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二章 あいつの存在が災厄
ᛈᚢᚱᛈᛚᛖ から ᚢᛖᚱᛗᛁᛚᛁᛟᚾ に 愛の護り を。 壱
しおりを挟む僕に物凄く執着して、ヒトをやめさせるくらいの愛情を注ぐこいつは、本当に嬉しそうに愛おしそうに僕を見る。
「これでお前の憂いは無くなり、無理をする必要などなくなる」
そう言うとワガママ過ぎる亜神様は、にっこりと笑った。
みんなに土下座をしたくなった。(鬼族の皆様ホントにすみません!)
姉と夫のしてしてくれたとんでもない事に疲れた僕だが、おかげで自分が悩んでいたことがどうでも良くなってしまった。
禁に触れるほどの行為を、『神』の地位にいるふたりが僕の為にしてくれた。
そこまでして僕を大事にしてくれているのなら、もう大丈夫だろう。
僕に向かってご褒美を待つペットの様な「えらい?褒めて!」というような顔をしているので、とりあえず頭を撫でてやる。
こいつの頭を撫でながら、これから先のことを考えると頭が痛くなったが、朱天はずっとニコニコとして大変機嫌が良い。
そんなこいつに絆されて僕はついこんなことを呟いてしまった。
「…お前がここで、【域】で過ごす事で楽になるなら、僕はずっとここで過ごすことになっても構わない」
体調などに問題が出れば訴えれば良いだろうし、 自分から申し出るのもなんだが、今のこいつを見たら楽にさせてやりたい。
そう思った。
それに事故のことも怖い。
こっちはなんとかしないとほんとうに危ないと思う。
僕が外に出ることで何か問題が起これば、こいつは強引に世界を書き換えかねない。
僕のことも勝手に色々と変えてくれちゃうやつだから、絶対にまたやる。
それはちょっと困る。
「親父は母上を閨に閉じ込め【域】に監禁している」
大嫌いな父親のことは話すことさえ嫌なのか、眉間に皺が寄りブスっとした顔になった。
(うん、あの方がもう何をしていても僕は驚かない)
「まだヒトであるお前には些か辛いゆえ、それは出来ぬ」
すぐにでも了承して僕を監禁しそうだが、こいつはそうではないそうだ。
(お前は嫌っているけれど結構似たもの親子だから、いつかしそうだけどな)
そんな僕の予想は見事に当たる。
「お前は俺と番となったが、未だ母上の様な猛烈なΩの薫りを垂れ流す」
(ひとのことを公害みたいに言うなよ)
「しかし、お前が至れば俺も同じことをするだろう。お前を俺の閨に閉じ込めたい」
( 閨に 監 禁 す る という予告をいただきました …)
その言葉はやっぱり僕の予想を裏切らない。
朱天と番になり、こいつの匂いにしか僕は惹かれないのに、何故か未だにαや男を誘う匂いがするらしい。
それもあり、あまり外に出したくないらしい。
【青】でも結界に軟禁生活をされていたから、僕はそこまで不満はないけど、外歩きくらいはしてみたい。
はじめての独り歩きはこいつが台無しにしてくれたし。
「お前に手を出すやつは、容赦せぬ。
八つ裂きにしても足りぬゆえ、その魂まで喰らうつもりだ」
その目は真剣でとても危ない。
実際に実行できる力もあるから恐ろしいが、その愛にゾクゾクしてしまう。
(僕はなんでこんなに恐くて怖くて危ないやつに惚れてしまったのか?)
朱天と僕のはじまりは本当に酷かった。
いきなり誘拐して、閨に連れ込まれて手籠めにされた。
了承も得ずに勝手に番にした。
【華】を与えて伴侶にもしちゃうし、孕ませて強引に娶った。
兄弟惨殺から給餌された一件はトラウマになりそうだった。
おまけに勝手にヒトまでやめさせた。
挙げたらきりがないくらいの我儘で、自分勝手に色々するやつだけど…
僕はこいつに惚れてしまったし、もう既に旦那様だし、お腹の子の父親だ。
もうこいつに墜ちてしまったし、仕方がない。
鬼は愛に生きる者たちだ。
αにしてもΩにしても愛しすぎ、そのものと一緒になりたいがゆえに食べてしまう。
愛しすぎて相手を縛りたいから【華】を与えて側に置く。
こいつは愛に生きてそれに狂っている。
そして僕もそんなこいつの愛を心地よく思い、もっと欲しいと貪慾にねだるようになってしまった。
朱天に与えられた【華】が、愛の告白やさっき抱かれたことにより、活性化して新たに咲いたものや、蕾も出来ている。
それを見たらこんなふうに僕もこいつに何か痕をつけたくなった。
デタラメで壊れた身体機能を持った朱天は、血や肉を食べれば、体が半分くらい吹き飛んでも全然平気だ。
実際にそういったことが折檻であって、つい先日も見たところだ。
僕の項にある噛みあとや全身に咲く青薔薇。
そんな消えないものをこいつにつけたい。
まだ【血の伴侶】の誓いは思いつかない。
母の事もある。
この事はその最期を知る義母と姉も無理をするなと言っていた。
(ん、姉様……待てよ)
もう一つ朱天に贈れる贈り物の事を思い出した。
今までは自分が『鬼』ということにこだわり過ぎていた。
僕は耳長に育てられた、耳長のお姫様育ちだ。
真名が解放されたからか、それとも朱天のうっかりのあれのせいなのか、先程から妙に頭が冴えてきた気もする。
いつも【華】を与える呪いをしようとすると、酷い吐き気や震えなどの心的外傷症状が出ていた。
でも、あれなら大丈夫だ。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
それを数度繰り返した。
因みにこれは魔術を修める時に学んだ呼吸法だが、気持ちを落ち着けるときに良いからしている。
気持ちを落ち着けてから、朱天にそれを告げる。
「朱、お前に耳長のお護りをあげたい」
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