の扱いでは国内でも3本の指に入る実力者だ。半月刀を操るショーンと互角に戦うエイデンは、金髪を後ろでひとつに結んだ。

 普段は静かな謁見の間に、遠くから響く剣戟の音が届く。そして足音が響き――重い扉が開かれた。
感想 10

あなたにおすすめの小説

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります