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第5章 魔女は裏切りの花束を好む
5-25.お茶会は魔女と聖女の手を取って
「あら、この茶葉はラシエラ産かしら?」
「よくわかったな。あの国は鉱山があって標高が高いから、紅茶の栽培に向いてるんだ」
ウィリアムが驚いた顔をする。鉱山から取れる金属や宝石類だけでなく、今後は紅茶栽培で産業を活性化させる方針を口にした。わざわざ書面として報告しなくとも、貴族の会話は情報に満ちている。
ささやかな話の中に散りばめられた欠片を繋ぎ合わせる能力がなければ、複雑な貴族社会を生き残れないのだ。ここに顔を付き合わせる4人は、貴族社会の頂点にたつ実力者ばかりだった。
「ウィル、この花を姉上に」
「触っちゃダメだ。棘が……っ」
慌ててエリヤのほうへ駆け寄るウィリアムの後姿に、残った3人は顔を見合わせた。相変わらずの溺愛ぶりだが、これで最後まで手を出していないというのだから不思議だ。
「まさに籠の鳥だね」
様々な意味を込めたエイデンの比喩に、誰も反論できずに頷いた。日陰の東屋で繰り広げられる裏の話を、明るい庭の王族は知らない。彼らの手を汚すことなく護ることこそ、臣下の勤めだった。
閉じ込められた王宮という籠の中で、美しい姿で囀る鳥という王族。そして同時に、穢れから護り、外敵を遠ざけ、永らえさせるための籠でもある。
「花びらが多いし縁の色が綺麗だわ。新種なのね? 嬉しい」
棘をはらった白薔薇を手にしたリリーアリス姫の明るい声が、東屋の後ろ暗い空気を振り払う。直前の暗い雰囲気を忘れたように、ドロシアは立ち上がると姫の下へ向かった。
リリーアリス姫の手にある大輪の白薔薇は、縁にわずかな赤が滲んでいる。蕾のときは真っ白だが、開くにつれて徐々に赤が増えていき、最後は真っ赤な薔薇として散るのだ。ウィリアムがエリヤのために作らせた薔薇だった。
苦笑いしたエイデンが、侍女を手招きする。
「そろそろ、全員分のお茶を用意したほうが良さそうだね」
用意される茶菓子と紅茶を前に、ようやく全員が東屋で顔を合わせた。
当然のようにウィリアムの隣に腰掛けたエリヤは、無邪気に笑う。左隣にウィリアム、右側に姉であるリリーアリス姫。机を挟んだ向かいに信頼できる従兄弟たちがいる。国王としての表情を取り繕う必要はなかった。
「今回の騒動は大変だったな」
労う国王の言葉に、全員が顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
少年王エリヤは王城を急襲され玉座の間に立て篭もり、王を護るエイデンは必死で騎士団を指揮した。執政ウィリアムは最戦線から駆けつけて国王を守って死に掛け、ウィリアムが抜けた穴を埋めたショーンは公爵家の私兵まで総動員して敵国を退ける。裏工作で他国を混乱させたドロシアも、聖女であるが故に手出しできずにもどかしい思いをしたリリーアリス姫さえ、誰もが「大変」だった。
「しばらく休みたいが……仕事は山積みだ」
溜め息をついたウィリアムが、エリヤの前にタルトを取り分ける。慣れた様子で紅茶に薔薇の砂糖を入れ、かき回して冷ましてから主の前に差し出した。
毒見の心配もせず、エリヤはその紅茶に口をつける。タルトを器用に切り分けるウィリアムが、エリヤに食べさせる。まるでひな鳥に餌を与える親鳥のように、世話を焼き続けていた。幸せそうなので誰も何も言わないのをいいことに、口の端に残った欠片をぺろりと舐め取っている。
仲睦まじい2人の姿に、くすくす笑ったリリーアリスが紅茶を引き寄せる。
平和な光景を前に、ドロシアの口元が緩んだ。彼女は手を伸ばして焼き菓子をとりわけ、隣のリリーアリスへ勧める。
「ラシエラ産の茶葉を使った焼き菓子ですわ。ウィリアムのお手製で、国王陛下のお気に入りだと聞きましたの」
「まあ素敵」
女性達の華やかなやりとりを聞きながら、ショーンは東屋の椅子に深く腰掛ける。その表情は柔らかい。隣でドロシアに熱い視線を送るエイデンが、姫を羨ましそうに見つめていた。
風が白薔薇の香りを運ぶ。
「姉上が帰られる際は、白薔薇を花束にしてお渡しいたします」
弟からの申し出に、聖女は心から嬉しそうに微笑んだ。
The END or…
※ここまでで一段落です。続編はいずれ……ご要望があれば書かせていただきます(o´-ω-)o)ペコッ
「よくわかったな。あの国は鉱山があって標高が高いから、紅茶の栽培に向いてるんだ」
ウィリアムが驚いた顔をする。鉱山から取れる金属や宝石類だけでなく、今後は紅茶栽培で産業を活性化させる方針を口にした。わざわざ書面として報告しなくとも、貴族の会話は情報に満ちている。
ささやかな話の中に散りばめられた欠片を繋ぎ合わせる能力がなければ、複雑な貴族社会を生き残れないのだ。ここに顔を付き合わせる4人は、貴族社会の頂点にたつ実力者ばかりだった。
「ウィル、この花を姉上に」
「触っちゃダメだ。棘が……っ」
慌ててエリヤのほうへ駆け寄るウィリアムの後姿に、残った3人は顔を見合わせた。相変わらずの溺愛ぶりだが、これで最後まで手を出していないというのだから不思議だ。
「まさに籠の鳥だね」
様々な意味を込めたエイデンの比喩に、誰も反論できずに頷いた。日陰の東屋で繰り広げられる裏の話を、明るい庭の王族は知らない。彼らの手を汚すことなく護ることこそ、臣下の勤めだった。
閉じ込められた王宮という籠の中で、美しい姿で囀る鳥という王族。そして同時に、穢れから護り、外敵を遠ざけ、永らえさせるための籠でもある。
「花びらが多いし縁の色が綺麗だわ。新種なのね? 嬉しい」
棘をはらった白薔薇を手にしたリリーアリス姫の明るい声が、東屋の後ろ暗い空気を振り払う。直前の暗い雰囲気を忘れたように、ドロシアは立ち上がると姫の下へ向かった。
リリーアリス姫の手にある大輪の白薔薇は、縁にわずかな赤が滲んでいる。蕾のときは真っ白だが、開くにつれて徐々に赤が増えていき、最後は真っ赤な薔薇として散るのだ。ウィリアムがエリヤのために作らせた薔薇だった。
苦笑いしたエイデンが、侍女を手招きする。
「そろそろ、全員分のお茶を用意したほうが良さそうだね」
用意される茶菓子と紅茶を前に、ようやく全員が東屋で顔を合わせた。
当然のようにウィリアムの隣に腰掛けたエリヤは、無邪気に笑う。左隣にウィリアム、右側に姉であるリリーアリス姫。机を挟んだ向かいに信頼できる従兄弟たちがいる。国王としての表情を取り繕う必要はなかった。
「今回の騒動は大変だったな」
労う国王の言葉に、全員が顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
少年王エリヤは王城を急襲され玉座の間に立て篭もり、王を護るエイデンは必死で騎士団を指揮した。執政ウィリアムは最戦線から駆けつけて国王を守って死に掛け、ウィリアムが抜けた穴を埋めたショーンは公爵家の私兵まで総動員して敵国を退ける。裏工作で他国を混乱させたドロシアも、聖女であるが故に手出しできずにもどかしい思いをしたリリーアリス姫さえ、誰もが「大変」だった。
「しばらく休みたいが……仕事は山積みだ」
溜め息をついたウィリアムが、エリヤの前にタルトを取り分ける。慣れた様子で紅茶に薔薇の砂糖を入れ、かき回して冷ましてから主の前に差し出した。
毒見の心配もせず、エリヤはその紅茶に口をつける。タルトを器用に切り分けるウィリアムが、エリヤに食べさせる。まるでひな鳥に餌を与える親鳥のように、世話を焼き続けていた。幸せそうなので誰も何も言わないのをいいことに、口の端に残った欠片をぺろりと舐め取っている。
仲睦まじい2人の姿に、くすくす笑ったリリーアリスが紅茶を引き寄せる。
平和な光景を前に、ドロシアの口元が緩んだ。彼女は手を伸ばして焼き菓子をとりわけ、隣のリリーアリスへ勧める。
「ラシエラ産の茶葉を使った焼き菓子ですわ。ウィリアムのお手製で、国王陛下のお気に入りだと聞きましたの」
「まあ素敵」
女性達の華やかなやりとりを聞きながら、ショーンは東屋の椅子に深く腰掛ける。その表情は柔らかい。隣でドロシアに熱い視線を送るエイデンが、姫を羨ましそうに見つめていた。
風が白薔薇の香りを運ぶ。
「姉上が帰られる際は、白薔薇を花束にしてお渡しいたします」
弟からの申し出に、聖女は心から嬉しそうに微笑んだ。
The END or…
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