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1章 『勇者』は失業の危機にある。

就活中に召喚(リクルート)されました。

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 ───俺は就活中に召喚リクルートされた。


「ランちゃんや、キミは今なんて言うたんかいなぁ?」

 その日俺は『犬』仲間同僚のランちゃんから、衝撃的な事を聞かされ愕然としていた。

「だからうちの魔王様大将に『運命』のお方が現れて、近々ここが閉じられるらしいんだ。
俺は犯罪者で妾奴しょうどだからスメラギ様のところに移ることになる」

 仲間の言うことが信じられず、呆然ともしてしまう。

「でも、あの方が個人的に飼ってるのはお前だけだろう?どうするよナシくん」

 俺に問いかけるランちゃんこと、朱頂蘭シュチョウラン(アマリリスのことやで)は短く刈られた金髪に暗めの赤眼で中性的な美形だ。

 左目元の黒子と彼の種族『鬼』族特有の目尻にある朱いアイシャドウのようなアザ、朱紋しゅもんが似合うエロい顔立ちなのに、なぜか『兄貴』って感じのする男だ。

 180cmピッタリの俺よりも背も高いし、二の腕もパツパツ、腹筋もバッキバキに割れてるマッチョさんで、見事な肉体をお持ちだが、ランちゃん職業は『魔術師』。

 (信じられへんわ~)

 こんな気の良い男前さんなのに何をやったかは知らないが、21歳という若さで既に三年近く犯罪奴隷『妾奴男妾』をやってるそうだ。
 だから去勢されてる種なしのうえに、鬼のαオスの象徴であるこめかみから生える二本の角も斬り落とされている。

 それが最近になって伸びてきたらしく、少し前にどうやら刑期が終わらしいと俺に嬉しそうに語ってくれた。 

 ここでは減刑もあるが、なんと態度により刑期も増えたりする。
 鬼族は長命だからそれくらいしないと反省せず、再犯するから意味がないそうだ。 

 オマケにランちゃんの名乗ってる派手な朱頂蘭なんて名前も、実は本名ではない。
 本当の名である真名まなは刑期が終わるまで奪われていて、返してもらえないそうだ。

 そんな俺のこの世界・・・・で一番仲が良く、俺にしたら珍しくセフレでもない、単なるお友だちのランちゃんは、俺を心配してくれている。

 何故なら……

「う~ん。戸籍なし、資格なし、学歴なし」

 ランちゃんが挙げた俺の身の上は俺が元いた世界・・・・・、現代日本でもなかなかに難しい条件での職探しだ。

「オマケに角なしβ性人族無能力なお前って、どこで働けるんだろうな?」

 それがここだと更にハードルが上がる。
 ここではαかΩでないとなかなか職に就きにくいらしい。

「いややわー、ランちゃん。そないなもんあると思うのん?」

 そう言うと俺はけらけらと明るくのんきな笑い声を上げた。

「無いな!」

 そんな俺をあっさりバッサリ切り捨てるランちゃん。

「おべんちゃらなしに俺を断じるその潔さに、シビれてまうわァ!あこがれてまうわぁ~」

 俺はみんなからほっこりするとか気が抜けると言われる、間延びした口調でランちゃんを褒めてやる。

「お前は呑気すぎないか?本当に大丈夫かぁ?何なら俺の実家うちに頼もうか?」

 明らかに引きつった顔になっているが、俺が心配でたまらないらしく、遠慮のない言葉を吐き呆れてはいても、最後まで面倒を見ようとしてくれている。

 ランちゃんは本当に良いやつだ。

 (犯罪者やけどな)

 そう、俺はこのままではナイナイ尽くしのニートさんになってしまう!
 いや、住むところもないから…ホームレスくんだ!

 (ほんまにどないしよかなぁ?)

 さすがにランちゃんがまだ刑期の途中なのに、彼の実家にお世話になるのは気が引ける。
 だからそれは最後の手段だ。

「おおきに。他を探して無理やったらお願いするわ」
「おう、遠慮すんなよ」

 後宮ここに居るが俺は犯罪者ではない。
 ただの愛玩奴隷のワンコである。

 だからランちゃんみたいに名前を奪われたり、公娼ウリはしてないし、やらされない。

 ───さっきから俺の言うてることがわけわからんて?
 前置きするけど、なるべくわかりやすいように頭では標準語で考える。
 けど、話すんは京都弁やからそこは許してや。
 
 俺の住んでるここは異世界で、人ではない角の生えたヒト、亜人種の『鬼』という種族が支配する国(だと思うんやけど)だ。

 他のところはよく分らない。
 だって俺、ばれてすぐに拉致されて献上されたから。

 (『皇』様っていうめちゃくちゃ怖いお兄様に!その方の後宮でどえらい目にうたんよ!)

 だからこの世界のことなんも知らない。
 それほど興味もないし。

 今の俺はその鬼族の権力者の後宮に住まわせてもらっている。
 というか、敵のはずの魔王様に助けられて、その方に飼われている。

 そんな俺の今のお仕事は魔王様の『オスの性奴隷ペットの犬』だ。

 でも、ランちゃんの言うことが本当ならそれはマズい!

 コトの重大さにさすがの俺も焦りを覚えた。
 何度目かになる質問をまた繰り返す。

「…ランちゃん、でもなそれほんまなん?マジにかいな?嘘ちゃうのん?ガセやない?」
「だからマジにマジだって。何度も言わせるなよ。
孔雀クジャク様が言ってるのを聞いたから絶対だ」

 残念ながら返ってくるのは、その情報がこの後宮を管理するお方の発言であったということ。
 孔雀様はおっかないお兄さんだが、そういう冗談を言わない真面目な方だ。

 (あの方も大概なドSで、この後宮にいる俺ら犬を色々といたぶってはんねんけど…)

 恐ろしい事にいじめっ子なあの方俺より年下らしい。

 因みに物知りなランちゃんによると鬼族の権力者の後宮はいくつかあるそうだ。
 今では使われていないものもあり、存在しているのは……

 一番大きくて有名なのが、オスメス関係なく犯罪奴隷しかいない『牧場ファーム』。 
 そこは俺が拉致られてすぐに入れられそうになった、皇様の後宮でもある。

 (なんでそないなとこに入れられたんかは、もうちょい先で言う)

 次にその皇様のすぐ下の双子の弟君方の後宮で、男のΩメスばかりの『後宮ハーレム』。
 そこの主は双子の皇子。ド変態でΩメスが大好き。しかも彼らは双子で番っているらしい。

 それに皇様の上の妹君の女しかいない百合の楽園が『花園ガーデン』 。
 ここも主である姫君がエルフの国に嫁がれるので、近々『』たちを開放して閉鎖するらしい。

 そんで俺のご主人様の後宮がここ、男のαオスのみの『犬舎ケネル』。
 これら4つが鬼族の皇族の後宮であり、彼らの運営するランちゃんみたいな罪びとや公僕たち公娼の住まう遊郭でもある。

 (公娼でないお気に入りは別殿に連れてかれるか、自分の宮に住まわせるそうで、俺はご主人様それにあたらへんねん)

 ここが閉鎖されるなら、河岸かしを替えようにも、犯罪奴隷のランちゃんはファームに移れるが俺はダメ。
 元が『勇者』な俺は入れるけど…皇様の、あのクソ恐ろしいお兄様のお相手なんて恐ろしくて不可能だからだ。
 ガーデンは女の子じゃないから無理だし、そこも閉じられる。
 俺はΩじゃないからハーレムも無理だ。

 (変態の相手も勘弁やしな) 
 
 となると住むところがない。

 (ほんまにどないしょう。
 難儀やなぁ…次に行くところがあらへん)

 俺は働くのが大嫌いだ。
 成績は良かったしそれで資格も取れたが、勉強はそれほど好きではない。
 めっちゃモテたから容姿も悪くない。

 (もちろん、今もモテとるよ)

 幼い頃からなにかにつけて、人に世話を焼いてもらっているのが当たり前な俺は、のんびりだらだらと過ごしたいヒモ志望だった。
 
 それがこの世界に来て働かなくて良くなったので、この境遇には大変満足していた。
 なのに、近々追い出されるらしい。

「嘘やろ…ムリやわ」

 思わずぽつりと溢れた言葉。
 ランちゃんもウンウン頷いて「お前はソシオパスだからなぁ…」なんて失礼なことを言っている。


「あかん!俺に働けなんて無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!絶対に無理やわっっ!!」


 ───こうして俺は異世界でも就活をすることになったのである。

                                             ◇

 ───俺の名前は梨生りお。姓は渡辺わたなべ
 だからここの皆からは『ナシ』って呼ばれている。
 京都生まれの京都育ちで歳は23。
 こっち・・・に来るまで大学四回(西の方では4年って意味なんよ)の二回目をしてた。
 四月の末日生まれの早生まれだからこのお歳。
 昨年就職内定を貰ったが、単位取りをミスって卒業出来ず、ダブった。

 (雪降ってテスト行かんへんかったら、落したあかんテストやったんよ)

 そんなことをやらかしたら、うちのおっかない爺様に激怒され、大学を出たら『放り出すぞ!』とまで言われた。

 (俺の体質やったら、絶対になかったやろうけどな)

 仕方なくやれやれって感じで再び就活に勤しんでいたある日、誘われて大学近所の川(めっちゃ低水位)でやってた新歓に参加したところ、しこたま飲まされて盛られて集団でヤラれそうになって逃げたら…溺れた。

 ───その挙げ句の果てに気づいたらこの世界やったというわけやわ。

 溺れた時に『神』様らしき人から、俺が『勇者』として採用されて、召喚リクルートされたってことを教えられた。

『魔王』がゴニョゴニョとか、『鬼神』がモニョモニョって言われたと思うのだが……

 (俺、ヨッパーやったし、色々と盛られとったさかいようわからへん)

 だけど俺はめんどいことはヤだし、痛いのも嫌。
 実家は剣道場とかやってて扱かれたが、全然強くないし、寧ろ弱い。

 んなの『無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理っ!』ってことで早々に諦めた。

 (チートもくれへんかったし!)

 貰ったのは相手のステータス見れるくらいのしょっぼいやつだけ。

 (『千里眼』っていうスキルのくせにしょぼい!)

 俺には8歳の頃に死んだ十ほど年の離れた兄貴がいた。
 俺とは父親が違って、俺も混血だが兄貴の父親は北欧系。
 アルビノで神々しいくらいのものごっつい美形だった。

 (リアルエルフなんよ!なんか俺とちごて人間離れしとってん)

 そのうえ頭もめっちゃ良かった。
 さらに運動も出来るという完璧超人でリアルチート。
 性格も良くて俺にめちゃくちゃ優しかった。

 ここまで来ると想像がつくだろうが、俺の初恋は俺のヒーローこと、兄貴だ。
 ちっこい頃に兄貴のお嫁はんになるって言ったら『それは光栄だよ』と前置きして、

『リオ、そもそも兄弟で結婚は無理だし、アメリカと違って日本では男同士もダメなんだよ』

 と真剣な顔で諭された。

 ───その時俺は法律を変えるために政治家になることに決めたんや。

 (我欲からやけど本気やってんよ)

 そしてそう宣言した俺に対して兄貴も

『ならしっかり勉強して法律家にならないといけないね』

 そんなことを言われたから物凄く頑張った。
 めちゃくちゃに頑張った。
 頭がパーンするくらい頑張った!

 でも、そんな兄貴はガチのゲイだ。
 しかも従兄と恋人(!)だった。
 けど、二人とも高校生の時にバスの事故で死んだ。

 うちには従兄も一緒に住んでいたので、すんごいお兄ちゃん子だった俺の二人の兄ちゃんたちはいきなり一緒にいなくなってしまった。

 ───そして俺の兄貴のお嫁生涯はんになること目標は永遠に叶わんようになってしもた。

 だが、兄貴との約束は守り、地元の国立の法学部に入って在学中に司法試験にも通った。

 (それで燃え尽きたんよ……)
 
 ところで、俺の遺伝子提供元であるうちのおかんは、ぶっ飛び過ぎてて常にラリってんの?というようなおひとである。

 でも、子どもたちに対する愛情は深く、セクシャルマイノリティに対する差別は全くない。
 それどころかおかんはそれを人生の研究課題としているくらいだ。
 現在は俺の母校で教鞭を取っているし、作家さんでもある。

 俺はおかんの出した本で洗脳教育された。


 BL本で。


 (そやさかい俺は男のαオスばかりの後宮こないなとこでも『生BLひゃっほう』って感じや)

 それにもう一人の遺伝子提供元のおとんもバイで、同性婚もしていた。

 そんな俺の性的嗜好は家族に似たのかゲイ寄りのバイで、既に童貞でも処女でもない。
 兄貴に捧げるつもりだったが、兄貴に似ていた先輩に誘われ捨てた。

 ぶっ飛んでるおかんとクズいおとんの影響なのか、俺はヤリちんでビッチなんて言われている。
 学食で俺を争い女と男に教員に職員も混ざり、凄まじいキャットファイト?が起きたこともあった。

 (みんなフリーセックスって知らへんの?
 俺、ヤリちんでも尻軽でもあらへんで)

 目標を失った俺はヒモ志望の腐男子になっていた。
 掃除洗濯は苦手ではあるが不足なく出来るし、料理は得意だ。
 婆様に仕込まれたし、趣味で料理教室にも通った。
 お菓子もパンも作れる。
 
 (おかんは俗に言うメシマズやし、作らへん)
 

 ぶっちゃけて言うが、俺は素晴らしく美しい!

 ………………兄貴には負けるが。


 美形だが兄貴と違い近寄り難いところがなく、困り眉でなんとなく庇護欲を誘ううえに、なんか不埒なイタズラをしたくなるエロさがあるそうだ。

 (俺、背ぇが180cmもあるのにあんたらおかしないか?)

 おとんがロシア系なので、兄貴と同じで色素は薄いが髪は黒系でおかん譲りのゆるい天パ。
 アジア系混血にありがちな肌が女より白くきめ細かいタイプ。
 大きな二重の目も眠たげでこちらもエロいと評判だ。

 (睫毛が多すぎて濃ゆーーいけどな)

 何よりも自慢なのが綺麗なエメラルドグリーンの瞳!
 それ目当てで誘拐される程美しく、カラコンや眼鏡なんかで隠さないといけないくらいだった。

 あまりの美幼児っぷりにみんなが【魅了】され、幼稚園のお遊戯会で白雪姫役をしたくらいで、もちろん兄貴からも絶賛された。

『お前なら『傾国』というものになれそうだね』

 様子のおかしい父兄から俺を庇いながら、そう言って褒めてくれた。

 そんなんだから昔から女はもちろん男にも妙にモテた。
 モテ過ぎて、生まれた直後から何度も何度も何度も……、数え切れないくらい誘拐されるほどモテた。

 でも、そんな目に遭いそうになっても、いつも鬼の様に強い兄貴が助けてくれたから俺は無事だった。

 意識せずに人を堕としまくるから、ついたあだ名が『堕天使』。

 (ありえへんセンスやんな?わろてもええよ?)

 あちらで溺れる前に飲んだ酒にも、なんか色々と入っていたに違いないが、求められ過ぎた故に、巻き込まれた事件が多すぎて、薬なんかにも慣れしまった俺の失態だった。

 (溺れんでもこら死ぬかもって思たくらいのもんを盛られた)

 セフレも沢山いたが、今の俺は魔王様一筋。
 あの方は俺を一棒一穴主義に変えた。

 理由は色々あるが、ご主人様が俺の死んだ最愛の萌えである、リアルチート野郎な兄貴に良く似ているからだ。
 俺を過保護に守り、めちゃくちゃに甘やかしてくれるところや、めっちゃ美形なとこに惚れた。

 神々しいまでに凛々しく美しいかんばせ
 兄貴と同じか、それ以上に綺麗なプラチナブロンドが素晴しい!

 (俺、えらい面食いなんよ)

 もちろん性格も素晴らしく良い。

 下々の者からは崇拝されるくらいに慕われている。
 穏やかで寛容でお優しく、常に微笑みを絶やさないお方だ。

 (一部からはとんでもない鬼畜とか言われとるけど、そないなことあらへんで?)

 この世界に来てこのケネルでハーレムを作りあげた俺の不品行を咎め、真剣に叱って下さったのも兄貴以外ではあの方がはじめてだ。

 (爺様は頭ごなしに叱るし、おかんはぶっ飛んでるし、婆様はお姫さんやさかいな)

 ───俺がご主人様に完全に堕ちたんはその時や。

 ご主人様のお住まいはお父上とお母上のいらっしゃるお邸か、ご主人様の主人である『旦那様』の宮で、ここにいつもいらっしゃるわけじゃない。

 召喚されて間もなく、この世界の右も左も分からずにいた頃、ホームシックになった俺は一人寝が寂しくて、つい…犬仲間を寝床に連れ込んだ。
 それでゴニョゴニョしていたら…喰われかけた。

 食べ物として。

 (鬼ってそれはえらい コ ワ イ 種族なんよ)

 このケネルにいるのは犯罪者のオスばかり。

 鬼は主食が同族の血肉でオスは肉を、メスは血を好んで摂取するそうだ。
 というか寧ろ摂らなければ飢えて、渇いて、死ぬらしい。

 (ご主人様もえらい美味そうに俺の血を飲みはるんよ。
 俺のんはなんとも言えん味がするらしいわ)

 それで性欲も旺盛だから、ヤリながら喰ったりする奴もいるらしい。

 ここにいた奴らの中にも、そんなちょっとヤバい奴がいて、俺はそんな奴らにとってごちそうだった。
 ランちゃんが奴らを止めて事なきを得て、駆けつけたご主人様に助けられた。

 開口一番に『貴様は鬼のオスを煽るなんてアホなのか?死にたいのかこの馬鹿『犬』っ!』ってそれはもうめちゃくちゃに叱られて……

 結果、俺は虚勢され前にも後ろにもピアスとしっぽ貞操帯がつけられた。

 (呪術的なもんらしく肉体の欠損はないけど、ピアスとプラグは勝手に外せないんよ)

 そのうえ穏やかな普段と大違いのえらい剣幕で

『…犬野郎。貴様はどっかのメスを孕ませたりはしてはおらんだろうな?』 

 なんて俺を壁ドーンってして、冷ややかに見つめる瞳に『ズッキューン!』ってやられてしまった。

 (ご主人様は俺より20cmくらい背ぇ低いけど、あん時はえらい大きゅう見えたなぁ…
 あかん!思い出したらおッキしてきたわ)

 その時そこまで俺を愛してくれているらしいご主人様に、俺は惚レテシマッタンヤワー!

 (恥っずいわぁ!)

 それに異世界人な俺はこっちの食べもんが食えない。
 排泄とかもしなくなったんだが、やっぱりごはんが食べたい!

 (とあるもんは平気やけど…あれは食べもんとちゃうさかいな……)

 ご主人様に手づから与えて頂くか、ご主人様の主人である『旦那様』なんかと一緒に頂く御饌みけっていう食事は平気で、いつもご主人様に『あ~ん』ってしてもらってた。

 こんな感じで毎日幸せに暮らしていたのに、この平和がいきなり終わるだなんて辛い…ツラすぎる!

 それに俺はまだ愛しいご主人様に抱いてもらったことがない。
 だから本当はまだ性奴隷ではない…

 他の犬たちはご主人様の伽に呼ばれているのに、俺には手を出してくださらない。

 確かにご主人様の魔王様はたいへんご立派だから、躊躇われるのもかもしれない。
 でも、俺もなかなかに経験豊富なおけつの持ち主だ。

 だからもし、ここを出て行くことになるのなら、最後にご主人様のお情けを賜りたい。
 そして出来ることなら変わらず俺を飼っていて欲しい。

 叶うはずのない願いだが、俺だけを見て…愛でて欲しい!
 でも、ご主人様はみなに平等に寵を与えなくてはいけないご身分だ。

 おれの愛しのご主人様は現在17歳。
 俺より六つも年下の高校2年生でいらっしゃる。
 こちらでも法律上はあと一年結婚も許されるお歳ではない。

 俺から手を出したら淫行で引っかかる。
 どちらからでも引っかかるが一応は守りたい。

 (俺、法律家のたまごさんやし)

 結構な年下の上に種族も違う。
 でも好きで仕方ない!

 そんな俺の気持ちを知るのはずっと相談にのってくれていたランちゃんただひとり。
 だからランちゃんは俺のことを心配してくれていた。

 召喚されたここは異世界だが、俺の住んでた世界に限りなく近い。
 魔術に呪術なんかもあるし、モンスターにエルフもいるし、俺と同郷の転生者だってゴロゴロいる。

 俺が好きだったBL設定のオメガバースのある世界だけど……
 例え『勇者』であっても俺は平々凡々なβ一般人で、ご主人様は麗しきα様ノーブル
 しかもその頂点にいらっしゃる最上位貴種皇一族のおひとりだった。

 ───そやさかい俺がご主人様の『運命』の番様になるなんてことは、絶対にありえへんことやった。



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