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016 別れの挨拶

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 月夜の亭で女将さんに、友達を呼んで食べたいので焼いてくれと肉を差し出し頼む。
 勿論手間賃はたっぷり払うと言って了解して貰うと、亭主で料理人のハードさんが出てきて何の肉だと聞くが、言った所で信用して貰えないからと教えない。

 小振りの肉を取り出して見せるが肉の種類が判らないと首を捻っている。
 食事客の居ない時間帯なので、取り敢えず大振りのステーキを30枚焼いてくれと頼み、一枚を味見用として焼かせた。
 焼き上がったステーキは良い匂いで美味そうだが、特別此れと言った特徴が有る訳でもない。
 ぞんざいに切り分けられた肉片の一つを口に入れる。

 一口噛んで肉汁が溢れて来るが、さっくり軽い噛み応えで口内は肉の旨味で溢れている。
 かと言って肉の脂くどさは無いがエールが欲しい。

 「こりゃー凄い、初めて食べる肉だが今まで食べた最上級の肉より遙かに美味い」

 「本当ね、こんなお肉初めて食べるわ」

 「ハルトさん、此奴は何の肉なんだ」

 「アーマーバッファローだよ。つい最近討伐してきたのを解体して貰ったんだ」

 ハードさんがフリーズしているし、女将さんはお目々まん丸で此れがアーマーバッファロー、と言ったきり皿を睨んでいる。

 「冷えると味が落ちるから食べてしまおうよ」

 「こんな高いお肉を食べても良いの」

 「此れって本当にアーマーバッファローなのか?」

 「間違いないよ。狩ってきた本人が解体した一部を貰ってきたんだから」

 試食の後でアーマーバッファローのステーキ30枚を焼いて貰い、お財布ポーチに入れると見せかけて空間収納にナイナイする。

 陽が落ちてからやって来た金色の牙の人達と平均三枚のステーキをエールで流し込んで楽しく頂いた。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 アーマーバッファローのお肉を堪能し、空間収納にもたっぷりステーキを保存したので、再び森の拠点に戻る事にした。
 宿を引き払おうとしていると来客だ。

 「ハルトって奴は居るか」

 横柄な声が聞こえたが無視して出ようとしたが、女将さんが〈はい居ります〉と事務的に返事をしてしまった。
 振り向くとチンピラを従えた黒狼族の巨漢が、俺を見下ろしながら口を開く。

 「お前がアーマーバッファローの肉を持っていると聞いたが、金貨三枚で買い取ってやるぞ」

 思わず笑ってしまい気分を害した様だが、それはお互い様だ。

 「それはまた、随分安く買い叩きにきたな。肉が欲しけりゃ、冒険者ギルドがオークションに掛けるから競り落とせ。俺の食い扶持を寄越せってのなら、腕尽くで来い!」

 「大きく出たな、それで良いのならそうさせて貰うぞ」

 「街中でやるとお互いに不味いだろう。今から薬草採取の為に街を出るから其処に来な」

 黙って頷く狼野郎の横を通って宿をでる。
 のんびり歩いて街を出ると何時ものベースキャンプ地に向かうが、振り向くと二人ほどついてきている。
 面倒事は早めに纏めて片付けるに限る、時々二人組の姿を確認しながら歩く。
 何度目か振り向いた時に、二人組の遙か遠くに複数人の男達が急いでやって来るのが見えた。
 本隊到着の様なので街道からそれ灌木の茂る場所に向かうと、二人組が必死で追って来る。

 200メートル程街道から逸れたお誂え向きの場所で奴等を待つ事にする。
 二人組は狼男に従っていた二人で、追ってきた奴等は冒険者崩れの荒んだ感じの男達7人。

 「ほう、大口を叩くだけあって肝は据わっている様だな」

 「いやいや、恐いから足が竦んでね。良く来たな、此処が死に場所とも知らず」

 黙って腰の剣を引き抜く男達の頭を瞬時に凍らせていく。
 声も無く首から上を真っ白にし、朽ち木の如く倒れる男達を二人組が目を丸くして見ている。

 「お前達も死にたいか? 其れとも俺の質問に答えるかどっちがいい」

 足が震え歯がカチカチと鳴る音が聞こえる。

 「返事は、黙っているなら此奴等と同じ死に方をする事になるぞ」

 必死に頷き首を振り手を合わせてへたり込んだ。

 「宿で俺に声を掛けて来た奴の名前は?」

 「ザ、ザンド、ザンドさんです」

 「で、奴は誰に頼まれたのかな」

 「・・・・・・」

 「言わなくても良いけど死ぬ事になるよ」

 「サッ〔サラセン商会〕です。サラセン商会の会長からの頼みは断りません」

 「頼みは断らないって事は、ザンドって奴は普段何処に居るんだ」

 「娼館〔夜の華〕って店に居るか、サラセンさんの傍に居ます」

 「つまりザンドはサラセンの裏仕事専門って事か。サラセンは何をやっている」

 「奴隷商です。クラクフ通りの一本裏通りに看板が掛かっています」

 サラセンの人相を詳しく聞いたら後始末に掛かる。
 倒れている男達の衣服を剥ぎ取り、お宝を取り出すと全身を凍らせて砕いて放置する。
 剥ぎ取った衣服や剣等は二人に持たせて森の奥に向かわせる。

 「こっ殺さないで下さい。お願いします」

 「お前等みたいなチンピラを殺す趣味はないよ。だからと言ってこのまま帰らせる気もない、少し罰を受けて貰うさ」

 途中茂み等が有ると適当に剣やナイフを捨てさせ、野営跡地で全ての衣服を脱がせ、持ってきた衣服共々焼き捨てる。
 チンピラと言えども敵対する奴を生かしておく気は無い、用が済んだ二人を凍らせ砕いて終わり。

 ザンドとサラセンを片付けに街に戻っても良いが、面倒なので後回しにしベースキャンプに向かう。
 魔力をを減らす良い方法を思いつき試す方が先決だ、暫く留守にしていたので手直しし夜に備える。
 ゴブリンの刺身を二切れ連続して飲み込むと、大量の魔力が溢れて来るのが判る。
 未だ痛みと灼熱感は有るが充分耐えられる、初めて食わされた時に比べれば大分馴れた。

 体内に溢れる魔力を使って、魔力を纏う練習を思い出し体内を巡る魔力で身体の表面を包む。
 身体に纏わり付いた魔力は瞬く間に拡散していくので、拡散する魔力を次々に追加すると、体内に溢れる魔力が下がっていくのが判る。
 やっぱりな、ラノベを参考に魔力を纏って云々を信じて練習した時に魔力が拡散し、身体強化など出来ないからと諦め放置した俺が馬鹿だった。
 この方法なら氷塊を撃ち出すなんて面倒な事をせずに、簡単に素早く魔力を下げる事が出来る。
 月夜の亭に泊まっていても、魔力切れを起こして魔力増大を図れるってもんだ。

 後は氷結魔法を使って身を守る練習と、気配察知が今回の課題だ。
 日々魔力放出と大小の防御氷壁に、アーマーバッファローの時に失敗した足止め用の障害物作りに励んだ。
 二月が過ぎハイゴブリンの心臓は残り一個になり、心細いので冒険者ギルドでハイゴブリンの情報を聞きに街に戻る事にした。
 序でにザンドとサラセンの事も知りたい。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 夜の華・・・ね。
 娼館と聞いたが三階建て、一階はバーにでもなっているのか表まで嬌声が響いている。
 ネオン代わりのお姉さんが二人、出入り口の横の椅子にだらしない姿で座って入る。

 「ちょいとお兄ちゃん、あんたにゃ未だ早いよ」

 「気にするな、用が有るのは男だ」

 「やだ、あんたそっちの趣味なの」

 「ああ、ザンドって野郎を愛してるのさ。殺したいほどにな」

 女の顔色が変わった、もう一人の女が何気なさそうに立ち上がり中に入って行く。
 黙って女の後を追って中に入ると壁際にいる男達の視線が突き刺さる。
 女が何か合図をした様で、男達の気配が変わる。

 「小僧何の用だ」

 「ザンドは居ないのか? 奴に伝えろ! もう少しマシな奴を寄越せってな、弱すぎて話しにならん」

 左右の壁際にいた奴がのっそりと近づいてきたので、ソフトボール大の氷球を腹に撃ち込んで吹き飛ばす。
 嬌声が消え静寂がテーブルを支配すると、女達は身動ぎもせず客も黙って俺を見ている。
 血相を変えた男が五人懐に手を入れて近づいてくるが、皆途中で足が止まる。全員太股に畳針を模した氷の針、アイスニードルが突き立ち痛みに顔を顰めている。

 アイスニードルは対人戦用の秘密兵器だ。
 太さ7~8ミリ長さ15センチ程の氷の針で、突き立ったら魔力を抜き溶けて存在を隠す様に練習した。
 此れで殺す事も可能だが、抵抗を止めたり動きを阻害する為に開発した。
 腕を伸ばして標的に向ける事無くイメージだけで撃ち出す事も楽にでき、ホーンラビットを獲るときにも重宝している。

 「死にたくなければ動くなよ」

 そう言ったとき、奥の扉が開いてザンドが姿を現した。

 「よう、ザンド。もう少し腕の立つ奴を寄越せよ。弱すぎて退屈だよ」

 「てめえぇぇ、奴等はどうした」

 「野獣か魔物の腹の中だろうな。今日はお別れにきたんだ」

 「街を逃げ出すのか?」

 「いや、お前が死ぬ別れの挨拶に来たのさ」

 そう言って奴の胃袋を凍らせてやった。
 俺の言葉を聞いて訝しげな顔になったが、直ぐに其れ処では無くなったのか腹を抱えて蹲り苦悶の声を上げる。
 胃袋一つ凍れば、周囲も冷えるし血流も滞って程なく死ぬだろう。
 フロアを挟んだ向こう側でザンドの苦悶の声が段々小さくなっていく。
 用心棒も女も固まったまま俺とザンドを交互に見て青い顔をしている。

 「仇討ちがしたけりゃ何時でも来い、俺の恨みを買った奴はザンドの様に死ぬ事になるだけだぞ」

 用事は終わった、夜の華を出て常宿のホテル月夜の亭に向かうが、誰も追って来ない。
 俺が恨むだけで相手を殺せると知れ渡れば、裏社会の人間は俺に近づかなくなるだろう。
 呪詛殺のハルト・・・呪殺師・・・ゴブリンキラーより格好良いけど中二病臭い、誰もが憧れる二つ名がないかな。
 俺をゴブリンキラーと名付けたギルマスの野郎は、何時か尻の穴を凍らせて痔にしてやる。
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