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戦の前の平穏~鷹華のものがたり~其の一
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太平洋、それは世界でもトップクラスの大きさを誇る海。地球上のシーレーンのメインルートでもあり、各国の艦船たちが頻繁に行き来する。
俺が乗っている軽空母「神鷹」もその中の一隻に入る。
ガチャッ
「遅れてすみません!」
後ろから聞こえるドアを開ける音と女性の声。俺―春本彰はそっちのほうを見る。
「遅いぞ、鷹華」
「す、すみません」
俺はため息をつくと、鷹華に指示を出した。
「まずは皿洗いしといて」
そういうと、鷹華は不満そうに唇を尖らせる。
「え~、わたしだってお料理を御作りしたいです」
「ダメだダメだ。お前の料理はまずすぎてとても士官に出せるもんじゃない」
ここは、軽空母「神鷹」艦内の士官用烹炊所・・・・・いわゆる調理室だ。艦内でも士官とそれ以外の待遇には差があり、食事場所も違えば烹炊所だって二つある。
「え~そんなにわたしは料理が下手ですか?」
なおも食い下がる鷹華。
「お前に一度任せたら、烹炊所で爆発が起こったの忘れたのか?」
まったく、艦を沈める気かよ。と言いつつも、俺は素早く肉を切り分けて他の兵に渡していく。
「は~い・・・・・・」
鷹華は不貞腐れつつも、皿洗いの作業に入った。
「今回のメニューは・・・・・・・」
頭の中で今日の夕食を確認する。
「『鯨肉のフーガテン』だな・・・・・・」
まな板の上に置かれた塊の鯨肉をこぶし大に切り分けると、笊に入れた。
「これ頼むわ~」
笊を合成調理器担当の兵に渡すと、あっという間にひき肉にしてくれる。
それでゆで卵を包む作業を繰り返しながら、俺は鷹華のほうを見た。
「まったく、先輩は・・・・・・・・」
鷹華はぶつぶつ言いながら皿洗いをしている。
「話してる暇あったら手を動かせ」
「は~い」
鷹華が皿洗いをしてる間に俺はちゃちゃっと肉だねでゆで卵を包んでいく。
「こんな料理をゆっくり食べれるのも、今日が最後だと思いますね」
鷹華が洗った皿を拭きながら言う。
「確かに、明日にはサンディエゴ入港だもんな・・・・・・・」
今のご時世、大戦艦を「文化遺産」として復元することが盛んになっているが、それを使った海賊団の跳梁跋扈も盛んになっている。
この「神鷹」もそんな海賊に対応するため、激戦地である中東に回航する途中だ。
「確か、サンディエゴで米陸軍を便乗させて、そっからパナマ運河を超えてイギリスに向かうんでしたっけ?」
「まあ、そうなるな。そのあと、ドイツで補給を受けた後、地中海と中東を行き来することになるらしいぞ」
軍というものは階級による差が激しく、エリートである士官とそれ以外の兵ではいろいろと待遇が違う。もちろん、それは艦の中でも同じだ。ちなみに俺と鷹華は下士官。
普段は士官の食事は軍に雇われた専門家が行っているものの、戦地に向かうから全員が退艦している。
「『神鷹』はもともとドイツ生まれの客船『シャルンホルスト』でしたからね。久々のドイツへの帰郷ですね。あっ!」
ガシャーン!
鷹華の手から皿が滑り落ち、砕け散った。
「お皿割っちゃいましたぁ・・・・・・・・」
「あぁ、もう馬鹿ッ!そこ動くな!」
俺は急いで手袋をつけると、鷹華にも一組渡した。
「拾うぞ」
「はぁい」
二人で床に散らばった破片を拾い集めて袋に入れる。
「サンディエゴで補充しないとな・・・・・・・・」
手早く割らせると、元の作業に戻る。
丸めた肉だねを鉄板の上で焼くと、鷹華の洗った皿の上に盛り付けた。
「鷹華、これをお出ししてこい」
『はい~』
出来上がった鯨肉のフーガテンを鷹華に渡すと、鷹華は嬉々として食堂のほうに歩いて行った。
俺はその後姿を見つめると、他の士官の分の盛り付けも始めた。
俺が乗っている軽空母「神鷹」もその中の一隻に入る。
ガチャッ
「遅れてすみません!」
後ろから聞こえるドアを開ける音と女性の声。俺―春本彰はそっちのほうを見る。
「遅いぞ、鷹華」
「す、すみません」
俺はため息をつくと、鷹華に指示を出した。
「まずは皿洗いしといて」
そういうと、鷹華は不満そうに唇を尖らせる。
「え~、わたしだってお料理を御作りしたいです」
「ダメだダメだ。お前の料理はまずすぎてとても士官に出せるもんじゃない」
ここは、軽空母「神鷹」艦内の士官用烹炊所・・・・・いわゆる調理室だ。艦内でも士官とそれ以外の待遇には差があり、食事場所も違えば烹炊所だって二つある。
「え~そんなにわたしは料理が下手ですか?」
なおも食い下がる鷹華。
「お前に一度任せたら、烹炊所で爆発が起こったの忘れたのか?」
まったく、艦を沈める気かよ。と言いつつも、俺は素早く肉を切り分けて他の兵に渡していく。
「は~い・・・・・・」
鷹華は不貞腐れつつも、皿洗いの作業に入った。
「今回のメニューは・・・・・・・」
頭の中で今日の夕食を確認する。
「『鯨肉のフーガテン』だな・・・・・・」
まな板の上に置かれた塊の鯨肉をこぶし大に切り分けると、笊に入れた。
「これ頼むわ~」
笊を合成調理器担当の兵に渡すと、あっという間にひき肉にしてくれる。
それでゆで卵を包む作業を繰り返しながら、俺は鷹華のほうを見た。
「まったく、先輩は・・・・・・・・」
鷹華はぶつぶつ言いながら皿洗いをしている。
「話してる暇あったら手を動かせ」
「は~い」
鷹華が皿洗いをしてる間に俺はちゃちゃっと肉だねでゆで卵を包んでいく。
「こんな料理をゆっくり食べれるのも、今日が最後だと思いますね」
鷹華が洗った皿を拭きながら言う。
「確かに、明日にはサンディエゴ入港だもんな・・・・・・・」
今のご時世、大戦艦を「文化遺産」として復元することが盛んになっているが、それを使った海賊団の跳梁跋扈も盛んになっている。
この「神鷹」もそんな海賊に対応するため、激戦地である中東に回航する途中だ。
「確か、サンディエゴで米陸軍を便乗させて、そっからパナマ運河を超えてイギリスに向かうんでしたっけ?」
「まあ、そうなるな。そのあと、ドイツで補給を受けた後、地中海と中東を行き来することになるらしいぞ」
軍というものは階級による差が激しく、エリートである士官とそれ以外の兵ではいろいろと待遇が違う。もちろん、それは艦の中でも同じだ。ちなみに俺と鷹華は下士官。
普段は士官の食事は軍に雇われた専門家が行っているものの、戦地に向かうから全員が退艦している。
「『神鷹』はもともとドイツ生まれの客船『シャルンホルスト』でしたからね。久々のドイツへの帰郷ですね。あっ!」
ガシャーン!
鷹華の手から皿が滑り落ち、砕け散った。
「お皿割っちゃいましたぁ・・・・・・・・」
「あぁ、もう馬鹿ッ!そこ動くな!」
俺は急いで手袋をつけると、鷹華にも一組渡した。
「拾うぞ」
「はぁい」
二人で床に散らばった破片を拾い集めて袋に入れる。
「サンディエゴで補充しないとな・・・・・・・・」
手早く割らせると、元の作業に戻る。
丸めた肉だねを鉄板の上で焼くと、鷹華の洗った皿の上に盛り付けた。
「鷹華、これをお出ししてこい」
『はい~』
出来上がった鯨肉のフーガテンを鷹華に渡すと、鷹華は嬉々として食堂のほうに歩いて行った。
俺はその後姿を見つめると、他の士官の分の盛り付けも始めた。
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