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第三章 激闘の中へ
第二十三話 レジスタンス
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ベイルート市内・・・・・・・
「前方二百メートルに敵の戦車。ティーガーよ」
わたし―ハンナ・シュピールマンは同行するルイーサ・グランツに言うと。背中に背負っていた対戦車ミサイルを構える。
「よいしょっと・・・・・・・」
ミサイルを装填した。
「ルイーサ。準備はいい?」
「Ja!」
ルイーサがうなずく。
「行くわよ!ハイヤッ!」
わたしは愛馬ベルンシュタインにまたがると、その腹を蹴った。
ダカカッ!ダカカッ!
ベルンの蹄が石畳を蹴り、一気に交差点に躍り出る。
ぐいっ!
交差点の真ん中で手綱を引いて停止。ATMを構えた。
「死ね!侵略者よ!」
引き金を引く。
プシャァァァァァァァァ!
はなたれたATMが敵戦車に飛んでいった。
「行くよ!」
再びベルンの腹を蹴って素早く離脱。九十度左に曲がった。
「*********!」
アッシリア歩兵が何か叫びながら追いかけてくる。
こくっ
さっきまで潜伏していた路地の前でルイーサに素早く合図。
「*!」
アッシリア兵がわたしを追いかけて路地を横切ろうとした瞬間・・・・・・
ダダダダダダダダダダ・・・・・・・・・・・!
ルイーサが機銃を掃射し、アッシリア兵がバタバタと倒れる。
ザッ!
わたしも手綱を引いてベルンを横に向けて止めると、鞍に着けていた機関銃を手に取った。
ガシャン!
弾丸装填!
ダダダダダダダダダダ・・・・・・・・・・・!
アッシリア兵に向かって放つ。
「ぐぁッ!」
「!!」
胸部を撃ち抜かれて倒れる敵。
ドガァァン!
その後ろで、さっきATMを撃ち込んだ戦車が爆発四散するのが見えた。
「敵戦車一両撃破!」
素早く無線でルイーサに言うと、一気に残りの敵を片付ける。
ジャキッ!
最後の一人を撃つと同時に弾がなくなった弾倉を交換。
「ふぅ・・・・・・・・」
するっ・・・・・・
鞍に取り付けたケースに銃を収める。
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
「お疲れさん」
ルイーサが自らの愛馬リュフトヒェンに跨って路地から出てきた。
「さて、戦車がいるってことは・・・・・・」
「・・・・・・近くにいるね。機甲師団が」
「手早く探すよ。アイツらが来る前にね」
「ja」
二人で撃破された戦車のそばに馬を寄せる。
「ルイーサは見張りをお願い。その間に手早く機密書類の類を探すよ」
わたしはそう言うと、ベルンの手綱を地面に垂らし、鞍から降りた。
「ずいぶんと派手に燃えてるね~」
もはや残骸と化した戦車に足をかける。
「弾薬の誘爆でも起こしたんでしょ。ハンナが撃ち込んだATM。的確にコイツの急所をとらえていた」
ルイーサが抜いたサーベルで残骸を指し示しながら言った。
「これだけ派手に燃えてちゃ、紙の書類の類は残ってないかな~」
わたしは戦車の中も調べ終わると、再びベルンに跨った。
すっ・・・・すっ・・・・・・
二人同時に十字を切り、首を垂れる。
「さて、行きましょうか・・・・・・・」
ベルンの腹を軽く蹴った。
「・・・・・・・わたしたちの司令部に」
わたしたちの本拠地はベイルートの外れ、とある建物にある。
目立たないように、普通の家のように偽装された門の脇には、浮浪者のような身なりの男が座り込んでいた。
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
門の前まで馬を歩かせていくと、男がゆらりと立ち上がる。
「*******?」
彼が口にしたのは合言葉。これを言えないと中には入れない。
「********!」
「********!」
わたしたちは難なく合言葉を言ってさらに奥へと馬を進める。
パタパタパタ・・・・・・・・
遠くから駆けてくる足音。
「おかえりなさい!どうだった?」
奥から出てきた少年がベルンのハミをとって洗い場へと歩き出した。
タンッ!
「上々。戦車一両を撃破」
わたしはベルンの鞍から降り立つと同時に少年に言う。
「やったね!」
少年はそう言いながらベルンを洗い場に繋ぎ、汗まみれの鞍と頭絡を外した。
「よーしよしよし・・・・・ドウドウドウ・・・・・・」
ルイーサの愛馬、リュフトヒェンも馬装を外されて洗われている。
「二人の方はケガとかしてない?」
少年が訊く。
「うん、大丈夫だよ」
「わたしも大丈夫。ベルンとハンナの腕がいいおかげだよ」
わたしは軽く手を挙げ、ルイーサは頭を下げて厩舎を離れた。
ザッ、ザッ・・・・・・・・
乗馬用の長靴で砂利を踏みしめ、少し離れた洋館に向かう。
コン、コン、コン・・・・・・・
洋館の玄関前に立ち、分厚い樫でできた扉をノックした。
「ハンナ・シュピールマンとルイーサ・グランツです。ご報告に参りました」
そう言うと同時に一歩下がる。この扉は外開きだから、このままいると扉に薙ぎ倒される羽目になるの。
ギィィィィィィ・・・・・・・・・
扉が開き、一人の男が出てくる。黒いスーツを着込み、黒縁の眼鏡をかけていた。
「ご苦労だった。入りたまえ」
彼の名はトワイライト。どうやら本名ではないらしいが、本名は誰も知らない・・・・・・・あの方を除いて。
いつもわたしたちを見下したような話し方をする、嫌なクソ眼鏡だ。
「ええ。早いとこあの方に報告したいからね」
わたしはそう言うと、トワイライトを置いて先に進む。
「おい、待ってくれ・・・・!」
つべこべ言うトワイライトのことは無視!わたしたちはさらに廊下の奥、突き当りの扉まで歩を進めた。
コン、コン、コン・・・・・・・
「アーベント・ペーガズス小隊、ハンナ・シュピールマンとルイーサ・グランツです」
「入りなさい」
わたしが言うと、扉の奥から声が聞こえる。
ギィィィィィィ・・・・・・
「失礼いたします!」
扉を開け、入り口で敬礼してから中に入った。
「失礼いたします!」
ルイーサも敬礼して、中に入る。
「お疲れさま。二人とも戦車一両を撃破したそうじゃないか」
一人の男性が机の書類から顔を上げる。金髪碧眼でチョコレート色のスーツを着用していた。胸ポケットからは懐中時計の鎖が伸びている。
「はい。我々の勝利です。グラウ大佐」
ルイーサが言った。
グラウ・ヘルプスト。これがこの方の名前。元ドイツ海軍ベイルート大使館付武官であり、海軍大佐でもある。
「さすが『夕闇の天馬』。と言ったところかな?」
彼がつぶやいた名前。それがわたしたちの部隊の名。
レジスタンス組織ツォイゲ・ユスティーツ「アーベント・ペーガズス」小隊。
速きこと天馬のごとく、強きこと龍のごとく・・・・・・。ツォイゲ・ユスティーツの中でも一番の精鋭部隊と言われている。
「そんなに褒める必要はありません。我々は、ただただ言われたことをこなしているにすぎないのです」
わたしはそう言うと、腰に下げていた物入から画面がバキバキに割れたタブレット端末を取り出した。
「今回撃破した戦車の残骸から、このようなものが見つかりました」
グラウ大佐に差し出す。
「ほほう。これは・・・・・・・・」
グラウ大佐が受け取り、しげしげと見た。
ぐいっ
天井から垂れ下がっている紐を引く。
カランカラン・・・・・・・・・・
遠くから聞こえる鐘の音。
しばらくして・・・・・
「お呼びでございましょうか、ヘルプスト様」
スーツ姿の女性が部屋に入ってくる。
「セラータ、この中に入っているデータを解析してくれ」
彼女の名はセラータ。この組織の諜報担当の最高責任者だ。
「承知いたしました」
セラータがタブレットを受け取り、部屋から出ていく。
「この組織も随分と国際的になってきましたね」
ルイーサがグラウ大佐に言う。さっきのセラータはイタリア人だし、最近はロシア人やアメリカ人も入ってきていた。
「それだけ我々に味方が集まってきているということだ」
グラウ大佐はそう言うと、パイプを取り出して火皿に煙草を詰める。
「それは心強いですね」
わたしが言うと、大佐は煙草に火をともして言った。
「うん。とりあえず数が増えてくれると嬉しいね」
「それでは、失礼いたしました」
わたしとルイーサは一歩下がって敬礼すると、グラウ大佐の部屋から出た。
夜・・・・・・・
夕闇の天馬と言う名が表すように、我々が得意とするのは宵闇に紛れて行う夜襲だ。
「いたいた・・・・・・・・・」
わたしはベルンを止めると。百メートルほど前方を指さした。
「うん、いっぱいいるね・・・・・・・・」
ルイーサがそう言って、暗視ゴーグルをつける。
「やっちゃう?」
ルイーサはわたしの指さした方向―野営中の敵機甲師団を指さして言った。
「どうしようかな・・・・・・・・まずは両数を記録しよ」
手に持ったタブレットにデータを打ち込む。
「記録が終わったらどうする?」
わたしとしては一両でも多くの戦車を動けなくしたいところだけど・・・・・・・
「・・・・・・任せて」
突然上から聞こえた声。
「!」
見上げると、一人の少年が木の枝に腰かけていた。その手には、狙撃銃が握られている。
「あら、ヨーゼフじゃない」
ヨーゼフ・ゾルダート。わたしと同じアーベント・ペーガズス小隊の狙撃兵だ。
「珍しいわね、普段はソロでやってるのに」
ルイーサが首をかしげる。
「別に協力したくはなかったんだがな・・・・・・獲物の気配を追ってたらお前らとバッタリ。と言うわけだ」
このクソガキ~~~~~!
「だったらさっさと獲物を倒しなさいよ」
「わかってる・・・・・」
ヨーゼフが肩にかけていたKar98を構えた。
チャキッ!
薬室に実包を送り込む。
「・・・・・・」
無言でスコープを覗き込み、用心金に指をかけた。
パァン! パァン! パァン!
発砲音と同時に硝煙の匂い。
ササササッ
ヨーゼフは撃つと同時に移動を始める。
「すごい!あっという間に三人を斃してる」
ルイーサが双眼鏡を覗いて言う。
戦車や装甲車、自走砲の周りの見張りがすべて斃され、周囲はガラ空きになっていた。
パァン! パァン!
再び銃声が聞こえる。
どうやらヨーゼフが本隊の方を狙撃しているようだ。
「今がチャンスだ!行くよ!」
わたしはルイーサに言って戦車に近づく。
「よしっ・・・・・!」
燃料タンクのフタを開けると、ポケットから砂糖を取り出した。
サラサラサラサラ・・・・・・・
燃料タンクに流し込み、再びフタを閉める。
「次はあいつだよ・・・・・・」
他の戦車にも二人で手分けして砂糖を流し込んだ。
「最後の一両は・・・・・・」
わたしは最後の一両の燃料タンクに砂糖を流し込むと、さらにハッチを開けた。
すっ・・・・
タクティカルベストに取り付けていた手榴弾を手に取る。
「・・・・・・」
ルイーサも持っているだけの手榴弾を手に取った。
「行くよ」
「うん」
二人とも持っているすべての手榴弾を持つ。
『せーのッ』
安全ピンを抜いて一気に車内に放り込むとハッチを閉めた。
「逃げろ!」
二人で一斉に駆け出し。ベルンとリュフトヒェンのもとに逃げ帰る。
「ハイヤッ!」
二人ともそれぞれの馬にまたがって走り出した時・・・・・
ドン!ドン!
後方の戦車隊の一両、さっき手榴弾を放り込んだティーガーの中で爆発が起きる音が聞こえた、
「やった!」
相手もさっきの爆発とヨーゼフの襲来で目が覚めているはず。
「できる限り堅いところを行くよ」
足跡を残さぬようにあえて舗装された道を走り、司令部に急ぐ。
パァン! パァン! パァン!
狙撃の銃声が、遠くから聞こえた。
一方そのころ、ツォイゲ・ユスティーツ司令部にて・・・・・・
「ふむ。その情報は本当なのだな?」
指導者であるグラウ・ヘルプストが問う。
「はい。現在市内に入っているのはほんの一部にすぎません」
セラータがグラウに言った。
「本命は・・・・・・・」
「ええ。まだ市内には入っておりません」
グラウのつぶやきにセラータが答える。
「おそらく、反撃を恐れているものと思われます。今日も皆さん派手にやって来たようですし・・・・・・・」
窓の外、はるか遠くから爆炎が上がるのが見えた。
「そうか。直ちに国連軍に伝達せよ」
「はっ」
グラウが指示し、セラータが短く返事して部屋を出ていく。
ボッ・・・・・・・
グラウはその様子を見ると、煙草に火をつけた。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・・・」
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
わたし―ハンナ・シュピールマンの声とベルンの足音。
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
ルイーサもリュフトヒェンを歩かせてわたしについてくる。
「ここまで来れば、さすがに敵も追ってはこないでしょ・・・・・・・」
司令部の前で手綱を引き、ベルンを止めた。
「*********」
合言葉を言って司令部の中に入る。
ベルンを洗い場に繋いで馬装を解き、その体を洗った。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・・・」
ルイーサとともにグラウ大佐のもとへ向かう。
「失礼いたします」
グラウ大佐の部屋に入ると、部屋の主が我々を出迎えた。
「『アーベント・ペーガズス』小隊、ハンナ・シュピールマンとルイーサ・グランツ。ただいま帰還いたしました」
「ご苦労様でした」
わたしが報告すると、グラウ大佐がほほ笑んで言う。
「戦果は敵機甲師団の車両の燃料に異物を混入させ、全車行動不能。人的被害についてはヨーゼフに訊いてください」
「そうか。お疲れさま。ゆっくり休みなさい。あぁ、それと・・・・・・・・」
グラウ大佐が何か思い出したように言った。
「・・・・アーベント・ペ-ガズスに、新たな任務が入っている」
地中海を航行中の空母「信濃」艦内、搭乗員詰め所にて・・・・・・・
「それでは、今回の作戦任務を説明する」
俺―平沼敦は、居並ぶ搭乗員たちを見回して言った。
「今回、我々空母『信濃』航空隊に課せられた任務は現地上空の制空と滑走路および燃料タンクの破壊である。機動部隊上空の防空は第二護衛空母隊の小型空母、改造空母が担うため、我々はその全兵力を敵基地攻撃に投入する」
俺はプロジェクターに投影されたルートを指し示して話す。
「今回は急降下爆撃による精密爆撃だ。現地に潜伏中のレジスタンス組織の誘導に従って投下。目標を破壊する」
俺は大写しにされた基地上空の偵察写真、円筒形の燃料タンクと二本の滑走路を指し示した。
「ここを『信濃』、『大鳳』航空隊で破壊し、制空権を確保したのち、流れ出た燃料に向かって『赤城』、『加賀』、『蒼龍』、『飛龍』、「翔鶴」、『瑞鶴』攻撃機隊が新型装備『試製テルミット爆弾一型』を投下。燃料を爆発炎上させる」
俺が言うと、全員が言われたことを反芻し、頭に叩き込む。
「その後、陸上基地より飛び立った一式陸攻三十五機及びB-25五機に分乗した空挺部隊が降下。基地を占領する」
そこまで言うと、俺は全員を見回した。
「『信濃』航空隊初の攻撃任務だ!!みんな!気合を入れてかかれ!」
『オォォォォォォォォ!』
皆が気勢を上げた瞬間・・・・・・・・
ジャァァァァァァァン!
「!!」
総員配置を告げるベルが鳴った。
「前方二百メートルに敵の戦車。ティーガーよ」
わたし―ハンナ・シュピールマンは同行するルイーサ・グランツに言うと。背中に背負っていた対戦車ミサイルを構える。
「よいしょっと・・・・・・・」
ミサイルを装填した。
「ルイーサ。準備はいい?」
「Ja!」
ルイーサがうなずく。
「行くわよ!ハイヤッ!」
わたしは愛馬ベルンシュタインにまたがると、その腹を蹴った。
ダカカッ!ダカカッ!
ベルンの蹄が石畳を蹴り、一気に交差点に躍り出る。
ぐいっ!
交差点の真ん中で手綱を引いて停止。ATMを構えた。
「死ね!侵略者よ!」
引き金を引く。
プシャァァァァァァァァ!
はなたれたATMが敵戦車に飛んでいった。
「行くよ!」
再びベルンの腹を蹴って素早く離脱。九十度左に曲がった。
「*********!」
アッシリア歩兵が何か叫びながら追いかけてくる。
こくっ
さっきまで潜伏していた路地の前でルイーサに素早く合図。
「*!」
アッシリア兵がわたしを追いかけて路地を横切ろうとした瞬間・・・・・・
ダダダダダダダダダダ・・・・・・・・・・・!
ルイーサが機銃を掃射し、アッシリア兵がバタバタと倒れる。
ザッ!
わたしも手綱を引いてベルンを横に向けて止めると、鞍に着けていた機関銃を手に取った。
ガシャン!
弾丸装填!
ダダダダダダダダダダ・・・・・・・・・・・!
アッシリア兵に向かって放つ。
「ぐぁッ!」
「!!」
胸部を撃ち抜かれて倒れる敵。
ドガァァン!
その後ろで、さっきATMを撃ち込んだ戦車が爆発四散するのが見えた。
「敵戦車一両撃破!」
素早く無線でルイーサに言うと、一気に残りの敵を片付ける。
ジャキッ!
最後の一人を撃つと同時に弾がなくなった弾倉を交換。
「ふぅ・・・・・・・・」
するっ・・・・・・
鞍に取り付けたケースに銃を収める。
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
「お疲れさん」
ルイーサが自らの愛馬リュフトヒェンに跨って路地から出てきた。
「さて、戦車がいるってことは・・・・・・」
「・・・・・・近くにいるね。機甲師団が」
「手早く探すよ。アイツらが来る前にね」
「ja」
二人で撃破された戦車のそばに馬を寄せる。
「ルイーサは見張りをお願い。その間に手早く機密書類の類を探すよ」
わたしはそう言うと、ベルンの手綱を地面に垂らし、鞍から降りた。
「ずいぶんと派手に燃えてるね~」
もはや残骸と化した戦車に足をかける。
「弾薬の誘爆でも起こしたんでしょ。ハンナが撃ち込んだATM。的確にコイツの急所をとらえていた」
ルイーサが抜いたサーベルで残骸を指し示しながら言った。
「これだけ派手に燃えてちゃ、紙の書類の類は残ってないかな~」
わたしは戦車の中も調べ終わると、再びベルンに跨った。
すっ・・・・すっ・・・・・・
二人同時に十字を切り、首を垂れる。
「さて、行きましょうか・・・・・・・」
ベルンの腹を軽く蹴った。
「・・・・・・・わたしたちの司令部に」
わたしたちの本拠地はベイルートの外れ、とある建物にある。
目立たないように、普通の家のように偽装された門の脇には、浮浪者のような身なりの男が座り込んでいた。
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
門の前まで馬を歩かせていくと、男がゆらりと立ち上がる。
「*******?」
彼が口にしたのは合言葉。これを言えないと中には入れない。
「********!」
「********!」
わたしたちは難なく合言葉を言ってさらに奥へと馬を進める。
パタパタパタ・・・・・・・・
遠くから駆けてくる足音。
「おかえりなさい!どうだった?」
奥から出てきた少年がベルンのハミをとって洗い場へと歩き出した。
タンッ!
「上々。戦車一両を撃破」
わたしはベルンの鞍から降り立つと同時に少年に言う。
「やったね!」
少年はそう言いながらベルンを洗い場に繋ぎ、汗まみれの鞍と頭絡を外した。
「よーしよしよし・・・・・ドウドウドウ・・・・・・」
ルイーサの愛馬、リュフトヒェンも馬装を外されて洗われている。
「二人の方はケガとかしてない?」
少年が訊く。
「うん、大丈夫だよ」
「わたしも大丈夫。ベルンとハンナの腕がいいおかげだよ」
わたしは軽く手を挙げ、ルイーサは頭を下げて厩舎を離れた。
ザッ、ザッ・・・・・・・・
乗馬用の長靴で砂利を踏みしめ、少し離れた洋館に向かう。
コン、コン、コン・・・・・・・
洋館の玄関前に立ち、分厚い樫でできた扉をノックした。
「ハンナ・シュピールマンとルイーサ・グランツです。ご報告に参りました」
そう言うと同時に一歩下がる。この扉は外開きだから、このままいると扉に薙ぎ倒される羽目になるの。
ギィィィィィィ・・・・・・・・・
扉が開き、一人の男が出てくる。黒いスーツを着込み、黒縁の眼鏡をかけていた。
「ご苦労だった。入りたまえ」
彼の名はトワイライト。どうやら本名ではないらしいが、本名は誰も知らない・・・・・・・あの方を除いて。
いつもわたしたちを見下したような話し方をする、嫌なクソ眼鏡だ。
「ええ。早いとこあの方に報告したいからね」
わたしはそう言うと、トワイライトを置いて先に進む。
「おい、待ってくれ・・・・!」
つべこべ言うトワイライトのことは無視!わたしたちはさらに廊下の奥、突き当りの扉まで歩を進めた。
コン、コン、コン・・・・・・・
「アーベント・ペーガズス小隊、ハンナ・シュピールマンとルイーサ・グランツです」
「入りなさい」
わたしが言うと、扉の奥から声が聞こえる。
ギィィィィィィ・・・・・・
「失礼いたします!」
扉を開け、入り口で敬礼してから中に入った。
「失礼いたします!」
ルイーサも敬礼して、中に入る。
「お疲れさま。二人とも戦車一両を撃破したそうじゃないか」
一人の男性が机の書類から顔を上げる。金髪碧眼でチョコレート色のスーツを着用していた。胸ポケットからは懐中時計の鎖が伸びている。
「はい。我々の勝利です。グラウ大佐」
ルイーサが言った。
グラウ・ヘルプスト。これがこの方の名前。元ドイツ海軍ベイルート大使館付武官であり、海軍大佐でもある。
「さすが『夕闇の天馬』。と言ったところかな?」
彼がつぶやいた名前。それがわたしたちの部隊の名。
レジスタンス組織ツォイゲ・ユスティーツ「アーベント・ペーガズス」小隊。
速きこと天馬のごとく、強きこと龍のごとく・・・・・・。ツォイゲ・ユスティーツの中でも一番の精鋭部隊と言われている。
「そんなに褒める必要はありません。我々は、ただただ言われたことをこなしているにすぎないのです」
わたしはそう言うと、腰に下げていた物入から画面がバキバキに割れたタブレット端末を取り出した。
「今回撃破した戦車の残骸から、このようなものが見つかりました」
グラウ大佐に差し出す。
「ほほう。これは・・・・・・・・」
グラウ大佐が受け取り、しげしげと見た。
ぐいっ
天井から垂れ下がっている紐を引く。
カランカラン・・・・・・・・・・
遠くから聞こえる鐘の音。
しばらくして・・・・・
「お呼びでございましょうか、ヘルプスト様」
スーツ姿の女性が部屋に入ってくる。
「セラータ、この中に入っているデータを解析してくれ」
彼女の名はセラータ。この組織の諜報担当の最高責任者だ。
「承知いたしました」
セラータがタブレットを受け取り、部屋から出ていく。
「この組織も随分と国際的になってきましたね」
ルイーサがグラウ大佐に言う。さっきのセラータはイタリア人だし、最近はロシア人やアメリカ人も入ってきていた。
「それだけ我々に味方が集まってきているということだ」
グラウ大佐はそう言うと、パイプを取り出して火皿に煙草を詰める。
「それは心強いですね」
わたしが言うと、大佐は煙草に火をともして言った。
「うん。とりあえず数が増えてくれると嬉しいね」
「それでは、失礼いたしました」
わたしとルイーサは一歩下がって敬礼すると、グラウ大佐の部屋から出た。
夜・・・・・・・
夕闇の天馬と言う名が表すように、我々が得意とするのは宵闇に紛れて行う夜襲だ。
「いたいた・・・・・・・・・」
わたしはベルンを止めると。百メートルほど前方を指さした。
「うん、いっぱいいるね・・・・・・・・」
ルイーサがそう言って、暗視ゴーグルをつける。
「やっちゃう?」
ルイーサはわたしの指さした方向―野営中の敵機甲師団を指さして言った。
「どうしようかな・・・・・・・・まずは両数を記録しよ」
手に持ったタブレットにデータを打ち込む。
「記録が終わったらどうする?」
わたしとしては一両でも多くの戦車を動けなくしたいところだけど・・・・・・・
「・・・・・・任せて」
突然上から聞こえた声。
「!」
見上げると、一人の少年が木の枝に腰かけていた。その手には、狙撃銃が握られている。
「あら、ヨーゼフじゃない」
ヨーゼフ・ゾルダート。わたしと同じアーベント・ペーガズス小隊の狙撃兵だ。
「珍しいわね、普段はソロでやってるのに」
ルイーサが首をかしげる。
「別に協力したくはなかったんだがな・・・・・・獲物の気配を追ってたらお前らとバッタリ。と言うわけだ」
このクソガキ~~~~~!
「だったらさっさと獲物を倒しなさいよ」
「わかってる・・・・・」
ヨーゼフが肩にかけていたKar98を構えた。
チャキッ!
薬室に実包を送り込む。
「・・・・・・」
無言でスコープを覗き込み、用心金に指をかけた。
パァン! パァン! パァン!
発砲音と同時に硝煙の匂い。
ササササッ
ヨーゼフは撃つと同時に移動を始める。
「すごい!あっという間に三人を斃してる」
ルイーサが双眼鏡を覗いて言う。
戦車や装甲車、自走砲の周りの見張りがすべて斃され、周囲はガラ空きになっていた。
パァン! パァン!
再び銃声が聞こえる。
どうやらヨーゼフが本隊の方を狙撃しているようだ。
「今がチャンスだ!行くよ!」
わたしはルイーサに言って戦車に近づく。
「よしっ・・・・・!」
燃料タンクのフタを開けると、ポケットから砂糖を取り出した。
サラサラサラサラ・・・・・・・
燃料タンクに流し込み、再びフタを閉める。
「次はあいつだよ・・・・・・」
他の戦車にも二人で手分けして砂糖を流し込んだ。
「最後の一両は・・・・・・」
わたしは最後の一両の燃料タンクに砂糖を流し込むと、さらにハッチを開けた。
すっ・・・・
タクティカルベストに取り付けていた手榴弾を手に取る。
「・・・・・・」
ルイーサも持っているだけの手榴弾を手に取った。
「行くよ」
「うん」
二人とも持っているすべての手榴弾を持つ。
『せーのッ』
安全ピンを抜いて一気に車内に放り込むとハッチを閉めた。
「逃げろ!」
二人で一斉に駆け出し。ベルンとリュフトヒェンのもとに逃げ帰る。
「ハイヤッ!」
二人ともそれぞれの馬にまたがって走り出した時・・・・・
ドン!ドン!
後方の戦車隊の一両、さっき手榴弾を放り込んだティーガーの中で爆発が起きる音が聞こえた、
「やった!」
相手もさっきの爆発とヨーゼフの襲来で目が覚めているはず。
「できる限り堅いところを行くよ」
足跡を残さぬようにあえて舗装された道を走り、司令部に急ぐ。
パァン! パァン! パァン!
狙撃の銃声が、遠くから聞こえた。
一方そのころ、ツォイゲ・ユスティーツ司令部にて・・・・・・
「ふむ。その情報は本当なのだな?」
指導者であるグラウ・ヘルプストが問う。
「はい。現在市内に入っているのはほんの一部にすぎません」
セラータがグラウに言った。
「本命は・・・・・・・」
「ええ。まだ市内には入っておりません」
グラウのつぶやきにセラータが答える。
「おそらく、反撃を恐れているものと思われます。今日も皆さん派手にやって来たようですし・・・・・・・」
窓の外、はるか遠くから爆炎が上がるのが見えた。
「そうか。直ちに国連軍に伝達せよ」
「はっ」
グラウが指示し、セラータが短く返事して部屋を出ていく。
ボッ・・・・・・・
グラウはその様子を見ると、煙草に火をつけた。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・・・」
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
わたし―ハンナ・シュピールマンの声とベルンの足音。
カポッ、カポッ・・・・・・・・・
ルイーサもリュフトヒェンを歩かせてわたしについてくる。
「ここまで来れば、さすがに敵も追ってはこないでしょ・・・・・・・」
司令部の前で手綱を引き、ベルンを止めた。
「*********」
合言葉を言って司令部の中に入る。
ベルンを洗い場に繋いで馬装を解き、その体を洗った。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・・・」
ルイーサとともにグラウ大佐のもとへ向かう。
「失礼いたします」
グラウ大佐の部屋に入ると、部屋の主が我々を出迎えた。
「『アーベント・ペーガズス』小隊、ハンナ・シュピールマンとルイーサ・グランツ。ただいま帰還いたしました」
「ご苦労様でした」
わたしが報告すると、グラウ大佐がほほ笑んで言う。
「戦果は敵機甲師団の車両の燃料に異物を混入させ、全車行動不能。人的被害についてはヨーゼフに訊いてください」
「そうか。お疲れさま。ゆっくり休みなさい。あぁ、それと・・・・・・・・」
グラウ大佐が何か思い出したように言った。
「・・・・アーベント・ペ-ガズスに、新たな任務が入っている」
地中海を航行中の空母「信濃」艦内、搭乗員詰め所にて・・・・・・・
「それでは、今回の作戦任務を説明する」
俺―平沼敦は、居並ぶ搭乗員たちを見回して言った。
「今回、我々空母『信濃』航空隊に課せられた任務は現地上空の制空と滑走路および燃料タンクの破壊である。機動部隊上空の防空は第二護衛空母隊の小型空母、改造空母が担うため、我々はその全兵力を敵基地攻撃に投入する」
俺はプロジェクターに投影されたルートを指し示して話す。
「今回は急降下爆撃による精密爆撃だ。現地に潜伏中のレジスタンス組織の誘導に従って投下。目標を破壊する」
俺は大写しにされた基地上空の偵察写真、円筒形の燃料タンクと二本の滑走路を指し示した。
「ここを『信濃』、『大鳳』航空隊で破壊し、制空権を確保したのち、流れ出た燃料に向かって『赤城』、『加賀』、『蒼龍』、『飛龍』、「翔鶴」、『瑞鶴』攻撃機隊が新型装備『試製テルミット爆弾一型』を投下。燃料を爆発炎上させる」
俺が言うと、全員が言われたことを反芻し、頭に叩き込む。
「その後、陸上基地より飛び立った一式陸攻三十五機及びB-25五機に分乗した空挺部隊が降下。基地を占領する」
そこまで言うと、俺は全員を見回した。
「『信濃』航空隊初の攻撃任務だ!!みんな!気合を入れてかかれ!」
『オォォォォォォォォ!』
皆が気勢を上げた瞬間・・・・・・・・
ジャァァァァァァァン!
「!!」
総員配置を告げるベルが鳴った。
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