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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-17.甘いレモンとすっぱい果実
叫んだエリヤが身を起こそうとするのを、エイデンが身振りで止めた。心配そうに身を起こしかけた親衛隊の騎士たちも、許可なく謁見の間に踏み込むことができない。そんな彼らの後ろに傭兵ラユダを引き連れたショーンが、悠然と現れた。
「チャンリー公爵家ショーン、ただいま帰城いたしました」
「……ご苦労」
人目がある。臣下を労うのは国王の務めだった。震える声を隠すように、低く告げる。
「エイデン」
「はっ」
「執政を休ませてやれ。チャンリー公爵、報告は奥の部屋でも構わぬか?」
「はい、では残党狩りの指示を終えてから参ります」
必死で取り繕う仮面が落ちる前に、謁見の間を出たかった。掠れた声にショーンは深く頭を下げて了承を伝える。親衛隊にも休むよう伝え、ウィリアムを抱き起こしたエイデンの後に続く。
「エイデン、ウィルはっ、無事か。ソファではなく、俺のベッドに寝かせろ」
部屋に戻るなり、ソファに寝かされたウィリアムの手を握る。命じた先で、エイデンが首を横に振った。眉をひそめて命じ直そうとしたとき、ウィリアムの指先が動いた。
「ウィル!?」
「……我が侭、言っちゃダメだろ…」
痛みに震える指先が、そっと少年の頬に触れる。熱い指を掴んで頬に押し当てるエリヤが唇を噛み締めた。
国王――この地位がいつだって大切な存在を傷つける。父母や姉、ウィルも……いっそ投げ捨ててしまえたらいいのに。
「はいはい、そのままイチャついてていいけど、上着を脱がすよ。止血し直さないとマズそうだからね」
ウィリアムの溺愛やエリヤの心酔度合いをよく知っているから、エイデンはさっさとウィリアムのシャツを短剣で引き裂いた。マントで隠れていた出血の染みがシャツに広がっている。出血量を目測で確認すると、エイデンはウィリアムをソファに座らせた。
痛みに耐えて身を起こしたウィリアムの背中に布を押し当て、一気に締めていく。縫い合わせて消毒したばかりの傷口に触れぬよう、手際よく止血作業を終えた。そこに指示を終えたショーンがラユダを伴って現れる。彼の鎧は返り血で真っ赤だった。
手当ての間に汚れた手を、運ばれた手水で流したエイデンは椅子に身を投げ出した。
「久々の手術は疲れるね」
「ご苦労だったな」
ショーンが笑いながら労い、しっかり手を握り合ったままの2人を一瞥して肩を竦める。ラユダは皮の簡易鎧だが、ショーンはしっかりとした金属の鎧で正装していた。重い鎧をラユダが手伝って脱がせていく。ようやく軽くなった身体を伸ばしたショーンが、行儀悪くベッド端に腰掛けた。
エイデンとショーンが休んでいる間に、ラユダは侍女からお茶のセットを受け取った。手早く並べられた紅茶を一口飲んで、全員がレモンに手を伸ばす。用意されたレモンを浮かべると、再び口に運んだ。
「……まだ入ってるのか?」
紅茶にまだ毒が混じっているらしい。国王への差し入れはすべてウィリアムがチェックしているため、この紅茶はウィリアムに用意された紅茶の葉を使ったのだろう。侍女たちは毒の存在を知らないのだ。良かれと思い、飲み慣れた紅茶を用意したと考えるのが一般的だった。
呆れ声でラユダが紅茶をかき回すと、レモンを抜いて皿に取り出す。レモンの皮の内側、白い部分が僅かに青に変色した。よく見なければ気付けないレベルの僅かな変化だ。
「チャンリー公爵家ショーン、ただいま帰城いたしました」
「……ご苦労」
人目がある。臣下を労うのは国王の務めだった。震える声を隠すように、低く告げる。
「エイデン」
「はっ」
「執政を休ませてやれ。チャンリー公爵、報告は奥の部屋でも構わぬか?」
「はい、では残党狩りの指示を終えてから参ります」
必死で取り繕う仮面が落ちる前に、謁見の間を出たかった。掠れた声にショーンは深く頭を下げて了承を伝える。親衛隊にも休むよう伝え、ウィリアムを抱き起こしたエイデンの後に続く。
「エイデン、ウィルはっ、無事か。ソファではなく、俺のベッドに寝かせろ」
部屋に戻るなり、ソファに寝かされたウィリアムの手を握る。命じた先で、エイデンが首を横に振った。眉をひそめて命じ直そうとしたとき、ウィリアムの指先が動いた。
「ウィル!?」
「……我が侭、言っちゃダメだろ…」
痛みに震える指先が、そっと少年の頬に触れる。熱い指を掴んで頬に押し当てるエリヤが唇を噛み締めた。
国王――この地位がいつだって大切な存在を傷つける。父母や姉、ウィルも……いっそ投げ捨ててしまえたらいいのに。
「はいはい、そのままイチャついてていいけど、上着を脱がすよ。止血し直さないとマズそうだからね」
ウィリアムの溺愛やエリヤの心酔度合いをよく知っているから、エイデンはさっさとウィリアムのシャツを短剣で引き裂いた。マントで隠れていた出血の染みがシャツに広がっている。出血量を目測で確認すると、エイデンはウィリアムをソファに座らせた。
痛みに耐えて身を起こしたウィリアムの背中に布を押し当て、一気に締めていく。縫い合わせて消毒したばかりの傷口に触れぬよう、手際よく止血作業を終えた。そこに指示を終えたショーンがラユダを伴って現れる。彼の鎧は返り血で真っ赤だった。
手当ての間に汚れた手を、運ばれた手水で流したエイデンは椅子に身を投げ出した。
「久々の手術は疲れるね」
「ご苦労だったな」
ショーンが笑いながら労い、しっかり手を握り合ったままの2人を一瞥して肩を竦める。ラユダは皮の簡易鎧だが、ショーンはしっかりとした金属の鎧で正装していた。重い鎧をラユダが手伝って脱がせていく。ようやく軽くなった身体を伸ばしたショーンが、行儀悪くベッド端に腰掛けた。
エイデンとショーンが休んでいる間に、ラユダは侍女からお茶のセットを受け取った。手早く並べられた紅茶を一口飲んで、全員がレモンに手を伸ばす。用意されたレモンを浮かべると、再び口に運んだ。
「……まだ入ってるのか?」
紅茶にまだ毒が混じっているらしい。国王への差し入れはすべてウィリアムがチェックしているため、この紅茶はウィリアムに用意された紅茶の葉を使ったのだろう。侍女たちは毒の存在を知らないのだ。良かれと思い、飲み慣れた紅茶を用意したと考えるのが一般的だった。
呆れ声でラユダが紅茶をかき回すと、レモンを抜いて皿に取り出す。レモンの皮の内側、白い部分が僅かに青に変色した。よく見なければ気付けないレベルの僅かな変化だ。
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