アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸

文字の大きさ
8 / 36
第一章 呉開陽高校艦船動態保存課

第二話 駆逐艦「陽炎」

しおりを挟む
「出港準備!錨鎖詰め方!」
「出港準備!錨鎖詰め方~!」
 わたしが命令すると、となりに立っている永信が伝声管に向かって復唱する。

 ピッ!

 無線機が鳴った。
《こちら教官艦『鳥海』。各生徒艦に通告します。全艦出港!鳥海を先頭に陽炎、時津風、天津風、綾波、矢矧、大淀の順に縦列陣を作って航行します!出港ののち、陣形を整えなさい!》
 ききなれた北上先生の冷静な声が聞こえてくる。
「了解しました!」
 無線機に向かって応答する 
 今、わたしと永信がいるのは、「呉開陽高等学校海洋学科船舶保存クラス練習艦『陽炎』」ー元大日本帝国海軍陽炎型駆逐艦「陽炎」―の艦橋だ。わたしが艦長、永信が副長。
 永信に声をかけた。
「永信っ!艦の状況は?」
「全部バッチリ!出航できるよ!」
 永信が答える。
 スルスルと旗艦「鳥海」のマストに「出撃」の信号旗が揚がった。
「両舷前進微速!」
「両舷前進びそーく!」
 わたしの命令を永信が素早く伝声管で伝える。
 
 グオォォォォォォン!

 鳴り響く主機もときの音。
 横から滑り出した鳥海の後ろに続くようにして、陽炎は呉開陽高校練習桟橋を出港した。










 わたしたちが着用する呉開陽高校の制服は、男子は冬服が黒の詰襟とスラックス。夏は色が白になる。
 女子は紺のセーラー服とプリーツスカート、夏は上着の色が白になる。
 男女ともに頭には軍帽みたいな制帽を被ることになっていた。それぞれの胸ポケットと帽子の前面には、桜の花の校章が輝いている。







 艦隊は教官艦である重巡洋艦「鳥海」、さらに生徒艦である駆逐艦「陽炎」、「時津風」、「天津風」、「綾波」、「矢矧」、「大淀」の順に縦列陣を組んだ。
 鳥海は高雄型重巡、矢矧は阿賀野型軽巡、大淀は大淀型軽巡。綾波は綾波型駆逐艦で、それ以外は全部、陽炎型駆逐艦だ。
 今回は、毎年春先に開催される「開陽祭」でのイベントの一つ「デモ航行」だ。来場者の中で希望した人を乗せて、四国の周りを一周する。途中で、空砲と訓練用魚雷の発射、模擬爆雷投下のデモストレーションも行うことになっていて、軍事ファンたちの人気の的なんだ。
 実際に、今わたしたちの後ろにも、何人かの観覧者が立っている。
《各艦、調子を知らせてください》
 再びの鳥海からの無線。一瞬で返す。
「こちら陽炎、艦長初霜実。調子は上々です。艦内の士気も最高潮に高まってます」
《こちら天津風、艦長長井光葉。機関系、砲術系、水雷系、すべて問題ありません。こちらも士気は最高潮に高まっていますよ!》
 各艦の報告が済むと、鳥海のマストに「取舵一杯」の信号旗が揚がった。
「取り舵いっぱぁい!」
 後ろで舵輪を握る操舵手の山城春奈が舵輪を左に思いっきり回す。
 その時、わたしとわたしの右側に立つ永信との間に、ぽわっとした金色の光が現れた。
「実さん、永信さん!今日はいよいよ晴れ舞台ですね!こんなに緊張するの、初めてです」
 光の中からわたしたちと同じ高校の制服に身を包んだ女の子が出てくる。見た目を一言で表すと「ゆるふわ系美少女」。制服の肩章には、大日本帝国海軍の旭日の紋と呉開陽高校の桜花の校章を染め抜いている。
 この子こそ、この駆逐艦「陽炎」の艦魂、陽炎だ。
 艦魂とは、書いて字のごとく「艦」に宿る「魂」のことで、その艦が生まれてから死ぬ・・・・・つまり、進水してから戦没、あるいは解体されるまで運命を共にする存在だ。
 普通の人には見えなくて、見える人は珍しい。ちなみに、わたしと永信は艦魂が見える。そして、この「陽炎」の乗組員であるわたしのクラスメートはみんなそのことを知っている。
 ちなみに、似たようなものが他の物にもあるらしく、戦車や装甲車は「士魂」、飛行機は「空魂」、鉄道車両には「鉄魂」というモノが宿るらしい。
 陽炎は、最近この呉開陽高校に移籍してきたから、開陽祭でのデモ航行は初めてだ。
「あれ?実さん?今日は話しかけてくれないですねぇ?どうしたんですか?」
 人がいる手前話すわけにもいかないから黙っていると、陽炎がわたしの顔をのぞきこむように見てきた。
 そっと永信が陽炎の手首をつかみ、第一艦橋の外に連れていく。しばらくして、陽炎が帰ってきた。
「実さん、さっきはすいませんでした。そうですか・・・・・・外部の人がいるからわたしと話したら怪しまれちゃいますよね。この航海が終わるまでは、できる限り話しかけないでおきます。」
「ありがと」
 二人以外には聞き取れないほどの大きさでお礼を言うと、陽炎は笑顔になって艦橋を出ていった。
「艦魂臨検に行ってきま~す!」
 かすかに聞こえる陽炎の声。わたしと永信は、お互いに顔を見合わせると、苦笑した。
 その笑顔に、ちょっとだけドキッとした。
 昔からの付き合いの気が置けない親友であると同時にわたしの有能な副長。みんなには相談できないようなことも、永信には気兼ねなく相談できる。
 ずっと双子の弟みたいに思ってきたけど、なんだか最近グンと大人っぽくなったような気がする。
(・・・こうしてみると、けっこうイケメンなんだな。彼女とか、いるのかな・・・・・・)
 って、なんでわたしはこんなこと考えてんだ!今は航海に集中集中!
 でも、さっき永信が陽炎を艦橋から連れ出した時、手をつかんでた。なんだかわからないけど、ああいうのを見ても少し陽炎が羨ましいと思ってしまう。これが、焼きもちを焼くってこと?
 わたしは何だかわからない気持ちで、陽炎の前を行く鳥海の後姿を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...