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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-18.手に入らないなら壊そうとするんだね
「報告を頼む」
額の汗を拭ったウィリアムの促しに、レモン入りの紅茶を差し出したショーンが口を開く。
「王宮内に侵入した敵の組織的な抵抗はねじ伏せた。あとは残党狩りだが、あと数時間で終了だ。今日中に終わらせるように指示してある」
ラユダが広げた王宮の平面図には、あちこちにバツ印が付いていた。どうやら制圧とチェックが終わった場所らしい。まず重要拠点や味方同士の連携の要となる場所を制圧したのは、優秀な戦略家であるショーンの指示だろう。
ラユダ達傭兵は攻め込み、忍び込む側の人間だ。そのため彼らに平面図を提供すれば、どこから入れそうか…という敵側の視点で洗い出しを始める。ショーンがその意見を纏めて兵を動かしたとしたら、合図である白い鳥を放った時点で決着は付いていた。
「ウィリアムのケガは?」
「うん、まあ……内臓が剣を避けたというか、上手に刺されたよね。傷が化膿しないで塞がれば日常生活に支障はないよ。ただ剣を振るうのは1ヶ月ほど禁止だけど」
「……長いな」
「大人しくしていろ、命令だ」
エイデンの診断に文句を言ったウィリアムを、ぴしゃりと国王の命令が一刀両断にした。さすがに心配させた自覚はあるし、情けなくも倒れた後なので「ごめんね」と謝る。唇を尖らせたエリヤが、気遣いながら隣に座った。その頬や額、黒髪にキスを落として機嫌を取る。
「しかし、いくら手薄だとしても謁見の間の前に攻め込まれたのは……格好悪いな」
唸るウィリアムの指摘に、エイデンが苦笑いしてラユダの地図を指差した。そこには侵入経路と思われる塔が記されている。駆けつけた際に燃えていた塔だった。
「この塔から続く避難路から逆に侵入されたんだ。ここはラシュハック侯爵家の管轄だよね」
「「「そういうわけか」」」
全員が一斉に頷いた。今回の毒紅茶の差し入れ事件を調べた際に浮上した侯爵家の名前に、誰もが納得する。一時期、自慢の一人娘を献上しようと必死になっていたが、彼女は親を捨てて男爵家の次男と逃避行してしまったのだ。王妃も狙える才女だけに、彼の落胆ぶりは激しかった。
逃げた娘は隣国のゼロシアで暮らしているため、今回のゼロシア領統合で燻っていた野心に火がついたのだろう。
「とりあえず、ラシュハック伯爵は捕らえておくよ」
「任せる」
エイデンは苦笑いしながら手を挙げる。捕獲の役目を任せた執政に、姿勢を正して深々と頭を下げた。
「国王陛下を危険に晒したこと、真に申し訳ございませんでした。私の実力不足です」
「いや、不在を埋めてくれて助かった。主犯者の捕縛なら、逆に手柄を誇れるぞ」
儀礼的なやり取りは、これで正式な謝罪を終えたという形をつくるためだ。幸いにして国王陛下の御前であり、チャンリー公爵家当主も臨席している。謝罪は公式に受け入れられた。
「じゃあ行って来る」
ちょっと外出するような気軽さで、血に濡れた鎧のまま退出するエイデンを見送る。淡い金髪にもかなり返り血が飛んでいるが、すでに赤黒い色に染まっていた。女の子のような整った顔の騎士が、夜叉のように見える。
「魔女には何をさせている?」
遊ばせているはずがないと断言する響きで、ショーンが口を挟んだ。エリヤを膝の間に挟むように乗せて、黒髪に接吻けるウィリアムが顔を上げる。
「人聞きが悪い。何も”させて”ないぞ」
大きな蒼い目を瞬かせたエリヤが振り返って、黒髪に落ちてくるキスを額で受け止めた。目を閉じる姿が可愛くて、今度は鼻の頭と瞼にもキスする。
「なるほど……それでこそ魔女か」
額の汗を拭ったウィリアムの促しに、レモン入りの紅茶を差し出したショーンが口を開く。
「王宮内に侵入した敵の組織的な抵抗はねじ伏せた。あとは残党狩りだが、あと数時間で終了だ。今日中に終わらせるように指示してある」
ラユダが広げた王宮の平面図には、あちこちにバツ印が付いていた。どうやら制圧とチェックが終わった場所らしい。まず重要拠点や味方同士の連携の要となる場所を制圧したのは、優秀な戦略家であるショーンの指示だろう。
ラユダ達傭兵は攻め込み、忍び込む側の人間だ。そのため彼らに平面図を提供すれば、どこから入れそうか…という敵側の視点で洗い出しを始める。ショーンがその意見を纏めて兵を動かしたとしたら、合図である白い鳥を放った時点で決着は付いていた。
「ウィリアムのケガは?」
「うん、まあ……内臓が剣を避けたというか、上手に刺されたよね。傷が化膿しないで塞がれば日常生活に支障はないよ。ただ剣を振るうのは1ヶ月ほど禁止だけど」
「……長いな」
「大人しくしていろ、命令だ」
エイデンの診断に文句を言ったウィリアムを、ぴしゃりと国王の命令が一刀両断にした。さすがに心配させた自覚はあるし、情けなくも倒れた後なので「ごめんね」と謝る。唇を尖らせたエリヤが、気遣いながら隣に座った。その頬や額、黒髪にキスを落として機嫌を取る。
「しかし、いくら手薄だとしても謁見の間の前に攻め込まれたのは……格好悪いな」
唸るウィリアムの指摘に、エイデンが苦笑いしてラユダの地図を指差した。そこには侵入経路と思われる塔が記されている。駆けつけた際に燃えていた塔だった。
「この塔から続く避難路から逆に侵入されたんだ。ここはラシュハック侯爵家の管轄だよね」
「「「そういうわけか」」」
全員が一斉に頷いた。今回の毒紅茶の差し入れ事件を調べた際に浮上した侯爵家の名前に、誰もが納得する。一時期、自慢の一人娘を献上しようと必死になっていたが、彼女は親を捨てて男爵家の次男と逃避行してしまったのだ。王妃も狙える才女だけに、彼の落胆ぶりは激しかった。
逃げた娘は隣国のゼロシアで暮らしているため、今回のゼロシア領統合で燻っていた野心に火がついたのだろう。
「とりあえず、ラシュハック伯爵は捕らえておくよ」
「任せる」
エイデンは苦笑いしながら手を挙げる。捕獲の役目を任せた執政に、姿勢を正して深々と頭を下げた。
「国王陛下を危険に晒したこと、真に申し訳ございませんでした。私の実力不足です」
「いや、不在を埋めてくれて助かった。主犯者の捕縛なら、逆に手柄を誇れるぞ」
儀礼的なやり取りは、これで正式な謝罪を終えたという形をつくるためだ。幸いにして国王陛下の御前であり、チャンリー公爵家当主も臨席している。謝罪は公式に受け入れられた。
「じゃあ行って来る」
ちょっと外出するような気軽さで、血に濡れた鎧のまま退出するエイデンを見送る。淡い金髪にもかなり返り血が飛んでいるが、すでに赤黒い色に染まっていた。女の子のような整った顔の騎士が、夜叉のように見える。
「魔女には何をさせている?」
遊ばせているはずがないと断言する響きで、ショーンが口を挟んだ。エリヤを膝の間に挟むように乗せて、黒髪に接吻けるウィリアムが顔を上げる。
「人聞きが悪い。何も”させて”ないぞ」
大きな蒼い目を瞬かせたエリヤが振り返って、黒髪に落ちてくるキスを額で受け止めた。目を閉じる姿が可愛くて、今度は鼻の頭と瞼にもキスする。
「なるほど……それでこそ魔女か」
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