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第一章 呉開陽高校艦船動態保存課
第二話 駆逐艦「陽炎」
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「出港準備!錨鎖詰め方!」
「出港準備!錨鎖詰め方~!」
わたしが命令すると、となりに立っている永信が伝声管に向かって復唱する。
ピッ!
無線機が鳴った。
《こちら教官艦『鳥海』。各生徒艦に通告します。全艦出港!鳥海を先頭に陽炎、時津風、天津風、綾波、矢矧、大淀の順に縦列陣を作って航行します!出港ののち、陣形を整えなさい!》
ききなれた北上先生の冷静な声が聞こえてくる。
「了解しました!」
無線機に向かって応答する
今、わたしと永信がいるのは、「呉開陽高等学校海洋学科船舶保存クラス練習艦『陽炎』」ー元大日本帝国海軍陽炎型駆逐艦「陽炎」―の艦橋だ。わたしが艦長、永信が副長。
永信に声をかけた。
「永信っ!艦の状況は?」
「全部バッチリ!出航できるよ!」
永信が答える。
スルスルと旗艦「鳥海」のマストに「出撃」の信号旗が揚がった。
「両舷前進微速!」
「両舷前進びそーく!」
わたしの命令を永信が素早く伝声管で伝える。
グオォォォォォォン!
鳴り響く主機の音。
横から滑り出した鳥海の後ろに続くようにして、陽炎は呉開陽高校練習桟橋を出港した。
わたしたちが着用する呉開陽高校の制服は、男子は冬服が黒の詰襟とスラックス。夏は色が白になる。
女子は紺のセーラー服とプリーツスカート、夏は上着の色が白になる。
男女ともに頭には軍帽みたいな制帽を被ることになっていた。それぞれの胸ポケットと帽子の前面には、桜の花の校章が輝いている。
艦隊は教官艦である重巡洋艦「鳥海」、さらに生徒艦である駆逐艦「陽炎」、「時津風」、「天津風」、「綾波」、「矢矧」、「大淀」の順に縦列陣を組んだ。
鳥海は高雄型重巡、矢矧は阿賀野型軽巡、大淀は大淀型軽巡。綾波は綾波型駆逐艦で、それ以外は全部、陽炎型駆逐艦だ。
今回は、毎年春先に開催される「開陽祭」でのイベントの一つ「デモ航行」だ。来場者の中で希望した人を乗せて、四国の周りを一周する。途中で、空砲と訓練用魚雷の発射、模擬爆雷投下のデモストレーションも行うことになっていて、軍事ファンたちの人気の的なんだ。
実際に、今わたしたちの後ろにも、何人かの観覧者が立っている。
《各艦、調子を知らせてください》
再びの鳥海からの無線。一瞬で返す。
「こちら陽炎、艦長初霜実。調子は上々です。艦内の士気も最高潮に高まってます」
《こちら天津風、艦長長井光葉。機関系、砲術系、水雷系、すべて問題ありません。こちらも士気は最高潮に高まっていますよ!》
各艦の報告が済むと、鳥海のマストに「取舵一杯」の信号旗が揚がった。
「取り舵いっぱぁい!」
後ろで舵輪を握る操舵手の山城春奈が舵輪を左に思いっきり回す。
その時、わたしとわたしの右側に立つ永信との間に、ぽわっとした金色の光が現れた。
「実さん、永信さん!今日はいよいよ晴れ舞台ですね!こんなに緊張するの、初めてです」
光の中からわたしたちと同じ高校の制服に身を包んだ女の子が出てくる。見た目を一言で表すと「ゆるふわ系美少女」。制服の肩章には、大日本帝国海軍の旭日の紋と呉開陽高校の桜花の校章を染め抜いている。
この子こそ、この駆逐艦「陽炎」の艦魂、陽炎だ。
艦魂とは、書いて字のごとく「艦」に宿る「魂」のことで、その艦が生まれてから死ぬ・・・・・つまり、進水してから戦没、あるいは解体されるまで運命を共にする存在だ。
普通の人には見えなくて、見える人は珍しい。ちなみに、わたしと永信は艦魂が見える。そして、この「陽炎」の乗組員であるわたしのクラスメートはみんなそのことを知っている。
ちなみに、似たようなものが他の物にもあるらしく、戦車や装甲車は「士魂」、飛行機は「空魂」、鉄道車両には「鉄魂」というモノが宿るらしい。
陽炎は、最近この呉開陽高校に移籍してきたから、開陽祭でのデモ航行は初めてだ。
「あれ?実さん?今日は話しかけてくれないですねぇ?どうしたんですか?」
人がいる手前話すわけにもいかないから黙っていると、陽炎がわたしの顔をのぞきこむように見てきた。
そっと永信が陽炎の手首をつかみ、第一艦橋の外に連れていく。しばらくして、陽炎が帰ってきた。
「実さん、さっきはすいませんでした。そうですか・・・・・・外部の人がいるからわたしと話したら怪しまれちゃいますよね。この航海が終わるまでは、できる限り話しかけないでおきます。」
「ありがと」
二人以外には聞き取れないほどの大きさでお礼を言うと、陽炎は笑顔になって艦橋を出ていった。
「艦魂臨検に行ってきま~す!」
かすかに聞こえる陽炎の声。わたしと永信は、お互いに顔を見合わせると、苦笑した。
その笑顔に、ちょっとだけドキッとした。
昔からの付き合いの気が置けない親友であると同時にわたしの有能な副長。みんなには相談できないようなことも、永信には気兼ねなく相談できる。
ずっと双子の弟みたいに思ってきたけど、なんだか最近グンと大人っぽくなったような気がする。
(・・・こうしてみると、けっこうイケメンなんだな。彼女とか、いるのかな・・・・・・)
って、なんでわたしはこんなこと考えてんだ!今は航海に集中集中!
でも、さっき永信が陽炎を艦橋から連れ出した時、手をつかんでた。なんだかわからないけど、ああいうのを見ても少し陽炎が羨ましいと思ってしまう。これが、焼きもちを焼くってこと?
わたしは何だかわからない気持ちで、陽炎の前を行く鳥海の後姿を見つめた。
「出港準備!錨鎖詰め方~!」
わたしが命令すると、となりに立っている永信が伝声管に向かって復唱する。
ピッ!
無線機が鳴った。
《こちら教官艦『鳥海』。各生徒艦に通告します。全艦出港!鳥海を先頭に陽炎、時津風、天津風、綾波、矢矧、大淀の順に縦列陣を作って航行します!出港ののち、陣形を整えなさい!》
ききなれた北上先生の冷静な声が聞こえてくる。
「了解しました!」
無線機に向かって応答する
今、わたしと永信がいるのは、「呉開陽高等学校海洋学科船舶保存クラス練習艦『陽炎』」ー元大日本帝国海軍陽炎型駆逐艦「陽炎」―の艦橋だ。わたしが艦長、永信が副長。
永信に声をかけた。
「永信っ!艦の状況は?」
「全部バッチリ!出航できるよ!」
永信が答える。
スルスルと旗艦「鳥海」のマストに「出撃」の信号旗が揚がった。
「両舷前進微速!」
「両舷前進びそーく!」
わたしの命令を永信が素早く伝声管で伝える。
グオォォォォォォン!
鳴り響く主機の音。
横から滑り出した鳥海の後ろに続くようにして、陽炎は呉開陽高校練習桟橋を出港した。
わたしたちが着用する呉開陽高校の制服は、男子は冬服が黒の詰襟とスラックス。夏は色が白になる。
女子は紺のセーラー服とプリーツスカート、夏は上着の色が白になる。
男女ともに頭には軍帽みたいな制帽を被ることになっていた。それぞれの胸ポケットと帽子の前面には、桜の花の校章が輝いている。
艦隊は教官艦である重巡洋艦「鳥海」、さらに生徒艦である駆逐艦「陽炎」、「時津風」、「天津風」、「綾波」、「矢矧」、「大淀」の順に縦列陣を組んだ。
鳥海は高雄型重巡、矢矧は阿賀野型軽巡、大淀は大淀型軽巡。綾波は綾波型駆逐艦で、それ以外は全部、陽炎型駆逐艦だ。
今回は、毎年春先に開催される「開陽祭」でのイベントの一つ「デモ航行」だ。来場者の中で希望した人を乗せて、四国の周りを一周する。途中で、空砲と訓練用魚雷の発射、模擬爆雷投下のデモストレーションも行うことになっていて、軍事ファンたちの人気の的なんだ。
実際に、今わたしたちの後ろにも、何人かの観覧者が立っている。
《各艦、調子を知らせてください》
再びの鳥海からの無線。一瞬で返す。
「こちら陽炎、艦長初霜実。調子は上々です。艦内の士気も最高潮に高まってます」
《こちら天津風、艦長長井光葉。機関系、砲術系、水雷系、すべて問題ありません。こちらも士気は最高潮に高まっていますよ!》
各艦の報告が済むと、鳥海のマストに「取舵一杯」の信号旗が揚がった。
「取り舵いっぱぁい!」
後ろで舵輪を握る操舵手の山城春奈が舵輪を左に思いっきり回す。
その時、わたしとわたしの右側に立つ永信との間に、ぽわっとした金色の光が現れた。
「実さん、永信さん!今日はいよいよ晴れ舞台ですね!こんなに緊張するの、初めてです」
光の中からわたしたちと同じ高校の制服に身を包んだ女の子が出てくる。見た目を一言で表すと「ゆるふわ系美少女」。制服の肩章には、大日本帝国海軍の旭日の紋と呉開陽高校の桜花の校章を染め抜いている。
この子こそ、この駆逐艦「陽炎」の艦魂、陽炎だ。
艦魂とは、書いて字のごとく「艦」に宿る「魂」のことで、その艦が生まれてから死ぬ・・・・・つまり、進水してから戦没、あるいは解体されるまで運命を共にする存在だ。
普通の人には見えなくて、見える人は珍しい。ちなみに、わたしと永信は艦魂が見える。そして、この「陽炎」の乗組員であるわたしのクラスメートはみんなそのことを知っている。
ちなみに、似たようなものが他の物にもあるらしく、戦車や装甲車は「士魂」、飛行機は「空魂」、鉄道車両には「鉄魂」というモノが宿るらしい。
陽炎は、最近この呉開陽高校に移籍してきたから、開陽祭でのデモ航行は初めてだ。
「あれ?実さん?今日は話しかけてくれないですねぇ?どうしたんですか?」
人がいる手前話すわけにもいかないから黙っていると、陽炎がわたしの顔をのぞきこむように見てきた。
そっと永信が陽炎の手首をつかみ、第一艦橋の外に連れていく。しばらくして、陽炎が帰ってきた。
「実さん、さっきはすいませんでした。そうですか・・・・・・外部の人がいるからわたしと話したら怪しまれちゃいますよね。この航海が終わるまでは、できる限り話しかけないでおきます。」
「ありがと」
二人以外には聞き取れないほどの大きさでお礼を言うと、陽炎は笑顔になって艦橋を出ていった。
「艦魂臨検に行ってきま~す!」
かすかに聞こえる陽炎の声。わたしと永信は、お互いに顔を見合わせると、苦笑した。
その笑顔に、ちょっとだけドキッとした。
昔からの付き合いの気が置けない親友であると同時にわたしの有能な副長。みんなには相談できないようなことも、永信には気兼ねなく相談できる。
ずっと双子の弟みたいに思ってきたけど、なんだか最近グンと大人っぽくなったような気がする。
(・・・こうしてみると、けっこうイケメンなんだな。彼女とか、いるのかな・・・・・・)
って、なんでわたしはこんなこと考えてんだ!今は航海に集中集中!
でも、さっき永信が陽炎を艦橋から連れ出した時、手をつかんでた。なんだかわからないけど、ああいうのを見ても少し陽炎が羨ましいと思ってしまう。これが、焼きもちを焼くってこと?
わたしは何だかわからない気持ちで、陽炎の前を行く鳥海の後姿を見つめた。
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