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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-16.希望の白い鳥
「あの毒はほとんど無味だから焦って、城内の紅茶と香辛料をすべて調べさせた。おかげでかなり噂になったが……炙り出しは簡単になったぞ」
にやりと笑ったウィリアムが小声で犯人を告げる。意外性のない貴族の家名に、エリヤは複雑そうな顔をした。王冠を直しながら溜め息を吐く。
「順当過ぎる」
「その程度だろ。エイデンの名前で贈ってくるくらいだし」
親交がある上位貴族からの贈り物なら警戒されない、と考えたのだろう。だが逆に、親交がありすぎてバレた。
ほぼ毎日登城しているエイデンは、医師として顔を合わせる。当然執務室で一緒にお茶を飲む機会も多いわけで、紅茶を飲みながら礼を言われれば……心当たりがないエイデンは否定する。その直後に毒の味がすれば、犯人探しが始まるのは当然だった。
警戒させずに執政の口に運ぶ予定が、あっさり覆ったのだ。前提条件をしっかり調査しなかった貴族側の手落ちなのだが、ウィリアムはすぐに断罪しない。手札はすぐに使うより、相手に最大のダメージを与えるタイミングで切るものだ。
ふと、ウィリアムが窓の外へ目を向ける。光をふんだんに取り込む大きなガラスがきらりと反射した。その先に望んでいた白い鳥を見つけ、執政は口角を持ち上げた。
「ああ……それはすぐバレる」
詰めの甘い作戦に苦笑いしたエリヤが顔を上げる。膝をついているウィリアムもすでに扉のほうへ顔を向けていた。扉に並んだ親衛隊は返り血に塗れ、あちこちに傷を負っていた。だが誇らしげな表情で一礼してみせる。
「ご苦労、皆休んでくれ」
戦時中とは思えない言葉に、親衛隊の騎士は顔を見合わせる。ざわめいたり私語がないのは、それだけ礼儀作法を叩き込まれた証だった。隊長である青年が黒髪を下げて一礼し、発言する権利を求める。
「執政閣下に申し上げます」
「なんだ?」
「戦時中に休めとの命令は…」
問題がある。続くはずの指摘に気付いて、ウィリアムは立ち上がった。手当ての後に着替えたため、黒いマントを背にかけていた。その色は執政であるウィリアムに与えられた地位を示す証だ。ばさりと音を立てたマントを揺らすウィリアムの足はしっかり地を踏みしめていた。
ケガによる発熱や気怠さを感じさせない。堂々たる姿に、隊長は言葉を切って頭を下げた。
「もう援軍が着いた、無理をする必要はない」
玉座の隣に立つケガ人を心配して傍らに控えるエイデンが、ちらりと窓の外を窺った。広がる青い空の中に、真っ白な鳥が旋回している。
確かに援軍は到着しているようだ。
「そうだね。あの人が動いたなら、決着がつくよ」
意味深な言い方をして固有名詞を避けたエイデンが、くすくす笑い出す。外から大きな歓声と軍馬の足音が聞こえ始めた。軍馬の蹄は民間の馬とは違う。城内の石畳の上を叩く特徴ある音が、沸いた人々の声に重なって響いた。
「……間に合ったな」
エリヤの呟きに、ウィリアムが少し身を屈める。
「思ったより苦戦したけど王手だ」
王冠を手に移したエリヤが隣の男を見上げようとした瞬間、ウィリアムが膝をついた。がくりと崩れるように膝が落ち、咄嗟についた手が支えきれずに倒れこむ。
「…っ、ウィル?!」
聞こえた声に「心配ない」と返した言葉は、届いただろうか。
にやりと笑ったウィリアムが小声で犯人を告げる。意外性のない貴族の家名に、エリヤは複雑そうな顔をした。王冠を直しながら溜め息を吐く。
「順当過ぎる」
「その程度だろ。エイデンの名前で贈ってくるくらいだし」
親交がある上位貴族からの贈り物なら警戒されない、と考えたのだろう。だが逆に、親交がありすぎてバレた。
ほぼ毎日登城しているエイデンは、医師として顔を合わせる。当然執務室で一緒にお茶を飲む機会も多いわけで、紅茶を飲みながら礼を言われれば……心当たりがないエイデンは否定する。その直後に毒の味がすれば、犯人探しが始まるのは当然だった。
警戒させずに執政の口に運ぶ予定が、あっさり覆ったのだ。前提条件をしっかり調査しなかった貴族側の手落ちなのだが、ウィリアムはすぐに断罪しない。手札はすぐに使うより、相手に最大のダメージを与えるタイミングで切るものだ。
ふと、ウィリアムが窓の外へ目を向ける。光をふんだんに取り込む大きなガラスがきらりと反射した。その先に望んでいた白い鳥を見つけ、執政は口角を持ち上げた。
「ああ……それはすぐバレる」
詰めの甘い作戦に苦笑いしたエリヤが顔を上げる。膝をついているウィリアムもすでに扉のほうへ顔を向けていた。扉に並んだ親衛隊は返り血に塗れ、あちこちに傷を負っていた。だが誇らしげな表情で一礼してみせる。
「ご苦労、皆休んでくれ」
戦時中とは思えない言葉に、親衛隊の騎士は顔を見合わせる。ざわめいたり私語がないのは、それだけ礼儀作法を叩き込まれた証だった。隊長である青年が黒髪を下げて一礼し、発言する権利を求める。
「執政閣下に申し上げます」
「なんだ?」
「戦時中に休めとの命令は…」
問題がある。続くはずの指摘に気付いて、ウィリアムは立ち上がった。手当ての後に着替えたため、黒いマントを背にかけていた。その色は執政であるウィリアムに与えられた地位を示す証だ。ばさりと音を立てたマントを揺らすウィリアムの足はしっかり地を踏みしめていた。
ケガによる発熱や気怠さを感じさせない。堂々たる姿に、隊長は言葉を切って頭を下げた。
「もう援軍が着いた、無理をする必要はない」
玉座の隣に立つケガ人を心配して傍らに控えるエイデンが、ちらりと窓の外を窺った。広がる青い空の中に、真っ白な鳥が旋回している。
確かに援軍は到着しているようだ。
「そうだね。あの人が動いたなら、決着がつくよ」
意味深な言い方をして固有名詞を避けたエイデンが、くすくす笑い出す。外から大きな歓声と軍馬の足音が聞こえ始めた。軍馬の蹄は民間の馬とは違う。城内の石畳の上を叩く特徴ある音が、沸いた人々の声に重なって響いた。
「……間に合ったな」
エリヤの呟きに、ウィリアムが少し身を屈める。
「思ったより苦戦したけど王手だ」
王冠を手に移したエリヤが隣の男を見上げようとした瞬間、ウィリアムが膝をついた。がくりと崩れるように膝が落ち、咄嗟についた手が支えきれずに倒れこむ。
「…っ、ウィル?!」
聞こえた声に「心配ない」と返した言葉は、届いただろうか。
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