【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
61 / 102
第5章 魔女は裏切りの花束を好む

5-17.甘いレモンとすっぱい果実

しおりを挟む
 叫んだエリヤが身を起こそうとするのを、エイデンが身振りで止めた。心配そうに身を起こしかけた親衛隊の騎士たちも、許可なく謁見の間に踏み込むことができない。そんな彼らの後ろに傭兵ラユダを引き連れたショーンが、悠然と現れた。

「チャンリー公爵家ショーン、ただいま帰城いたしました」

「……ご苦労」

 人目がある。臣下を労うのは国王の務めだった。震える声を隠すように、低く告げる。

「エイデン」

「はっ」

「執政を休ませてやれ。チャンリー公爵、報告は奥の部屋でも構わぬか?」

「はい、では残党狩りの指示を終えてから参ります」

 必死で取り繕う仮面が落ちる前に、謁見の間を出たかった。掠れた声にショーンは深く頭を下げて了承を伝える。親衛隊にも休むよう伝え、ウィリアムを抱き起こしたエイデンの後に続く。

「エイデン、ウィルはっ、無事か。ソファではなく、俺のベッドに寝かせろ」

 部屋に戻るなり、ソファに寝かされたウィリアムの手を握る。命じた先で、エイデンが首を横に振った。眉をひそめて命じ直そうとしたとき、ウィリアムの指先が動いた。

「ウィル!?」

「……我が侭、言っちゃダメだろ…」

 痛みに震える指先が、そっと少年の頬に触れる。熱い指を掴んで頬に押し当てるエリヤが唇を噛み締めた。

 国王――この地位がいつだって大切な存在を傷つける。父母や姉、ウィルも……いっそ投げ捨ててしまえたらいいのに。

「はいはい、そのままイチャついてていいけど、上着を脱がすよ。止血し直さないとマズそうだからね」

 ウィリアムの溺愛やエリヤの心酔度合いをよく知っているから、エイデンはさっさとウィリアムのシャツを短剣で引き裂いた。マントで隠れていた出血の染みがシャツに広がっている。出血量を目測で確認すると、エイデンはウィリアムをソファに座らせた。

 痛みに耐えて身を起こしたウィリアムの背中に布を押し当て、一気に締めていく。縫い合わせて消毒したばかりの傷口に触れぬよう、手際よく止血作業を終えた。そこに指示を終えたショーンがラユダを伴って現れる。彼の鎧は返り血で真っ赤だった。

 手当ての間に汚れた手を、運ばれた手水で流したエイデンは椅子に身を投げ出した。

「久々の手術は疲れるね」

「ご苦労だったな」

 ショーンが笑いながら労い、しっかり手を握り合ったままの2人を一瞥して肩を竦める。ラユダは皮の簡易鎧だが、ショーンはしっかりとした金属の鎧で正装していた。重い鎧をラユダが手伝って脱がせていく。ようやく軽くなった身体を伸ばしたショーンが、行儀悪くベッド端に腰掛けた。

 エイデンとショーンが休んでいる間に、ラユダは侍女からお茶のセットを受け取った。手早く並べられた紅茶を一口飲んで、全員がレモンに手を伸ばす。用意されたレモンを浮かべると、再び口に運んだ。

「……まだ入ってるのか?」

 紅茶にまだ毒が混じっているらしい。国王への差し入れはすべてウィリアムがチェックしているため、この紅茶はウィリアムに用意された紅茶の葉を使ったのだろう。侍女たちは毒の存在を知らないのだ。良かれと思い、飲み慣れた紅茶を用意したと考えるのが一般的だった。

 呆れ声でラユダが紅茶をかき回すと、レモンを抜いて皿に取り出す。レモンの皮の内側、白い部分が僅かに青に変色した。よく見なければ気付けないレベルの僅かな変化だ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...