僕の番が怖すぎる。

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二章 あいつの存在が災厄

朱と紫と黒に白練

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 ご覧頂きありがとうございます。
 この章最後の朱点視点の話になります。朱点と百合の会話が多めです。
 *誤字を修正をしました。会話で繋がりのおかしいところも直しています。
 ───────────


 ◆◆◆


 自分の部屋にあるそれ・・をじっと眺める。

 首を横に傾げ咲くその姿は、犯し難いほどに潔癖で美しい。
 それから薫る甘く、濃厚な香りも俺を歓ばせる。

 お姫様が俺の【世界】に干渉して咲かせたものだ。
 俺の全身にも咲くそれは俺を幸せな気持ちにさせ落ち着かせる。

 生まれ落ちてから縛られ続けた俺を、自由になれと解放した俺の大切な最愛。
 離れることはお互いにとって信じられないほどの苦痛だった。

「ん?僕の【華】を気に入ったのか?
物凄く苦労して顕現させたから喜んでくれたなら嬉しいよ。」

 膝の上で寝ているクロの頭を撫でながら俺に話かける。

「俺はこれをずっと欲していた。お姫様は本当に意地悪だった。」

 こいつは頑なにそれを俺に与えることをずっと拒んでいた。
 何か考えがあったのは分かるが、それに対して色々と言うものも多かった。
 母上でさえ親父にした内容を教えて促したと聞く。

「お前をそれ以上縛りたく無かったんだ。
それに【誓約血の伴侶】は大きな代償を捧げるれる呪いだから、見返りにお前に与えられるものも大きい。」

 真剣な表情で俺を見つめるお姫様。
 ただただ俺のことを考え控えたと言う。

 俺のしたことも相当だが、こいつのしたこともなかなかだった。
 物事に殆ど動じないあの親父でさえ驚き、感情を露わにしていた。

「俺がお前に与えられるものは俺の愛だ。それだけしか持たない。
地位は…申し訳ないがクロに譲ることになった。」

 それを望んでいたかはしらんが、【青】の跡継ぎとして教育され、自身もそれを誇りにしていたから、俺と縁付くことでの生家の利も考えたことだろう。
 それを裏切ってしまったことを謝る。

「僕を見縊るなよ!僕はそんなものはどうだって良い。
お前の愛に報いたかったからだ。
僕がしたかったから与えた。
縛られているお前が嫌だから解放した。
この子に…黒にも同じ思いをさせたくないから動いた。
………それだけだ。」

 俺の言葉に怒り、その感情のままに俺にぶつける。
 黒を起こさないように配慮している大きさの声だが、俺にはとても大きく聞こえた。
 俺や子を想うその言葉に胸が熱くなる。

 こいつは【紫】の中に秘めた【赤】の苛烈さをこういった時に垣間見せる。

「僕がお前に言わなさすぎるからそれで不安にさせたならごめん…
最近は【交心テレパス】で分かったりしていたから…
あれだけ姉様に言われたのに、僕らはまた会話が少なくなっていたな。」

 俺の失言に怒り、今は落ち込んでいるお姫様にまとまらない気持ちを吐き出す。

「すまん、そんなつもりではなかった。
お前の望むものを与えられているのか不安になった。
俺は生まれや在り方から他者の気持ちが良く分からん。」
「お前は生まれついての『神』様だからな。
うちの姪っ子を見ても思ったけど、それは仕方がないだろう。
でも、今はこんなふうにちゃんと話してくれるようになった。
僕が亜神になったからかな?それなら嬉しい。」

 俺と語ることを望んだ。
 その言葉に今まで我慢していたものが溢れてくる。

「…身体も酷く頑丈で持つも大きい。みなが俺の持つ力に驚き、怯える。」
「この子が泣いたりした事をすぐにわかって、駆けつけてくれただろう?
僕も吃驚したけれど、悪いことばかりじゃない。
怒った僕がぶん殴っても平気な顔をして許してくれるしな。
でも、呪いの垂れ流しは迷惑だからあれだけはやめとけよ!」

 (俺がずっと悩み苦しんできた沢山のことをお姫様に伝えたい。)

「欲するものも肉や血だけでそれ以外も食うが、知っての通り味に関してはほぼ分からん。」
「お前は好みが無さ過ぎて僕は困惑していたからな。今は僕ばっかり食べてるけど。」

 (色々と周りと違い過ぎ受け入れられない俺という存在。)

「少し前までは性別すら曖昧でわからなかった。」
「今は僕の事を滅茶苦茶に抱いて好きにしてるだろ。
この子だってちゃんと生まれたんだからお前はオスだよ。
………たまにメスになるけど。」

 (伴侶や番なんて夢みるのは無理だと思っていた。)

容姿容れものの美しさに惹かれ寄ってくるものも多かったが、それは心が伴わなかった。
一部は本当に俺を愛していたかもしれないが、俺の力に耐えられず膝を折るものばかりだ。」
「僕もそうだからよくわかるよ。
お前の容れものもお前の綺麗なあか中身も僕はどちらも好きだ。
それに今は僕が側にいるだろ。お前を怖れない【紫】が。」 

 (美しさや力に惹かれても最後には皆、怯え恐れ去っていった。)

「あまりにも他と違いすぎるそんな俺を本当に愛し、求めてもらえることなどあるのかと、悩み続けてきた。」

 (様々なものからその手を出され、愛を与えられてはいたが、虚しかった。)

「そしてそんな俺が与える愛も、お前にとって好ましいものか不安だった。」
「馬鹿だなお前。いつもみたいに「俺の愛は凄い。」とか言えばいいのに。
誰も真似できないくらいの、重すぎて溺れてしまいそうな愛をもらっているから安心しろ!」

 次々に俺の苦悩に対して答え、諭すお姫様。
 最後に幼い俺が嫌がったそれを強いられることを謝りたい。

「外に出ることも適わなくなった。」
「お前が笑ってくれたら良いよ、アカ。」

 (今、その名で呼ばれると、幼い頃父母にした様にお前に甘えてしまいたくなる。)

「俺でさえ嫌がったことなのに本当にすまない…ムラサキ。」
「それにずっとじゃない。」

 そう言うと徐に俺の手を取り、自身の角を軽く触らせる。

 (『それは敏感すぎる!』とここだけは触るといつも怒るが珍しい。)

 黒を起こさないように静かな声で、ゆっくりと俺に言い聞かせるように話す。

「お前と同じ金色のこの角。」

 次に左首もとにある俺の【華】に触れさせる。

「僕の全身に咲いて枯れるどころか毎日新しく咲きそうなこの【青薔薇】。」

 (「派手!」と言われていたがお前の白い肌によく映えて美しい俺の分身。
 もっと咲かせたくなり、いつもお前に怒られているな。)
 
 少し躊躇したがそのまま項にある俺の噛みあとに導く。 

「それと未だにオス共に迫られるけど、お前が噛んでくれたこれが虫よけになってる。」

 (これを見ると俺は本当に嬉しくなる。お前も今は喜んでくれて何よりだ。)

 俺の手を離して、眠る我が子の頭を撫で、見つめる銀の瞳。

「この子も…黒も与えてくれた。」

 お姫様の膝で眠る俺たちの大切な子。
 やっと会うことが出来たことを喜び、先程まで随分はしゃいでいた息子。
 見つめているその目に涙が浮かび、潤んでいる。

 黒から視線をこちらに向け、俺を見て言葉を紡ぐ。

「恋も愛も諦めていたのにそれを知った事もお前のおかげ。
皆から「姫」と呼ばれるのは複雑だけど、お前から「俺のお姫様」って呼ばれるのは嫌じゃない。
お前の欲しかった『俺のお姫様』を信じろよ。」

 目の前に居るお姫様はそう言うと目尻を拭い、真っ赤になった顔を俯ける。

「…ちょっと言ったことと顔が恥ずかしいから、続きは耳をかせ。」

 その言葉に頷き、近づいた俺の耳元で呟く。

「なぁ、朱天シュテン…お前は理想のお姫様を手に入れたか?
本当に僕で良かったのか?僕だって不安なんだ…
思い込みの激しい僕は、お前たちを想って色々したし、昇神も急いで果たした。
それでもこれからのことは怖い。
永遠なんてまだ十六の僕には到底想像もつかない。」

 俺も百は越えているがまだ父母たちの様なものではない。
 まだまだ互いに年若く未熟だ。

「そうだな、俺にもそれはわからぬ。
だがな、お姫様。お前は俺の理想の伴侶だ。お前は俺が望みずっと欲した存在だ。
そのことは絶対に違わん。」

 そう伝えるとお姫様は

「うん…ずっと僕を愛して可愛がらないと許さないからな。ウッ…
黒のことだって大事に守ってやってくれよ…うう、う」

 涙ぐみ掠れた、震える声で呟いた。

「どんなことがあっても愛し続けると誓った。変わらない愛をお前たちに捧げる。」

 泣き始めた俺の最愛の背を優しく撫でてやる。
 黒はまだ膝の上で眠っているが、お姫様がこんな状態では起こしてしまうかもしれない。

 その姿に幼い日のことを事を思い出す。
 遠い昔、今とは逆に俺がこの部屋から外に出た日のことを。
 こんなふうに涙を流す母の姿を思い出した。


 ───今日からあなたをこの【部屋】の外に出します。』

 母は告げた。

『外に出ても苦しい思いばかりで悩むことでしょう。
朱、覚えておきなさい。
私も旦那様もあなたのことを大切に思っています。』

 いつもの様に俺を抱きしめ頭を撫でる母。
 母の声はくぐもり、泣いているようだった。

『…それにね朱、あなたはいつか理想のお姫様を手に入れるでしょう。
私にとっての旦那様の様なそんな存在が。
お姫様とあなたはずっと仲良く共にいます。』

 あのときは幼くてその言葉が良くわからなかった。

『朱…私と旦那様の可愛い子。
お前を私も父も守るから…許してくれ。』

 そう言って俺を縛る【朱点】を与えた。────


 (母上も言っていたが、お前は俺自身が望んだからのものだと断言できる。
 あの時の母上のようにお前も俺や黒を想って泣いている。
 こんな時に俺はどうすれば良いのかわからない。)

「う、う…うう、ごめんね黒。ほんとにごめん。
僕はお前のことがあの時本当に頭から抜けてしまったんだ…うう、…グス。」

 とうとう、ぽろぽろと泣き始めたお姫様に俺は困惑する。

 (他者との付き合い方のわからない俺には色々と難しく、両親も普通とは程遠い。
 夫夫ふうふの在り方もわからないが、気持ちだけなら伝えれる。)

「お前しか要らない。お前にしか惹かれない。お前にしか勃たない。」
「う…ん?、お前なぁ、最後のそれはちょっと微妙だぞ。でもまぁ、嬉しいよ。」
「愛し、愛されるものの『肉』はとても佳く、堪らなく美味い。」
「…それも微妙だけど、ありがとうな。」
「難しいこともあるが【お前を喰い殺さない】それは絶対に守る。」
「そういう欲求で本当に難しいときはちゃんと言えよ。
いつもだと困るし、前みたいにあそこまでされたらきついけれど、腕くらいなら血をくれたら生えるから。」

 (お姫様もいつもの様に元気になってきた。)
 
「母上や親父も昔、俺を【域】で育てていたときはそうしてくれた。
俺は愛するものの肉が大好きだ。それを狂おしく求めてしまう。」
「そっか。黒もそうなるのかな?」
「親父に似ているからそうかもしれんな。血も美味くてたんと飲んでしまう。」
「僕もお前を沢山飲むからお互い様だ。」
「【しゅ】で縛っても、前のように我を失った俺はそれを破ることもある。
【お前にしか勃たない】もだ。」
「それは言うなと何度も言っただろうが!……仕方のないやつだな、お前は。」
 
 まだ少し涙を溜めたお姫様は溜息を吐き、怒りを抑えつつ心底嫌そうに俺に告げる。

「そんなお前に僕は提案する。」
「なんだ?」
「姉様が教えてくれたとんでもなく怖い、誓いの呪い…【指切りげんまん】です。」
「指切り???切っても俺やお前はすぐに生えるだろう?」
「違うんだよ、これはそれを違えたときにとんでもない罰を与えるものなんだ。」
「なるほど。」
「約束を絶対に破りたくないという、ワガママな朱天くんにオススメです。」

 なんとなくだが先程の俺の失言で、また怒ったお姫様のすることに嫌な予感がした。

「…そうか。」
「良いか、僕のするようにお前も同じことをしろ。」
「わかった。」

 そう言うと、小指を残し右手を握り込む。
 同じように俺もする。

 次に俺のその残した小指に自分の小指を絡めた。

「どうするんだ?」
「僕の言葉に続け。」

 真剣な表情のお姫様に気圧されて頷く。

『【指切りげんまん、嘘ついたら】…』
『【指切りげんまん、嘘ついたら】』

 軽快に拍子を取り、結んだ手を揺らしながら呪いを紡ぐ。

『【血吸でボコる~】』

 (それは流石に俺も勘弁なんだが…)

「オラ、言えよ。」

 少し低い声で俺を恫喝する。

『【血吸いでボコる…】』

 仕方がないので続ける。

『【指切った】!』
『【…指切った】。』

 嫌な予感のする呪いだが、効果はとても高そうだ。
 既に俺はそれを食らいたくない。

「これで朱天くんは約束を破ったら、とんでもなく怖いお仕置きが待っています。」
「あぁ、そうだな。」
「ッぷ、ははっあはは…」

 笑っているお姫様。涙も止まったみたいだ。

「どうした?」
「お前も暗い顔をしなくなった。良かった。」
「そうか。」

 (それなら良かった。
 お前が俺の笑顔を好むように俺もお前が笑っていると嬉しい。)

「ん…、ぅん、あ…ちちうえ?」

 俺たちの笑い声で黒が目を覚ましてしまった。

「ははうえ?!なんでないてるんですか!
ちちのアホ!もうははうえをなかさないっていった!!ウソつき!!!」

 泣いている母親を見て怒り、俺に詰め寄る息子。

 (また俺の事を「ちちのアホ」と母上の真似をして言っているな。)

「いいえ黒、母は、可笑しくて涙が出たのです。
お父様をそんなふうに言ってはいけません。」
「ははうえ…ほんとうですか?」
「ヒトは可笑しいときも泣くのです。」

 母親に諭され、大人しくなる息子。
 黒は俺を敵視していて以前に「ははうえをなかせたらゆるしません!」といっちょまえに言った。
 そんな息子を抱き上げ、いつかの父が機嫌の悪い俺にしてくれたようにあやしてやる。
 そして、俺の誓いを話す。

「俺は百合を愛している。これを泣かすことはしたくない。黒、お前もだ。」
「ほんとう?」
「何度でも誓う。俺はそれを違えない。俺はお前たちを愛し、守る。」

 俺にできることはそれくらいだ。
 愛を注いで大事にする。
 それくらいしか出来ない。 

「うん!」

 可愛らしく笑う息子の頭を撫でてやる。 

「ちちうえもいいこ!」

 同じように俺の頭を撫でて

「えい!」
 
 俺の角にも触る黒。
 黒の頭には俺と同じ金色こんじきの二本の小さく可愛らしい角がある。

「黒!それはいけません、お父様は…痛くありませんが…
私など他のものは痛いのでしてはいけません!!」

 (俺も昔はこのようであったな。
 親父に甘え、角を触り母上に叱られていた。)

「…ごめんなさいちちうえ。」
「構わん。」
「旦那様!黒の教育に良くありません!!」

 (そして親父も俺と同じような事を言って母上に叱られていた。)

 口論する俺たちに息子が声をかける。 

「ちちうえ、ははうえ、おとうとはいや?」

 じっと俺たちを見つめ可愛らしくそれを強請る息子。

 (仲の良い従姉が可愛がる様子を見て羨ましくなったと聞いた。)

「…時期が来たらです。」

 (お姫様はまだ落ち着かない状況に嫌がっているが、
 黒の話を聞いた父や母もそれを望んだ。
 俺も黒の願いを叶えてやりたい。)

「構わんだろう?親父も母上も欲しいと言っていたが?」

 (俺自身もそれを望んでいるが…)

「旦那様!」
「俺はいつでも良い。だが、沢山のお前との子が欲しい。」

 こればかりはお姫様に負担がかかるので強要するわけにも行かない。
 あくまで希望ということだけ伝える。

 (しかし、黒がまた泣きそうな顔をしているな。
 こいつの癇癪は酷い。止められてはいるが、俺が産むか?)

「ッ!仕方ありませんね。」
 
 なんとなくそれを察したのか少し慌てた口調で俺を睨む。

 (「絶対にするなよ!」という圧を感じるな。)

「ほんとうに?!」
「もう少し先ですけどね。」
「ありがとう、ははうえ!」
「もう…全く旦那様もお前もワガママで私は困ります!」
「だが、お前も欲しいと言って俺に子種を強請った。
『僕のはらにそれを寄越せ!ぶちまけろ!!孕ませろ!!!』と言っていたが?」

「こだね?はらませ???」「旦那様ッ!(お前は後でおしおきだ!)」

「ハハハ…良かったな黒。(血吸はやめろあれは痛い。)」
「ふふふ……(痛くなきゃお前はわからんだろうが!)」

 お前も黒も、それから生まれるであろう子らも、
 沢山の俺とお前の子に囲まれて、こんなふうに共にいたい。

「えへへ。ちちうえもははうえもたのしそうでわたしもうれしいです。」
「私とお父様は仲良しですからね(黒に免じて許してやる。)」
「そうだな。」


 みんなで仲良く暮らせたらと思う。
 お前に怒られ、叱られ、それでも今みたいに笑って────


 ◆◆◆


 ───俺の部屋にあるそれ。
 俺を落ち着かせるそれは、未だ美しく咲いている。

 あいつが居ないのにこれはずっと美しく在る。 

 花瓶に生けられた一本の【庭白百合】。
 お姫様の持っていた【華】だ。

 百合、俺の大切なお姫様。
 俺はお前が恋しい。

 あの時、【指切りげんまん】をしたのに、お前は俺を罰することなく逝ってしまった。

 お前の匂いも、お前の体も、お前の味も、全てが恋しくて仕方がない。

 ギシ…という音と共に衣擦れの音もして、この部屋に入ってきたあれの気配がする。

「…様、我が君!」

 俺の世話をしに来る【白】の魂。
 まだ幼いが、強い力を持つオスの鬼の子だ。

「今日こそは御髪を整えさせてもらいますからね。ええ、絶対にいたします!」

 強い口調で俺に伝えるとそのまま櫛と鋏を持ち近づいてきた。
 
「構うな放っておけ。」
「そうも参りません。」
「要らぬ。」
「いいえ、母と父から僕が叱られます!」

 仕方なくそれを認め任せる。

 俺の髪を梳り、整える【白】の魂。

 これが長く俺のお姫様の元に留まり、その側仕えの『蒼』に執着していた様子を思い出す。
 今も変わらずそれに執着を持つこれに尋ねる。

「お前は『運命』と番うのか?」

 数年前に見つかったそれと許嫁になったとこれの母から聞いた。

「ありえませんね。あいつから持ちかけられたんで、ちょっとした約束で繋がっているだけです。」
「そうか、だが抱いたり、飲んだりしているなら気をつけろ。
『運命』の肉は堪らなく美味い。お前も肝に銘じておけ。
俺に…親父や叔父上に似ているお前は危うい。」
「………覚えておきます。」

 これが運命と番わないことはわかっているが、永らく迷い続けるこれが哀れに思える。
 垣間見た未来では俺とお姫様の子と番っていたこれ。

 そろそろ俺が動き助けてやらねばならんかもしれぬ。

「お前も俺も血の濃いαの血が執着を齎すんだろうな。」
「僕には判りかねます。」


 我が子よりも余程濃い血を継いで生まれたこれにそう呟き、俺はまた庭白百合を眺めることにした。

 
 ───────────
 次からは三章の話と二章の手直しした話と追加した他視点なども投稿します。
 当初は百合視点のみでしたが三章からは百合と朱点+他視点などになります。
 人物紹介などもややこしくなってきたので整理して、一章と二章部分のネタバレと時系列をまとめたものに分けました。
 三章も引き続きお付き合い頂けたら嬉しいです。
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