アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸

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第二章 激闘の前に

第十三話 潜水艦隊

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「敵機発見!」
「急速潜航!!」
 艦橋で双眼鏡を覗く見張り員の声。わたし―喜多川由良はそれを聞くや否や命令を出した。
「急速潜航~!!」
 復唱する声とともに艦橋の要員たちがハッチの中に飛び込む。わたしはその最後に飛び込むと、ハッチをしっかりと閉めた。

 ゴボゴボゴボ・・・・・・・

 メインタンクに海水が入る音とともに潜水艦「伊―58」はその艦体を水中に沈めていく。
「両舷前進微速、取り舵!」
「両舷前進微速、とりかーじ」
 小声でインカムに向かって言うと、「伊―58」はスルスルと前進し始めた。

 ウィィィィィィィィ・・・・・・・・

 乗組員たちも小声で話す中、艦内には水中駆動用モーターの音のみが響く。
 潜水艦の最大の敵は「音」だ。特に敵地での潜航中はほんの少しの音でも命取りになる。
 潜航して敵艦船に接近、魚雷を放とうとするときに音など出したらマジでヤバい。
 相手にソナーで探知されて、運が悪ければあっという間に爆雷が降ってくる。運が良くても目標に逃げられる。
 だから艦内での連絡もすべてインカムだし、食材の切り方から歩き方に至るまで徹底して音を出さないように訓練を受けている。
 急速潜航から十分ほど後、わたしはインカムに向かって言った。
「メインタンク、ブロー。浮上完了次第推進を電動機モーターからディーゼルエンジンに切り替えて」
《了解》
 機関長の声が返ってくる。

 サァァァァァ・・・・・・

 気蓄器から圧縮空気がメインタンクに送り込まれ、金氏弁キングストンバルブから海水が排出される。

 ザァッ

 潜水艦「伊ー58」はその姿を海面に現した。
《推進を電動機モーターからディーゼルエンジンに切り替え、蓄電池の充電を開始。特に問題はない》
 機関長からの報告。
「了解、急速潜航訓練を終了、これより呉に帰投します」
 わたしは返すと、艦首を呉に向けた。






























「メインタンク、ブロー!艦載機発艦用意」

 サァァァァァ・・・・・・・・・

 海水が排水される音とともに、潜水空母「伊―400」はその巨体を洋上に現した。

 ガァァァ・・・・・・・・・

 艦の上部にある円筒の構造物の扉が開き、中から三機の水上機が引き出される。

 ガシャン!ガシャン!

「主尾翼展張!フロート取付完了!」
 整備兵の声が響く。その声を聞くや否や、コックピットに座った搭乗員は右手を振った。
「コンターック!」

 バタバタバタバタ・・・・・・・・・!

 愛知航空機アツタ三二型液冷エンジン。離昇出力千四百馬力を発揮するエンジンがうなりを上げる。
「発艦始め!」
 発艦指揮官の合図が出る。

 ガシュッ!

 圧縮空気の音と同時に先頭の晴嵐が射出機カタパルトから射出された。

 ガシュッ!

 ガシュッ!

 後ろに待機していた二番機、三番機も次々と射出されていく。
「艦載機全機発艦完了!」
 発艦指揮官が言うと、格納筒の扉が閉められた。ここまでわずかニ十分の早業。
「潜航用意~」
 わたし―長谷部遥はインカムのスイッチを入れると言った。
《了解》
 甲板上のみんなが艦内に滑り込む。

 ガゴン!ギィィィィィ・・・・・・・・

 ハッチが完全に閉められたのを確認すると、わたしはさらに指示を出した。
「ベント開け!」

 ゴボゴボゴボ・・・・・・・・・・

 ベントとはメインタンクから空気を抜くための弁。そこが開かれ、海水がメインタンクに入っていく。
 約五ノットほどで前進しながら、「伊―400」はその姿を海中に沈めた。
「通信員、晴嵐隊との交信は?」
《現在連絡なし。接敵はしていない模様》
「電探は?」
《電探には感なし》
「了解」
 我が艦は現在深度百メートル。安全深度ギリギリを航行中。速度は約三ノットだ。
「晴嵐隊は今頃接敵するはず・・・・・・・」
 今回は我が第一潜水空母隊の合同演習だ。想定としては、泊地に錨泊している敵戦艦部隊に我が一潜空が奇襲攻撃をかけることになっている。
「はつみ・・・・・・・・・」
 仮想敵役となるのはわたしの親友、三国はつみが率いる生徒艦隊主力水上打撃部隊。戦艦六隻を核とした精強な部隊だ。
《艦長、晴嵐隊隊長機から打電》
 通信員の春本祐樹が言った。
「なんと?」
《『敵艦隊見ユ』》
 (よし・・・・・・・・・!)
 わたしは拳を握りしめると、晴嵐隊の動向報告を待った。




















「敵艦隊発見・・・・・・ッと」
 うち―一潜空旗艦「伊―400」航空隊飛行長の三ツ矢遥は眼下の景色を見ると言った。
何本かの煙と戦艦独特のパゴタマストが見える。
「戦艦六、重巡八、軽巡七、駆逐三十ってとこかな。やっちゃう?」
 後席の偵察員、三船藤華が伝声管越しに訊いてくる。
「もちろん、攻撃に決まってるやん!」
 うちはフットバーを踏み込むと、藤華に言った。
「藤華、全機に打電や!『突入態勢作れ』!」
「了解!」

 ピピピーピピ ピピーピーピ ピーピーピー(突撃態勢作れトツレ


 ピピピーピピ ピピーピーピ ピーピーピー(突撃態勢作れトツレ


 藤華がものすごい速さで電鍵を叩く。
「次に艦隊宛、『トラトラトラ』や!」
「了解!」

 ピピピーピピ ピピピ。 ピピピーピピ ピピピ。ピピピーピピ ピピピ 

「トラトラトラ。ワレ奇襲に成功せり・・・・・・っと」
 藤華の指が電鍵の上で踊る。
「行くで!突撃!」
 うちは藤華に言うと、フットバーをぐっと踏み込んだ。
「了解!雷撃進路!」

 ピピピーピピ ピピピーピピ ピピピーピピ・・・・・・・
 
 藤華が突撃の意味を持つト連送を送る。

 グァァァァァァ!

 第四、第五小隊。「伊―13」、「伊―14」艦載機六機が爆弾を抱いて急降下する。目標は防空能力の高い秋月型駆逐艦だ。
「まずは急降下爆撃で対空が高い艦を潰すんや!」
 無線機に向かって叫ぶ。
「そんなことわかってますよ!」
 第三小隊長、春山幸喜の返事が返ってくる。
 事前に潜り込ませておいたスパイからの情報だと防空駆逐艦秋月型は「秋月」、「冬月」の二隻だけ。その次に対空能力が高い松型は一隻だ。

 グォォォォォォォォォォ!

 力を解き放たれた荒鷲たちが雄たけびを上げる。

 ドドドドドドドドドド!

 ポンポンポンポン!

 艦隊側でも我々に気づいて弾幕を張り始めた。
「藤華!うちらも行くで!」
「了解!」
 うちは右フットバーを強く踏み込み、操縦桿を押し倒した。スロットルも押し込む。

 グァァァァァァ!

 アツタエンジンがうなりを上げた。

 ドドドドドドドドドド!

 敵艦から対空機銃の火箭が向かってくる。
「うちに手ぇ出すとはいい度胸や!!」
 操縦桿を右に倒す。機体がぐっと傾いた。同時に高度を下げて海面から二十メートルまで降下する。
「えいやっ!」
 操縦桿を左に倒して元の向きに戻ると、一隻の戦艦に目を付けた。
「藤華!あいつを沈めるで!」
「了解!雷撃進路ヨーソロー!」
 内は両手と両足に感覚を集中させると、五感を研ぎ澄ませた。

 グォォォォォォォォォォ!

 うちの愛機はどんどん敵艦に近づいていく。

 ダダダダダ!

「フン!」
 フットバーを蹴って機体を横滑り、高角砲をかわす。
「行くで藤華!雷撃進路!」
「了解!」
 そのまま機首を敵艦に向け、機体をさらに降下させた。
「雷撃進路ヨーソロー!」
了解ヨーソローッ!」
 藤華が魚雷投下レバーを引く。

 ガコン!

 足元から魚雷が切り離される音がした。
「えいや!」
 魚雷という重荷を切り離した機体が上昇しようとするのを押さえつけ、敵艦の甲板すれすれを航過する。
「遥!甲板のみんなめちゃくちゃ驚いてるよ!」
 藤華が叫ぶ。
 コックピットからは甲板上の一人一人の表情までもがはっきりと読み取れた。
「こんな低空飛行するのはうちら以外に数人しかおらんからな」
 敵艦を飛び越えると同時に操縦桿を引いて急上昇。
「低空飛行で敵艦を飛び越えんと対空砲の餌食や。魚雷切り離した直後に上がるのは素人のやることやで」
 後方を見ると、二年の操る二番機は魚雷は撃ったもののすぐに上がって対空砲の餌食に。一年の操る三番機は雷撃すらできずに撃墜判定を喰らってた。
「まったく、未熟者ジャクが・・・・・・・」
 うちはつぶやくと、機の高度を上げた。二番機と三番機も続く。その機体は、ペイント弾の赤い染料でべったりと染まっていた。
「あと一週間で出撃なんだからもっと練度を上げとかないとね」
 藤華が伝声管ごしに言う。
「せやな」
 うちも返すと、後方を見た。
「藤華、敵艦はどうや?」
「雷跡はまっすぐ敵艦に向かってる」
 藤華が言った次の瞬間、戦艦の横っ腹に水柱が立ち上った。
「当たった当たった。敵の重装甲防御区画ヴァイタルバートに命中!」
 藤華が叫ぶ。
「しゃおらーッ!」
 うちは右手を突き上げた。
「藤華、全機に打電や!『各機帰投せよ』」
「了解!」
 藤華の指が躍るのを確認すると、うちはスロットルを開いて操縦桿を引いた。

 ヴァラララララララ・・・・・・・・・・・

 愛機が上昇する。そのまま上昇して雲上飛行に入った。
「藤華!艦隊からの位置情報は?」
「『現在高知県室戸岬沖約二百キロ付近。南西方向に約三ノットで潜航中』!」
「了解や!」
 うちは言うと、無線のスイッチを入れた。
「編隊指揮官機より二番機、三番機へ。帰投するで!うちの後についてぃや!」
「了解!」
「ふぇぇぇ!分かりましたぁ!」
 二番機の二年、奥宮本葉からは凛とした返事。三番機の一年、夕月春からは泣き出しそうな声が返ってくる。
「最後まで気ぃ抜かんとってな!」
 うちが言うと、編隊の各機が翼を振って答えた。
「藤華、航法頼むで」
「了解」
 藤華が航法計算をしてナビゲートを始める。うちは操縦桿を握りしめると、その声に耳を傾けた。


























「そろそろ帰投するころかな?」
 わたし―長谷部遥はインカムのスイッチを入れると、通信士の祐樹に問うた。
《ただいま本艦の位置情報を送信しました。今しばらくこの海域にとどまるのが善策でしょう》
「了解。航海長、しばらくこの海域にとどまって~」
《わかった》
 航海長からの返事を確認すると、わたしはさらに指示を出した。
「潜望鏡深度まで浮上。海上を確認するよ~」
《了解》

 サァァァァァ・・・・・・

 潜水空母「伊―400」は少し浮上すると、ピタリと止まった。両舷には軽く前進をかけてある。
「潜望鏡上げ~」
 わたしは指示を出すと、潜望鏡の接眼レンズをのぞき込んだ。注意深く艦の周りを見渡す。
 周りには船影は見つからない。
 わたしは息を吸い込むと、言った。
「メインタンク、ブロー!」

 サァァァァァ・・・・・・

 さらに音がして、「伊―400」は完全にその姿を水上に現した。
「行くよ!」
 わたしはハッチを開けると、まだ海水が滴る艦橋に駆け上がる。
「はい!」
 航海長の名波美月、航海科見張り員の春月唯も続いた。
「晴嵐隊の帰投を見逃さないようにしっかりと見張ってね~」
「わかってるよ!」
 名波も春月も超一流の見張り員。名波はかなり遠くまで見渡せるから航海科には必要な人物だし、春月の動体視力の良さは戦闘時でも平時でも重宝する。
「一時の方向約二キロメートル先、『伊―四〇一』浮上を確認」
「五時の方向二キロメートル先、『伊―一三』の浮上を確認」
 名波と春月が次々に報告してくる。周りを見ると、旗艦である「伊―400」を囲むように輪形陣を組んだ僚艦が浮上していた。
「そろそろかな~・・・・・・・・・通信長~」
《はい》
 わたしはインカムに向かって言う。
「誘導電波を出して~」
《了解》
 艦から電波を出し、それをキャッチした航空機が電波を頼りに艦に帰投する。一番確実な方法だよね。
「そろそろ帰投するはずだしね~」
 名波と春月はそれぞれ艦橋に備え付けの双眼鏡を覗いている。わたしも首にかけた双眼鏡を取ると、目に当てた。




























「藤華!艦隊見えたで!」
 うち―三ツ矢遥は下方に見える潜水艦五隻を見ると、スロットルを絞った。
「了解。艦名識別を始めるよ」
 藤華が答える。うちも目を凝らすと、各艦の艦橋側面を確認し始めた。
 潜水艦は浮上時には艦橋側面に艦名を書き込んだキャンバス地の布を掲げる。藤華とうちはそれを見てるんや。
「遥、真ん中が『伊―400』」
「了解や!」
 うちはさらにスロットルを絞ると、操縦桿を押し倒した。
「せいやっと」
 着水する少し前に操縦桿を引いて機首を上げる。

 ズザァァァァァ!

 フロートが海面に接触し、無事着水。
「クレーン出せ!」
 甲板上の発艦指揮官が大声で合図を出し、折り畳み式のクレーンが展開される。
「藤華、やるで」
 うちは安全縛帯を外すと、風防から上半身を突き出した。機のすぐ上まで降りてきたフックを手に取る。
「これをここに・・・・・・・・・てやっ」

 ガチャ

 風防上にフックをかけると、発艦指揮官に手で合図した。

 グォォォォォン

 クレーンが動き、愛機はカタパルト上の台車に乗せられた。
「ふ~、終わったなー」
 うちと藤華は主翼と機体に設けられた足掛けを伝って機体から降りる。

 ガチャッ ガチャッ

「フロート取り外し完了!」

 ガシャン!ガシャン!

「主尾翼折り畳み完了!」
「よし!格納しろ」

 ガラガラガラガラ

 小さくなった愛機が格納筒に押し込まれる。
「次は二番機じゃ!」
「はい!」
 発艦指揮官がてきぱきと合図し、二番機、三番機も甲板上に引き上げられていく。うちはその様子を見ると、格納筒のさらに上にある艦橋に上った。
「長谷部!」
「あ、三ツ矢ちゃん。お疲れ~」
 艦橋の真ん中に立っている長谷部がこっちを見る。
「長谷部、一潜空旗艦『伊―400』航空隊帰投。戦艦一隻を大破判定したけど二番機、三番機が撃墜判定や。後でもう少し訓練をせなあかんな」
 うちは敬礼して長谷部に言う。
「了解。艦内で休んでていいよ」
 長谷部は答礼すると、うちらに言う。
「了解や、行くで」
 うちは後ろに控えている皆に言うと、艦内に降りた。


















 ピッ

 インカムが鳴る。
《艦長、晴嵐隊全機の収容が完了しました》
「了解。一潜空各艦、状況知らせ」
《こちら『伊―401』。晴嵐隊全機格納完了》
《こちら『伊―402』。こちらも全機格納完了》
《こちら『伊―13』ただいまフロート格納中。しばし待っていただきたい》
「『伊―400』。了解」
《こちら『伊―14』。格納完了》
 各艦から通信が返ってくる。
《『伊―13』。全機格納完了》
「了解!呉に帰投します!我が艦を先頭に単縦陣で浮上航行してください」
《了解しました》
 各艦の艦長の声が返ってくる。
「ふぅ~」
 わたしはため息をつくと、遠くに見える水平線を見た。
「どうしたの?遥艦長」
 名波がこっちを見て訊いてくる。
「いや、実ちゃんたちのこと笑えないな~って」
 実ちゃんたちは艦砲射撃の成績が悪くて悩んでたけど、一潜空は飛行隊の練度―特に経験の浅い一年生と二年生の練度が悩みの種だ。
「実ちゃんたちは標的艦とか沖合の無人島を利用して着実に練度を上げてるでしょ。でも、わたしたちはまだまだ粗が目立つなって・・・・・・」
 はぁ。とわたしはため息をつく。
「遥艦長は考えすぎなんですよ」
 名波航海長が言う。
「わたしは今日の晴嵐隊の帰投も見てましたけど、アイツら着実にうまくなってますよ」
「そうですよ」
 春月航海士も言った。
「今年の初めごろはみんなフラフラでいつ失速して墜落おちるかヒヤヒヤものだったのに、今では一人前に飛べてるじゃないですか」
「そう?」
「そうやそうや」
 突然後ろから聞こえてきた声。
 飛行長の三ツ矢ちゃんが立っていた。つなぎの飛行服に飛行帽。飛行眼鏡は外して腰に当てた手に握られていた。
「これでもうち、『鬼の三ツ矢に阿修羅速水、音に聞こえた羅殺春島』って言われて一年連中から怖がられてんねや」
 言っておくけど、「速水」っていうのは空母「飛龍」飛行長兼戦闘機隊長の速水勇作君、「春島」っていうのは空母「隼鷹」攻撃隊長の春島彩羽いろはちゃんのことね。
 この三人は飛行科の中でも新人教育が厳しいことで有名な三人。さすがに体罰は加えないけど、一年生にその名と顔を知らぬ者はいないという三人なんだ。
「うちの教育、舐めてもろうたら困るで」
 三ツ矢ちゃんはこっちをギロッとにらみながら言う。
「おお、さすが鬼三ツ矢。すさまじい気迫だね~」
「まあ、元ネタは旧帝国海軍兵の間で言われていたヤツやけど」
 わたしが言うと、三ツ矢ちゃんはそう言って笑った。
「確か、『鬼の山城、地獄の金剛、音に聞こえた蛇の長門。日向行こうか、伊勢行こか、いっそ海兵団で首吊ろか』だっけ?」
「そうそう。あとは『地獄榛名に鬼金剛、羅刹霧島、夜叉比叡。乗るな山城鬼より恐い』もあったね」
 わたしも口元をほころばせる。
「そういえば、一年連にも山城ってやつおったな・・・・・・・・・」
 三ツ矢ちゃんが言う。
「いたね~。実ちゃんのとこのクルー」
 わたしが言うと、三ツ矢ちゃんはさらに言葉を継いだ。
「もしかして、そっちの山城も後輩を訓練させたら案外鬼教官だったりするかもな」
「まさかぁ」
 わたしは笑うと手をひらひらと振った。
「戦艦『山城』で行われていた教育と同等のことしてたら職員会議ものだよ」
 そう、この呉開陽高校において、体罰やいじめは厳禁、行った場合は職員会議の上警察に引き渡されると校則で規定されてるんだ。
 警察沙汰の抑止力は偉大で、これまで生徒艦隊ではいじめ沙汰は起きていない。
「まあ、あの実ちゃんの配下に限ってそんなことないと思うよ」
「せやな」
 わたしが言うと、三ツ矢ちゃんはうなずいた。
「それはそれとして・・・・・・・・」
 三ツ矢ちゃんが口を開く。
「うちらの訓練も進めとくさかいな。『鬼の三ツ矢』舐めんといてな」
 それに・・・・・・と三ツ矢ちゃんは続ける。
「うちら二人は『不可能を可能にするダブル遥』やろ?」
 三ツ矢ちゃんは右手を高く上げて親指を立てるとハッチの中に飛び込む。
「ほな、少し休んでくるな」
 顔だけ出して手を振った。
「うん!」
 わたしは手を振り返すと、輝く水平線を見つめた。
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