雨の日に名を呼んで

ナガミ

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2話「降り出した歩み」

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「次はもう少し早く持ってこいよ」

教員から冗談めかしに小言を言われながら職員室を後にする。

千夏「さて、今度こそ帰ろ・・・」

昇降口に着いた時。

千夏「しまった。もう少し早く気付けてたら」

薄暗いと思ったら雲行きが怪しい。
案の定すぐに降り出す。

教室前の廊下にある傘置き場。
そこまで戻らないと。

千夏「・・・めんどくさ」

「あれ、まだ居たの」

千夏「え?」

凛也「まぁでもタイミング良かったね」

千夏「鳴海先輩。・・タイミングって」

凛也「もう少し早く出てたら濡れてたからね。俺は今から上まで傘を取りに行くとこ」

やっぱり気さくだ。この人。
見た目や噂ほど怖い人じゃ無い。
・・・たぶん。

千夏「き、奇遇ですね、俺もです」

凛也「ふーん」
目を細め妖しく笑う。

凛也「なら途中まで一緒に行こうか」

千夏「あ、はい。」

人はギャップに弱い。
不良が雨の日に子犬を拾う光景を見て好きになる、
なんてベタな気持ちがわかったような気がした。

凛也「そいや。名前、知ってたんだね。俺の」

千夏「いやまぁ、有名ですから。・・・良かれ悪かれ」

後半からボリュームが落ちる。
慣れない状況にいらぬ事を口走ってしまう。

凛也「君は?」

千夏「え?・・あ!千夏です。南雲 千夏って言います」

凛也「そう、南雲くんね」
始終柔らかい笑顔をしている凛也。

千夏「というか、鳴海先輩。こっち1年の教室・・・」

凛也「あ、うっかりしてた。人とあんま話さないからつい」

言われてみれば見かける時はだいたい1人だ。
皆怖がって避けて、それで鳴海先輩は孤立していったのか、なんて考える。

千夏はすっかり緊張が解けていた。
小学生の頃に遊んでくれていた近所の兄ちゃんのような感覚だった。

千夏「良かったら鳴海先輩の傘取りに行くの付いて行きましょうか」

孤高のような人と仲良く話す。
千夏は優越感を抱いていた。
自分だけが特別扱い。自分だけがこの一面を知る。
薄らそんな事を思っていた。

凛也「せっかくだから、そうしようか」

千夏は自然な、無邪気な笑顔を向けていた。

凛也「そんで、さっき言ってた俺の事『良かれ悪かれ有名』って」

さっきの発言をばっちり聞かれていた。

千夏「あっ・・・え、えーと」

不穏な空気、というわけではないがやはり言い淀む。

凛也「どうせ根も歯もない噂話だろうけど」

ここで口籠るのは逆に不誠実というか、
卑怯というか、後ろめたい気持ちが大きくなる。

千夏「まぁ、やっぱ・・・不良的な・・・」
  「喧嘩ばっかりだとか、他校の女子と遊んでいるだとか」
  「俺はそういうの言ったりしてませんから!本当に!」

実際、千夏は陰口を言ったり、ましてや噂を広めたりなどしていなかった。
今この場で凛也から信用されるかは別として、ただ伝えたかった。

凛也「ふーん。ありきたりで面白くはないね」

千夏は一度背けた顔をまた凛也の方へ向ける。
相変わらず余裕のある笑みだった。

凛也「他校の女子からたまに声かけられたりはするけど」
   「全部あしらってるし、喧嘩もした事ないから」
   「どっかの誰かが本当に噂だけ流してんだな」

千夏「みたいですね。てかモテるんですね、やっぱ。鳴海先輩かっこいいから」

凛也「どうも。そっちはどうなの。彼女とか」

千夏「俺ですか。いませんいません。なんか昔から女子と仲良くしたいと思えなくて」

凛也「ふーん。可愛い顔してるから、結構モテてるもんかと」

千夏「へ!?」

思わぬ言葉に動揺する。
過去には男子からも女子からもかわいいと言われる事はあった。
けれど「男としてどうなんだ」という気持ちと共に呆れる事しかなかった。

なのに今は、恥ずかしいような、嬉しいような。
怖いと思っていた先輩が優しく、穏やかで、横並びで歩いてくれて、
それに先の言葉。

言葉を探している間に、凛也の足が止まる。

千夏「ん?ここって、先輩の教室・・・じゃ、ない」

凛也「ちょっと別の用事も思い出して。先に寄る事にした」

千夏は話に夢中で目的地と違うとこへ歩き着いている事に気付いていなかった。

凛也「部屋の奥に箱があって、中のプリントやノートが必要で」

千夏「あぁ、手伝いますよ」

ドアを開けると薄暗い部屋が眼前に広がる。
机も椅子も隅に固められ、些か不気味でもあった。

千夏「なんか気味が悪いですね」
  「えっと・・・とりあえず目当てのものは・・・」




凛也「噂にさ、こんなの混じってなかった?」


声が真後ろから聞こえた。


凛也「 『アイツは男に興味がある』 って」
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