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第6章 寝返りは青薔薇の香り
6-31.夢見る子供の時間は終わり
お茶会は室内で行われた。というのも、薔薇を植え替えるよう国王の指示が出たためだ。薔薇の庭は掘り返され、中庭のガゼボ周辺は大幅に姿を変えていた。ガゼボは片付けられ、美しい薔薇はすべて廃棄される。当然、昨夜転げ落ちた首やアスター国の王太子の胴体も含めて……。
「姉上のために、薔薇を敷き詰めました。あとで入浴用のハーブもお届けします」
散らした薔薇の花びらを活用した入浴剤のお土産を匂わせ、エリヤは裏のハーブ園が見える部屋へ移動した。半日ほど日陰になる庭は、ぐるりと建物に囲まれている。外部の者が侵入することは不可能に近く、さらに室内で警護も万全だった。
ハーブ園はお茶や料理に必要なハーブを中心に植えられ、少し色どりが単調だ。歩くと服に触れた部分にハーブの香りがつくため、侍女に人気のお散歩コースだった。
すっきりした香りのレモングラスのハーブティに口をつけ、5人はゆったりくつろぐ。ソファを庭に向けて並べ、テーブルは視界の邪魔にならない低い物を用意させた。座り心地重視だが、高級感のあるソファに複数のクッションを並べて寄り掛かる形を採用する。
「アスター国は滅ぼしてしまったの?」
リリーアリス姫が修道院で世間から隔絶された環境にあるとはいえ、隣に情報通の魔女がいるのだから世間話は耳に入る。あまり聞かれたくない政治的な話題を振られ、エリヤは目を伏せた。その姿は、悪戯がバレて姉に叱られる弟、そのものだ。
「代理でお答えする失礼をお許しください。アスター国は自滅しましたが、最後の楔を打ったのがシュミレ国の誇る神龍将軍の異名を持つチャンリー公爵です」
「……上手な表現ですこと」
ドロシアがくすくす笑って、お茶を口に運ぶ。それ以上余計なことを言わない魔女に安堵しながら、ウィリアムはリリーアリス姫に向き直った。
「リリーアリス姫様は心安らかに、平穏な日々をお過ごしください。敵はすべて我々で排除いたします」
お飾りでいろと言わないが、籠の鳥として守られるのが聖女リリーアリス姫の役割だ。彼女が無事でいることは、国の安定に大切な要件だった。それと同時に、優秀な国王陛下が君臨する状況も……欠かせないのだが。
「私の弟は、今も自由になりたいと願うのかしら」
紅茶の葉を混ぜた焼き菓子を口にしたリリーアリスが、穏やかな笑みを浮かべる。残された唯一の家族である大切な弟は、ただ『自由になりたい』――国というしがらみを捨て、跡取りを残す義務も放棄して、空を舞う鳥の様に生きたいだけ。
野生の鳥は籠の中で守られることなく、餌も与えられず、その寿命は短いかもしれない。それでも代えがたい自由に憧れるのだ。折られた羽を広げて、空を舞う僅かな時間のために他の物を犠牲に出来るほど焦がれた。
「……姉上、私はもう子供ではありません」
「エリヤっ!?」
いつか王家という呪縛から解き放ち、自由にしてやる。それがエリヤとの約束だった。そのために国を安定させ、他国との調和を図り、策略や謀略を潜り抜けて守ってきたのだ。すべてを覆すような恋人の言葉に、ウィリアムは思わず名を呼んでいた。
「自由を夢見る気持ちは今も変わりません。それでも、気づいてしまいました。この国を放り出せば、もっとも大切な存在を失うかもしれない。こうして王でいる間も傷つけているのに……権力という盾を失えば、もっと危険な目に合わせるでしょう」
「姉上のために、薔薇を敷き詰めました。あとで入浴用のハーブもお届けします」
散らした薔薇の花びらを活用した入浴剤のお土産を匂わせ、エリヤは裏のハーブ園が見える部屋へ移動した。半日ほど日陰になる庭は、ぐるりと建物に囲まれている。外部の者が侵入することは不可能に近く、さらに室内で警護も万全だった。
ハーブ園はお茶や料理に必要なハーブを中心に植えられ、少し色どりが単調だ。歩くと服に触れた部分にハーブの香りがつくため、侍女に人気のお散歩コースだった。
すっきりした香りのレモングラスのハーブティに口をつけ、5人はゆったりくつろぐ。ソファを庭に向けて並べ、テーブルは視界の邪魔にならない低い物を用意させた。座り心地重視だが、高級感のあるソファに複数のクッションを並べて寄り掛かる形を採用する。
「アスター国は滅ぼしてしまったの?」
リリーアリス姫が修道院で世間から隔絶された環境にあるとはいえ、隣に情報通の魔女がいるのだから世間話は耳に入る。あまり聞かれたくない政治的な話題を振られ、エリヤは目を伏せた。その姿は、悪戯がバレて姉に叱られる弟、そのものだ。
「代理でお答えする失礼をお許しください。アスター国は自滅しましたが、最後の楔を打ったのがシュミレ国の誇る神龍将軍の異名を持つチャンリー公爵です」
「……上手な表現ですこと」
ドロシアがくすくす笑って、お茶を口に運ぶ。それ以上余計なことを言わない魔女に安堵しながら、ウィリアムはリリーアリス姫に向き直った。
「リリーアリス姫様は心安らかに、平穏な日々をお過ごしください。敵はすべて我々で排除いたします」
お飾りでいろと言わないが、籠の鳥として守られるのが聖女リリーアリス姫の役割だ。彼女が無事でいることは、国の安定に大切な要件だった。それと同時に、優秀な国王陛下が君臨する状況も……欠かせないのだが。
「私の弟は、今も自由になりたいと願うのかしら」
紅茶の葉を混ぜた焼き菓子を口にしたリリーアリスが、穏やかな笑みを浮かべる。残された唯一の家族である大切な弟は、ただ『自由になりたい』――国というしがらみを捨て、跡取りを残す義務も放棄して、空を舞う鳥の様に生きたいだけ。
野生の鳥は籠の中で守られることなく、餌も与えられず、その寿命は短いかもしれない。それでも代えがたい自由に憧れるのだ。折られた羽を広げて、空を舞う僅かな時間のために他の物を犠牲に出来るほど焦がれた。
「……姉上、私はもう子供ではありません」
「エリヤっ!?」
いつか王家という呪縛から解き放ち、自由にしてやる。それがエリヤとの約束だった。そのために国を安定させ、他国との調和を図り、策略や謀略を潜り抜けて守ってきたのだ。すべてを覆すような恋人の言葉に、ウィリアムは思わず名を呼んでいた。
「自由を夢見る気持ちは今も変わりません。それでも、気づいてしまいました。この国を放り出せば、もっとも大切な存在を失うかもしれない。こうして王でいる間も傷つけているのに……権力という盾を失えば、もっと危険な目に合わせるでしょう」
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