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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-23.謀略は息抜きの合間に
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「オズボーンの粛清は王族に任せるとして……」
それだけの権力や兵力は増強してやった。手を打った駒の動きはチェックするが、これ以上干渉する必要はない。
最近お気に入りのハーブティを用意して手ずから淹れたウィリアムは、目の前で報告を受ける少年王に焼き菓子も差し出した。ソファに深く身体を沈めたエリヤは目を輝かせる。
「これはウィルが作ったのか?」
「ああ、考え事するのに料理や掃除って向いてるんだよな」
正確には考え事ではなく、謀と呼ぶ方が近い。手順が決まっていて淡々と行える作業は、ウィリアムが複雑な考えをまとめる時に重宝した。今回は焼き菓子を作りながら、オズボーンやラシエラへの対応を考えたようだ。
周囲の者も、ウィリアムが焼き菓子を作るのは趣味や息抜きの一環と考えている。国王がお茶の時間に強請ることもあるため、物騒な考えをまとめる時に利用されるなど想像もしていないだろう。
「美味しい」
嬉しそうに食べる主の姿に、ウィリアムは満面の笑みで皿を差し出した。以前からエリヤのお気に入りだったマーマレードを使った菓子と、新作のハーブ入り焼き菓子だ。鼻をくすぐる匂いに釣られて、エリヤが次に手に取ったのはハーブ入りの方だった。
「姉上のお好みかも……」
「そうか? リリーアリス様がいらっしゃる時にまた作るよ」
城に攻め込まれた騒動から10日余り。現場の処理も一段落ついて、国境へ出兵した者達も帰還させた。首都はふたたび、安全と繁栄を取り戻している。他国との貿易を担う商人たちも顔を見せるようになり、戦の色は払拭されつつあった。
残っているのは執政や将軍達を中心とした戦後の事務処理だけ。
離れて暮らす姉の顔を思い出したのか、突然そんな言葉を吐いたエリヤにウィリアムは笑いかける。もう聖女を教会の保護下から呼んでも、危険はないと判断していた。
彼女が来ると決まれば、新たに焼けばいい話だ。手元にある焼き菓子はすべてエリヤのために焼いたもので、最愛の主に食べてもらいたい。そう囁けば、顔を赤くした国王は素直に頷いた。
「ラシエラは……どうなる?」
「あの国は女王に統治させたまま、シュミレの自治領とする。軍部の残党が逃げてるから、うちが手を引けばクーデターを起こすだろう。幸い女王も自治権でいいみたいだし、国民も女王の決断を歓迎しているから問題ないさ」
最大の懸念であったラシエラの女王は、自国の民の生命や安全と引き換えに己自身を差し出すつもりであったらしい。それは命だけでなく女である身体も含めての話だ。
「彼女をもらっても扱いに困るし、オレはエリヤしか要らないから」
まだ15歳のエリヤと26歳になった女王が婚姻するのは、無理がある。年齢差は問題ではなく、単に国同士の力関係が曖昧になるからだ。女王が少年王を手玉に取り傀儡として扱う可能性を、シュミレの貴族がもつのは当然だった。
だが仮にも一国の女王を、戦勝国とはいえ地位の低い貴族と婚姻させるわけにいかない。独身で地位があり、国王の側近であるウィリアムに白羽の矢が立つまで、さほど時間はかからなかった。
予測していたウィリアムが手を打っていないはずもなく、自治領の領主としてラシエラの貴族と婚姻させる形を取ったのだ。シュミレの自治領であり、一属国として扱う。その契約を済ませることで、ウィリアムが女王より高位になる状況を作り出した。
「心配しなくても、オレはエリヤの物だ」
国王の隣に腰掛けたウィリアムが、焼き菓子を齧るエリヤを抱き上げて膝に乗せた。後ろから抱き締めて温もりを伝える。
「オレに飽きたら言ってね。すぐ処分するから」
「……その予定はない」
耳元に直接吹き込まれた言葉を否定しながら、エリヤは赤くなった耳を隠すように手で覆った。その指の上にキスを落として、エリヤを横抱きに抱え直す。顔が見える体勢に頬を染めるエリヤの額に、頬に、次々とキスを降らせた。
それだけの権力や兵力は増強してやった。手を打った駒の動きはチェックするが、これ以上干渉する必要はない。
最近お気に入りのハーブティを用意して手ずから淹れたウィリアムは、目の前で報告を受ける少年王に焼き菓子も差し出した。ソファに深く身体を沈めたエリヤは目を輝かせる。
「これはウィルが作ったのか?」
「ああ、考え事するのに料理や掃除って向いてるんだよな」
正確には考え事ではなく、謀と呼ぶ方が近い。手順が決まっていて淡々と行える作業は、ウィリアムが複雑な考えをまとめる時に重宝した。今回は焼き菓子を作りながら、オズボーンやラシエラへの対応を考えたようだ。
周囲の者も、ウィリアムが焼き菓子を作るのは趣味や息抜きの一環と考えている。国王がお茶の時間に強請ることもあるため、物騒な考えをまとめる時に利用されるなど想像もしていないだろう。
「美味しい」
嬉しそうに食べる主の姿に、ウィリアムは満面の笑みで皿を差し出した。以前からエリヤのお気に入りだったマーマレードを使った菓子と、新作のハーブ入り焼き菓子だ。鼻をくすぐる匂いに釣られて、エリヤが次に手に取ったのはハーブ入りの方だった。
「姉上のお好みかも……」
「そうか? リリーアリス様がいらっしゃる時にまた作るよ」
城に攻め込まれた騒動から10日余り。現場の処理も一段落ついて、国境へ出兵した者達も帰還させた。首都はふたたび、安全と繁栄を取り戻している。他国との貿易を担う商人たちも顔を見せるようになり、戦の色は払拭されつつあった。
残っているのは執政や将軍達を中心とした戦後の事務処理だけ。
離れて暮らす姉の顔を思い出したのか、突然そんな言葉を吐いたエリヤにウィリアムは笑いかける。もう聖女を教会の保護下から呼んでも、危険はないと判断していた。
彼女が来ると決まれば、新たに焼けばいい話だ。手元にある焼き菓子はすべてエリヤのために焼いたもので、最愛の主に食べてもらいたい。そう囁けば、顔を赤くした国王は素直に頷いた。
「ラシエラは……どうなる?」
「あの国は女王に統治させたまま、シュミレの自治領とする。軍部の残党が逃げてるから、うちが手を引けばクーデターを起こすだろう。幸い女王も自治権でいいみたいだし、国民も女王の決断を歓迎しているから問題ないさ」
最大の懸念であったラシエラの女王は、自国の民の生命や安全と引き換えに己自身を差し出すつもりであったらしい。それは命だけでなく女である身体も含めての話だ。
「彼女をもらっても扱いに困るし、オレはエリヤしか要らないから」
まだ15歳のエリヤと26歳になった女王が婚姻するのは、無理がある。年齢差は問題ではなく、単に国同士の力関係が曖昧になるからだ。女王が少年王を手玉に取り傀儡として扱う可能性を、シュミレの貴族がもつのは当然だった。
だが仮にも一国の女王を、戦勝国とはいえ地位の低い貴族と婚姻させるわけにいかない。独身で地位があり、国王の側近であるウィリアムに白羽の矢が立つまで、さほど時間はかからなかった。
予測していたウィリアムが手を打っていないはずもなく、自治領の領主としてラシエラの貴族と婚姻させる形を取ったのだ。シュミレの自治領であり、一属国として扱う。その契約を済ませることで、ウィリアムが女王より高位になる状況を作り出した。
「心配しなくても、オレはエリヤの物だ」
国王の隣に腰掛けたウィリアムが、焼き菓子を齧るエリヤを抱き上げて膝に乗せた。後ろから抱き締めて温もりを伝える。
「オレに飽きたら言ってね。すぐ処分するから」
「……その予定はない」
耳元に直接吹き込まれた言葉を否定しながら、エリヤは赤くなった耳を隠すように手で覆った。その指の上にキスを落として、エリヤを横抱きに抱え直す。顔が見える体勢に頬を染めるエリヤの額に、頬に、次々とキスを降らせた。
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