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宴の終わり ⑤
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「くそっ……火力が足らねぇ」
キズナが悪態をつきながら銃に新しい弾倉を叩き込む。
困った事に持てるだけの弾丸を持ち出したのに、すでに枯渇寸前だ。キズナの見通しが悪い、そう思うかもしれないがまさかの戦闘機を相手にするとは想像の範疇を超えていた。
むしろ先ほどの爆発後、衛兵を逃がす時間稼ぎをやり遂げたキズナの力量をほめるべきだろう。
その対価として全身を強打し、内臓にまでダメージを負った桜花の存在が大きい。
「おいこらEIMS!! 聞こえてんだろう!? バズーカとかライフルになれっての!!」
『権限非承認』
「くそぉぉぉ!!」
さっきから桜花とキズナを爆撃から守り抜いたEIMSはところどころ破損しつつも、緊急措置なのか桜花の身体を包み込む繭のような形状で頑としてキズナの言葉に従わなかった。
「まだ来るのかよ!」
しつこく旋回を繰り返し銃撃をしてくる戦闘機の音が近づいてくる。
何とかすれ違いざまに左側の機銃を撃ち抜いて使用不可能に追い込んだが、右側が元気に鉄の嵐を降り注いでくるのだ。
幸い桜花を包むエイムスの防御力は機銃を防いでくれるし、爆弾もさっきの一発だけだったのかあれ以来使ってくる様子が無い。だからこそ生き残れているのだが、その内疲労が溜まったら避けられなくなるとキズナは焦る。
「頼むぜ弥生、あの銀髪魔族かオルトリンデ、最悪真司か文香で良いから連れてきてくれよ……」
覚悟を決めて戦闘機を視界に収めながら走り出す。
遮蔽物の無い街道で機銃を交わすのは容易ではない、あてずっぽうでジグザグに乱数回避し射撃が始まったら相手の軌道に合わせて飛びのくというアクロバットをもはや数回繰り返していた。
そんな散発的に拳銃でささやかな反抗を繰り返すキズナをとうとう不幸が襲う。
「うえっ!?」
一体のディーヴァの残骸から流れたオイルで足を滑らせてキズナが盛大に転んだ。
暗い上に避けるのに必死で足元まで注意が回らない。砂利道で脛を強打し泣きたくなるような激痛が走る。
しかし、今は足を止める訳にはいかない。涙目になりながらも転がりながら立ち上がる。
「やべぇ」
機銃の駆動音が甲高く響いてきて、もう数秒もしない内にキズナを引き裂くだろう。
そう思われた時……
――ガキンッ!!
反射的に目を閉じ、両手で顔を覆ったキズナの耳に届いた激突音。
「?」
うっすらと左目を開けて見ると戦闘機のコックピットに何かが刺さっているのをかろうじて確認したが、戦闘機はそのままキズナを通り過ぎて強風をまき散らし通過した。
「なんだ?」
数秒後、凄まじい衝突音が後方で奏でられ。あっけないほどに危機は去る。
あまりの事に事態が呑み込めないキズナが振り返ると、ちろちろと炎を上げて墜落した戦闘機が火花を散らしていた。
「ご無事ですか?」
「うおっ!! お前……変態メイド?」
いつの間にかカタリナがキズナの近くに来ている。
「はい、危なそうなので叩き落しておきましたが……アレは何ですか?」
「俺が聞きたい……なんにせよ助かった。ありがとうな、お前ら姉妹が居なかったら今ごろ墓の下だった」
「良く生き残れましたね……」
カタリナも取り急ぎ駆け付けたので良く周りを見ていなかったが、大気の焼ける匂いや地面に散乱する薬莢、弾痕を見て察する。
「しぶとさには自信があってな。ああくそ疲れた、あ、お前の姉貴も爆弾の直撃防いでお寝んね中だ……門に近い所であのEIMSとか言う道具が繭になってる所に居る」
「なるほど、申し訳ありませんキズナ様。取り急ぎ御姉様の安否を確認してまいります。周りに敵は居なさそうなので、後で迎えに来ても?」
とりあえずキズナは大丈夫そうだと判断したカタリナが桜花の元へ向かう事を優先し、来る途中に見かけた白い繭に向かった。しかし、ふと何かに気づいたかのようにカタリナが足を止める。
「そういえば蜘蛛に乗っていたのは貴方の警護対象、日下部弥生様で間違いないでしょうか?」
キズナの眉根が寄る、なぜ今そんなことを? もしかして鉢合わせたのだろうかと思いキズナが肯定する。するとカタリナが振り返り言いにくそうにキズナに告げた。
「ここに来る前に彼女が誰かに連れ去られた現場に居合わせました。相手の正体は不明ですが白い催涙性の煙幕と全身黒づくめ、身軽な男性に心当たりは?」
「………………は?」
「現場にこれが残されていました」
カタリナからキズナへ軽く放り投げられた物を彼女が受け取り、その正体をキズナは即座に理解した。
「やられた……」
それは弥生の持つ国内唯一の白金で出来た書記官のバッジ。
「すみません、距離があって妨害が精いっぱいでした」
申し訳なさそうな声音のカタリナにキズナが手を振る。
「いい、俺も油断していた。お前が言う攫った相手には心当たりがある」
そう、格闘大会で見たカタリナの身体能力からみるに何とかできそうな相手は限られる。だが、まだ確定ではない。
情報をそろえるためにキズナは質問を重ねた。
「お前、銃か何かで遠距離攻撃したか?」
「対物ライフルで威嚇射撃しました」
「反応は?」
「驚いているようでしたが、割とすぐに逃げに徹しましたね」
「……そっか、わかった」
お礼を言ってキズナが地面に大の字になる。
どのみち足が痛むのでしばらくは動きたくない、それに少し頭を整理したかった。
そんなキズナの様子を察して、カタリナは丁寧に礼を残して桜花の元へ向かう。
しばらくキズナはぼーっと星が瞬く空を見上げた。
初めてできた同年代の友人、口の悪い自分を嫌な顔一つせず受け入れ。
悪乗りにも一緒に付き合い、無頓着な自分を誘いおそろいの服を選んだり……。
「忙しくなるな……」
できるだけ早く動かなければいけない。
友達を取り戻すのだ。
キズナが悪態をつきながら銃に新しい弾倉を叩き込む。
困った事に持てるだけの弾丸を持ち出したのに、すでに枯渇寸前だ。キズナの見通しが悪い、そう思うかもしれないがまさかの戦闘機を相手にするとは想像の範疇を超えていた。
むしろ先ほどの爆発後、衛兵を逃がす時間稼ぎをやり遂げたキズナの力量をほめるべきだろう。
その対価として全身を強打し、内臓にまでダメージを負った桜花の存在が大きい。
「おいこらEIMS!! 聞こえてんだろう!? バズーカとかライフルになれっての!!」
『権限非承認』
「くそぉぉぉ!!」
さっきから桜花とキズナを爆撃から守り抜いたEIMSはところどころ破損しつつも、緊急措置なのか桜花の身体を包み込む繭のような形状で頑としてキズナの言葉に従わなかった。
「まだ来るのかよ!」
しつこく旋回を繰り返し銃撃をしてくる戦闘機の音が近づいてくる。
何とかすれ違いざまに左側の機銃を撃ち抜いて使用不可能に追い込んだが、右側が元気に鉄の嵐を降り注いでくるのだ。
幸い桜花を包むエイムスの防御力は機銃を防いでくれるし、爆弾もさっきの一発だけだったのかあれ以来使ってくる様子が無い。だからこそ生き残れているのだが、その内疲労が溜まったら避けられなくなるとキズナは焦る。
「頼むぜ弥生、あの銀髪魔族かオルトリンデ、最悪真司か文香で良いから連れてきてくれよ……」
覚悟を決めて戦闘機を視界に収めながら走り出す。
遮蔽物の無い街道で機銃を交わすのは容易ではない、あてずっぽうでジグザグに乱数回避し射撃が始まったら相手の軌道に合わせて飛びのくというアクロバットをもはや数回繰り返していた。
そんな散発的に拳銃でささやかな反抗を繰り返すキズナをとうとう不幸が襲う。
「うえっ!?」
一体のディーヴァの残骸から流れたオイルで足を滑らせてキズナが盛大に転んだ。
暗い上に避けるのに必死で足元まで注意が回らない。砂利道で脛を強打し泣きたくなるような激痛が走る。
しかし、今は足を止める訳にはいかない。涙目になりながらも転がりながら立ち上がる。
「やべぇ」
機銃の駆動音が甲高く響いてきて、もう数秒もしない内にキズナを引き裂くだろう。
そう思われた時……
――ガキンッ!!
反射的に目を閉じ、両手で顔を覆ったキズナの耳に届いた激突音。
「?」
うっすらと左目を開けて見ると戦闘機のコックピットに何かが刺さっているのをかろうじて確認したが、戦闘機はそのままキズナを通り過ぎて強風をまき散らし通過した。
「なんだ?」
数秒後、凄まじい衝突音が後方で奏でられ。あっけないほどに危機は去る。
あまりの事に事態が呑み込めないキズナが振り返ると、ちろちろと炎を上げて墜落した戦闘機が火花を散らしていた。
「ご無事ですか?」
「うおっ!! お前……変態メイド?」
いつの間にかカタリナがキズナの近くに来ている。
「はい、危なそうなので叩き落しておきましたが……アレは何ですか?」
「俺が聞きたい……なんにせよ助かった。ありがとうな、お前ら姉妹が居なかったら今ごろ墓の下だった」
「良く生き残れましたね……」
カタリナも取り急ぎ駆け付けたので良く周りを見ていなかったが、大気の焼ける匂いや地面に散乱する薬莢、弾痕を見て察する。
「しぶとさには自信があってな。ああくそ疲れた、あ、お前の姉貴も爆弾の直撃防いでお寝んね中だ……門に近い所であのEIMSとか言う道具が繭になってる所に居る」
「なるほど、申し訳ありませんキズナ様。取り急ぎ御姉様の安否を確認してまいります。周りに敵は居なさそうなので、後で迎えに来ても?」
とりあえずキズナは大丈夫そうだと判断したカタリナが桜花の元へ向かう事を優先し、来る途中に見かけた白い繭に向かった。しかし、ふと何かに気づいたかのようにカタリナが足を止める。
「そういえば蜘蛛に乗っていたのは貴方の警護対象、日下部弥生様で間違いないでしょうか?」
キズナの眉根が寄る、なぜ今そんなことを? もしかして鉢合わせたのだろうかと思いキズナが肯定する。するとカタリナが振り返り言いにくそうにキズナに告げた。
「ここに来る前に彼女が誰かに連れ去られた現場に居合わせました。相手の正体は不明ですが白い催涙性の煙幕と全身黒づくめ、身軽な男性に心当たりは?」
「………………は?」
「現場にこれが残されていました」
カタリナからキズナへ軽く放り投げられた物を彼女が受け取り、その正体をキズナは即座に理解した。
「やられた……」
それは弥生の持つ国内唯一の白金で出来た書記官のバッジ。
「すみません、距離があって妨害が精いっぱいでした」
申し訳なさそうな声音のカタリナにキズナが手を振る。
「いい、俺も油断していた。お前が言う攫った相手には心当たりがある」
そう、格闘大会で見たカタリナの身体能力からみるに何とかできそうな相手は限られる。だが、まだ確定ではない。
情報をそろえるためにキズナは質問を重ねた。
「お前、銃か何かで遠距離攻撃したか?」
「対物ライフルで威嚇射撃しました」
「反応は?」
「驚いているようでしたが、割とすぐに逃げに徹しましたね」
「……そっか、わかった」
お礼を言ってキズナが地面に大の字になる。
どのみち足が痛むのでしばらくは動きたくない、それに少し頭を整理したかった。
そんなキズナの様子を察して、カタリナは丁寧に礼を残して桜花の元へ向かう。
しばらくキズナはぼーっと星が瞬く空を見上げた。
初めてできた同年代の友人、口の悪い自分を嫌な顔一つせず受け入れ。
悪乗りにも一緒に付き合い、無頓着な自分を誘いおそろいの服を選んだり……。
「忙しくなるな……」
できるだけ早く動かなければいけない。
友達を取り戻すのだ。
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