アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸

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第一章 呉開陽高校艦船動態保存課

第一話 戦艦「大和」

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 瀬戸内海の向こう、四国の山々の上から、太陽が顔を出した。新しい一日が始まる。
「ふぁ~あ」
 わたし―初霜実は、大きくあくびをすると、前面に緑十字が描かれたヘルメットをかぶった。顎ひもをギュッと締める。

 ピーッ!ピーッ!ピーッ!

 警戒音とともに、超大型トレーラーが六台、うしろ向きにドック横に入ってきた。その荷台には、それぞれ一つづつ、防水シートに包まれた大きなものが載っている。
 トレーラーのエンジンが切られると、荷台の上のものにかけられていた防水シートが取り払われた。鋼鉄の地肌が姿を現す。
 艦本式ロ号重油専燃ボイラー。蒸気温度三百二十五度、最大圧力二十五㎏/㎠の性能を持ったボイラーだ。

 グオォォォォォォォン

 ドックをまたぐように装備されているクレーンが動き始めた。先端に取り付けてあるフックが、ボイラーの上に下りていく。
 ボイラーに回された布製のベルト、そのバックルに、クレーンのフックがかけられた。
「玉掛オーケー!」
 作業員さんが合図を送る。

 グォォォォォォォン

 再びクレーンがうなり、ボイラーはつり上げられ、ドックに安置された船体のほうに移動される。
 その船を見てまず思うのは、「大きい」ただこれだけだ。二百メートルをゆうに超える船体は、灰色と赤茶に塗られ、艦首に取り付けられた菊の御紋がまぶしい。
 上部甲板と最上甲板の一部が取り払われたその船の最下層に、ボイラーが到達した。
「右百ミリ、奥に五十ミリ・・・・はい降ろせ―!」
 ボイラーが下ろされると、作業員さんがボルトを一つ一つ丁寧に締めて、艦底部にしっかりとボイラーを固定する。
 最初の六基の固定が終わると、また新しいトレーラーが六台入ってきて、また同じ作業がくりかえされる。
 そして、日が暮れるころには、配管の接続作業まで終わった十二基の艦本式ロ号ボイラーが艦底部に鎮座していた。
 






 次の日・・・・・・・・・・
 夜の間姿を隠してた太陽は、また四国の向こうから登ってきた。
 甲板の取り払われていた部分をふさぐ作業が始まる。最上甲板は、鉄の上に熱対策の木板を貼って、飛行機が発着する後部甲板は、コンクリートを流す。
「実、また見てたの?」
「あ・・・・・永信。」
 となりで、わたしと同じ呉開陽高校の制服と制帽を着用したわたしの友人神崎永信が笑っている。
「いいよね・・・・・・大和。」
 永信がつぶやいたもの、それがこの船の名前だ。
 大日本帝国海軍大和型戦艦第一番艦「大和」。世界最大の軍艦だ。今はまだ取り付けが終わってないけど、三基装備されている四十六センチ三連装主砲塔は、抜群の破壊力を誇る。
 先の大戦では、まったくと言っていいほど活躍の機会がなかったが、今回新たな使命が与えられた。
「あんなこと言ってたけど、やっぱり好きなんじゃん。」

 バシッ!

「わっ、わたしは軍艦なんて好きじゃないんだからね!早く学校行くよ!」
 にやにや笑う永信の頭に鋭くチョップを入れると、わたしは呉開陽高校に向けて歩き出した。
 いつもの通学路から沖合に出ていく駆逐艦「島風」が見えた。数ある駆逐艦の中で一隻しかいなくて、しかも帝国海軍一の俊足艦だ。今日もいい日になりそう♪











 三日目・・・・・・・・
 大和の甲板にあいた大穴は完全にふさがれ、その上から主砲、副砲がクレーンにより積まれた。
 砲塔を動かすための水圧機の配管が繋がれ、とりあえず動くことはできるようになった。でも、まだまだ作業は残っている。
 重整備の間降ろされていた調度品類がどんどん艦内に運び込まれ、壁や床にビス止めされていく。

 ガガガガガ!

 電動ドライバーの音が艦内のあちこちから響き、作業員さんが走り回っている。
「ふぃ~。重い~。」
 わたしと二人でクローゼットを運ぶ永信が、頼りなさげな声を上げた。ホントに男か?こいつは・・・・・・・・
 学校の大掃除の時みたいにジャージ姿の永信は、いつもよりだらしなく見える。
 すべての調度品が固定されて、メーター類も全部取り付けられた。水圧検査も終わり、ほぼ完成状態になっている。でも、まだまだ完成じゃないのよね~。
















 大和がオーバーホールを終える日・・・・・・・・・
 春日和とも言えそうないい天気の日、今日は、重整備を終えた大和の進水式の日だ。土日とあって、ドック脇の見学スペースはたくさんの観客で埋め尽くされている。
 バタバタバタバタ・・・・・・・・・・・!
 エンジン作動式のポンプの音がして、海水がドック内に注入されていく。海水は、次第に大和の船体を覆い、やがてその半分ほどが水面下に沈んだ。
 ギイィィィィィィィ・・・・・・・・・
 不気味な音を立てて、閘門が開く。
 わたしと永信は、その様子を大和の艦橋最上部、防空指揮所から眺めていた。二人とも、下士官用の第一種軍装を着ているけど、わたしはズボンじゃなくでひざ丈のプリーツスカートをはいている。
「いよいよだね。」
 永信がつぶやいた。
「そうだね、いよいよだよ・・・・・ついに、大和が復活する。」
 わたしが返すと、永信は大きくうなずいた。
 閘門が開くと、ドックの外まで曳航してくれるタグボートが待っていた。頑丈なワイヤーロープで大和と接続する。
 グオォォォォォォン!
タグボートのエンジンがうなりを上げた。大和をドックから引き出す。
 一年間のオーバーホールを終えた大和は今、大海原へと滑り出した。
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