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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第45話 天空族解体
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【前書き】
今回は残酷なシーンがあります。苦手な方は読み飛ばしてください。
―――――
そこには黒焦げになった二体の天空族の亡骸が転がっていた。煉獄のカルマンだけはまだ息がある。さすがに戦闘レベル191は伊達ではないということか。
「お師匠さま、ごめんなさい」
「やってしまったことは仕方がない」
ビアンカは目を潤ませてフレッチャーに謝罪した。
フレッチャーとしては生きたまま捕まえて、実験台にしたかったようだが、そもそも現在は逃亡中なので悠長に実験している余裕はないのだ。
「天空族が弱過ぎたから悪いんだよ。お姉ちゃんのせいじゃない」
「そう言うことだビアンカ。まだ被験体は一体あるから気にするな」
「そうそう、煉獄のカルマンさまが居らっしゃる。ウプププ……」
「笑いすぎでしょ……」
「だってさぁ……」
ビアンカに引かれながらも、ルッツは口を押さえて笑い続けた。
「それでは解体を始めるぞ」
それを聞いてかカルマンが目を覚ました。
「ちょっと待っください! わ、わたしに何をしようというのですか?」
「お前は寝てていいぞ。すぐに済むから」
ルッツはカルマンの頭部を殴りつけようとした。
カルマンは手足と胴体が蔓で地面に固定されているので身動きが取れないうえ、フレッチャーに魔法が発動できないようにされている。
「ま、待ってください!」
「何だよ……。お前の運命は決まっているんだから覚悟を決めろ」
面倒くさそうにルッツがフレッチャーの様子を伺う。
「そうだな……、少し話をしようか、カルマンさま」
「ぷっ……」
吹き出しそうになったのはルッツである。
「あなたたち……、わたしを騙しましたね。人間風情が何でそんなに強いのですか? 本当に人間ですか?」
「いつも安全な場所から監視しているから実戦に弱いんだよ。戦いの本質が解かってないだろう?」
「小僧が何を言うのです。ただの卑怯者ではないですか」
「実戦で重要なことの一つに、いかに誤った情報を相手に掴ませるかというのがある。お前は戦いの初歩さえも知らない愚か者だ。少しは自覚しろ!」
「ぐぬぬ……」
カルマンは顔面を真っ赤にし、視線をルッツからビアンカに移した。女のほうが御しやすいとでも思ったのだろう。
「そ、そこの女性! わたしの妃にしてあげます。だから助けてください!」
「えっ? それって、わたしのこと?」
「そうですよ。あなたしかいません」
「ぶわっははははは!」
今度はビアンカが盛大に笑い始めた。
つられてルッツも笑いだす。
「お、お姉ちゃん……。下品だぞ、下品。クックック……」
「わたくしとしたことが……。ぶふっ」
「お前たちはよく笑うな……」
フレッチャーが呆れた顔をするが、それは仕方がない。ふたりとも若いのだから。
「な、何でわたしがあんたの妃になると思ったの? ぶふっ」
「わたしは人類の最上位種、天空族です。しかも、崇高なる監視隊の隊長なのですよ。地を這う人間にとっては名誉なことではありませんか」
「バカにしないで! わたしにはツバサ・フリューゲルという婚約者が居るのよ! あんたなんかの嫁になるはずないでしょ!」
「「えっ?」」
ツバサとビアンカが婚約していたという事実はないはずだ。
フレッチャーとルッツにとっては寝耳に水である。
「お、お姉ちゃん……。妄想?」
「か、可能性の問題よ! ツバサ兄さんはジュリエッタさまと婚約破棄したんだから、わたしにも可能性はあるでしょ」
「そ、そりゃあ、ないとは言えないけど……。お師匠さま……」
可能性が低いことを指摘すると姉が傷つくのでそれ以上言えない姉思いのルッツであった。
「ビアンカ、応援するぞ」
「お師匠さま! 大好き!」
ビアンカがフレッチャーに飛びつく。
その瞬間、彼がふらついたところをルッツは見逃さなかった。
「お師匠さま……、痛かったとか?」
「な、何のことかな?」
ビアンカに全力で抱きつかれたのだ。その衝撃はかなりのものだったはずだが、ルッツはそれ以上突っ込むのはやめた。
――これが大人の対応なのか?
ルッツは学んだ。もちろん、無責任極まりない、ずるい大人の対応としてである。
「あなたたち……。わたしを無視しないで、早く解放しなさい!」
「おっと、そうだった。訊きたいことがある」
「天空族に関する情報ならば訊いても無駄ですよ」
「そんなことはどうでもいい」
「えっ?」
カルマンが素っ頓狂な声を発した。
フレッチャーたちは天空族の情報をかなり収集している。
現在持っている情報以上のものは天空城に行かなければ手に入らないと考えているので、カルマンから天空族の情報を聴取するつもりはない。ただし、カルマンは貴重な天空族のサンプルである。
「カルマン。お前は暗黒大陸が管轄だったな?」
「そうですよ。あそこはミストガルの中でも最も危険な大陸の一つです。わたしでなければ監視できません」
暗黒大陸には強力な魔獣が生息しているだけでなく、天空族の天敵である龍神族の国がある。そして、情報収集が非常に困難なエルフの国もある。つまり、こんな地区が管轄であるカルマンは、天空族の中でも監視能力が高い天空人として評価されているのかもしれない。
「最近、異変はなかったか? 次元振動が観測されたとか」
「ああ、それなら数週間前にありましたね。人間が〈流刑者の谷〉と呼んでいる場所でね」
フレッチャーたちの表情が突然険しくなった。
「ど、どうしたというのですか?」
「そこに誰か居たでしょ!」
ビアンカがすごい剣幕で問いただす。
「い、居ましたよ。〈流刑者の谷〉の近くの湖に……。あっ!」
カルマンはビアンカの圧力で安易に答えてしまった。それは彼にとって命取りの発言だった。なぜなら、カルマンはそこに居た少年を殺したからだ……。
「どこへ行ったか判るの? 教えてくれたら生きて還してやるわ!」
カルマンは沈黙した――
この状況で本当のことを言えるはずはない。
彼の顔から大量の汗が吹き出る。
「おまえ……、殺したな」
温厚そうなフレッチャーの表情が、鬼神の如き表情に変化した。そして彼の体から大量の魔力が放射され始めた。とても人間のものとは思えない。
ビアンカとルッツは慌ててフレッチャーから離れる。
「おまえに選択させてやろう」
「な、な、な、何をですか?」
「苦しまずに死ぬか、苦しんで死ぬか」
「た、助けてください。お願いします。助けてくれたら何でも言う通りにします」
「ほう……。ならば本当のことを言え。そこで誰を見た」
「しょ、少年です。戦闘レベルが非常に低くて……印象に残っていません」
「その少年を殺したんだな」
「……」
「その沈黙は肯定と受け取った」
「あんた! 何で!」
ビアンカの悲痛の叫びが周囲の空気を震わせた。
フレッチャーは腰から短刀を抜いてカルマンの前に出した。
「ま、待ってくれ。助けてくれる約束ではないですか!」
「わたしは約束していない……」
「そ、そこのお嬢さんと約束した!」
「ふ~む、いいだろう」
なにか叫びそうになったビアンカを左手で制して、フレッチャーは短刀を腰に戻した。
そして、カルマンは安堵の表情を見せた。
「ルッツ! 骨密度を計ってくれ!」
ルッツはフレッチャーから投げられたものを受け取った。
「了解です!」
カルマンはそれを見て再び表情を変えた。
「ひ、ひぃ~、それはわたしの腕……」
いつの間にかカルマンの右腕が根元から切断されていた。切り口は治癒魔法で塞がれているせいか、痛みは感じていないようだ。
「ビアンカ、捕縛を解いてくれ」
「はい、お師匠さま」
捕縛が解けるとフレッチャーはカルマンをうつ伏せにして、背中に生えている翼を調べ始めた。
カルマンは魔法を発動しようにもフレッチャーの魔力放射で自分の魔力を制御できないでいる。つまり、フレッチャーのなすがままだった。
「やはりこれは作り物だな。それも魔法具だ。おそらく、飛行魔法を補助するたものものだろう」
フレッチャーは納得すると、両方の翼をもぎ取った。しかし、カルマンは痛みを感じていない……。
「肩甲骨や背骨ではなく、骨盤に繋いでいるのか。これはちょっと難しい施術だ」
「もう、やめてください……、うっうっ……」
カルマンは大粒の涙を流しながら懇願した。その涙は痛みによるものではない。何の感覚もないまま自分の体が解体されていくことへの恐怖からだった。
「お師匠さま。骨密度の測定を完了しました。人間の骨の70%ほどです」
「予想したとおりだ。筋力の総量も少ないようだ」
そして、今度は右足が切断された。
「軽いな~。これでは走れないんじゃないか?」
「ひぃ~、もうやめてください」
「天空族は空を飛ぶために体重が人間よりかなり軽いことが解った。そうだろう? カルマンさま」
「そうですよ。もういいでしょ」
「風魔法の適性が強く、空を飛ぶようになって、体重も軽くなった……。それが進化の秘密だな。何の神秘もそこにはない」
フレッチャーにはカルマンの声が届いていない。
「鳥のように翼を付けたのは何でだ? 魔法具にしては邪魔にしかならないだろ?」
「下等な人類と一緒にされたくないからです。いいかげん、早く殺してください」
「ようやく覚悟を決めてくれたか。そう言ってくれると信じていたよ」
「お師匠さま、ちょっと訊きたいことがあるのですわ」
「いいよ、今のうちに訊きなさい」
ビアンカとルッツはカルマンの横に立った。
「あなたは今までに何人の人間を殺してきたのかしら?」
「虫けらを殺すのに、いちいち数えますか?」
カルマンの答えにビアンカとルッツは涙を流し始めた。
「お師匠さま……」
「いいぞ。もうこいつは用済みだ」
ビアンカは短刀を握りこう言った。
「これは死んで逝った人たちの分よ!」
彼女の短刀がカルマンの左胸に突き刺さる。
「ぐっ!」
今度は痛覚は麻痺していない。
「これは俺たちの両親の分だ!」
続いてルッツが、カルマンの右胸に短刀を突き立てる。
「い、痛い……」
「そしてこれは……ツバサ兄さんの分よ!」
ビアンカの短刀がカルマンの胸の中央に突き刺さった。そして、カルマンは沈黙した……。
「二人とも、後ろへ下がれ」
二人がカルマンから離れると、フレッチャーは火炎魔法を放った。
その強力な火力が、煉獄のカルマンのすべてを灰に還した。
「どうだ、約束通り還してやったぞ。まあ、行き先はヴァルハラだけどな」
天空族の始末は終わった。しかし、彼らの目的であるツバサ・フリューゲル救出が水泡に帰してしまった。
ビアンカは緊張が糸が切れたせいか、大粒の涙を流しながら空を見上げた。
フレッチャーもルッツも、ビアンカを慰める言葉は待っていない。
ただただ、彼女が泣き止むのを待つしかなかった――
今回は残酷なシーンがあります。苦手な方は読み飛ばしてください。
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そこには黒焦げになった二体の天空族の亡骸が転がっていた。煉獄のカルマンだけはまだ息がある。さすがに戦闘レベル191は伊達ではないということか。
「お師匠さま、ごめんなさい」
「やってしまったことは仕方がない」
ビアンカは目を潤ませてフレッチャーに謝罪した。
フレッチャーとしては生きたまま捕まえて、実験台にしたかったようだが、そもそも現在は逃亡中なので悠長に実験している余裕はないのだ。
「天空族が弱過ぎたから悪いんだよ。お姉ちゃんのせいじゃない」
「そう言うことだビアンカ。まだ被験体は一体あるから気にするな」
「そうそう、煉獄のカルマンさまが居らっしゃる。ウプププ……」
「笑いすぎでしょ……」
「だってさぁ……」
ビアンカに引かれながらも、ルッツは口を押さえて笑い続けた。
「それでは解体を始めるぞ」
それを聞いてかカルマンが目を覚ました。
「ちょっと待っください! わ、わたしに何をしようというのですか?」
「お前は寝てていいぞ。すぐに済むから」
ルッツはカルマンの頭部を殴りつけようとした。
カルマンは手足と胴体が蔓で地面に固定されているので身動きが取れないうえ、フレッチャーに魔法が発動できないようにされている。
「ま、待ってください!」
「何だよ……。お前の運命は決まっているんだから覚悟を決めろ」
面倒くさそうにルッツがフレッチャーの様子を伺う。
「そうだな……、少し話をしようか、カルマンさま」
「ぷっ……」
吹き出しそうになったのはルッツである。
「あなたたち……、わたしを騙しましたね。人間風情が何でそんなに強いのですか? 本当に人間ですか?」
「いつも安全な場所から監視しているから実戦に弱いんだよ。戦いの本質が解かってないだろう?」
「小僧が何を言うのです。ただの卑怯者ではないですか」
「実戦で重要なことの一つに、いかに誤った情報を相手に掴ませるかというのがある。お前は戦いの初歩さえも知らない愚か者だ。少しは自覚しろ!」
「ぐぬぬ……」
カルマンは顔面を真っ赤にし、視線をルッツからビアンカに移した。女のほうが御しやすいとでも思ったのだろう。
「そ、そこの女性! わたしの妃にしてあげます。だから助けてください!」
「えっ? それって、わたしのこと?」
「そうですよ。あなたしかいません」
「ぶわっははははは!」
今度はビアンカが盛大に笑い始めた。
つられてルッツも笑いだす。
「お、お姉ちゃん……。下品だぞ、下品。クックック……」
「わたくしとしたことが……。ぶふっ」
「お前たちはよく笑うな……」
フレッチャーが呆れた顔をするが、それは仕方がない。ふたりとも若いのだから。
「な、何でわたしがあんたの妃になると思ったの? ぶふっ」
「わたしは人類の最上位種、天空族です。しかも、崇高なる監視隊の隊長なのですよ。地を這う人間にとっては名誉なことではありませんか」
「バカにしないで! わたしにはツバサ・フリューゲルという婚約者が居るのよ! あんたなんかの嫁になるはずないでしょ!」
「「えっ?」」
ツバサとビアンカが婚約していたという事実はないはずだ。
フレッチャーとルッツにとっては寝耳に水である。
「お、お姉ちゃん……。妄想?」
「か、可能性の問題よ! ツバサ兄さんはジュリエッタさまと婚約破棄したんだから、わたしにも可能性はあるでしょ」
「そ、そりゃあ、ないとは言えないけど……。お師匠さま……」
可能性が低いことを指摘すると姉が傷つくのでそれ以上言えない姉思いのルッツであった。
「ビアンカ、応援するぞ」
「お師匠さま! 大好き!」
ビアンカがフレッチャーに飛びつく。
その瞬間、彼がふらついたところをルッツは見逃さなかった。
「お師匠さま……、痛かったとか?」
「な、何のことかな?」
ビアンカに全力で抱きつかれたのだ。その衝撃はかなりのものだったはずだが、ルッツはそれ以上突っ込むのはやめた。
――これが大人の対応なのか?
ルッツは学んだ。もちろん、無責任極まりない、ずるい大人の対応としてである。
「あなたたち……。わたしを無視しないで、早く解放しなさい!」
「おっと、そうだった。訊きたいことがある」
「天空族に関する情報ならば訊いても無駄ですよ」
「そんなことはどうでもいい」
「えっ?」
カルマンが素っ頓狂な声を発した。
フレッチャーたちは天空族の情報をかなり収集している。
現在持っている情報以上のものは天空城に行かなければ手に入らないと考えているので、カルマンから天空族の情報を聴取するつもりはない。ただし、カルマンは貴重な天空族のサンプルである。
「カルマン。お前は暗黒大陸が管轄だったな?」
「そうですよ。あそこはミストガルの中でも最も危険な大陸の一つです。わたしでなければ監視できません」
暗黒大陸には強力な魔獣が生息しているだけでなく、天空族の天敵である龍神族の国がある。そして、情報収集が非常に困難なエルフの国もある。つまり、こんな地区が管轄であるカルマンは、天空族の中でも監視能力が高い天空人として評価されているのかもしれない。
「最近、異変はなかったか? 次元振動が観測されたとか」
「ああ、それなら数週間前にありましたね。人間が〈流刑者の谷〉と呼んでいる場所でね」
フレッチャーたちの表情が突然険しくなった。
「ど、どうしたというのですか?」
「そこに誰か居たでしょ!」
ビアンカがすごい剣幕で問いただす。
「い、居ましたよ。〈流刑者の谷〉の近くの湖に……。あっ!」
カルマンはビアンカの圧力で安易に答えてしまった。それは彼にとって命取りの発言だった。なぜなら、カルマンはそこに居た少年を殺したからだ……。
「どこへ行ったか判るの? 教えてくれたら生きて還してやるわ!」
カルマンは沈黙した――
この状況で本当のことを言えるはずはない。
彼の顔から大量の汗が吹き出る。
「おまえ……、殺したな」
温厚そうなフレッチャーの表情が、鬼神の如き表情に変化した。そして彼の体から大量の魔力が放射され始めた。とても人間のものとは思えない。
ビアンカとルッツは慌ててフレッチャーから離れる。
「おまえに選択させてやろう」
「な、な、な、何をですか?」
「苦しまずに死ぬか、苦しんで死ぬか」
「た、助けてください。お願いします。助けてくれたら何でも言う通りにします」
「ほう……。ならば本当のことを言え。そこで誰を見た」
「しょ、少年です。戦闘レベルが非常に低くて……印象に残っていません」
「その少年を殺したんだな」
「……」
「その沈黙は肯定と受け取った」
「あんた! 何で!」
ビアンカの悲痛の叫びが周囲の空気を震わせた。
フレッチャーは腰から短刀を抜いてカルマンの前に出した。
「ま、待ってくれ。助けてくれる約束ではないですか!」
「わたしは約束していない……」
「そ、そこのお嬢さんと約束した!」
「ふ~む、いいだろう」
なにか叫びそうになったビアンカを左手で制して、フレッチャーは短刀を腰に戻した。
そして、カルマンは安堵の表情を見せた。
「ルッツ! 骨密度を計ってくれ!」
ルッツはフレッチャーから投げられたものを受け取った。
「了解です!」
カルマンはそれを見て再び表情を変えた。
「ひ、ひぃ~、それはわたしの腕……」
いつの間にかカルマンの右腕が根元から切断されていた。切り口は治癒魔法で塞がれているせいか、痛みは感じていないようだ。
「ビアンカ、捕縛を解いてくれ」
「はい、お師匠さま」
捕縛が解けるとフレッチャーはカルマンをうつ伏せにして、背中に生えている翼を調べ始めた。
カルマンは魔法を発動しようにもフレッチャーの魔力放射で自分の魔力を制御できないでいる。つまり、フレッチャーのなすがままだった。
「やはりこれは作り物だな。それも魔法具だ。おそらく、飛行魔法を補助するたものものだろう」
フレッチャーは納得すると、両方の翼をもぎ取った。しかし、カルマンは痛みを感じていない……。
「肩甲骨や背骨ではなく、骨盤に繋いでいるのか。これはちょっと難しい施術だ」
「もう、やめてください……、うっうっ……」
カルマンは大粒の涙を流しながら懇願した。その涙は痛みによるものではない。何の感覚もないまま自分の体が解体されていくことへの恐怖からだった。
「お師匠さま。骨密度の測定を完了しました。人間の骨の70%ほどです」
「予想したとおりだ。筋力の総量も少ないようだ」
そして、今度は右足が切断された。
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「ひぃ~、もうやめてください」
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「そうですよ。もういいでしょ」
「風魔法の適性が強く、空を飛ぶようになって、体重も軽くなった……。それが進化の秘密だな。何の神秘もそこにはない」
フレッチャーにはカルマンの声が届いていない。
「鳥のように翼を付けたのは何でだ? 魔法具にしては邪魔にしかならないだろ?」
「下等な人類と一緒にされたくないからです。いいかげん、早く殺してください」
「ようやく覚悟を決めてくれたか。そう言ってくれると信じていたよ」
「お師匠さま、ちょっと訊きたいことがあるのですわ」
「いいよ、今のうちに訊きなさい」
ビアンカとルッツはカルマンの横に立った。
「あなたは今までに何人の人間を殺してきたのかしら?」
「虫けらを殺すのに、いちいち数えますか?」
カルマンの答えにビアンカとルッツは涙を流し始めた。
「お師匠さま……」
「いいぞ。もうこいつは用済みだ」
ビアンカは短刀を握りこう言った。
「これは死んで逝った人たちの分よ!」
彼女の短刀がカルマンの左胸に突き刺さる。
「ぐっ!」
今度は痛覚は麻痺していない。
「これは俺たちの両親の分だ!」
続いてルッツが、カルマンの右胸に短刀を突き立てる。
「い、痛い……」
「そしてこれは……ツバサ兄さんの分よ!」
ビアンカの短刀がカルマンの胸の中央に突き刺さった。そして、カルマンは沈黙した……。
「二人とも、後ろへ下がれ」
二人がカルマンから離れると、フレッチャーは火炎魔法を放った。
その強力な火力が、煉獄のカルマンのすべてを灰に還した。
「どうだ、約束通り還してやったぞ。まあ、行き先はヴァルハラだけどな」
天空族の始末は終わった。しかし、彼らの目的であるツバサ・フリューゲル救出が水泡に帰してしまった。
ビアンカは緊張が糸が切れたせいか、大粒の涙を流しながら空を見上げた。
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