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第二章 激闘の前に
第七話 演習始め!
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任務計画の発表から二日後・・・・・・・・・
「両舷前進微速!呉港出港!」
「両舷前進びそーく」
ボーーーーーーーーーーッ!
呉軍港を出港していく駆逐艦「陽炎」。その後ろには、第五駆逐隊の僚艦である駆逐艦「天津風」、「島風」、「白露」、「時雨」、「夕立」が続いた。
「単縦陣で航行!」
「了解!」
陽炎のメインマストに旭日旗と信号旗がはためき、艦隊はおよそ二十ノットで四国沖に向かって進んでいく。
「高知県沖合で演習だよね?」
「うん。砲撃と雷撃の訓練をすることにしてるわ」
永信の問いにわたしが答え、艦橋の面々が「了解した」というふうにうなずく。
「面舵」
「はいおもかーじ」
いつものように操艦と信号旗での僚艦との連絡を繰り返し、艦隊は高知県沖に差し掛かる。
「実さん実さん!」
艦橋内にぽわんとした光が現れた。中から陽炎が出てくる。
「今回は砲撃と雷撃の訓練ですね!わたしも気合入れていきますよ!」
陽炎はいつもと違い、頭に「見敵必殺」と書いた鉢巻をしている。
ちょっと気合入りすぎじゃない?
「今回は、標的艦相手の訓練だからね、陽炎も久しぶりなんじゃない?」
永信が陽炎の頭をポンポンなでる。
「はい!!」
陽炎が満面の笑みを浮かべた。
「標的艦、見えました!」
見張り員が叫ぶ。
「よし!合流時刻五分前」
わたしは腕時計を確認すると、相手を見た。
今回の演習相手は、陽炎より一回りほど大きな、堂々たる艦姿をもった艦だった。他の艦とは違う三脚式の艦橋と上部構造物が少ないすっきりとした甲板が特徴的な艦。
「標的艦『摂津』」
永信がつぶやいたもの、それがこの艦の名だ。
標的艦「摂津」。元河内型戦艦二番艦でもある。ワシントン海軍軍縮条約により戦艦から標的艦に改造。その後、昭和二十年の呉軍港空襲で大破着底した。
「あなたたちが今回の相手ですか?」
突然後ろから聞こえてきた声。振り向くと、海軍の士官用第二種軍装を身にまとった女性がいた。
「初めまして・・・・・・。河内型戦艦・・・・・・じゃなくて標的艦『摂津』艦魂の摂津です。挨拶に伺いました」
摂津はわたしたちに向かって敬礼をする。元戦艦というのが信じられないくらいのか細い声だ。
「よろしくね。摂津」
わたしも敬礼を返した。その瞬間・・・・・・・
「摂津さーん!こんなところにいたんですねー!」
ぽわんとした光を放ち、もう一人の艦魂が現れる。
「ちょっと矢風・・・・・・・・ここには見える人もいるんだから・・・・・・・・」
摂津がその艦魂の肩に手を置く。
「あ、ごめんごめん」
矢風と呼ばれた艦魂は、わたしたちの視線に気づくと、こっちを向いて敬礼した。
「初めまして!わたし、峯風型駆逐か・・・・・・じゃなかった。標的艦『矢風』の艦魂、矢風でっす!よろしくお願いね!」
矢風は摂津とは打って変わって元気そうな子だ。心なしか、摂津の保護者のような印象も受ける。
「だって、砲撃訓練の時の摂津はわたしが操ってるんだよ~」
矢風が両手をワキワキと動かしながら言う。
「そうだったな・・・・・・・・無人戦艦でもあったな『摂津』は」
永信がつぶやく。
「そろそろ砲撃訓練が始まるようですよ。矢風」
摂津が矢風に声をかける。
「はぁーい。さぁ、摂津も帰りますよー」
矢風がそう言って光の中に消える。「摂津」のほうを見ると、乗員が内火艇や短艇で「矢風」に移乗するのが見えた。
「わたしのほうが格上なんですからね」
摂津も光の中に消える。その様子を見届けると、わたしは麾下の艦隊に指示を出した。
「砲撃演習開始!『陽炎』から『天津風』、『島風』、『白露』、『夕立』、『時雨』の順に射撃訓練を実施します」
今回は、最大射程より少し短い一万五千メートルから射撃を行う。
「主砲、撃ち方用意」
「主砲!撃ち方よ―い!」
グィィィィィ・・・・・・
三基の主砲と艦橋上部に取り付けられている測距儀が回転を始める。
主砲が完全に「摂津」の方を向いた。
「主砲・・・・・・・」
わたしは高く上げた右腕を一気に振り下ろす。
「撃ち方始め!」
《撃ち―方―始め―!!》
インカムから帰ってくる美月の声。
ドォォォォォォォォォォォォォン!
ドォォォォォォォォォォォォォン!
爆音が響き渡り、摂津の近くに水柱が立ち上る。
「弾~着っ!命中弾なし!」
永信が双眼鏡を覗きながら叫ぶ。
ドォォォォォォォォォォォォォン!
ドォォォォォォォォォォォォォン!
陽炎はさらに砲撃を続けた。
「弾~着!目標挟叉!」
「よしっ!」
わたしは心の中でガッツポーズをする。二弾目で弾着位置が目標を挟み込む挟叉状態。
「あとはお互いを微調整していけば命中弾が出る!」
ドォォォォォォォォォォォォォン!
「弾~着!命中!」
『いよっしゃ!』
艦橋内の全員がどよめく。
《撃―――――――ッ!》
ドォォォォォォォォォォォォォン!
砲術員の声と主砲の発射音。そして・・・・・・・
「撃ち方やめ!」
わたしはインカムに向かって叫ぶ。
「射撃五十発中二十発命中!」
永信が双眼鏡を覗いて言った。
《まだまだね・・・・・・・・》
インカムから聞こえる美月の声。
《桑折空の零戦、陸攻、艦爆、艦攻隊。後は潜水艦二隻と協力しても船団を守り切れるかどうか・・・・・・・》
「美月・・・・・・・・」
わたしは美月に一言だけ返すと、続く「天津風」に場所を譲った。
「両舷前進微速!呉港出港!」
「両舷前進びそーく」
ボーーーーーーーーーーッ!
呉軍港を出港していく駆逐艦「陽炎」。その後ろには、第五駆逐隊の僚艦である駆逐艦「天津風」、「島風」、「白露」、「時雨」、「夕立」が続いた。
「単縦陣で航行!」
「了解!」
陽炎のメインマストに旭日旗と信号旗がはためき、艦隊はおよそ二十ノットで四国沖に向かって進んでいく。
「高知県沖合で演習だよね?」
「うん。砲撃と雷撃の訓練をすることにしてるわ」
永信の問いにわたしが答え、艦橋の面々が「了解した」というふうにうなずく。
「面舵」
「はいおもかーじ」
いつものように操艦と信号旗での僚艦との連絡を繰り返し、艦隊は高知県沖に差し掛かる。
「実さん実さん!」
艦橋内にぽわんとした光が現れた。中から陽炎が出てくる。
「今回は砲撃と雷撃の訓練ですね!わたしも気合入れていきますよ!」
陽炎はいつもと違い、頭に「見敵必殺」と書いた鉢巻をしている。
ちょっと気合入りすぎじゃない?
「今回は、標的艦相手の訓練だからね、陽炎も久しぶりなんじゃない?」
永信が陽炎の頭をポンポンなでる。
「はい!!」
陽炎が満面の笑みを浮かべた。
「標的艦、見えました!」
見張り員が叫ぶ。
「よし!合流時刻五分前」
わたしは腕時計を確認すると、相手を見た。
今回の演習相手は、陽炎より一回りほど大きな、堂々たる艦姿をもった艦だった。他の艦とは違う三脚式の艦橋と上部構造物が少ないすっきりとした甲板が特徴的な艦。
「標的艦『摂津』」
永信がつぶやいたもの、それがこの艦の名だ。
標的艦「摂津」。元河内型戦艦二番艦でもある。ワシントン海軍軍縮条約により戦艦から標的艦に改造。その後、昭和二十年の呉軍港空襲で大破着底した。
「あなたたちが今回の相手ですか?」
突然後ろから聞こえてきた声。振り向くと、海軍の士官用第二種軍装を身にまとった女性がいた。
「初めまして・・・・・・。河内型戦艦・・・・・・じゃなくて標的艦『摂津』艦魂の摂津です。挨拶に伺いました」
摂津はわたしたちに向かって敬礼をする。元戦艦というのが信じられないくらいのか細い声だ。
「よろしくね。摂津」
わたしも敬礼を返した。その瞬間・・・・・・・
「摂津さーん!こんなところにいたんですねー!」
ぽわんとした光を放ち、もう一人の艦魂が現れる。
「ちょっと矢風・・・・・・・・ここには見える人もいるんだから・・・・・・・・」
摂津がその艦魂の肩に手を置く。
「あ、ごめんごめん」
矢風と呼ばれた艦魂は、わたしたちの視線に気づくと、こっちを向いて敬礼した。
「初めまして!わたし、峯風型駆逐か・・・・・・じゃなかった。標的艦『矢風』の艦魂、矢風でっす!よろしくお願いね!」
矢風は摂津とは打って変わって元気そうな子だ。心なしか、摂津の保護者のような印象も受ける。
「だって、砲撃訓練の時の摂津はわたしが操ってるんだよ~」
矢風が両手をワキワキと動かしながら言う。
「そうだったな・・・・・・・・無人戦艦でもあったな『摂津』は」
永信がつぶやく。
「そろそろ砲撃訓練が始まるようですよ。矢風」
摂津が矢風に声をかける。
「はぁーい。さぁ、摂津も帰りますよー」
矢風がそう言って光の中に消える。「摂津」のほうを見ると、乗員が内火艇や短艇で「矢風」に移乗するのが見えた。
「わたしのほうが格上なんですからね」
摂津も光の中に消える。その様子を見届けると、わたしは麾下の艦隊に指示を出した。
「砲撃演習開始!『陽炎』から『天津風』、『島風』、『白露』、『夕立』、『時雨』の順に射撃訓練を実施します」
今回は、最大射程より少し短い一万五千メートルから射撃を行う。
「主砲、撃ち方用意」
「主砲!撃ち方よ―い!」
グィィィィィ・・・・・・
三基の主砲と艦橋上部に取り付けられている測距儀が回転を始める。
主砲が完全に「摂津」の方を向いた。
「主砲・・・・・・・」
わたしは高く上げた右腕を一気に振り下ろす。
「撃ち方始め!」
《撃ち―方―始め―!!》
インカムから帰ってくる美月の声。
ドォォォォォォォォォォォォォン!
ドォォォォォォォォォォォォォン!
爆音が響き渡り、摂津の近くに水柱が立ち上る。
「弾~着っ!命中弾なし!」
永信が双眼鏡を覗きながら叫ぶ。
ドォォォォォォォォォォォォォン!
ドォォォォォォォォォォォォォン!
陽炎はさらに砲撃を続けた。
「弾~着!目標挟叉!」
「よしっ!」
わたしは心の中でガッツポーズをする。二弾目で弾着位置が目標を挟み込む挟叉状態。
「あとはお互いを微調整していけば命中弾が出る!」
ドォォォォォォォォォォォォォン!
「弾~着!命中!」
『いよっしゃ!』
艦橋内の全員がどよめく。
《撃―――――――ッ!》
ドォォォォォォォォォォォォォン!
砲術員の声と主砲の発射音。そして・・・・・・・
「撃ち方やめ!」
わたしはインカムに向かって叫ぶ。
「射撃五十発中二十発命中!」
永信が双眼鏡を覗いて言った。
《まだまだね・・・・・・・・》
インカムから聞こえる美月の声。
《桑折空の零戦、陸攻、艦爆、艦攻隊。後は潜水艦二隻と協力しても船団を守り切れるかどうか・・・・・・・》
「美月・・・・・・・・」
わたしは美月に一言だけ返すと、続く「天津風」に場所を譲った。
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