アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸

文字の大きさ
13 / 36
第二章 激闘の前に

第七話 演習始め!

しおりを挟む
 任務計画の発表から二日後・・・・・・・・・
「両舷前進微速!呉港出港!」
「両舷前進びそーく」

 ボーーーーーーーーーーッ!

 呉軍港を出港していく駆逐艦「陽炎」。その後ろには、第五駆逐隊の僚艦である駆逐艦「天津風」、「島風」、「白露」、「時雨」、「夕立」が続いた。
「単縦陣で航行!」
「了解!」
 陽炎のメインマストに旭日旗と信号旗がはためき、艦隊はおよそ二十ノットで四国沖に向かって進んでいく。
「高知県沖合で演習だよね?」
「うん。砲撃と雷撃の訓練をすることにしてるわ」
 永信の問いにわたしが答え、艦橋の面々が「了解した」というふうにうなずく。
「面舵」
「はいおもかーじ」
 いつものように操艦と信号旗での僚艦との連絡を繰り返し、艦隊は高知県沖に差し掛かる。
「実さん実さん!」
 艦橋内にぽわんとした光が現れた。中から陽炎が出てくる。
「今回は砲撃と雷撃の訓練ですね!わたしも気合入れていきますよ!」
 陽炎はいつもと違い、頭に「見敵必殺」と書いた鉢巻をしている。
 ちょっと気合入りすぎじゃない?
「今回は、標的艦相手の訓練だからね、陽炎も久しぶりなんじゃない?」
 永信が陽炎の頭をポンポンなでる。
「はい!!」
 陽炎が満面の笑みを浮かべた。
「標的艦、見えました!」
 見張り員が叫ぶ。
「よし!合流時刻五分前」
 わたしは腕時計を確認すると、相手を見た。
 今回の演習相手は、陽炎より一回りほど大きな、堂々たる艦姿をもった艦だった。他の艦とは違う三脚式の艦橋と上部構造物が少ないすっきりとした甲板が特徴的な艦。
「標的艦『摂津』」
 永信がつぶやいたもの、それがこの艦の名だ。
 標的艦「摂津」。元河内型戦艦二番艦でもある。ワシントン海軍軍縮条約により戦艦から標的艦に改造。その後、昭和二十年の呉軍港空襲で大破着底した。
「あなたたちが今回の相手ですか?」
 突然後ろから聞こえてきた声。振り向くと、海軍の士官用第二種軍装を身にまとった女性がいた。
「初めまして・・・・・・。河内型戦艦・・・・・・じゃなくて標的艦『摂津』艦魂の摂津です。挨拶に伺いました」
 摂津はわたしたちに向かって敬礼をする。元戦艦というのが信じられないくらいのか細い声だ。
「よろしくね。摂津」
 わたしも敬礼を返した。その瞬間・・・・・・・
「摂津さーん!こんなところにいたんですねー!」
 ぽわんとした光を放ち、もう一人の艦魂が現れる。
「ちょっと矢風・・・・・・・・ここには見える人もいるんだから・・・・・・・・」
 摂津がその艦魂の肩に手を置く。
「あ、ごめんごめん」
 矢風と呼ばれた艦魂は、わたしたちの視線に気づくと、こっちを向いて敬礼した。
「初めまして!わたし、峯風型駆逐か・・・・・・じゃなかった。標的艦『矢風』の艦魂、矢風でっす!よろしくお願いね!」
 矢風は摂津とは打って変わって元気そうな子だ。心なしか、摂津の保護者のような印象も受ける。
「だって、砲撃訓練の時の摂津はわたしが操ってるんだよ~」
 矢風が両手をワキワキと動かしながら言う。
「そうだったな・・・・・・・・無人戦艦でもあったな『摂津』は」
 永信がつぶやく。
「そろそろ砲撃訓練が始まるようですよ。矢風」
 摂津が矢風に声をかける。
「はぁーい。さぁ、摂津も帰りますよー」
 矢風がそう言って光の中に消える。「摂津」のほうを見ると、乗員が内火艇や短艇で「矢風」に移乗するのが見えた。
「わたしのほうが格上なんですからね」
 摂津も光の中に消える。その様子を見届けると、わたしは麾下の艦隊に指示を出した。
「砲撃演習開始!『陽炎』から『天津風』、『島風』、『白露』、『夕立』、『時雨』の順に射撃訓練を実施します」
 今回は、最大射程より少し短い一万五千メートルから射撃を行う。
「主砲、撃ち方用意」
「主砲!撃ち方よ―い!」

 グィィィィィ・・・・・・

 三基の主砲と艦橋上部に取り付けられている測距儀が回転を始める。
主砲が完全に「摂津」の方を向いた。
「主砲・・・・・・・」
 わたしは高く上げた右腕を一気に振り下ろす。
「撃ち方始め!」
《撃ち―方―始め―!!》
 インカムから帰ってくる美月の声。

 ドォォォォォォォォォォォォォン!

 ドォォォォォォォォォォォォォン!

 爆音が響き渡り、摂津の近くに水柱が立ち上る。
「弾~着っ!命中弾なし!」
 永信が双眼鏡を覗きながら叫ぶ。

 ドォォォォォォォォォォォォォン!
 
 ドォォォォォォォォォォォォォン!
 陽炎はさらに砲撃を続けた。
「弾~着!目標挟叉!」
「よしっ!」
 わたしは心の中でガッツポーズをする。二弾目で弾着位置が目標を挟み込む挟叉状態。
「あとはお互いを微調整していけば命中弾が出る!」

 ドォォォォォォォォォォォォォン!

「弾~着!命中!」
『いよっしゃ!』
 艦橋内の全員がどよめく。
―――――――ッ!》

 ドォォォォォォォォォォォォォン!

 砲術員の声と主砲の発射音。そして・・・・・・・
「撃ち方やめ!」
 わたしはインカムに向かって叫ぶ。
「射撃五十発中二十発命中!」
 永信が双眼鏡を覗いて言った。
《まだまだね・・・・・・・・》
 インカムから聞こえる美月の声。
《桑折空の零戦、陸攻、艦爆、艦攻隊。後は潜水艦二隻と協力しても船団を守り切れるかどうか・・・・・・・》
「美月・・・・・・・・」
 わたしは美月に一言だけ返すと、続く「天津風」に場所を譲った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...