14 / 40
本編
第十話オーディルルド
しおりを挟む
騎馬会の定例会から一週間後、わたしは、天照にまたがって田んぼの間の道を疾走していた・・・・・と言っても、ちょっと早めなだけだけど。
「あの家かな?」
田んぼの向こうに、ちょっと大きめの家が見えている。敷地の周りには、生け垣がめぐらされていた。
「ホーホー」
ちょっと手綱をしぼって、天照の速度を抑える。家の門は開け放されていて、騎乗したまま中に入れた。
「そうそう、ゆっくりゆっくり・・・」
天照の歩様を並足におさえて、門をくぐる。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒーン!」
門から中に一歩入った瞬間、馬のいななきが耳に入った。
庭の馬繫柱には、一頭のサラブレッド。毛色は黒鹿毛と聞いてたけど、どっちかと言うと濃いグレー。顔にはズバッと大白が入り、大勒ハミと将校鞍をつけている。
「ルル、静かにしなさい」
母屋から出てきた友里恵が、こっちに気づいて手を振った。
「おはよー、あさひ。今日はいい天気だね」
「おはよう、先輩に言われたとおり、迎えに来たよ」
わたしも天照の背中から降りて、手を振り返す。
「この子がルル?」
「そう!わたしの馬。かっこいいでしょ?」
たしかに、かっこいい。つい最近まで競馬に出ていたとあって、全身の筋肉がたくましく盛り上がっている。
「ちょっとごめんね・・・」
脚に触ってみた。足の筋肉は固く締まっている。毛の艶もすごい。どんなエサあげてるんだろう・・・・
「普通に干し草と配合飼料だよ。あさひのとこはそうじゃないの?」
わたしは首を横に振る。
「野馬追部はほとんど干し草とおから。まあ、濃厚飼料もあげるけどね」
「へぇ、おから・・・・」
「近くの豆腐屋さんが安く売ってくれるの」
そんなこんな話してるうちに、そろそろ出ないとヤバい時間になっちゃった。
「そろそろ行かないとね」
友里恵は制服のままルルの鐙に足をかけると、ひらりと飛び乗った。
「ちょ・・・・・制服で大丈夫なの?」
いくら乗馬用の長靴をはいてると言っても、制服のひざ丈のスカートじゃちょっときついんじゃないかな・・・・・・まぁ、登下校は制服でするっていう校則だけど。
「大丈夫大丈夫、いつもこんな感じで乗ってるから」
「そ、そう?」
わたしも、天照の背中にまたがる。
「じゃ、学校の校門まではわたしが先行くね」
友里恵はそういうと、ルルの腹を蹴った。
「わかった」
わたしの乗った天照は、二馬身ほど差をつけて、うしろを行く。
カポッ、カポッ、カポッ
のどかな田んぼ道に、二頭の馬のひづめの音が響く。朝の人通りが多い時間帯で、自転車とか歩行者もいるから、要注意だ。
速足で四十分くらい。学校の正門が見えてきた。騎乗したまま校内に入る。
「南相~ファイッ」
『応!』
校庭では、野球部が練習中。二頭とも、ちょっと耳を動かしたけど、特に気にしてない。
「これはいけるかもね」
「そうだね」
野馬追馬には、たくさんの観客のざわめきや吹き鳴らされる法螺貝の音、打ち上げられる花火の音など、たくさんの音に耐えなければならない。あんまりナイーブだとダメなんだよね。
厩舎前、いつものごとく、狼森先輩が出てきて待っていた。
「おつかれ~」
「ただいま帰りました~」
天照を洗い場につないだ。友里恵も、となりの洗い場にルルをつなぐ。
案の定、部員たちが寄ってきた。
「これがルル?変わった鞍つけてるね~」
このすっとぼけたような声は、結那だな。
「そう、元大日本帝国陸軍騎兵隊の将校鞍だよ」
ルルは、ちょっと耳を動かして、みんなのやり取りを聞いていた。
「う~、ちょっと蹄が伸びてるな。蹄鉄も取り換えてやらないと」
ルルの足元をのぞき込んでた先輩が、ちょっと顔を上げて言った。
「装蹄師さんでも呼ぶか。ちょうど池月と摺墨も装蹄が必要なころだしな」
「呼ぶんですか?」
小梅ちゃんが、電話の子機を持ってくる。
「大丈夫だよ、自分がかけるから」
先輩は、ポケットからスマホを取り出し、ちょっと画面をタップした後、耳に当てた。
「あ、もしもし、狼森です~。ちょっと削蹄と装蹄をお願いしたいんですが、大丈夫ですか?・・・・あ、はい、じゃあお願いします」
狼森先輩は、こっちを向くと、テキパキと指示を出した。
「友里恵さん、ルルの鞍を外して、ハミを無口に付け替えて。あさひは、天照の馬装を解いて、馬場に放してきて。光太は、摺墨を馬場から出して、洗い場につないで。あと三十分くらいで装蹄師さん来るから、それに間に合うようにお願い」
『はい!』
「あの家かな?」
田んぼの向こうに、ちょっと大きめの家が見えている。敷地の周りには、生け垣がめぐらされていた。
「ホーホー」
ちょっと手綱をしぼって、天照の速度を抑える。家の門は開け放されていて、騎乗したまま中に入れた。
「そうそう、ゆっくりゆっくり・・・」
天照の歩様を並足におさえて、門をくぐる。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒーン!」
門から中に一歩入った瞬間、馬のいななきが耳に入った。
庭の馬繫柱には、一頭のサラブレッド。毛色は黒鹿毛と聞いてたけど、どっちかと言うと濃いグレー。顔にはズバッと大白が入り、大勒ハミと将校鞍をつけている。
「ルル、静かにしなさい」
母屋から出てきた友里恵が、こっちに気づいて手を振った。
「おはよー、あさひ。今日はいい天気だね」
「おはよう、先輩に言われたとおり、迎えに来たよ」
わたしも天照の背中から降りて、手を振り返す。
「この子がルル?」
「そう!わたしの馬。かっこいいでしょ?」
たしかに、かっこいい。つい最近まで競馬に出ていたとあって、全身の筋肉がたくましく盛り上がっている。
「ちょっとごめんね・・・」
脚に触ってみた。足の筋肉は固く締まっている。毛の艶もすごい。どんなエサあげてるんだろう・・・・
「普通に干し草と配合飼料だよ。あさひのとこはそうじゃないの?」
わたしは首を横に振る。
「野馬追部はほとんど干し草とおから。まあ、濃厚飼料もあげるけどね」
「へぇ、おから・・・・」
「近くの豆腐屋さんが安く売ってくれるの」
そんなこんな話してるうちに、そろそろ出ないとヤバい時間になっちゃった。
「そろそろ行かないとね」
友里恵は制服のままルルの鐙に足をかけると、ひらりと飛び乗った。
「ちょ・・・・・制服で大丈夫なの?」
いくら乗馬用の長靴をはいてると言っても、制服のひざ丈のスカートじゃちょっときついんじゃないかな・・・・・・まぁ、登下校は制服でするっていう校則だけど。
「大丈夫大丈夫、いつもこんな感じで乗ってるから」
「そ、そう?」
わたしも、天照の背中にまたがる。
「じゃ、学校の校門まではわたしが先行くね」
友里恵はそういうと、ルルの腹を蹴った。
「わかった」
わたしの乗った天照は、二馬身ほど差をつけて、うしろを行く。
カポッ、カポッ、カポッ
のどかな田んぼ道に、二頭の馬のひづめの音が響く。朝の人通りが多い時間帯で、自転車とか歩行者もいるから、要注意だ。
速足で四十分くらい。学校の正門が見えてきた。騎乗したまま校内に入る。
「南相~ファイッ」
『応!』
校庭では、野球部が練習中。二頭とも、ちょっと耳を動かしたけど、特に気にしてない。
「これはいけるかもね」
「そうだね」
野馬追馬には、たくさんの観客のざわめきや吹き鳴らされる法螺貝の音、打ち上げられる花火の音など、たくさんの音に耐えなければならない。あんまりナイーブだとダメなんだよね。
厩舎前、いつものごとく、狼森先輩が出てきて待っていた。
「おつかれ~」
「ただいま帰りました~」
天照を洗い場につないだ。友里恵も、となりの洗い場にルルをつなぐ。
案の定、部員たちが寄ってきた。
「これがルル?変わった鞍つけてるね~」
このすっとぼけたような声は、結那だな。
「そう、元大日本帝国陸軍騎兵隊の将校鞍だよ」
ルルは、ちょっと耳を動かして、みんなのやり取りを聞いていた。
「う~、ちょっと蹄が伸びてるな。蹄鉄も取り換えてやらないと」
ルルの足元をのぞき込んでた先輩が、ちょっと顔を上げて言った。
「装蹄師さんでも呼ぶか。ちょうど池月と摺墨も装蹄が必要なころだしな」
「呼ぶんですか?」
小梅ちゃんが、電話の子機を持ってくる。
「大丈夫だよ、自分がかけるから」
先輩は、ポケットからスマホを取り出し、ちょっと画面をタップした後、耳に当てた。
「あ、もしもし、狼森です~。ちょっと削蹄と装蹄をお願いしたいんですが、大丈夫ですか?・・・・あ、はい、じゃあお願いします」
狼森先輩は、こっちを向くと、テキパキと指示を出した。
「友里恵さん、ルルの鞍を外して、ハミを無口に付け替えて。あさひは、天照の馬装を解いて、馬場に放してきて。光太は、摺墨を馬場から出して、洗い場につないで。あと三十分くらいで装蹄師さん来るから、それに間に合うようにお願い」
『はい!』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる