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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-21.策略と裏切りは紙一重
「これ以上国を大きくすると大変だから、貸付の形がいいかな」
ゼロシア領はオズボーン国と比べれば1/6という小さな国土だったため、自治領にする決断が出来た。陸続きで街道が通っていたことも、統合を容易にした一因だ。しかし山脈を挟んだ向こう側のオズボーンの国土は、大国であるシュミレの1/2近い。
遠い上に大きな国土は、反逆やクーデターの芽になる可能性を孕んでいた。差し出されたからと迂闊に懐へ入れれば、手足を齧りとられる可能性がある。
安全策をとるなら、経済的な主導権を握って逆らえなくする間接統治が適していた。王族にもっと権限を与えれば、貴族達の暴走を食い止める防波堤にもなる。民の反感も買わず交流が進められそうだ。
「あと、近々ラシエラも転がり込んでくるぞ」
「へえ、何をしたのさ」
いつもの飄々とした態度が戻ってきた友人へ、肘をついたウィリアムが笑みを向けた。大量の書類が詰まれた執務机から離れると、侍女を呼んで紅茶を用意させる。そのままソファへ移動したウィリアムは、ゆっくりとソファに身を沈めた。
まだ傷が痛むのだろう。顔を顰めるが、ひとつ大きく深呼吸して誤魔化す。
「コルセット、勝手に緩めたね?」
血止めと肋骨のヒビを固定するため身体を捻る動きをさせないよう、医師として治療用コルセットを装着させた。最初は「動けないと守れない」とごねたウィリアムだが、涙目のエリヤに押し切られる形で渋々コルセットを承知したが……どうやら緩めたらしい。それでは効果が半減してしまう。
「知らないな」
とぼけた執政は先ほど魔女から届いた手紙を、細かく破いて灰皿の上に乗せた。慣れた様子で煙管を咥えると、火をつけたついでに灰皿の紙片を燃やす。灰が窓からの風に踊る頃、侍女が紅茶を持ってきて並べた。
「これは、僕の差し入れ?」
毒入りかと尋ねるエイデンに、ウィリアムは肩を竦めてストレートで紅茶を飲んだ。その行為がすべてを物語っている。先日まで毒を中和するために使っていたレモンは、皿の上に薄い輪切り状態で残された。
「あれなら飲み終わったぞ。次はアールグレイあたりがいい」
「差し入れをリクエストなんて図々しい」
「あいにく育ちが悪いもんで」
簡単な応酬が終わったところで、ウィリアムは声をひそめた。
「ラシエラの王族もオズボーンと一緒で軽んじられてる。軍部が勢力を持ちすぎたんだが……まあ軍事政権は短絡的だからな。王族を処分するつもりらしい。察知した女王陛下からエリヤ宛に、私的な親書が届けられた」
親書と称するからには、女王自ら書いたものだ。私的な手紙という形をとって、亡命希望の嘆願書が届いた。命がけで山を越えた傷だらけの騎士は、現在保護されている。エリヤが目を通すより先に読んだウィリアムが手を打たないわけがない。
「女王なんて要らないけどね」
「同感だが都合はいいぞ。ラシエラは鉱石が豊富だから、手に入れて損はない。隣と違って女王は民に人気があるから、軍部をうまく切り離せば領土は無血で取り込めるし」
「軍部を切り離す、ね。簡単そうに言うけど、もう手は打ったんだ?」
「知ってるだろ、そういう工作は魔女のお得意分野だ。彼女は裏切りの花束がお好きだからな」
「ああ、確かに彼女なら好きかな。一度献上したし」
すでに国内貴族の粛清で貢がされたエイデンは、苦笑いして紅茶を飲み干した。カップが置かれたのを合図に、ウィリアムは1枚の手紙を胸元から取り出す。
「じゃあ、これも魔女に渡しといてくれ」
「僕は……伝書鳩じゃないんだけどね」
文句の割りに、エイデンの表情は明るかった。
ゼロシア領はオズボーン国と比べれば1/6という小さな国土だったため、自治領にする決断が出来た。陸続きで街道が通っていたことも、統合を容易にした一因だ。しかし山脈を挟んだ向こう側のオズボーンの国土は、大国であるシュミレの1/2近い。
遠い上に大きな国土は、反逆やクーデターの芽になる可能性を孕んでいた。差し出されたからと迂闊に懐へ入れれば、手足を齧りとられる可能性がある。
安全策をとるなら、経済的な主導権を握って逆らえなくする間接統治が適していた。王族にもっと権限を与えれば、貴族達の暴走を食い止める防波堤にもなる。民の反感も買わず交流が進められそうだ。
「あと、近々ラシエラも転がり込んでくるぞ」
「へえ、何をしたのさ」
いつもの飄々とした態度が戻ってきた友人へ、肘をついたウィリアムが笑みを向けた。大量の書類が詰まれた執務机から離れると、侍女を呼んで紅茶を用意させる。そのままソファへ移動したウィリアムは、ゆっくりとソファに身を沈めた。
まだ傷が痛むのだろう。顔を顰めるが、ひとつ大きく深呼吸して誤魔化す。
「コルセット、勝手に緩めたね?」
血止めと肋骨のヒビを固定するため身体を捻る動きをさせないよう、医師として治療用コルセットを装着させた。最初は「動けないと守れない」とごねたウィリアムだが、涙目のエリヤに押し切られる形で渋々コルセットを承知したが……どうやら緩めたらしい。それでは効果が半減してしまう。
「知らないな」
とぼけた執政は先ほど魔女から届いた手紙を、細かく破いて灰皿の上に乗せた。慣れた様子で煙管を咥えると、火をつけたついでに灰皿の紙片を燃やす。灰が窓からの風に踊る頃、侍女が紅茶を持ってきて並べた。
「これは、僕の差し入れ?」
毒入りかと尋ねるエイデンに、ウィリアムは肩を竦めてストレートで紅茶を飲んだ。その行為がすべてを物語っている。先日まで毒を中和するために使っていたレモンは、皿の上に薄い輪切り状態で残された。
「あれなら飲み終わったぞ。次はアールグレイあたりがいい」
「差し入れをリクエストなんて図々しい」
「あいにく育ちが悪いもんで」
簡単な応酬が終わったところで、ウィリアムは声をひそめた。
「ラシエラの王族もオズボーンと一緒で軽んじられてる。軍部が勢力を持ちすぎたんだが……まあ軍事政権は短絡的だからな。王族を処分するつもりらしい。察知した女王陛下からエリヤ宛に、私的な親書が届けられた」
親書と称するからには、女王自ら書いたものだ。私的な手紙という形をとって、亡命希望の嘆願書が届いた。命がけで山を越えた傷だらけの騎士は、現在保護されている。エリヤが目を通すより先に読んだウィリアムが手を打たないわけがない。
「女王なんて要らないけどね」
「同感だが都合はいいぞ。ラシエラは鉱石が豊富だから、手に入れて損はない。隣と違って女王は民に人気があるから、軍部をうまく切り離せば領土は無血で取り込めるし」
「軍部を切り離す、ね。簡単そうに言うけど、もう手は打ったんだ?」
「知ってるだろ、そういう工作は魔女のお得意分野だ。彼女は裏切りの花束がお好きだからな」
「ああ、確かに彼女なら好きかな。一度献上したし」
すでに国内貴族の粛清で貢がされたエイデンは、苦笑いして紅茶を飲み干した。カップが置かれたのを合図に、ウィリアムは1枚の手紙を胸元から取り出す。
「じゃあ、これも魔女に渡しといてくれ」
「僕は……伝書鳩じゃないんだけどね」
文句の割りに、エイデンの表情は明るかった。
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