もしも、いちどだけ猫になれるなら~神様が何度も転生させてくれるけど、私はあの人の側にいられるだけで幸せなんです。……幸せなんですってば!~

汐の音

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第一章 今生の出会い

21 バラの行方(2)

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 正方形の中庭を囲む王家の居住棟は三階建て。その四方は円形の塔のような造りで、真っ青なとんがり屋根があった。どうやらそれぞれが王子と王女の住まいらしい。

 建物に入ってすぐに右の塔を登ったヨルナは、その主人に連れられて、今度は右奥の塔へと渡る。雰囲気はサジェスの塔とよく似ていたが、こちらの絨毯は緑色だった。
 ヨルナはふと思いつき、王子に声をかける。

「殿下のところは、お足元が赤でしたね。それぞれお色が?」

「足元? あぁ、そう言われると確かに。区別のためかな。構造が同じだから。仕えるものがぐるぐる回りすぎないようになってるのかも」

「なるほど。わかりやすいです」

 話しつつ、落ち着いた深緑の絨毯の上を長身の王子とちいさな令嬢が前後して歩く。



 やがて大きな背中がぴたりと止まった。焦げ茶色の扉の脇に兵士が一人、立っている。
 まだ若い兵は第一王子を認めると、律儀に敬礼をした。

「いらっしゃいませ、サジェス王子。…………と、そちらは?」

 職務に忠実そうな兵士に体を傾げて覗き込まれ、サジェスは「あぁ」と立ち位置をずらした。紹介の姿勢をとる。

「カリスト公の息女、ヨルナ殿だ。母の使いで、わざわざバラを届けに来てくださっている。俺が付き添いだ。入るぞ」

「お待ちを。トール王子は……」

「? なんだ、取り込み中か」

「いえその」

 ――ちらっ、ちらっ。
 言葉を濁した青年は、とても言いにくそうにヨルナを窺っている。


(……何かしら。全力で『入っちゃだめ』と言われてる気がする……)
 空気を察したヨルナは、おそるおそるサジェスを見上げた。

「あの。先にアストラッド殿下のところに参りましょうか? 王妃様は、とくに順番については仰いませんでしたし」

「いや? 構わない。面倒だからこのまま入ろう」

「えっ」
「あ」

 さらっと答えたサジェスは取っ手を回し、扉を押しひらいて中に入って行った。ヨルナと兵は互いに顔を見合わせる。

「行ってしまわれました。いいんですか?」
「ど、どうでしょう……。兄君はともかくお客様をお通しするのは、良心が」

 ヒソヒソと声を交わしていると突然、部屋のなかから悲愴感たっぷりの叫び声が聞こえた。

「うっわぁぁぁぁぁあああ!!!!」


「「??!」」

 ヨルナは固まった。
 すっとんきょうだが線の細そうな青年の声。もちろんサジェスではなかった。



   *   *   *



 ――――もう、いいです。いいと思います。

 脱力ぎみの兵から許可をもらったヨルナは、そぅっと一歩、部屋に足を踏み入れた。

 びっしりと大きな油紙が敷かれている。その上には何かの種子が山ほど。
 ヒマワリの種を細くしたような形で、白っぽいものもあれば赤っぽいものもある。
 注意書らしいメモもたくさん落ちており、種子はそれ以上に散らばっていた。


 足 の 踏 み 場 が 。


 しかし、サジェスは頓着せずに部屋の奥へと歩を進めていた。そのたびに「ぱりん」「ぱきっ!」と、景気よく種のはぜる音が響く。
 まるで、落花生の殻を割ったように。

 ぼんやりと静観していると、奥の窓際に立っていた人物がすごい形相でサジェスに走り寄るのが見えた。

「兄、上ぇぇぇ?!! 何度言ったらわかるんです、どうしてけないんですか。見なさい、せっかく分別してあった種がぐっちゃぐちゃじゃないですか。ああぁっ、貴重な変異種が」

「避ける。どこに?」

 サジェスは億劫そうに声を低め、ばりばりと頭を掻いた。欠伸あくびまでこぼれている。かなり人を食った態度だ。

「ど……っ?!」

 部屋の主は眉を険しくし、さらに気炎をあげた。つかつかとサジェスの元に詰め寄り、ぐっと人差し指を突きつける。

「『ど・こ・に』、目ぇ付けてるんです!! ちゃんと紙を敷いてない場所も作ってあったでしょうが!」

「え~、ないない。見えなかった。というか、そんな大事なモノを入り口に置くんじゃない。お前こそ見てみろ。かわいそうに。可憐なお客さんが困ってるじゃないか」

「客……? あっ! 君は」


「!!」

 射すくめられるようにロックオン。
 ヨルナは、びくっと肩を跳ねさせた。

 王妃そっくりの姿容貌かたち。さらさらの金の髪に青い瞳。サジェスよりは頭一つ低いが充分長身といえる。すらりと伸びた四肢はバランスよく、佇まいは優美さを感じさせた。
 見れば見るほど前世までの「あのかた」に似ている。なのに。

(どうしてかな。なんで『違う』ってわかるんだろ……)

 まじまじと眺めるヨルナをどう思ってか。
 第二王子トールは麗しのかんばせに、きらきらしい笑みを浮かべた。

「まさか、月華草げっかそうの君……!? 嬉しいな、会いに来てくれたの」


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